外宇宙通信コミュニケーション研究部 地下帝国編 第七話 アングラミッドナイト
「どうなってるの!? いきなり吐血したわ!!」 何も見えない空間から声が聞こえた。 シホの声だ。 近くにいるのか? 「聞こえたのか・・・」 赤い奴は・・・俺を見据えて、木槌を構えなおす。 「今、おまえが聞いた声は、 おまえの本体に聞こえている声だろう。」 「じゃあ今の俺はなんなんだ? 偽者かなんかなのか?」 「そうじゃない。 中身だな。 よく言うだろ、中の人って。」 俺の中の人は、マイナーな人で頼む。 「俺はきぐるみじゃないし、CVでもない。」 「悟れよそのぐらい。 魂だよ、魂。」 幽体離脱・・・か。 ならばここは天国か、その入り口か? だとしたら、おかしいな、この辺りに尺由美子がいると思うんだが。 「そして貴様は二度と体に戻ることなく・・・」 「ブハァッ!!」 俺は、今日で何度目になるか、息を吐き出し、 急激に息を吸い込む、上半身を起す。 「あ、戻った」 目の前にはシホ。 「危ねぇー・・・死ぬかと思ったぜ」 「何があったんだ?」 とずんき。 ずんきは、シホに割り込み、俺の前に出る。 「ああ、大変だった。 とにかく、気絶、もしくは睡眠はやばい。 そのまま赤い服の奴に出会ったら死ぬと思った方がいい。」 全員が、説明を求めるように首をかしげた。 「とにかくだ。 よくわからないだろうけど、 眠ったらまずい。 それだけだ」 かえでっちがそんな俺を心配そうに見つめる。 俺の服は赤く、赤く染まっていた。 「性質の悪い悪戯だな。 ケチャップとは・・・」 言いかけたとき、口腔内に気持ち悪さを感じた。 そのままそれを吐き出す。 血― 「がはぁっ・・・」 俺は同時に胸部の辺りの痛みと、腹痛を感じた。 「こいつは血か!?」 俺が服を見て言ったとき、 シホが珍しく俺を気の毒そうに見た。 「さっき眠っている時・・・ いきなり吐血してたの。 自分でわからなかったの?」 気絶してたんだからわかるわけないだろう・・・ 「大丈夫か?へーじょー」 太郎が言った。 「ああ、大丈夫だ。」 大丈夫じゃなくても大丈夫と答える人は、世界にどれくらい いるのだろうか。 俺もその中の一人だけどな。 「で、結局太郎は戻ってきたんだな」 そういえば太郎は捕まったとか言ってたな。 「ああ、おまえの小遣いから釈放金を払った」 「待て、何を言ってるんだ」 俺は財布を調べた。 見事に空だ。 あっれー・・・こいつら人としてどうなのかなー・・・ 幼稚園児でもわかるぜ、人のものを盗ってはいけません。ってな。 「ほら、大丈夫なんでしょ?行くわよ」 シホが俺の肩を掴んで立ち上がらせた。 「おお、行こう」 そうだな、早く脱出したいよな・・・ と、俺は立ち並ぶ店のどこにも貼ってあるポスターに視線を向ける。 「あ、なんだあれ」 見つけたのはかえでっちも同時だったらしい。 「えーっと、 全地区対抗レース大会・・・参加者募集?」 待て。 今は、パチモン店を出て、通路の端にいるわけだ。 そしてポスターが貼ってあるどの店もここからは近い距離じゃない。 今、それをシホは肉眼で読んだのか? 「シホ、視力いくつだ?」 「2.0以上」 以上ってなんだよ・・・ あれか、測定不能というやつか。 すごいな、いいな、その目。 流石のシホも、参加要項や、条件など小文字で書かれた詳細までは 読めないらしく、歩いて近寄っていった。 「賞金、500万$!?」 シホが釣られた。 こうなったらもうおしまいだ。 脱出もクソもない。 「参加資格、ビークルを所持していればOK。 参加費、無料!? 各自、参加者を調べ上げた上、路上ノールールレースにて予選をすること。 三人の相手を打ち破った者のみ、 本大会への参加資格を与えられる!?」 ビークルってなんだ? なんか乗り物のことか? 「やめときな」 背後からしわがれた老人の声。 まったく近づく気配すら感じられなかった。 部員は全員、同時に振り向く。 「若いのには危険じゃ。 それに、おぬしらは、よそ者。 ここの土地を知らぬから、予選で死ぬのも確実。」 「あんた誰です?」 ずんきが聞いた。 「わしは、かつて『シフトフランカーの鬼』と呼ばれた男、 ジャンゼリィーク・デュロワじゃ!!」 ・・・ いや、知らないから。 よそ者だから。 そんなにかっこつけて言われても・・・ それを悟ったのか、ジャンゼリィークは、肩を落として溜息をついた。 「最近のシフトフランカー使いは・・・ 遅い、遅すぎる。 ジェット系最強と呼ばれたシフトフランカーの名が廃れておる・・・」 「その廃れた名前、もう一度掲げて見せましょう」 シホが言った。 言ってはいけないことを。 「本当か・・・? それならば是非、わしの倉庫に来てくれ!! わしのビークルを、シフトフランカーを貸そう!! 大会に出てくれ!!」 あーあ、なんだこの爺さん。 さっきはやめとけって言ってたのに。 「でも条件があるわ。 優勝賞金の9割は私達が頂く。 それでいい?」 「おお、いいともいいとも。 金なんかどうでもいいのじゃ。 シフトフランカーの売り上げさえ上がってくれれば」 「え・・・?売り上げ・・・?」 「あ・・・」 どうやらこの老人にも下心があったらしい。 俺たちを危険なレースに出場させ、 自社のビークルを宣伝しようとしたらしい。 で、現在、彼の倉庫にいるわけだが。 俺たちの目の前には、全長約7メートル、幅2メートル前後の大きさの、 金属の塊があった。 前から見ると、車のようなキャノピー、屋根。 そして中には、カタカナのコを右に九十度回転させたような形の操縦桿。 車体の側面には、小さい翼がいくつか。 車体の後ろ側と底面には、ジェットエンジンのようなものがついていた。 その流線型を見て唖然としたのは俺だけじゃないだろう。 「なんだこれ、タイヤがないじゃないか。 これでどう走るんだ?」 「ふふふ、地上人は皆、初めてタイヤ系以外のビークルを見たとき、 そう思う。 このシフトフランカーという奴はな、ジェット系のビークルで、 ジェットエンジンで飛ぶように走るのじゃ。」 「待って」 あん王女が言った。 「シフトフランカーだの、ジェット系だの、わけがわからない。 説明を。」 彼女の言うとおりだ。 「説明はいい。誰か乗ってみればわかる。」 すると、シホが、太郎とずんきを睨む。 「なんで!?」 太郎とずんきがハモッた。 「あんたたちが一番、仕事してなさそうだから。」 太郎とずんきが顔を見合わせてから、 ジャンゼリィークに顔を向ける。 「なぁ、これって何人乗りなんだ?」 「最高二人までじゃ」 「わぁーっ!!やだやだ、死にたくない!!」 ああ、テレビでよく見る、女子アナがレポートしたりする、ジェットコースターの 体験前みたいだな。 ありふれた日常的な光景なので、今が日常的だと思ってしまうが、 残念ながら地下帝国にいる時点で非日常的だな。 シフトフランカーのキャノピーが閉じられていく。 それは、宛ら戦闘機のような動きだった。 キャノピーが閉じられた後、シフトフランカーは、 地下帝国の言う、公道に引き出された。 「右足のラダーで右側のジェット、左足のラダーで左側のジェット、 そして操縦桿で進行方向操作だってさー」 オートマティックで発進準備を開始したシフトフランカーに、 シホが叫んだ。 「ブレーキとかは?」 「それは知らん。 『シフトフランカーの鬼』たるもの、 ブレーキなんて使ったことないし、 取説なんかも読んでなかったのじゃ」 「マジしねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」 「お、そういえば、わしは、地下帝国のお偉いさんに 顔が利いてのう、地上旅行三日間の旅、とか、 地上永住権とか、話せるかもなぁ」 「っしゃあらぁ!! まかせとけぁ!! 飛ばすぜー!!ずんき、捕まってろーぃ!!」 爆音を立てて、シフトフランカーは飛び出していった。 ---さわちゃんside--- 何キロ走った? 時速何キロで走っている? 知らん。 だが、ひとつ言えること。 結構楽しい。 それと、ずんきが気絶した。 一般のビークルを追い抜きまくって、 そして高速道路のようなところに出た。 『聞こえるか、さわちゃん』 「ぬぅおっ!?ジャンゼリィークさん!? どこにいるんすか!?」 あと、なんでさわちゃんって呼んだ、初対面。 『探しても車の中にはおらんよ。 この声は、シフトフランカーに付けられた無線機から出てるのじゃ。』 「ハイテクっすねぇ、地上じゃそんなのありませんよ」 嘘。 警察はバリバリ使ってます。 『いいか、よく聞くんだ。 たった今、ウィンド・アレスという車種のホバー系ビークルが、 倉庫の前の公道を通過した。 それなりに出来る奴だ。』 「そ、そうっすか」 『それに喧嘩を売れ』 ・・・何言ってんだ? どういう意味だ? 『いいか、ヘッドアップディスプレイの下にあるボタン、 合図をしたら、緑色のFボタンを押せ。』 「はいはい、わかりましたよ」 『今だッ!!』 「はっやぁ!!」 言われたとおり、緑色に塗られたボタンの上に、白い文字でFと書かれた それを、押してみた。 背後で何かが光ったような気がした。 そのすぐあとに、車体の前と後ろから、緑色の旗が出てきた。 『この俺と勝負をしようと言うのか・・・』 知らない声が無線から聞こえた。 横を見ると、一台のビークルがシフトフランカーと並んで走っていた。 ジャンゼリィークの喧嘩を売るってのはこのことか。 「ああ、予選一戦目というところだ」 『奇遇だな。こちらも一戦目だ。』 シフトフランカー、ウィンド・アレスは横に並び、走行を続けた。 目の前の一般のビークルが俺たちを避けて、道の端に寄っている。 『ここからB332R号線を跨いだ所にある、工事現場を抜けて、 そして先にエリア南ブリュンV762C号線前ビークルリペアショップに 到着した方が勝ち。これでどうだ?』 「ああ、わかった。」 正直わかってないけどな。 『よし、ルートは自由だ。 行くぜ!!』 ウィンド・アレスが俺たちの前に出た。 『さわちゃん、聞こえるか』 今度はジャンゼリィークの声。 『この勝負、非常にまずい。 まず、工事現場というのが危険だ。 それから、ビークルリペアショップがあるブリュン地区はスラム都市なのじゃ。』 なんだかわかんないが非常にまずいらしい。 戻る