外宇宙通信コミュニケーション研究部 第一話 杜若志穂部長就任

世界には、60億以上の人が生きている。 その中でもボクはそのうちの一つにすぎない。 色々な世界で戦争や内乱、犯罪が起こったり、 飢餓に苦しむ国だって存在する。 世の中は腐りきっている。 小学生のころからそう思っていた。 ボクは成績もよかったし、どんなことだってした。 世の中をよくするために。 そのころからだ、ボクは笑顔を失ったのは。 ボクは笑わなくなった。 そのうち友達や家族からも孤立していった。 中学生のとき、ふと、思った。 天文の授業のとき、先生が言っていた 「NASAは空の裏の生き物たちとメールのやりとりをしています」 という言葉。 ・・・ ボクは60億以上のうちの一つじゃなく、 もっとそれ以上の・・・一つ。 ちっぽけな存在だった。 そのころからボクは空に目を向けるようになった。 そして高校生になり、親の都合上、転校することになった。 転校先は・・・帝真学公課総学科。 ボクはその学校に驚いた。 そこにいればなんでもできるような気がして、 なにかをやってみようという気持ちにもなれた。 そして、ボクは世界を変えるため――いや、自分の世界を変えるため、 空にもう一度、目を向けて笑顔を取り戻すために、なにかをしよう。 そんなとき、ボクは彼女に出会ってしまった。 職員室の扉をノックする。 「しつれいします」 今日こそ行動を・・・行動を起そう。 そう決心したときだった。 事務の先生のいる机まで歩いていく。 その間、ツインテールの女の子を見かけた。 目を奪われてしまった。 彼女は外国人の男の先生と何語かわからないが、日本語ではない何かで会話していた。 ボクが驚いたのはその彼女の発音だった。 相手を罵倒するような、 ケンカ口調な喋り方だが、表情は笑顔だった。 教師の方は、ゆっくり喋っていたが、 彼女と同じようなハキハキとした口調で喋っていた。 それを通り過ぎ、事務の先生の机の場所に来た。 「部活を作りたいんですけど」 「ふむ」 事務の先生は、白いヒゲを生やしていて、 いかにも事務っぽい先生である。 この学校では白ヒゲと呼ばれているらしい。 ボクは事務の先生から部活申請書を受け取った。 「部員は6人以上集めなければ部として認めません。 わかりましたか?」 「はい。」 ボクは返事をした後、申請書に目を向けた。 申請書の顧問記入欄に特に目が行った。 「顧問も必要なんですか?」 「もちろん」 「あ・・・わかりました・・・」 と、ボクは帰ろうとした。 「あ、ちょっと」 呼び止められ、小首をかしげるボク。 何かボクが変な行動でも取ったのか、白ヒゲは 鼻笑いした。 「君の名前と部活の内容を聞いて無かったよ。 部活の内容を聞いておけば、顧問もこちらで頼むことも出来るからね」 「ありがとうございます」 ボクは少し前進したのだろうけど、笑顔はできなかった。 なぜだろう・・・ なぜボクは笑えないのだろう・・・ そんなことを考えながら、ボクは職員室を後にした。 「おじゃましましたぁー」 と、ボクの後ろから女の子が元気よくそう言って出てきた。 さっきの子だ。 外国人の先生と・・・喋ってた・・・ 「なーにか?」 見とれていると、というよりボーっとしてただけなのに 彼女はボクの顔を覗き込んできた。 「いや、別に」 ボクはとっさに顔を別方向に向けた。 「そ。」 と言って彼女はボクの横を通り過ぎていった。 ボクは何がなんだかわからなかったが、 とりあえず教室に戻ろうと歩き出した。 「ねぇ、君、暗いよ?」 うしろから声をかけられて、少し驚いたが、 ボクの場合、体がビクッとなったり声をあげたりしない。 笑顔と同時に他の感情も失っていたのかもしれない。 ボクはその人がさっきの女子だと気付いて、一度立ち止まった。 「杜若さん」 と、背後から声がした。 今度は男子の声だった。 「ん?」 「なにやってるんですか?」 「あー、ちょっとドイツ語の質問に来ててさ」 とすると、さっきのはドイツ語だったのか? っと、人の話を立ち聞きなんて失礼だな。 教室に帰ろう。 「あれ?怜治?鳥羽怜治?」 さっきの男子の方が去ってゆくボクを見たのか見てなかったのか、 そう呼んだ。 たしかにボクは鳥羽怜治だ。 なんでわかった? とりあえず振り返ってみることにした。 「・・・なんですか?」 「おー、怜治じゃん!!相変わらずクールだね!!」 その男子は寄ってきてボクを叩いた。 「ん?えっと・・・太郎・・・澤井太郎か?」 「おー、覚えてるじゃん!!流石相棒!!」 ボクはそんな太郎を見ていた。無表情で。 「ちょっとちょっとちょっと!! ふたりはどーゆーカンケーなの?」 さっきの女子がキツイ口調で言ってきた。 やっとわかった。 ドイツ語ってそういえばキツイ口調で喋るんだったな。 キツイというより一語一語に力を入れているというのか? ヒトラーがそうだったな。 「あー、カウンセラーと依頼人だよ。」 太郎が笑いながら言った。 「ん?んん?んー?ちょっとわからないんだけどー?」 彼女はボクの目を睨みつけてじりじり寄ってきた。 ボクはあとずさることも出来なかった。 体を杭で止められたように動けなくなっていた。 「こいつは笑顔を含め、他の喜怒哀楽がないんだよ」 「え?」 太郎が言ったことに彼女は驚き、太郎の方に振り返る。 「変な考えをしちまったっつーか、 若いのに頭よくなりすぎたっつーかで、 世の中が腐りきってる、そう思って自分も何故か 笑顔を捨てちまった。」 太郎が解説した。 ボクが思うよりわかりやすい説明だった。 流石カウンセラーだけあって患者のことは患者以上に知っている。 「ふーん。」 彼女はそれを聞いて笑いながらボクに歩み寄ってきた。 ボクと顔を見合わせたまま固まった。 「ばぁ」 彼女は指で目を引っ張り、口を広げ、鼻を上げた。 「え?」 彼女はいったい何をしているのだろうか・・・ボクは思った。 そんな彼女を見て、ボクは「え?」としか言えなかった。 太郎が彼女の肩をポンッと叩いた。 「な?ダメだろ? そいつはもう人間じゃないんだよ」 「人間じゃない?酷くない?」 太郎が言ったことに彼女が答えた。 「酷いも酷くないも、怜治が言ったんだよ。 ボクは人間でいていいのか、って。 それでカウンセリングの結果、怜治は人間をやめることになった。」 「え?」 太郎の解説に戸惑いを見せる彼女。 「怜治は人間である資格、つまり笑顔とか感情とかを捨てちまったんだよ。 それでも生きていけるから、その方が周りを気にしないで生きていけるとか そう思ったんだとよ。 な?そうだろ?」 太郎はボクの方に問いを投げかけた。 「そのとおりだ」 ボクはそっけなく答えた。 すると、太郎は呆れて溜息をついた。 「おまえ成長してないなー。 頭だけよくなってもダメなんだぞー。」 「さわちゃん、調子いいのよ。 さわちゃんだって成績10か9しかないじゃん。」 女子が言った。 ボクは確かにと思ったが、頷くなどして 態度に表すことも全くなかった。 「はぁ、この世は腐ってる、か。 たしかにそうだね。 だって、つまらないんだもん。」 彼女は純粋な笑顔をボクに向けてきた。 「それじゃあ」 ボクは去っていこうとした。 「あ!ちょっと!!」 ボクは彼女に腕をつかまれた。 まだ何か?と言う前に、彼女が先に喋りだした。 「部活申請書、だよね? これ。」 彼女はボクが手に持っていたものを指差して言った。 「はい。」 「なんの部活作るの!?」 彼女は嬉しそうにボクの目の前に出てきた。 「外宇宙通信コミュニケーション研究部です」 「がちゅういーしんつーこみみ・・・えっと、略して通研ね。」 「・・・はぁ」 ボクが呆れてなにもしなければ 彼女はどんどんと話を進めることであろう。 そう思って関わらないようにしようと思い、 ボクは行こうとした。 「君ってラッキーだね!! えーっと、怜治くん、だっけ? 部員6人のうち3人はもう揃ったも同然だよ!!」 彼女は言った。 「私達も部員になる!!」 彼女は、嬉しそうに人差し指を立てて言った。 太郎は「俺も入れられてるー!!」と思っていた。 「本当ですか? ありがとうございます。」 ボクは静かに言った。 内心、すごく喜んでいたが、表情は変わらない。 「膳は急げだよ!! 申請書貸して」 と僕の手からそれをひったくって、 どこからかペンを取り出し、壁に申請書を当てた。 「部長のところ、書いてあるね。」 「はい。一応ボクが作る部活なので。 ボクが部長です。」 そう、ボクが部長だ。 それ以外の部員はなんでもよかった。 「君って字うまいけど小さいねー」 彼女は言った。 彼女は案外長い時間書いているように思えた。 「はい、さわちゃんも書いて。」 「え?俺も!?」 「書くの!!」 太郎も渋々書くことになった。 部活への強制参加。 そして彼女は、ボクの方に向き直った。 「私、杜若志穂。2年で君の先輩だけど シホって呼び捨てでいいよ。」 「はい、シホさん。」 「さんとかもいいって。」 シホは微笑んだ。 「か、書けたぞ・・・」 太郎は肩をヒク着かせながらお腹を抱え、 そしてシホを介してボクに申請書を渡した。 太郎はおそらく笑っているのだろう。 ボクは申請書を見てその理由に気付いた。 「あれ?書きかえられてる!!」 少し驚いてしまった。 部長の部分に書いてあったボクの名前が二重線で訂正され、 杜若志穂、つまりシホの名前に変えられていた。 そしてその下の段にボクの名前が書き加えられていた。 「こ、これ! 何やってんすか!!」 ボクはシホに申請書を見せ付けた。 「だって、クレイジーは一年生でしょ? 私は2年だから・・・」 「く、クレイジーってなんすか!!」 「鳥羽怜治、怜治、だからクレイジー。 我ながらネーミングに関しては天才!!」 「って――――」 ボクは気付いた。 こんなにボクが熱心に話していたのは初めてだった。 太郎はボクを見て頷いていた。 「よーし、早速部員残り3人と顧問探すよー」 シホは右手を上げて行進で歩き出した。 ボクは申請書を取り戻そうとついていくだけだった。 戻る