外宇宙通信コミュニケーション研究部 地下帝国編 第四話 移動開始
「・・・」 誰か教えてくれ、ここはどこだ・・・ 教えてくれるついでで悪いんだが、 出してくれ。 なんで牢屋があるんだよ・・・ いや、ある・・・のが、普通、なのか? 我々は現在、地下牢に監禁されている。 さっきまでのショッピングモールのような場所とは変わって、 というか、洞窟のようなところに戻ったと言うべきか、 岩がゴツゴツしている中に横穴を掘って鉄パイプを何本か打ち入れたような そんな大雑把な牢屋に入れられている。 ランタンが灯るだけで、周りはよく見えない。 一人一人個室に入れられてしまっている。 向かい側の牢屋から泣き声が・・・ 喚き声が・・・ 「うぇー・・・う、ぐすっ・・・ひうぇーん」 かえでっちが泣いていた。 「ちょっと、少しは静かにしなさいっ! 監視が来ちゃうでしょ!」 とシホ。 たまにはまともなことも言うもんだ。 予想通り、監視係が来てしまった。 「ぅるさいぞ!小娘!」 「ひぇっ!?ふぅぇえーん!」 「泣くな!」 「ぅぁあーん!」 「な、泣かないで、ごめん、わかった、ホラ、俺、帰るから、な?」 監視係が帰っていった。 って、ええええええ!? どんな監視係だよ!! 「ちょっと、待ってください」 太郎が監視係を引きとめた。 監視係は振り返った。 「なんだ?」 「お腹空いたんですけど」 「何もない。」 「そうか。」 太郎が言い終わると、俺が監視係の方に向く。 そしてダメ元で聞いてみる。 「かえでっちを・・・こっちに移してもらえませんか?」 ・・・ 結果、かえでっちと俺は同じ牢獄の中。 これで退屈は凌げそうだ。 泣くのを宥めるからと言って説得したら、簡単に牢屋を移してくれた。 しかも毛布やパンまでくれた。 監視係の人って実はいい人なんじゃないのか? 「ずっりぃー・・・」 太郎が隣の牢獄から俺たちを覗きながら呟いていた。 「ものすんっごい、腹立つわねぇぇぇぇぇぇ!!」 シホがキレ気味だ。 それもそうだろうな。 「へーじょー」 かえでっちが言った。 俺は視線を彼女の方へと移し、そのときに目があった。 だが、気にしない。 「怖くないの?」 「そりゃ、怖いさ、 でも宇宙の時より怖くないかな・・・ それにまだ捕まってるだけだし。 このまんま公開処刑とかだったら本気で怖いけどな。」 監視係の机に置いてある時計を見たらもう夜の9時だ。 21時。 何もすることがないので寝ることにしようかなと思ったとき。 「おい、寝るのは構わないがな、 起きた時に三人以上に増えてるなよ・・・」 と太郎。 「ん?どういう意味だ。」 「声が棒読みだぞ。」 「いや、僕はわからないなぁ〜」 「一人称俺じゃなかったのかよ」 「どうやったら二人が三人に増えるんだよ。 スライムかシャボン玉かなんかと同じにされちゃ困る。」 「やれやれ・・・」 そこで太郎とは反対の隣、ずんきが顔を出してきた。 「人間も動物と同じく、種の保存法則が成り立ち、 滅びないためにも」 「あーわかったよ、増えない増えない。 よしんば増えても明日じゃないだろ。」 と言って毛布に包まる。 ・・・ 人肌、温かい感触が・・・腕に伝わってくる・・・ って、毛布は一枚しかありませんでしたー、どおりで。 えっと、これは俺とかえでっちでシェアしろっていう監視係さんのメッセージ? どういう意図で・・・!? まず、この牢獄を出たら太郎をぶん殴る、それから監視係もぶん殴る、 こうでもしないとストレスが貯まる。 胃に悪い。 かえでっちは俺の方を見る。 肩を俺の腕につけて。 地下に入ってからはスキーウェアを脱いで、普段着になっていた。 地下は暑いのだ。 「へーじょー・・・怖くない?」 思い出してみれば、かえでっちって年一つ上だったか・・・ そうだな、甘えてみようか。 ほんの実験だ。別に自分の願望はない・・・多分。 宇宙で出会ったクレイジーに日に日に近づいていっている自分が情けなく思える。 「怖い・・・怖いよ」 「くっついていれば怖くない・・・私がいるから」 ああ、これが母性本能という奴か。 ・・・クレイジーが俺を見てしてやった感いっぱいで笑ってるようで、 そんな表情が頭の中に浮かんでは消して浮かんでは消して。 俺はあんな奴にはならんぞーと誓ったところで、眠くなって寝た。 数時間後、俺はわけの分からない場所で目を覚ました。 ショッピングモールでも牢屋でもない。 装飾を施した大理石で出来た円柱が長方形に陣形を作って並んでいる。 俺はその中心にいた。 柱と柱の間からは黒い空間が、何もない空間が広がっている。 柱の陣形の中には、地面がある。 おそらくこれも大理石。 触れていた手が冷たくなっていた。 起き上がって事態の確認をする。 誰もいない。 さっきまで一緒にいたかえでっちも、 太郎もシホもあん王女もずんきも。 辺りを見回して何度か名前を呼んでみたが、意味は無かった。 「あんた誰だ?」 柱の影から声が聞こえたような気がした。 見回してもどの柱からも人影は見えない。 「ここはどこだ」 「いけないねー、 質問文に質問文で答えたらテストで点数は取れない・・・ 習わなかったか? こっちはこう言った。 あんた誰だ?」 ふと背後に人の気配を感じた。 ふりかえって腕を振るい、裏拳をたたきつけた。 「悪いな、反射的に、腕力に頼るようになってる。」 手応えはあった。 顔を向けてそれを確認しようとした。 「なにっ!?」 俺が殴ったのは・・・ 俺だ!! 説明しろと言われても困るのだが、 俺は俺が殴った人影の位置に、立っていた。 そして俺に殴られていた。 俺を殴った俺はうっすらと空間に消えていった。 「背後にいたのは・・・俺だ・・・」 唖然として立ち尽くした。 何がどうなっているのだ? 「あんたが見たのは過去のあんた自身。 この空間内では全てが歪み、狂っている。 銃弾の軌道も、重力も、そして時間軸までも。」 今度こそ、それは現れた。 屈んでいたのか、低い位置から顔を見せる。 右手で顔を覆っている。 クリーム色のワイシャツに赤いスーツ。 ネクタイは青く、そして髪の色まで赤い。 短い赤髪。 ブーツの青とネクタイのそれ以外は全身赤と言っていい。 顔を覆っていた右手が下げられる。 服のイメージと違い、穏やかなイメージを帯びている。 のだが、目が釣りあがっているという点においてはあまり穏やかではない。 見た感じは男性。 男装趣味の女なんて聞いたことはないからな。 そして彼は近づいてくる。 俺は動けない。 彼が放つオーラに恐怖を感じたとか、 見えない力で押さえつけられてるとかじゃない。 俺はすぐに彼から逃げなければならないと、 第六感が訴えている。 だが、動けない。 「すぐに楽になる。 我々、マトリオシカの力でな。」 マトリオシカ? どこかで聞いた名だな・・・ そうだ、宇宙の時だ。 それが今?何故? 彼は俺の首に手を伸ばした。 動けない。 動けない。 動けない。 死ぬ。 死んでしまう。 本気で。 「へーじょー!!」 「ぐわぁっ!!」 殴られた。 すこし錯乱状態の俺。 今、俺は殺されたと思ったが。 目の前にはシホがいる。 そしてここは牢屋だった。 というより牢屋の外。 「あんた、何寝ぼけてんの?」 「はい?」 「なんか苦しそうに唸ってたわよ。」 つまり。 あれは夢だったのか。 どうせならスキーへ行く前から夢であってほしかったな。 「さて、行くわよ」 「行くってどこへ?」 シホに聞いたら、メンチ切られたので、 太郎の方に目を向けた。 「足を使うんだ。 全力で。 息が切れるまで」 「は?何言ってんだ?」 俺とかえでっち以外の全員が立ち上がった。 俺は未だ爆睡中のかえでっちを起した。 立ち上がった全員が、走り出した。 「おい、太郎!!」 俺が叫んだあと「逃げるんだよー」と聞こえた。 ・・・ 「行くぞかえでっち」 「行くってどこへ?」 「逃げるんだよー」 俺は棒読みで言った。 一体どこに逃げるのやらもわからないけどな。 戻る