外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第三話 さあら
俺たちは、一体誰に追われていたのだろうか? シホは、それをそんなことも忘れて、食事に没頭している。 意外にもこのようなレストランに来るのは初めてらしい。 安心しろ、俺も初めてだ、こんな高級イタリア料理店。 「そだ」 何かを思い出したように、フォークを置いて、俺を見る。 まず口を拭け。 「作文、書いた?」 「ん?ああ、現国の時間にやったよ。」 「渡してって言っても・・・ 今は持ってないんでしょうね。」 「ああ、もちろん」 シホは、食事を再開する。 イタリアンレストランから出て、しばらく繁華街を歩いていると、何かの騒ぎがあった。 一体何があったのかと思っていると、興味津々なシホがそっちに向かっていくではないか。 俺はそれを止めるべく・・・ 「あ」 「何?」 俺は見た。 俺が監禁されていた中等科で出会った女子生徒が見えたのだ。 ただの見間違いだとも思ったが・・・ 実際ここにいるのも可笑しくない。 今はそれを無視して、シホについていく。 俺は、シホに連られ、騒ぎの中心に近づいていった。 「わいこりゃ!!ふざけやがって、どこ見て歩いてるんだ!!」 ケンカだった。 三人のリーゼント学ランと、白い学ランを着た男三人。 「あ、リーゼントだ!!」 シホは、喜んでいた。 「わーい、珍しいー!!」 「あ、バカ、それ以上近づくと・・・」 俺はシホを静止させようとしていた。 白い学ランの男達は、リーゼント達に向かって、言った。 「愚問ですね。 どこを見ていて歩いていたのか。 前を見て歩いたのですよ。」 そんな火に油注ぐようなセリフを・・・ リーゼントの方は、ケンカ慣れしてるかもしれないが、 白学ランの方は、どう見ても部活で言う文科系だ。 そのまま倒されて終わり、だろうな。 「人は、常に前を向いてあるかなければならない。 それ即ち・・・成長。」 「なめやがって!!ぶっ殺してやる!!」 リーゼントの一人が、白学ランに殴りかかっていった。 彼は、避けずに、その攻撃を顔面で受けた。 「覚悟だけは、決まってるようだな・・・」 「覚悟、それ即ち、成長。 君たちは角田親衛隊に矢を抜いた。 我々が直に制裁してくれよう。 光栄に思え。」 殴られた男が、構えた。 野次馬が呼んだらしい、警察の人がかけつけた。 「君たち!!ケンカはやめなさい!!」 口では言ってるものの、恐れをなして彼らに近づこうとしない。 「起きた頃には病院だぜ!! がり勉隊!!」 「角田親衛隊だ!!」 一瞬、一瞬だった。 何が起こったのか、よくわからなかった。 リーゼントの男と白学ランの男が、戦闘開始して、一瞬で決着がついた。 なんと、ケンカ慣れしてそうなリーゼントの男が、 がり勉にしか見えない白学ランの男のまえに、倒れてしまったのだ。 「成敗・・・」 言って、白学ランの男達は、去っていった。 「お、おい、大丈夫かい!?君!?」 警察の人が、倒れたリーゼントの男に駆け寄っていた。 まったく、その髪型は飾りなのか? 「すごいわ・・・見たでしょ?あの白い奴!!」 「ああ、見てたって。そんな騒ぐなよ・・・」 「あの白い学ラン・・・ 親衛隊の学ランはバケモノか!!」 「普通の人間だろ。 まぁ確かにあの強さは半端無いな。」 警察が来て、野次馬が散り散りになっていく。 俺たちもそれに合わせて、その場を後にした。 繁華街から離れて、しばらく歩いてシホの家に到着した。 「一人で大丈夫なの?」 「女の子を一人夜道を歩かせるなんて俺には出来ないからね。」 「む・・・」 シホは腕を組んで、むすっとした表情になった。 「あんたねぇ、これでも私のほうが学年上なのよ?」 「・・・すいません、忘れてました・・・」 本気で。 シホを家に送り届けてから、俺は一人で夜道を帰った。 方向感覚が特に鈍いわけでもないので、道に迷うなんてことはなかった。 俺が家に着くまでの間、嫌に背中に視線を感じ続けていた。 「ただいま」 その視線が病まぬうち、なんとか帰宅成功。 今日は疲れた。 風呂入ってすぐに寝よう。 「おかえりんこ」 「ただいま、姉さん」 「・・・」 何故か蹴られた。 俺は適当にシャワー浴びて体流して、湯冷めしないうちに服を着て自室に入った。 特にすることもなく、学校に持っていく鞄を物色し、 プリント類を出した。 今まで宿題という宿題は、出されたその日にやってきた。 今日は、宿題は無い、な。 勉強する気も起きなかったので、俺はベッドに横になった。 溜息をついた。 なんだか久しぶりの呼吸のような気がする。 もちろん、俺は息を止めて何メートルも走ったりできるわけじゃないが。 直後、俺は驚き、飛び起きた。 全国アマチュア飛び起き選手権の予選大会をやっていたわけではなく。 急に携帯電話が鳴り出したから。 俺は、そのディスプレイを覗く。 「誰だ・・・?」 非通知。 知らない人間ということか。 俺は、電話に出た。 「もしもし?」 疲れていたが、明るい口調で出た。 「私、さあら。今あなたの家の前にいるの。」 !? 俺の心臓が、警笛を鳴らす。 なんか怖ぇ。 俺は、部屋の窓からカーテンを開けて下を見た。 二階建ての二階に俺の部屋はあるわけだから、道路が下になる。 家の玄関前に、携帯電話を持った人間が、立っている。 夜の暗さがあって、その顔は見て取れない。 俺は、窓から離れた。 家族に知らせなきゃ!! 俺は、即座に部屋を出た。 「親父!!お袋!!」 叫びながら階段を駆け下りる。 インターホンのベルが鳴って、母が、玄関に出ようとした。 「すとっぷ!!」 言うと、母は、玄関を開けるのをやめた。 「どうしたの?」 「いや、ちょっと・・・」 「あんたの友達?こんな夜中に・・・」 「ああ、ごめん・・・」 母は、リビングに戻っていった。 俺は、携帯電話を握り、耳に当てる。 「インターホン押したよ」 「ああ、聞こえてたよ」 「出てきてよ」 「今、寝間着なんだよ」 「私はコートの下全裸だけど」 吹いた。 「嘘よ。」 「嘘かよ!!」 期待してしまったではないか。 「で、こんな深夜に、何用ですかね?」 俺は、玄関の扉を挟んで、まだ見ぬそいつと対峙する。 「今日、繁華街であなたを見ました。」 見られていた? そりゃ、あんな街中だ。 俺とシホが歩いているのを人が見るのは自然だ。 普通である。 だが、俺を見たと言った。 おそらく、この人は、俺を知って、俺を追いかけてきた人間。 「ストーカー?」 思った言葉が、小声で出てしまった。 失態。 「・・・」 相手は、何も喋らない。 「いいでしょう。次に会うときは、敵、ということで。 それと、あなたのお友達の澤井太郎という人に、よろしく言っておいてください。」 そこで電話は切れた。 扉の横の曇りガラスからも、人影は見えなくなった。 帰ったのだろう。 俺は、貯めていた力を一気に発散したかのように、床に尻を着いた。 廊下の壁に背中を預けて、携帯電話をポケットに仕舞った。 「なんなんだよ」 小声で呟いた。 玄関扉を見ながら、俺は考えた。 俺を監禁していた男も、敵と言った。 そして今回のストーカーも・・・ これは、何かのつながりがあるのか? 「少年、そんなところで眠ると風邪を引くぞ。」 義姉が、俺の横を通り過ぎながら言っていった。 翌日。 何事もなかったのように、朝は平和だった。 学校までの道のり、警戒を怠らなかったが、尾行されてるということはなかった。 学校に着くなり、朝の休み時間にて、友人と雑談して、その後授業を受ける。 至って普通の日常。 だが、一つだけ違うのは、俺は誰かに見られているということ。 どこからかの視線を感じる。 たまたま移動教室で、隣の席に座った同学年の友人、アルストロメリアという女子に 聞いてみた。 なんでも、彼女は霊能力があるらしい。 ・・・信用できる筋から聞いたわけではないが、雑談でもしていれば紛れる。 「なぁ、アルストロメリアさん。 俺になんか憑いてる?」 聞いてみると、彼女は、俺を見て、静かに俯く。 考えているのだろうか。 やっぱり霊能力は単なる噂。 「何か、したの?」 静かに、淡々と喋る。 似たような人を見かけた気がするが、誰だったか。 彼女は、授業開始時間までの余裕時間を狙って、軽食を取ると言った。 鞄の中から、りんごを取り出した。 ・・・まさかそれを丸々一個食うのか? 休み時間もそこまで長くないだろう。 「あなたの質問は・・・要領得ない。」 「えーっと、だな・・・」 俺は考えた。 「なんだか最近な、誰かに見られている気がするんだよ。」 俺は言ったが、彼女はりんごをむしゃむしゃと食べている。 無視? しょうがない、続けるか。 「それで、俺に何かの霊でも憑いてるんじゃないかなーって。」 ・・・まだ食べてる・・・ 話を聞く気が無いのなら、最初から聞くなよ。 「あなた・・・名前は・・・鳥羽怜治?」 「ああ、よく覚えててくれたな。」 そうそう難しい名前でもないけどな。 移動教室、万歳、友達の輪が広がるね。 俺が鳥羽怜治だと確認できると、急に考え込むような表情になった。 というより・・・表情の変化が小さく、分かりにくいが、 そういう経験を持った俺だからこそ、分かったのかもしれないな。 「おい、授業始まるぞ、りんごどうすんだよ・・・」 「ん・・・」 そのりんごは、まだ半分ほど残っていた。 が、アルストロメリアは、それを一気に食べつくしてしまった。 残った芯を、振り向きもせず、後ろのゴミ箱に投げ入れた。 すごい空間把握能力だな。 その後は、何事もなく、時間は流れた。 部室に向かう俺の隣には、さわちゃんこと、澤井太郎がいる。 昨日の話をしながら、歩いていた。 戻る