外宇宙通信コミュニケーション研究部 地下帝国編 第十三話 眠りの巫女

---へーじょーside--- 曲夜の家にて。 「久しぶりね。志穂。」 涼子さんがコーヒーを飲みながら言う。 「お姉さん、まだあの仕事を?」 「もちろん。生甲斐だもの。」 涼子さんは、くすっと笑い、そして俺の方を見た。 なんだ、俺への質問タイム? 「えっと、怜治くん。」 「はい。」 「私な、ちょっと言葉おかしいかもわからんよ。 でも勘弁してぇーな?」 「あー、はい。」 西より、ってセリフは伏線だったのか。 関西出身・・・。 残念ながら何もお土産が渡せないのが残念だ。 「ほな、お土産や。」 こっちがもらっちゃったよ!! 「お好み焼き煎餅。 それなりに美味しいで。」 「いつも食ってるし・・・」 シホ、それは言ってはならんぞ。 「表に出ろ・・・」 「ひっ!?」 怖っ!? なんで?なんで涼子さん怒ってるの? 「さっきからいきなり、キーボードで殴りかかってきたり、 私の土産にもケチつけて、てめぇの分量わきまえてんかコラァ!!」 涼子さんが西キャラ捨てた!! シホ、おまえだよおまえ、怒られてるのは!! 「えー?コラ、タココラ!! なんとか言ってみーやコラ!!」 ヤクザだ!! シホは・・・。 いつもと違う・・・。 なんか退いてる!! 不安そうな顔をしてコーヒーを飲んでる姿は、やっぱり俺達には弱みを見せたくないんだろうな。 ・・・見たい。 こういうシホも見ていたい!! 一応先輩だが、これも何かの縁。 シホは、俺の方に視線を泳がせた。 何をしろというんだ? 「どこ見てんだタコ!!」 涼子さんがシホを、今にも殴らんと手を挙げている!! シホが珍しく、(と言ってはかわいそうだが)首を引っ込めている!! 「ご、ごめんなさい・・・」 小さな声で、シホは言った。 「わかればいいのよ。」 涼子さんは、元に戻り、椅子に座りなおす。 なんというか・・・怖い物も見たし、面白い物も見れた。 「曲夜さん」 「はひっ?」 びびってたのかよ。 「レース出るんですよね?」 「あー、はい。」 そして曲夜さんは、椅子から立ち上がる。 そしてカーテンがある壁の前に立って、紐を引っ張った。 「こちらを見てください。」 紐を引っ張る前に言え。 やっぱり動揺してるな。 カーテンの向こうには、何やら巨大な円盤のようなものが・・・。 「これが俺のマシン、 タイヤ系のホィールスター。」 自慢げに言った。 「車体全体が二本の大きなタイヤで出来ており、その間に操縦席があります。 操縦席の下に充電器、電気パネル、基盤、ジェットなどついております。」 「へぇー。 志穂、ジャンは、ああいうこと教えてくれなかったよな。」 「・・・話しかけないで・・・」 俯いて顔をそらしてしまった。 俺に見られたのがそんなに恥ずかしいのか。 というか単純に怖かったのか? 「はっはーん。 こいつはいい・・・」 涼子さんが不敵な笑みで、なにやら企んだ口ぶりをした。 「なぁ、決勝戦前のウォーミングアップ行かない?」 涼子さん、西キャラ忘れてますよ。 「いいですね・・・。」 「よし、決まり。 それじゃプリズンキャッスルまでつれてって。」 ちゃんとした目的地まで決まってるんだな。 「へぇー、面白そうだな。 何人まで乗れるんだ?」 俺は興味本位で言ってみた。 「プリズンキャッスルがどういうとこだか知ってるんですか?」 曲夜がいきなり、静かな口調で言い出した。 「あそこは、奴隷街を支配、管理する事務所みたいなもんなんです。 それを奴隷達が好きなわけないでしょう。」 何の話? 俺とシホには全くわかんない。 「だから行くんよ。 私はJSOのエージェント。 そのエージェント様がここに来たならば、貴方達はもう奴隷じゃない。」 曲夜は、もう一度、涼子さんを見ていた。 目を見開いて。 なんだか嬉しそうな表情をうっすらと見せ始めた。 「涼子さんがその救世主だとして。 俺なんかが協力できてもいいんですか?」 曲夜が言った。 「ああん。もちろん。」 そして結局。 俺たちはその、プリズンキャッスルに向かうことになった。 ---さわちゃんside--- 俺とずんちゃんは、ジャンとコースの打ち合わせをしていた。 どこまでをどのぐらいの速度で飛ばせばいい、どこをどのようにカーブすればいいなど。 だが、このエリアデスバレーを見て思ったことは、今までの、それは地上も含めてだが、俺が見てきたコースなどに、 こんな立体交差的なコースはなかった。 スタート地点より少し後ろにPITがあり、回りには観客席、VIP席が設けられている。 スタート地点から進むと、山を削ったその崖と崖との間を道としたようなコースだった。 それもただの道ではない。 非人工的であるので、真っ直ぐな場所がなく、道幅の狭い広いめちゃくちゃなのである。 もし操縦ミスなんかあったりしたら、即座に崖にぶつかってボンだ。 このまえの・・・イマン兄弟みたいなミスはしたくない。 彼等だって、死ぬことはなかった。 コースを進むと、くだりの崖がある。 そこは、崖というよりもむしろ、急な坂道と取った方がいいのかもしれない。 そこもコースに設定されているのだから。 その下り坂を降りてすぐ、道が一気に狭くなる。 そして急激なS字カーブ。 毎年ここでの死亡者続出だそうだ。 その道を抜けたら、広い道に出て、そして緩やかなカーブがいくつかあり、 今では使われていない工場の巨大空調口がコースにくっついている場所が見える。 ここで道を外れ、その巨大空調口の中に入る。 中は、丸い筒のようになっていて、高速で走るのだから、天井を走るなんてことも簡単にできるだろう。 と、ジャンが言っていた。 空調口の中を進んでいき、何度かカーブに出くわした後、送風プロペラが数箇所にある。 もちろんぶつかればボン。 使われていない工場なのに何故かこのプロペラだけは動いているという。 そのプロペラをいくつか抜けて、今度は真上に向かっていく空調口に上る。 そして出口から出ると、工場の敷地内のトンネル。 そこをしばらく進んでいくと、金網の橋があり、そこからコースアウトすれば命は無い。 金網の橋をクリアすれば、元の崖に挟まれた道に出るのだ。 それを進めばもといたスタートラインが見える。 それを4周繰返す。 少しの故障、燃料切れ、補完はPITで行う。 だが、もちろんその間にロスが出てしまうのは否めない。 「打ち合わせはこれで大丈夫だろう。 決勝は明日なんじゃ。 それまで体力温存をしておくのじゃぞ。」 ジャンが言った。 「そうだな。」 言って、俺はコースの資料を仕舞った。 しばらく休んでいることにしよう。 俺は、ソファに横になって雑誌を読むことにした。 ずんちゃんは、かえでっちと、あん王女の手伝いをしに行った。 さて。 明日か。 決勝戦・・・。 なんだか眠くなってきたな。 ・・・ 「ん・・・。」 俺は、ふと気付いた。 「あれ?」 体の上に毛布がかかっていた。 「冷えるといけない。」 声がした方を見ると、隣のソファで、あん王女が俺の方を見ていた。 どうやら俺が舟こいでる時に、気を利かせてかけてくれたらしい。 「ありがとうな。」 俺は言って、眠った。 ---へーじょーside--- 「ほわぁ!?」 まただ!! 何がって?さっきっからビームライフルのような物で背後から追撃を受けてるんだよ。 曲夜さんに、ここ、プリズンキャッスルにつれてきてもらったことは、いい。 だが、俺たちは丸腰だ。 涼子さんは、なんかすんごい身のこなしで、ビームを避けているけれど。 俺とシホなんかビームに当たらないのが不思議なぐらいだ。 城の廊下を走って走って、階段を上って、また廊下を走って。 その繰り返しをして、涼子さんに教えてもらった連絡通路まで来た。 入り口は、黄色いテープに横断されて、それには『修理中』と書かれていた。 「ちっ」 涼子さんは舌打ちした。 俺たちが、今、何故ゴキブリと人間のハーフみたいな連中に追われているのかと言うと、 涼子さん曰く、落城合戦に赴いているかららしい。 曲夜さんのホィールスターで移動中、涼子さんの素性、それから目的など、色々と聞かせてもらった。 スパイなのにそんなに喋っていいのか、と思うほど。 「邪魔っけだー!!」 涼子さんは、テープを引きちぎって連絡通路に出た。 俺たちも同じく。 そして俺はその惨状を見て、唖然とした。 「道が!?」 通路の中間あたりの床が抜けている。 完璧に抜けているのではなくて、そこ一体のコンクリートが崩れ、中の骨組みが丸見えになっている状態。 床だけではない。 壁も、天井も、途中からごっそりと削られたようになくなっていた。 「ちょっと、ここは工事中だよ。」 工事をしてる人に言われた。 彼は、人間だった。 おそらく奴隷だろう。 「ホラ、帰った帰った」 「邪魔っけだー!!」 「うっ・・・?」 ちょっと待った。 涼子さんは彼の肩をポンと押して・・・ 「わぁぁぁぁぁ・・・」 と声がフェードアウトしていき。 どぼーんと、水柱を挙げて、川にダイブ。 なんて人だ。 落ちたところが川じゃなかったら殺人罪だぞ。 とか思ってるうちに、すでに涼子さんは通路の向こう側に行ってしまっていた。 「おーい、早くー」 呼んでくれても、この距離は俺たちには飛べません。 「姉さん!!こんなところ、私達に飛べるはずないでしょ?」 シホの言うとおりだ。 「ホレ、私の薙刀につかまれ」 と、涼子さんは薙刀を出してくれた。 シホは、先に行ってそれにつかまり、そして向こう側に向かってジャンプした。 滞空中に、涼子さんは薙刀を引っ張り、シホを引き寄せた。 「キャッ・・・」 シホは、声を上げて、それと同時に床に尻をついた。 「ほら、次は怜治くんの番だ。」 と言って、涼子さんは薙刀を、俺のほうに向ける。 俺は、薙刀をつかんだ。 そして向こう側にジャンプ!! 「ほっ・・・」 「あ、手が滑った」 「うぇ!?」 周りの動きがスローモーションになっていった。 床の淵が俺の目線の高さになっている。 俺は、落下したのか? 「なんちゃって」 「ほわぁぁぁぁぁぁあ!!」 あまりの恐怖に奇声を発してしまった。 両手で薙刀の先をつかんでいるが、足元には、床がない。 見えるのは流れる川。 俺は上を見た。 涼子さんが俺を見てニヤニヤしていた。 なんとも危ないお人だ。 「今引き上げるからね。」 涼子さんはそう言って、俺を床の上に引き上げてくれた。 「あー・・・怖かった・・・」 息が上がりっぱなしだ。 「へーじょー、あんた大丈夫?」 シホが珍しく心配そうに聞いてくれた。 「飛び込み初体験なるところだったぜ。」 「そう、大丈夫なのね。」 シホは、歩いて先に行ってしまった。 期待はずれだ。 俺たち三人は、最初入ったところの、後ろの棟の城の廊下を進んでいた。 さっきと違い、もう兵士は襲ってこない。 静かだ。 と、俺たちは、ある一室を見つける。 何があるわけでもないのに、引き寄せられるようにそこに歩み入っていった。 そこには、眠り姫のように、大きな大きなベッドに、女性が眠っていた。 その周りに俺たちは集まる。 そのとき。 「おやおや・・・もうここまで来ましたか・・・。」 背後から声がして、振り返ってみたら。 紫色のタキシードを身に纏った・・・ 鼻の下に顔をはみ出すほどの長いヒゲを生やした・・・ シルクハットを被った・・・ ステッキを持った・・・ ジェントルマンがそこに立っていた。 「マドモアゼル・ミレレルレ、と、その付き添い。」 ノーレル・ローチだった。 ノーレルを見るなり、涼子さんは、薙刀を構えて、戦闘態勢に入っていた。 「そこの眠り姫の名は、オードルデュ。 地下帝国では眠りの巫女と呼ばれている。」 ノーレルは、この部屋の入り口に立っているだけで、入ってこようとしない。 「その女には、弟がいた。 二人は仲良く育っていったが、ある日。」 ノーレルは、残念そうに、溜息をついて。 というか恐らくそれは演技であろう。 「彼女は、ある事件から弟を守るために、自分だけが意識不明になってしまった。」 ノーレルはやっと、歩き出し、やっと、この部屋に入ってきた。 だが俺たちの近くには寄ってこない。 ノーレルは、部屋にあったソファに腰をかけた。 「そして、彼女はこの通り、眠りの巫女となったわけだが。」 俺は、ノーレルを見た。 「それで?弟はどうなった。」 興味本位で聞いてみた。 「弟は、彼女を救える術を探し求めた。 そこで行き着いたのが、ある組織・・・」 「そのある組織ってーのは、マトリオシカやな?」 涼子さんが聞くと、ノーレルは、シルクハットを外した。 「なっ!?」 ノーレルの頭には、茶色い触覚が生えていた。 「驚くのも無理はないかな。」 ノーレルは、再びシルクハットを被った。 「で、組織・・・マトリオシカ、だっけ? よくそこまで知っているな。」 今帽子を外したのは何も意味ないの!? 「マトリオシカに懐柔された弟は、眠りの巫女の夢の中に軟禁されてしまったのさ。」 「はぁ?」 涼子さんが首を傾げた。 「弟は、その代わり、夢の中でオードルデュと仲良く暮らしましたとさ。」 「ちょっと待った」 俺はノーレルに向けて指を指した。 「その弟ってのは赤い服を着ていなかったかな? 白っぽいシャツに赤いスーツ、それから髪の毛も赤かったな。」 ノーレルは、俺のその言葉を聞いて、驚いているようだった。 「なんだなんだ、鋭いじゃないか・・・」 「ってことは、その弟ってのは、他の奴の夢にも干渉できるってことか?」 「正確には違う。 干渉するんじゃなくて干渉させるんだ。」 ノーレルは言った。 「眠った奴や、気絶した奴の精神を、オードルデュの夢の中に引きずり込むのさ。 そして彼は、戦う。 仕事をこなす。 マトリオシカからの命令でな。」 ノーレルはそう言って、立ち上がる。 「彼の名前は、レッドピン。 かつては宇宙探偵、ファイブズの一員だった。」 ノーレルは、部屋を出て行こうとする。 「待て!!」 涼子さんは言った。 「これからレースに出なくちゃならんのでな。 アディオスアミーゴ。」 ノーレルは去った。 涼子さんは、追おうとしたが、シホに止められて諦めた。 あの王子・・・ ノーレルを押えれば、地下帝国から地上に出る方法を教えてもらえたかもしれなかった。 「で、この人は?どうすんの?」 シホが言った。 「何もしないわよ。今の話が聞けただけでも充分。 マトリオシカもこんなことしてたなんてね・・・」 涼子さんは、薙刀を畳んで仕舞った。 「行くわよ、最上階・・・。」 涼子さんが先に歩いて部屋を出て行ってしまった。 「キャアッ!!」 何か物音がして、涼子さんの悲鳴が。 何があった!? 俺とシホは急いで、部屋を出て、廊下に彼女の姿を探した。 涼子さんは、床にしりをついていた。 その前には・・・よく知った顔の男が倒れていた。 「おっと、悪いな、譲ちゃん。 急いでたもんで・・・」 男と涼子さんが見詰め合った状態になる。 「あー!!志穂じゃねぇか!!」 「いや、誰?ってか私、涼子・・・」 また間違えられてるよ・・・ 俺と志穂がその男の前に出て、涼子さんを立ち上がらせた。 「あー!!怜治と本物の志穂じゃねぇか!!」 今まで何をしていたんだ・・・この男は・・・。 四日前から俺たちがスキー場からいなくなったのになんとも思っていなかったのか・・・? 「ブラックヴァロン!!」 志穂が怒鳴った。 「四日前から私達がスキー場からいなくなって、なんとも思ってなかったの?」 「だから探し回っていたらこんなところに。」 黒吾耶先生。 「俺たちはここに来たとき、入り口の洞窟が塞がれちゃったんですよ? なのに先生はどうやってここへ来たんですか。」 黒吾耶先生は、立ち上がり。 「土産とか売ってる店のエレベーターに乗って、 隠しボタンを見つけたから押してみたら、この地下帝国ってわけよ。」 「は?」 「知らなかったか?地下帝国は、日本の各地に入り口を持っていて、 どこかが塞がれても、他の場所から出れるんだぜ?」 なんと!! 「まぁ、それはいいとして・・・」 黒吾耶先生は、俺とシホ、そして涼子さんを見る。 「太郎と一樹とジアンナと楓はどこにいるんだ?」 シホは、今までの成り行き云々を着色して先生に話した。 「そうか、それじゃジャンっていう爺さんのところにホームステイしてたんだな。 いい経験してんじゃん。」 先生が言う程のいい経験も少ないほうですよ。 戻る