外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第四話 チームパニッシュメント
今、この学校には、風紀委員という委員会は存在していない。 しかし、過去には存在していたらしい。 俺がこの学校に通い始める以前の話だ。 その時は、委員会間の争いや、部活間の争いが絶えなかったそうだ。 そういう話は、先輩であるシホから少し聞いたことがあるだけで。 シホも、そのまた先輩から聞いていたそうだ。 だから、実際に通研部員は、風紀委員とは一切関わりを持ったことがない、そうなる。 今日までは、な。 「おいーっす」 俺は、気さくな人を気取って、部室に入った。 いつもとは違う景色、それは、人数が多かったこと。 シホと、かえでっちと、あん王女が、長机を前に椅子に座っていて、 その前には、四人の男達がいた。 制服は高等科の制服。 上履きの色で確認するに、彼らは三年生であると言える。 ただ、その上級生がこんな所に何の用か。 それより、ここにどうやって来れたのか、いや、どうしてこの場所を知っていたのか。 気になることが、山積みだ。 彼ら四人は、振り返って俺とさわちゃんを見る。 「じゃましてるぜ。」 一人の男が言った。 彼の風貌は、制服の前を開いていて、だらしない感じが見受けられた。 首飾りにぶら下がり、胸に光るスケアクロウ。 カラスが嫌いな性格と見た。 「あんたら、三年生だな。」 さわちゃんが言った。 「紹介が遅れました、わたくしども、チームパニッシュメントと申す者でござーい。 まずご紹介、俺様は軽音部と吹奏楽部のエース、広瀬啓二。」 派手な奴が言った。 その派手さは、暴走族か、何かを連想させる。 彼が広瀬啓二・・・ それで?カラス嫌いの人は? 「そして、こちら、学問のことならお任せあれ、 特に英語関係は全てこいつに押し付ける。 英語部部長でもある、」 「二葉山恭介です。」 整った服装、整った髪形、そして整った顔立ち。 いかにもモテそうな男だが、今の説明聞く分だと、がり勉タイプか? 「はいはい、巻いていきますよ、こちらの男性。 元々はキックボクシング部の部長、そして今は、空手部所属の彼。」 「介寺蓮。」 メガネをかけた男が前に出て、静かに言った。 そして、最後の一人。 「お目々かっぴろげて見ろよ、このお方が我等チームパニッシュメントのリーダー。」 「板山明宏だ。よろしくな。」 板山さんは、悪そうな笑顔を向けた。 彼は、首飾りのスケアクロウを握って、一瞬、目を瞑った。 「そのチームパニッシュメントさんが、何?」 さわちゃんが、つっかかるように言った。 そういうリアクションはやめといた方がいい。 「詳しいことは、部長さんに言っといたからな。 簡単に説明すると、ここの校舎を壊すってこった。」 板山さんが、シホを指して言った。 「待てよ、どういうことだ!?」 さわちゃんが叫んだ。 「この校舎の所為で、生徒が隠れに来ることが多いのです。」 広瀬さんが言った。 「悪さをする生徒がね。 例えば、未成年なのにタバコを吸いに来たり、そしてそれを捨てていったり。」 そんなことあったのか。 俺は今初めて知った。 この校舎、ある隠しルートを使わないと入れない仕様になっているが、それもバレてきたってことか? 全てはシホに聞けば分かるが・・・。 「俺達の部室はどうなるんだよ。」 さわちゃんが突っかかって言った。 「そもそも、君達の部活、どんな活動をしているんだい? 部長会議にも出席せず、ただ部費請求を求めてるだけで。 部として認められない場合は、同好会への降格だってありえるんだから。」 そこは同意だ。 一体この部活は何をしているんだ? なんなら部費請求せずに、同好会として活動していけばいい。 ん?待て・・・部費請求? 「シホ・・・」 「何よ?」 「部費請求してたのか?」 「してたわよ?」 「一体その金を何に使ってたんだよ・・・」 俺が聞くと、シホは、黙って睨んできた。 視線を合わせてるとすごく気分が悪いので、チームパニッシュメントの皆様に視線を移す。 「おいおい、ここの部長さんは、部員さんにも部費請求のこと話してなかったのかい? それじゃあそのお金はどこへ消えているんだよぉ。」 二葉山さんが笑いながら言った。 そのとき。 さわちゃんが前に出た。 「ひとつ、聞かせてくれ、おまえらは、一体なんなんだ? チームパニッシュメント?聞いたことないな。 そのお前等が、何故に我が部の部長を脅しに来た?」 もうタメ口かよ、さわちゃん・・・。 「脅すだなんて人聞きの悪い。 さっき言ったじゃないですか。 この校舎を壊す、だから立ち去れ、と。」 広瀬さんが言ったとき、さわちゃんは、彼に殴りかかっていた。 俺は、さわちゃんを止めようとしたが、一歩遅かった。 シホ達も、さわちゃんの予想外の行動に驚いていた。 だが、広瀬さんは、殴られていなかった。 広瀬さんを守るように、介寺さんが、前に出て、さわちゃんの拳を止めていた。 流石、空手部。 「暴力的手段に及ぶのなら、こっちだって容赦しないぜ。」 板山さんが言った。 「こちとら、伊達に風紀委員のレジスタントやってたわけじゃねぇ。 パワーでも、ブレインでも、スピリットでも、ハートでも。 奴等と正面切って戦ってきたんだぜ、俺らは。」 板山さんが、介寺さんの肩を軽く叩いた。 すると、介寺さんは、さわちゃんの手を放し、距離を取った。 「出直してくるぜ。あばよ。」 板山さんが言って、出ていくと、それに続いて彼の仲間たちは、我等が通研の部室を退出した。 「び、びっくりしたぁ〜・・・」 かえでっちが、溜息をつきながら床に流れ落ちた。 そこまで緊張してたのか。 「おい、シホ、一体何があったんだよ。」 「何って、先輩達も言ってたでしょ? この校舎が、荒くれどもの巣窟になりかかってるから、潰すって。」 「待てよ、俺たちはどうなるんだよ!! 俺たちが荒くれ者に見えるのか?」 言った後、すぐに一考してみた。 「すまん、見えるな。」 「ビィーバァーッ!!」 「はっ!!真剣白刃取り!!いつもいつもやられるわけに・・・」 「金的っず!!」 世界の崩壊する音が、下腹部から聞こえた。 その音がなる瞬間と共に、俺はスローモーションで床に倒れこんだ。 顔面の穴という穴全てを大きく広げ、声にならない叫びを発した。 涙が頬を伝う。 「ぐぉ・・・俺の・・・俺の・・・ 俺の大口径が・・・」 にしても、なんだよ金的っずって。 歌って踊れるとかじゃないんだから・・・。 「そういえば、ずんちゃんは?」 シホが、さわちゃんに聞いた。 「一緒じゃないが、何かあったのか?」 「連絡はない。」 あん王女が言った。 やはり、恋人ということが、不安を募らせるのだろう。 あの地下での出来事以来、あん王女とずんちゃん、 かえでっちとさわちゃんという組み合わせで、カップルが出来ていた。 「なぁ、そろそろ教えてくれないか」 俺は、仰向けになるよう、寝返りをうって、静かに言った。 「あのチームパニッシュメントってのは・・・」 青空が見えない。 真っ白の世界。 俺の真上には、白い世界が広がった。 「何者なんだ?」 体中が軋んでいる。 あの後、かえでっちがキレて、そこからの記憶が無いが、とにかく、 俺の体中に未だ激痛が残っていた。 「チームパニッシュメント・・・ この学校での、一昔前の話になるわ。 私がまだ中等科にいた頃、高等科にはまだ、風紀委員が存在した。」 シホは、ゆっくりと語りだした。 風紀委員があった頃、部活間抗争や、委員会間抗争が激しかったらしい。 それを打ち止めるべく、風紀委員は、臨時委員会を設けた。 どんな委員会だったのか、それは謎のままだったが、いわゆる、風紀委員の特殊部隊と言ったところだそうだ。 その後に、部活間抗争も、委員会間抗争も終わった。 全ての部活、委員会の廃止と共に。 それに反感を募らせた風紀委員の一部の連中が、臨時委員会と風紀委員に真向から向かっていった。 そのときのメンツが、今回俺達が対峙したチームパニッシュメント、だそうだ。 元々彼らは、風紀委員ではあったものの、そのときに全部活、全委員会を潰した風紀委員に、 挑み、戦い、そして勝利の旗を揚げた・・・ことになるはず。 今現在、その風紀委員は存在せず、元風紀委員チームパニッシュメントが残っているのだから。 つまり俺たちは、風紀委員の生き残りと出会ったわけだ。 一体、今、シホは何を考えているのだろうか。 「シホ、あいつらのこと、どうすんだよ」 太郎が、扉を見ながら、シホに寄っていった。 「どうするも何も、しょうがないんじゃない?」 「え?」 「新しい部室を探すしかないじゃない。」 「案外あっさりなんだな・・・」 「こうなることも少し予測してあったからね。 そのための部費だし。」 なんと、シホは、部室が使えなくなることを予測し、事前に部費請求していたのか! その訳の分からぬ部費請求で上層部の信頼を失くし、どっちにしろこうなる運命だったわけだ。 シホの確信犯さんだな。 「で、これからは別の部室、ってわけか。 それでどこを開けてもらうんだ? そんなの、どっかの物好きじゃないと受け入れてくれないだろ。」 「今の所、401教室か403教室が開いているわ。」 言われて、俺は部長卓の引き出しを開けてみる。 そして、部に関する書類を出した。 「おい、401と403、開いてないじゃねぇーか。 シム研とミ研とか訳の分からない部活が入っている。」 ってか何だよこれは・・・ 「シム研は、『俺達風の子、ムシムシ研究会』 ミ研は、『ビーフストロガノフに関する考察の研究会』だ。」 さわちゃんが言った。 ビーフストロガノフってどこにもミってついてねぇーじゃねぇか・・・。 シホに目を付けられてしまったこの二つの部活、いったいどうなるんだ? 我が通研とほぼ似たような存在価値なんじゃないのか? ならあのチームパニッシュメントが、運良く片付けてくれるかもしれないし。 シホは、それが狙い・・・なのかもしれないな。 「それじゃシホ、あんたが選ぶのは徹底抗戦か。」 俺は、シホに協力したくは、ない。 が、しなければいけない気がする。 やはり、シホには似合うのだ。 その支配者気質というか、リーダー気質というかが。 俺は、彼女に選ばせる権利などない。 というか、選ばせる気すら毛頭ない。 なぜならば、選ばせてもシホの答えは決まっている。 「もちろん! 私に一矢抜いた者には、二矢でも三矢でも返してやるんだから!! チームパニッシュメント?三年生? だからなんなのってとこよ!! 私に弓を向けたことを後悔させてやるんだから!!」 シホは、椅子の上に直立した。 机に右足をかけて。 だから見えそうだっての、かえでっちの二の舞になっちまうぞ。 「決まり。 ね?」 あん王女が首を傾げながら言った。 「前言撤回させねぇーさ。 こうなったらなったで、部長も止まらねぇしな。」 俺は、太郎を見た。 どうやらシホの気迫に押されたようだ。 「シホ、いくらなんでも不味いだろ。」 俺は、降りたい― さわちゃんはそう言って、シホを見た。 「さわちゃん!!」 かえでっちが、さわちゃんの前に出た。 「どうして?これまでだって一緒に戦ってきた。 シホについてきて、何か失敗の一つだって・・・」 あった? と、言いたかったのだろうが、残念ながら通研の存在そのもの自体が失敗みたいなもんだからな。 「あった?」 遅れて言った。 「戦争では、俺は強い方に付くタイプだ。」 さわちゃんは言った。 「そうか、そうか。」 俺はさわちゃんに近づく。 「お達者でな。 ま、チームパニッシュメントが強いと思うんなら行ってきな。 俺もおまえと同じく、強い方に付くタイプだぜ。」 「怜治・・・」 さわちゃんが、引く。 シホが、俺を珍しい物でも見つけたように観察している。 多分。 「なぁ、シホ。 勝算はあるんだろ?」 俺は、振り返ってシホに言った。 「あ?」 シホらしくない、マヌケな声の返事。 「あー、うん。」 すぐに頷く。 「もちろん。」 シホは、さわちゃんの方よりも、俺を気にしている。 何故そんなに見る。 俺、何かした!? 「そうかい。じゃ、頑張れよ。」 「おい、待て」 さわちゃんは、俺が止めようとしたのも無視して、扉から出ていってしまった。 さわちゃんは、もうさわちゃんではない。 彼は・・・澤井太郎に戻ってしまった。 俺は、何も言わなかった。 「何やってるの?」 「あー、追いかけるんだよな。わかった、行ってくる」 「追いかけないで。」 「え?」 シホの答えは意外だった。 部員一人がかけたっていうのに。 「かえでっち! いいのか?」 かえでっちは、俯いたまま、「いいんです」と静かに答えた。 とりあえず、俺は、すぐにでもさわちゃんを追いかけようと伸ばした足を引っ込めた。 「待たせたな」 こんなすぐに帰ってきたのか、と、声の方向、扉を見る。 そこに立っていたのは、さわちゃんではなかった。 体中傷だらけ、制服も所々切れている、満身創痍な体躯を引きずった、ずんちゃんこと、鹿島一樹だった。 「どうしたの?」 シホが、机を飛び越えて来た。 それよりも早く、あん王女がずんちゃんの前に。 倒れかけたその体を、あん王女が抱きしめ、支えた。 その表情は、いつもの無表情とは違った。 少しの焦りを感じる物が見て取れる。 「呼吸は平気。 傷も浅い。 大きな怪我はない。 でも、疲労が蓄積している。」 あん王女が、ずんちゃんの額に手を当てながら言った。 そんな機能までついてるのかよ。 「どうしたの?何があったの?」 シホが、問い質す。 「俺は、大丈夫だ・・・ ちょっと眠いだけ・・・眠いだけだ。 気をつけろ・・・角田親衛隊・・・」 言いかけて、首をがくりと、垂れて、動かなくなった。 「ずんちゃん!?ずんちゃん!?」 シホが叫んだが。 あん王女は、人差し指を口元に持ってきて 「静かに」 と言った。 スースーと寝息を立てるずんちゃんを抱きかかえるその姿は、まるで、 赤子を寝かしつけている母親のようでもあった。 「救急箱」 あん王女が静かに言って、かえでっちが手際よく救急箱を持ってきた。 角田親衛隊。 ずんちゃんは、確かにそう言った。 俺とシホが、先日見かけたケンカをしていたのも、角田親衛隊だった。 いったい、彼らはなんなのか・・・ 恐らくは、ずんちゃんが俺たちに伝えたかったのは、角田親衛隊に目をつけられたという事、だろうな。 俺は、何も無い窓の外を見た。 俺が軟禁されたこと、さあらというストーカー、角田親衛隊、それから、チームパニッシュメント。 これから何かが起こる材料としては充分揃っていると思う。 もう慣れた・・・ 次は、どこからでもかかってこい。 ただし、相手をするのは俺ではなく、我が通研の部長である杜若志穂だがな。 戻る