外宇宙通信コミュニケーション研究部 地下帝国編 第五話 フジワラくんとプリン

二人乗りのビークルが道路を滑るように走っている。 それにはタイヤがついていないが、四つの通風孔から空気を出して ホバリングしながら走っている。 地面と接触していない分、摩擦がなく、速く走れるのだ。 二人乗りの左側、助手席に女が座っていた。 そして右側、運転席には男がいた。 なんの変哲も無い平凡な顔をしている。 時速、60キロは越えていた。 しかし― ここは地上ではない。 地上の法はこの地下帝国までは届かない。 道あらば何キロ出して走ってもいいことになっている。 ---フジワラside--- 「すっごーい、はっやいねぇー」 女がはしゃいでいる。 女の名前は真帆。 俺の彼女である。 「フジワラくーん、あれ、前のホバー系の奴、抜かしてー」 「お、おう」 言われてもわからん。 この帝国において、ビークルの種類がタイヤ系、ホバー系、ジェット系、リバース系、 とあるが、その違いなど知らん。 俺が乗ってるのがホバー系と聞いたが、車種などわからん。 親父からの譲受だからな。 俺は・・・前にいるビークルを全て抜いた。 「すっごぉーい!!全部抜いちゃったー!! ウィンド・アレスも、シフトフランカーも、ホィールスターも!!」 何の名前だ。知らん。 「フジワラくんってさ、運転上手いのに、なにも知らないよね。」 と、目の前にガードレール。 まずった。余所見してた。 「キャァーッ!!」 真帆が悲鳴をあげ、頭を抱え込む。 「どうかした?」 俺は、微笑しながら彼女に言った。 「あれ?今のカーブ・・・」 「ぶつからなかったよ。」 かすりもしなかった。 そうだな、こんなとこで親父に感謝するべきか。 それからお店にも。 「あ!!やっばぁ!!」 真帆は、何かを思い出して鞄の中を探り始める。 そしてプリンを出した。 それは俺が経営する店、『デリバリー甘味店』のベテラン商品、 まぁ昔からある甘味だ。 「あ・・・崩れてない」 さっきの急カーブで、プリンが崩れたと思ったのだろう。 そこは俺、デリバリー甘味店でプリンのお届け担当ですから。 速い、安い、甘い、この三拍子揃ってますから。 「すっごーいフジワラくん」 「はいはい、よかったね」 彼女は、俺の店に来て、タルトやら、クッキーやら食いまくった挙句、 「つけで」と、払いもしないのにプリンまで持っていこうとした。 俺は、そのつけを払ってやり、いつも通り、彼女を家に送ることにした。 「今度金返せよ」 「やっだぴょーん」 「いつか殺す」 「今日六日だからあと一ヶ月で逃げるから。」 「今殺そうかな・・・」 「なんと。」 プリンが崩れない程度に豪速運転でショック死させてやろうか。 このときの俺は、今後、大波乱に巻き込まれるなんて思ってもいなかった。 ---へーじょーside--- 俺たちは隠れていた。 「おい、見つかったか!?」 と必死に俺たちを探す監視係。 一体何故俺たちは牢屋から出られたんだ? それは通研メンバー誰に聞いても答えてくれない。 監視係が他の場所へ走っていった。 俺たちは隠れていた場所から出ていく。 そして気付いた。 「のぅわっ!!俺たちはこんなところに隠れていたのか!?」 なんと、巨大ガイコツの口の中だった。 牢獄から繋がる道(と言っても、茶色い岩盤の道)の先にあったのは、 要塞のような巨大ガイコツだった。 土色の地面の横は、崖。 下を覗けば、また土色の道、その下にも道、 それから、ガイコツの胴体、腕、手、脚、足・・・ 下に行くほど暗くなって見えなくなっている。 なんとこの道は、つり橋のように、ガイコツの各部と、 牢獄と、他の道へと繋がっていたのだ。 土だからって下の下、土の中があると思っていたのは安直だった。 こんなのゲームかアニメの世界でしか見たことがないぞ。 「さっさと行くわよ」 とシホ。 さっさと行くわよ、か。 到底かえでっちの口からは聞けそうもない言葉だよな・・・ シホは強い人なんだな、と思った。 「落ちないようにしないとな」 太郎が下を見ながら言った。 「そうだな」 ずんきが答えた。 ここで、ひとつ、疑問が浮かんだ。 今までなんで疑問視してこなかったのかも疑問だが、 いい機会だ、聞いておこう。 「一樹ってなんでずんきなんだ?」 シホと一樹が一度俺を見た後、顔を見合わせた。 そしてシホ曰く、 「かずき、かずんき、ずんき。」 「な!!なんて理不尽な!! ずんきはそれでいいのか!?」 俺もずんきって呼んでるけどな。 「なによなによ、なんであんたがイチャモンつけるわけ?」 シホが俺に近寄ってくる。 「抑えて隊長」 太郎が間に入ってくれた。 「俺は、元々行く所や居場所なんてなかった男だ。 俺の落ち着ける所は・・・あんたと一緒のときだけだ」 今ずんきがとんでもないこと言ったぞ。 それは一体誰に対して言ってるんだ? きっと部長、そしてリーダーであるシホにだろうな・・・ って、あれ? もしかしてずんきってシホのことが・・・ 「行くぞ」 とずんきが先頭を行った。 そっちじゃないわよ、と出鼻をくじかれて、 早くもシホが先頭に戻ったわけだが。 「ん?待て、シホ。 おまえ道わかるのか?」 「普通にわかるわ。 全ての人間の感覚器を研ぎ澄ませ、そして心の目で見るのよ。 そーうすればぁー・・・ あーう、見えてくる見えてくる!!」 おまえが使う感覚器ってのは第六感のことだろ。 「なんか言った?」 「いえ、めっそうもございません。」 またどっから出したのかわからんキーボードを構えたシホに、 口答えなんてしてられない。 「ほーら、ここが目指していた場所・・・」 ・・・サーキット場? じゃないな。 地上で言う高速道路と言ったところか。 地下帝国がこんなにも広いとは。 俺たちは洞窟のようなところを抜け出して、 歩いてみたはいいけど、何も見当たらない。 道路の右奥から音が聞こえる。 その音は、どんどん大きくなってくる・・・ それは近づいていたのだ。 今現在俺たちが立っている場所は、 道路のカーブの端の、ガードレールの内側。 音は一気に近づき、気がつくと、目の前に車が・・・ いや、タイヤのない自動車が、轟音と共に何台か通り過ぎていった。 「ひゃうんっ!!」 かえでっちがその身を縮込ませて、自動車が通り過ぎるのをやり過ごした。 「何今の!?すごくなーい!?」 そりゃそうだ。 なんで地下なのに地上よりも発展してんだ。 「蜜柑、食べる?」 「かたじけない。」 あん王女がずんきに蜜柑を渡した。 でも「かたじけない」は古いだろ、 それに用法間違ってないか? 「ねーねー、今のって何?何?」 俺が知るわけねぇだろ。 「地上にはあんな車なかったよ」 あっても道路交通法に規制されないか不安だな。 きっとシホはお持ち帰りなんてことも考えてるんだろうけど・・・ もし本当に、万一そうだとしたら、俺は本気で止めるべきだろうか。 「今まで・・・今まで色々あったけど・・・ 本当にビックリした・・・」 かえでっちが涙目で言った。 「臆病者」 シホがそのまんまに言った。 みんなわかってるよ。 「さて、これも見たし。次行くわよ」 ・・・え!? な、なんのことだ・・・? なんか今動物園でゴリラを見たから次のキリンを見に行くよ、 みたいなことを言わなかったか? シホの目的はなんだ? 俺の目的はもちろん、この地下帝国から地上へ出ること。 シホは・・・ 楽しんでいないか? 「絶望の中でも、好奇心と向上心さえ、絶やさなければ、 どんなに時間がかかろうと、ゴールは見えてくるのよ」 「何言ってるんだ?」 「へーじょーがここにいるのが嫌だと思っても、 少しでも興味を持てば、外に出れるってわけ。」 「ってわけ。じゃないよ。 おまえは神か。俺の脱出権限は全ておまえに握られてるのか」 「へーじょーだけじゃない。 ここにいる全員、無事、地上にでることが・・・私の仕事。 でも仕事とは別に趣味で色々見ていきたいし、 ショッピングモールあったから、服とか見たいし。 ゲーセンもあるかもね。」 なんて暢気な女なんだ。 俺たちは今、指名手配犯とは行かないまでも、 追わている身なんだぞ。 それも気にせずシホはずかずかと進む。 まぁ、なんて野郎なんでしょう。 野郎じゃないか・・・。 一体全体、どうやればこんな波乱万丈な人生を送ることが出来る? 日常に不満を抱いている方、是非、このシホのところへ来てみろ。 一発で平凡な日常の大切さがわかる。 もしくわ同調する者が現れるとなると― ゾッとするな。 何時間歩いただろうか。 あるいは、まだ三十分も立ってないのかもしれないし、 一時間以上たっているかもしれない。 黙って歩き続けるのがこんなにも辛いとは。 別にシホに強制されたわけではない。 こんな状況において、どんな話題が思い浮かぶのか・・・ さっきっから奇妙な車は通っていくが、 人を見ない。 「お、エレベーター」 鼻歌でも歌うかのごとく、 エレベーターという言葉を詞に、 歌い上げた。 シホの言うとおり、見覚えのあるエレベーターが眼前にあった。 「おい、これで脱出できるんじゃ・・・」 「でも、土砂崩れによって入り口は封鎖された・・・」 「そうでした」 あん王女の言うとおりだ。 それが、俺たちがここにいる理由でもある。 後戻りできなくなった。 まさに、まさにそれを今。 物理的に、具体的に再現したわけだ。 「とりあえず乗りましょ。 ショッピングモールでも行って気分変えよう!!」 「あ、ショッピングモール・・・ 私も、い、い、行きたかったかもーぅ」 「そーう来なくっちゃかえでっち!!」 かえでっちが部長側に寝返った。 非常に残念だった。 戻る