外宇宙通信コミュニケーション研究部 第二話 キーボードクラッシュ
ボクは今日、夢を見た。 嫌いな人と嫌いなものを同時に見た夢だ。 シホがセロリを持ってボクの口の中に無理やり押し込んできた。 ボクは死に掛けたが、必死で叫んだ。 「セロリは嫌いなんだよーっ!!」 「ひぃっ!!」 目を覚ますと、そこには知らない女の人がいた。 ボクは一瞬、私は誰ここはどこ状態に陥った。 そうだ、ここは学校だ。 机、椅子、黒板があるが、少し狭い教室だった。 「びびび、びっくりさせないでよ!!バァーカ!!」 「ごめんなさい・・・」 知らない人がボクに怒鳴ってきたので謝っておいた。 無表情で。 「あの、失礼ですが、あなた誰ですか?」 「ぅーわ、その質問に答えたらなんか出てくるって絶対・・・」 「出てきません。」 相当のビビリな女性だった。 ひょっとして男性不審か? 「えーと、私は金田楓。部長からはかえでっちって呼ばれてるの。 2年生よ。」 「はぁ」 まだボクは寝ぼけているのだろう。 話が飲み込めない。 教室を見渡すと、まだ人がいた。 外人の女子と、暗い感じの男子。 外人の方は制服を着ないでお嬢様っぽい格好をしている。 暗い感じの方は腕に猫を抱いて撫でている。 その猫はなんだか気持ちよさそうだった。 外人の方は今度はカバンから蜜柑を取り出し、食べ始めた。 行動の脈絡がつかめない。 ボクはとりあえずかえでっちの方に向き直った。 「ボクは鳥羽怜治です。 君が言う部長は多分ボクです。」 「え?そうなんですか?」 「ボクは外宇宙通信コミュニケーション研究部の部長なんです。」 「でも、シホさんが、部長って・・・」 「それはあのシホって人が勝手に申請書を書き換えただけです。」 かえでっちはその話に対して興味を示さなかった。 ボクは外人の方を見た。 黙々と蜜柑を食べ続けている。 蜜柑が好きなのだろうか。 と、その人はボクの視線に気付き、 ボクの方を見た。 「蜜柑・・・食べる?」 「いいです。」 ボクは遠慮した。 その人は蜜柑を机に置いた。 そしてカバンのジッパーを全開にした。 「いっぱいあります・・・」 どうやら彼女はボクが遠慮していると見たらしい。 カバンの中には確かに蜜柑がいっぱいあった。 というより、蜜柑しか入ってなかった。 「これ全部蜜柑?」 ボクは聞いた。 「そう・・・ カバンの中、全部蜜柑。」 彼女は静かにそう言った。 大人しそうな感じだった。 「一ついただきます。」 ボクは一つ蜜柑を受け取ると、彼女はニッコリ微笑んだ。 そしてまた正面に向き直り、蜜柑を食べ始めた。 「ん!?」 暗い男の方がいきなり顔を上げた。 何かに気付いたようだ。 「どうかしたか?」 ボクは聞いた。 「花の・・・花の悲鳴が聞こえる・・・」 「はぁ・・・」 ボクはいったいなんのことか、と思っていた。 彼は立ち上がり、窓の外を見た。 ボクも同時に窓の外を見た。 どうやらこの教室は1階らしい。 窓の外には、花壇が並んでいた。 花壇の向こう側には、不良3人が男子生徒をカツアゲしていた。 暗い男は、猫を放し、窓から外にでた。 そして不良の方へ向かっていった。 「なんだてめぇ」 不良の一人が彼に気付いたようだ。 ボクは状況が不味そうなので加勢することにした。 「・・・そこの花壇・・・踏んだのはおまえだな?」 「おうおうおうおう!!てめぇこの俺様にいちゃもんつけようってのか!?」 不良が言いかけたとき、彼は不良を突き飛ばしていた。 「なんだてめぇ!!やる気か!?」 彼は不良に構わず、倒れた花壇を直した。 重大事になっていなかったことに彼は喜び、そして微笑した。 不良は、カツアゲしていた男子生徒を放し、 花壇を直した彼に向かっていった。 彼はそんな不良の前でも一切の構えをとらず、 丸腰の状態で、手を高々と上げ、指をならした。 不良は不思議がって立ち止まった。 「なにやってんだ?」 と、不良は言ったが、その直後、頭の中で前言撤回した。 不良は何十匹もの犬や猫に囲まれていた。 犬も猫もでかいのからちいさいのまで多種類いた。 そして彼等は不良たちを睨みつけていた。 「な、なんだー?」 不良は不思議そうにしていた。 が、そのまま花壇を直した男の方に向かっていった。 と、その間にでかい犬が割り込んできた。 不良は犬に遮られ、歩を止めた。 「いってぇぇぇぇえ!!」 一人の不良が悲鳴を上げた。 見ると数匹の犬や猫に襲われていた。 他の不良も同じように犬と猫に襲われた。 「覚えてろよー!!」 そのまま不良は逃げ去っていった。 ボクはそれを見て唖然とした。 ボクは彼のところへ走っていった。 「すごかったな。今の。」 「・・・動植物の声に耳を傾けた。 ただそれだけだ。 俺は鹿島一樹。 外宇宙通信コミュニケーション研究部の部員だ。」 「そうだったのか・・・」 と、会話していると、不良に絡まれていた 男子生徒が一樹に礼を言って帰っていった。 ボクと一樹は元いた教室に戻った。 教室に帰ってから、ボクは一樹にも自己紹介した。 そうしたら、外人の人も話しかけてきた。 「私も外宇宙通信コミュニケーション研究部の部員です。 名前はジアンナ・メル・ミラージュって言います。」 「ボクは鳥羽怜治。よろしく。」 一樹はどうやら自己紹介を終えていたらしい。 というより、他の人はみんなお互いしていた。 ボクが寝ている間に。 そこで気付いた。 ん?待てよ、なんでボクは寝ていたんだ・・・?と。 「なんでボクはここにいるんですか?」 3人に聞いた。 全員が首をかしげている。 「おかしいのはわかっています。 でも実際不思議に思っているのはボクだって同じなんです。 寝ていた以前の記憶、数分間の記憶がないんですよ。」 ボクは無表情で言った。 焦ることでもなかった。 ただ、何が起こったのか知りたかっただけだった。 そこで、ジアンナが人差し指を上げて、 「睡眠薬・・・」 と言った。 「そんな、どうやって高校生が」 「あの人ならやりかねないって!!」 かえでっちが割り込んできた。 「楓さんは志穂さんのことよく知っているんですか?」 ボクは未だあだ名で呼ぶのを躊躇う。 「んー、まぁ。同じクラスだし。」 「あ、そうなんですか。」 と、会話が途絶えた。 しばし沈黙。 「あ、何か待ってるんですか?」 ボクはジアンナに聞いた。 ジアンナは今、蜜柑も食べてなくてお行儀良く、 椅子に背をつけて座っている。 「みぃーん。」 ジアンナは確かにそう言った。 聞き違いじゃなかった。 「はい?」と聞き返したものの、返ってくる返事は 「みぃーん。」のみ。 「あー、充電中なんだよ。」 かえでっちが言った。 「疲れてるのかわかんないけど、 たまに動きが止まってそうなるんだよ。 みんなは充電中って言ってるけどね。」 かえでっちの詳しい解説でした。 「・・・みぃーん。(充電中)」 なるほど、とボクは思った。 確かに人生には休息が必要だ。 窓を見てみると、猫がいる。 一樹の猫ではなかった。 一樹はジアンナのカバンから蜜柑を取り出し、 皮をむきはじめた。 一つ、とって掌に乗せた。 「・・・ホラ、おいで」 その手を猫のほうに向ける。 「ニャン」 猫は一樹の膝の上に飛び乗った。 猫は蜜柑を食べた。 一樹はそんな猫を優しげな目で見つめ、 背中を撫でている。 そのうち猫は眠くなり、一樹の膝の上で眠った。 「今、ジアンナさんのカバンから蜜柑とったけど・・・」 ボクは言った。 「本人が構わない、と言ったんだ。」 一樹は猫に気を遣っているのか、声を小さくしていた。 そのとき、廊下から愉快な歌声が聞こえてきた。 「いぇっつげっつろーぅ♪いぇっつげっつろーぅ♪」 きっとシホだ。 いーや、絶対シホだ。 「ビーバー!!」 その叫び声と同時に、ドアが激しく開かれた。 そのときバターンと音がなり、猫が起きてしまった。 「外宇宙通信コミュニケーション研究部部長、杜若志穂、ただいま参上!!」 教室内をしばし沈黙が包む。 「こら、騒がない。」 シホの後ろから澤井太郎がやってきた。 シホは教室の椅子に座ると、自分のカバンからノートパソコンを取り出した。 太郎は、シホを見て笑い出した。 「なによ」 「いや、だって、シホがパソコンを取り出すってことは――」 言い終わる前にそれは起きた。 「遅い!!」 シホが叫んだ。 叫んだと思ったら、ディスプレイを殴りつけた。 「ちょ・・・」 太郎が止めに入ろうとした。 「スターティ!!」 今度はキーボードをぶっ叩いた。 ジアンナも一樹もかえでっちもシホを注目する。 ボクもきっと同じように見ていた。 「よぉし!!起動した!!」 シホは言った。 太郎はホッとしている。 「部活個人登録作らなきゃねぇ〜♪」 さっきとは変わってやけに嬉しそうだ。 「え!?何これ!? 再起動してください!?そんなふざけないでよ!! また待たせる気なのー!?」 今度はいきなり嫌な気分になったらしい。 「嫌ァァァァァァァァァァッ!!」 ノートパソコンに向かって無数のラッシュ攻撃。 太郎がシホを羽交い絞めにして椅子から離れた。 「落ち着けって・・・」 「・・・ごめん」 シホはそのまま椅子に戻った。 「そうだよね、落ち着かなきゃね・・・」 シホはノートパソコンの端を撫でながら言った。 「心を落ち着かせればいいんだよね、 えへへ・・・」 声色が変わってきた。 「へへへへへへへハハハハハハハ!!」 笑い方が怖かった。 きっとジアンナも一樹もかえでっちもそう思っているだろう。 ボクは自分が思う限りは無表情だが、 ジアンナと一樹はあまりよさそうな顔はしていない。 かえでっちは目を瞑って耳を手で押さえていた。 「ハハハッヒャーくぁw背drftgyふじこlp;@:ーーー!!」 「なに言ってるのかわからないです」 ボクがつっこんだ。 またノートパソコンに無数のラッシュを叩き込み始めた。 キーボードのキーが飛び散っていく。 シホはノートパソコンを持ち上げ、机に叩きつけ始めた。 ついにノートパソコンは音を上げた。 再び太郎がシホを羽交い絞めにする。 「満足か?」 「・・・私、またやっちゃった」 言葉とは裏腹に、表情は反省や罪悪感より 文字通りやっちゃった感に満ちていた。 なんとか処理を済ませ、シホが黒板の前に出る。 「さっきも言ったけど私がこの部活の部長、杜若志穂!! 好きなものは壊すこと、 嫌いなものは退屈と遠慮だよ!!」 シホは言った。 「これからは君たちは私の呼び名で呼び合ってもらうことにする!!」 いきなりのルール。 決定事項。 「鳥羽怜治、君はへーじょー!!」 「クレイジー・・・じゃないんですか?」 シホは黒板を離れて、ボクの方によってきた。 「さっきも言ったでしょ? 私は遠慮が嫌いなんだよ!! だから敬語でも話さないでほしいね。」 「わかった。」 ボクは言った。 「よぉーし。」 シホは笑顔でそう言うと、黒板の前に戻っていった。 「鳥羽怜治、君は無表情で平静を保とうとしているね。 つまり平常ってわけだね。 だからへーじょー。きまりだね!!」 「あ、そう。」 新しいあだ名の由来には納得はしたが、 そうは読んで欲しくないな・・・ 「次、ジアンナ・メル・ミレージュ!!」 「ミラージュです。」 ボクはそこでおかしいと思った。 ボクの名前を知っているのはわかる、 以前に会っているからだ。 しかしそれ以外の人の名前を知っているのか? シホは・・・(一文字間違えたけど) ということはここにいる部員全員、シホが集めてきたのか・・・? 「あん王女」 「・・・わかりました」 ジアンナはあん王女になった。 そのわかりましたはそのあだ名でいい、ということなのだろうか。 「そして鹿島一樹、あんたはずんき!!」 「・・・」 無言だった。 表情からは何も読み取れなかった。 ボク以上に暗いことはないだろうけど、 きっと同類だろう。 類は友を呼ぶ、ボクはあん王女とずんきを 見えない何かでひきつけていたようだ。 でもそのきっかけは・・・現部長、杜若志穂。 少し、計算違いだけれど、 この腐った世の中も・・・捨てたもんじゃない・・・ かもしれない。 戻る