外宇宙通信コミュニケーション研究部 第三話 神様の秘密と教卓の破壊

初夏。梅雨。 蒸し暑い嫌な季節。 「あー・・・ムンムンするー」 シホが机に顔を伏している。 ボクは椅子に座っている。 この教室には今、誰もいない。 シホとボク以外は。 何故ここへ来たのだろう・・・ 「おはようー」 と言ってドアを開けて入ってきたのは、さわちゃんこと澤井太郎。 「おはよー」 シホは気が入ってない返事をした。 「元気ないねー、部長」 「・・・そうだな」 澤井とボクはコソコソ話でもするかのように 小さい声で話した。 ボクは考えた。 ここは部室だ。 おいてある物は普通の教室と変わらない。 だが、広さは教室の半分ぐらいといったところか。 ボクは時計を見た。 ジャスト9時。 もう一時間目が始まるころだ。 ボクは驚いて椅子から勢い良く立ち上がった。 「なーにー?」 シホが重たげな顔を上げてこちらを睨んでいる。 どうやらシホは気付いていない。 「一時間目、始まりますよ」 「えー?」 シホはゆっくりと時計に目を向ける。 そういえば敬語で話してはいけないと言われたが、 今のはいいのだろうか。 きっと寝ぼけているのだろう。 澤井はボクのひとことに驚き、カバンを持って立ち上がった。 シホはまだ状況を認識していないらしい。 「俺はもう行く!!」 澤井がそう言って部室から駆け出して行った。 ボクもそうしようと思った。 「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」 シホが叫んだ。 「なんで時間が進んでるんだよぉぉぉぉぉぉお!!? あぁ!?」 「大丈夫か?」 ボクはとりあえず気を遣ってみた。 「もーう、ダッシュで行かなきゃ間に合わないじゃないかぁぁぁぁぁあ!!」 「廊下は走らないように。」 シホはカバンを持って廊下に飛び出していった。 「いってらっしゃい」 と、ボクもそんなことを言っている場合じゃなかった。 部室を出て鍵を掛けた。 そこで疑問に思った。 ここはどこだ? ドアの上の名札には天文学室と書いてあるが。 帝真学公課総学科のボクたちの校舎にそんなものはなかったはず。 とすると、初等科か大学科の校舎か? だが、周りを見ても生徒は見当たらないし、 隣の教室もからっぽだ。 それに汚い。 何年も整備されてない廃病院や廃校舎のように・・・ ん?廃校舎・・・? そんなものがまさか帝真学にあったか? ボクは思い出そうとする。 ここまでどうやって来たんだろうか。 思い出せない。 そもそも、ボクは自分の足でここまで来たのだろうか・・・ そんなことを考えながら出口を捜し歩いていた。 数分たってやっと昇降口を見つけた。 そこにボクの靴が置いてあった。 ボクは上履きを手に持ち、靴を履いて外にでた。 辺りを見回しても何も無い。 おかしい。 廃校舎の裏側にも何もない。 ボクは携帯電話でシホにメールした。 迷子になった、と。 そして数秒後、すぐに返信が来た。 『靴を持って校舎の中に入り、 一階非常口のドアから外に出ればいい。』 まったく、何を言っているのだか・・・ そのまま外に出ても同じじゃないか。 そう思いつつも、手がかりがそれしかないので、 とりあえず非常口まで来てみた。 非常口を開けた。 すると、どこか見覚えのある廊下に出てきた。 さっきと違って整備もされている、というより、 今でも使われているようだった。 そこには数人の生徒が話していた。 授業が始まったと言い出し、走っていく者。 そしてまだ大丈夫だろと言って笑っている者。 廃校舎とは違って賑っていた。 そうだ、ここは高等科の校舎だ。 ボクがいつも来ている校舎。 ボクに気付いたのか、 数人の生徒がボクを見る。 非常口は閉めてある。 ボクはその注目を浴びる中、 駆け出して自分の教室に戻っていた。 「遅れてすいません」 「珍しいですね、あなたが遅刻なんて。」 一時間目は英語だった。 英語の先生が微笑んでボクを迎えた。 普段は真面目学生であるからだろう。 それからは今日はいつもと何も変わらない一日を過ごした。 そして放課後、ボクはあの非常口の前まで来ていた。 そこではすでにシホ、澤井、かえでっち、あん王女、ずんきが待っていた。 そしてもう一人、ガタイのいいスーツ姿のイタリア系の男がいた。 「部室行くんですね。」 ボクはシホに言った。 「そうじゃない。 今日はこの非常口のミステリーについて解き明かそうと思って。」 なんでそうなったんだろうか。 「今日は顧問の先生もいるし」 シホはそう言ってイタリア系の男の方を見た。 「黒吾耶ヴァロンだ。」 「どーも。」 ボクは先生に一礼した。 先生は非常口を開けて、手を外に出した。 「なんの異常も見つからないな・・・」 先生は糸を取り出し、そして片方の先端をシホに持たせ、 その糸を伸ばしていきながら非常口から外に出て行った。 外、というよりも廃校舎の中へ。 「よし、誰か校舎の外に出て、 この非常口がある方の外側から見て来い」 廃校舎の中から先生が言った。 「じゃあ、俺行きますよ」 澤井が言った。 「いってらっしゃい! 気をつけてね! 危なくなったらすぐ逃げるんだよ!」 かえでっちは澤井を見送って手を振った。 何から逃げるのかはボクはもちろん、 澤井だって知らないだろう。 ボクは廃校舎の中を見ている。 非常口は廊下の突き当たりの側面にある。 廊下の行き止まりになっている方には 人一人がやっと出入りできそうな窓がついている。 そこから外を眺めていると、澤井がやってきた。 「よっ」 「おう」 澤井はそのまま非常口のある裏側へと回っていった。 「・・・なんだこりゃ!?」 そこには非常口の外側があるはずだった。 「何も無い!!非常口のドアすら、何もだ!!」 澤井が言うと、シホとかえでっちが驚いていた。 ボクも少しは不思議だと思った。 どうなっている? これでは非常口が非常口として機能しないではないか。 いや、それ以前に、これが非常口であるかどうかも疑わしい。 確かにドアには非常口とは書かれている。 だが、イタズラや誤った判断であける生徒がいる為、 非常口は簡単にはあかないようになっているはず。 それがどうしてだ? そうだ、きっとここを見つけた本人、 現部長、杜若志穂!! 知ってるのは彼女なんじゃないか? 「部長」 ボクは言った。 「シホでいい。」 「じゃあボクを部長と呼んでくれ。」 「へーじょーはへーじょーのまんま。 それにシホって呼ばせるのは趣味だからよ。 いーい?他の人がいるところでは部長と呼ぶこと。」 他の人?部員以外ということだろうか。 とりあえずボクはその疑問を、 そのような形で自己解決しておいた。 「ここを見つけたのは・・・シホなのか?」 ボクは聞いた。 「そうだよ。一年生の時にね。」 一年生の時・・・ シホはそのころは何をしていたのだろう・・・ 「散歩してて、ただならぬ気配を感じ取ったから、 ここを開けてみたらこのとーり。」 要はただの悪戯で開けてみただけなんだろ・・・とは言いにくいな。 「それで?」 ボクはそのことについてもうちょっと聞きたかった。 「俺とシホはそのとき出合った。」 と、言ったのは、外から帰ってきた澤井。 かえでっちが澤井におかえりーだとか、大丈夫ー?だとか、 実験体に襲われなかったー?だとか言っているが、 澤井はほとんどを聞き流している。 って、実験体!? 気になる!! 「楓さん」 「かえでっちでいいって」 「かえでっち、実験体ってなんだ?」 意外な質問だったのか、かえでっちはボケーっとして、 首を傾げた。 「知らないのか?」 「実験体は実験体だよ。 本当、あいつは怖いんだよー、 いきなり出てくるからー・・・」 「そ、それは怖いな」 なんなのかわからないが、とにかく怖い物らしい。 「おーい、誰かこっちこい」 先生が廃校舎から呼んでいる。 「じゃあへーじょー行きなよ」 「え?ボク?」 「私はこうやって糸を持ってなきゃいけないでしょ? 見てわからないのかー!?」 「わかりました」 とりあえずここは従っておくしか無さそうだ。 こうもシホを熱くさせるといつかのキーボードみたいに粉砕されかねない。 かえでっちと澤井に任せる、という手も考えたが、 シホがボクにメンチきってくるもんだから自分で行くしかなさそうだ。 ボクは糸を辿って廃校舎に入り、先生がいるところまで来た。 「よし、じゃあ外出てさっき澤井がやったみたいに、 こっちからも調べて来い。」 「はい」 ボクは廃校舎の玄関から外に出た。 やっぱり何も無い。 出てきたところも、おかしい。 方向的に校舎内の公園の入り口の看板が見えるはずなのに、 それも見当たらない。 ボクは非常口があったと思しき場所へ回った。 ない。 外側のドアがない。 どういうことなんだ? ボクは廃校舎の中に戻り、先生に報告した。 そのあとは全員で集まり、そして部室である天文学室へ行った。 「どうやらシホが結論を出したようだぜ、 みんな耳を傾けな」 先生が言って、教室の端に寄る。 「結論、この世には科学では解き明かせない謎もある。 それは神様が地球に落とした秘密であって、 それを解き明かそうとしてはいけないと思う。」 全然結論になってねぇー!! それじゃ推測段階だよ!! 思うって!! 「でも、それ以外の謎は、私の物!!」 シホがはっきりと言い切った。 「宇宙にちりばめられた星々、 それらは神様の秘密ではない!!」 たしかに。 言えてるな。 ボクはさっきから椅子に座ったまま頷いているばかりだ。 シホって本当は頭いいのだろうか? 「その秘密を解き明かすのが、私達――」 シホはカッコつけて手を挙げ、 指を鳴らした。 「外宇宙通信コミュニケーション研究部!!」 ・・・ 室内は静まり返った。 「・・・」 シホは一定時間そのポーズのままだった。 が、ついに吹っ切れたか、教卓を思いっきり叩いた。 「あー!! なんで誰も何も言わないんだよぉーっ!! やっぱりどうでもいいのかよーっ!!」 教卓をバシバシと攻撃するシホ。 それをなだめようと試みる澤井。 そんな状況下でも構わず静かに蜜柑を食いまくるあん王女。 顔に手を当てて、僕のほうに寄りかかってきて怖がっているかえでっち。 これはかなりラッキーだった。 そして、ボーっと窓の外に目線を漂わせているずんき。 顧問の先生も流石にシホを抑えに入るだろ、と目をそちらに向けた。 座ったままシホを眺めて笑っている。 あんた何様のつもりですか? ボクはどうすればいいのかわからない!! 「あああああああああ!!」 「今度からツッコミ入れるからよ、今日は落ち着いて、な?」 ボクがそう言ったらシホの動きは一時停止されたように、 その机を叩く挙動のまま止まっている。 「本当に?」 「本当に。」 「yes!yes!yes!」 英語だ。聞き取れる。 「いぇっすげっつろーぅ♪いぇっすげっつろーぅ♪」 シホは喜んでいる。 多分、ドイツ語だ。 聞き取れないので平仮名表記。申し訳ない。 とか思ってると、澤井が俺のほうに向いた。 「ん?でもおまえってそういうのできない・・・」 「ビーバー!!」 その翌日、本校舎の一教室の教卓がなくなったそうだ。 戻る