外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第六話 303
どういうものなんだろう、義理の姉に起される朝ってのは。 現実でこうも簡単に肋骨に被害が出そうな起床というのは、爽やかな家庭なのだろうか。 おいおい、全然萌えねぇよ。 「いってぇーな!!おい!!」 俺は叫び、上半身を起した。 義姉は、驚き、ドアの前までバックしていた。 「なんだよ」 「以前よりも、気性が荒いなぁーと思った。」 確かに、高校生活が始まり、宇宙だの地底だのとやっているうちに、 心情豊かになっている気がする。 豊かになってるのは心情だけじゃなく、経験も。 「早く起きろよ。」 「なんだよ。学校の時間まだだろ。」 俺は目覚まし時計を間接視野に捕らえて言った。 思ったのだが、気性が荒いのは義姉譲りだと思う。 睡眠中の弟に向かって中立ち一本拳をかましたりする。 義姉は、ふぅーと息を吐いて、「やれやれ」と言った。 「つまりだ。 人間の脳には限界があるよな?」 「ああ。」 この人何を講義しだすんだ・・・。 とりあえず聞くけど。 「脳だけじゃない。 魂が体という器に捕らえられてるが故に、 人間はその限界を超えることが出来ない。 例えば・・・。 絶対的な権力を持っていたローマ法王。 彼は全てを自由に動かし、全てを自由に止めた。 そんな彼でも自由自在に操ることが難しいとされるものがあった。」 「○○○○○だろ?」 「その通りだが、きっとその台詞は下品極まりなく、伏字にでもすべきだろうな。 まぁつまり『お手洗い』だ。」 俺は、まさかと思い、自分の布団を見てみた。 「そういう意味じゃないわよ。」 義姉は、恥ずかしそうに顔を背けた。 「えっと、つまりは・・・どんな人間も間違いを犯す。 剛田さんちの息子さん知ってるか?」 もう大体の見当はついた。 これならば前置きが長く、そして意味がないことにも頷ける。 朝はたまにだが、義姉のある癖によって起される。 「要約すると寝ぼけて俺にパンチ食らわしてきたってことだな。 OK。 待ってろ、今吹っ飛ばす!!」 義姉に、すごんでみると、ドアを開けて出ていった。 まぁこれで静かに寝ていられる。 おやすみなさい。 ・・・・・・ 眠気が覚めてしまっていて、寝れるような状況ではない。 仕方が無いので学校に行く準備を始めた。 これといって普段と違う持ち物は持たない。 教科書等は、持ち帰る主義だったが、いつの間にか学校に置いてくるようになった。 昨夕のことを思い出す。 ギャンブラーズギルドが通研に助けを求めた。 正確には助けというより、応援だ。 これまで、ギャンブラーズギルドの存在すら知らなかった俺たちだったが、 これからは、共同戦線を張ることになるかもしれない。 というか、ギャンブラーズギルドとはなんだ。 昨日、廊下で出会った眼鏡っ娘が、脳裏をよぎる。 「賭け・・・か。」 俺は鞄を持って階下に下りた。 義姉や両親がいるリビングを通って、水分補給をしてから玄関に向かった。 「それじゃ、行ってきます。」 義姉が、背後でニヤニヤ笑っているのが、鏡越しに見えた。 俺は不気味に思いながらも、家を出発した。 昼休み。 通研とギャンブラーズギルドの会合があった。 学校から少し離れた所に、ショッピングモールがあり、 そのフードコートで食事をする運びになった。 「席に着くなり見てみれば、あんたが何故ここにいるのって気持ちだわ。」 志穂がいきなりケンカ腰だ。 それは、昨日の眼鏡っ娘がいたからだった。 「私もギャンブラーズギルドだから。」 彼女の名前は、雨並須奈。 後から聞いた話だと、パソコン部だという。 ギャンブラーズギルドがひとつの部活だと思っていた。 麻一は将棋部のエース。 ラスはゲーム研究会(通称ゲー研。)のリーサルウェポンらしい。 「ギャンブラーズギルドは集まったか?」 たったの三人ってことはないだろう。 「ああ、もう一人いるのだが・・・」 「今日は来れないらしい。」 かえでっちは、話も聞かずにジュースを飲んでいる。 「もう一人は、謎多き仮面の武闘派手品師。 人呼んでジョーカー。 その正体を知るものはいない!!」 ラスが声を張り上げると、かえでっちが驚いて咽た。 「お、脅かすんじゃないわよ!!バァーカ!!」 ずんき、かえでっち、あん王女、志穂、俺、ラス、須奈さん、麻一の順番で、 テーブルを囲んだ。 「で、用件は?」 淡々と言う志穂。 「303というのをご存知ですか?」 ラスが言うと、志穂の表情が変わる。 それを見て麻一がニヤリと笑んだ。 「その顔を見ると、どうも知ってるらしいな。」 志穂は何も言わない。 「今はまだ公の場に出ていない303という団体が、 帝真学を支配しようと目論んでいる。」 余り穏やかな話ではないな。 麻一は、金髪ウィッグを外して、飯を食べる。 「おい、ラス。 303が支配するのも生徒会長が支配するのも、そんなに変わらないんじゃないのか?」 麻一が言った。 「ワシは、どっちが支配するにしろ、ワシなりに動くからのう。」 志穂は、「はぁ?」と聞き返す。 「じゃあなんで呼んだのよ。」 ごもっとも。 「ああ、これは彼個人の意見です。 303が動き出せば、全ての生徒の規制が強くなる。 今よりも・・・ 例えば、高等科と大学科からの就職先が絞られてくる、 学校に支払う学費が高くなる、 通学規制がかかり、専用のバスができる等。」 ラスは言った。 「待って」 珍しくあん王女が口を挟んだ。 「その情報はどこから?」 須奈さんは、待ってましたといわんばかり、嬉しそうに鞄から書類を出した。 「ソースはこれ。 303の密会を盗聴した某団体からさらに盗んだ物。」 盗聴なりなんなり、この学校に入ってからは、なんでもかんでもやりたい放題だなと思った。 その書類の上部には、「303会議の概要」と書かれ、 作成者には「二葉山恭介」の名前があった。 どっかで聞いたような名前なので、不思議に思いながらも、それを志穂に回した。 「・・・」 志穂の目蓋がピクリと動いた。 やはり、彼女も気付いたか。 「これじゃあインチキ宗教団体みたいなもんね。」 志穂は、書類を見ながら言った。 「確かに、こんな支配、私達も御免だわ。 それに・・・」 303の数字を指でなぞる。 「この数字が嫌い。」 志穂は言う。 私の過去を知る人がいる、と。 そんな輩は始末すると、いつもの冗談のように言っていた。 俺達は、彼女の過去は知らない。 だが、そんなことは今に始まったことではない。 志穂だって俺のことをよく知らないだろう。 それと同じだ。 授業が終わって、夜がやってくる。 冬の夜は早く、そして長い。 雪が降って一面の銀世界、とはいかず・・・ 実際は灰色の世界だ。 俺はいつもの足取りで、部室に向かっていた。 さて、と。 俺は、一度世界の裏側の校舎を外観から眺めて、それから再び部室を目指した。 「ここに来ることも・・・もうなくなるかもしれない・・・」 少しだけしんみりした気持ちになった。 だけど、こっちにはあの部長がいるんだ。 今までだって、助けられてきた。 「ういーっす」 俺は戸を開けて部室に入った。 返ってこない返事。 電気もついていない。 誰もいない。 窓の外には雪が。 今日は、活動がないのか?とも思ったが、 あのシホだ。 こういう時だからこそと、徹底した勝ち戦の為の下準備をするはずなのだ。 このときの俺は、どこかですでに、戦いの導火線に火が点いたことを知らなかった。 俺が、部室から出るとそこには懐中電灯を持った男子生徒が一人。 廊下を歩いていた。 恐らく、ここのことをよく知らぬ者だな。 「どうしたんですか?」 声をかけた。 すると、彼は振り返った。 その顔は、見覚えがあった。 「おまえは・・・あのときの!!」 その男は、俺が誘拐された時の資料室にいた奴。 そして、俺を脱出させてくれた。 「おや。そういえば、ここはあんたらのシャバだったか。」 「そうだよ。」 余り信じたくはないが、聞いてみるか。 「おまえ、人の縄張りに入って何してるんだ? 俺の仲間がいないのと、何か関係があるのか?」 男は、俺から視線を外して、鼻で笑った。 「全て・・・お見通しってことか。」 「・・・」 本当かよ・・・。 俺としては、単なる鎌かけハッタリ嘘八百ってところだったのに。 「おまえをこのまえ逃がしたとき。 言ったよな?敵だって。」 「ああ、そうだっけか。」 「今日が、その戦いの一日さ。 幸い、夜は長い。 静かな祭りが始まる。」 男がそう言った途端、廊下の奥から、轟音が響いた。 その音は、高速で近づいてくる。 音が大きくなる。 この音はなんだ。 「聞こえるだろう、おまえを倒せば、俺も上に顔が立つ。」 上?やはり、何かの団体があったのか。 振り返ると、目の前に、白い鉄の塊が。 いつからいた!? ここまで接近されていれば、気配に気づくはずだ! 「くっ・・・」 鉄の塊は、壁を抉り、俺の後ろに通り過ぎた。 なんとか俺は頭を下げてやりすごした。 「な、なんだよ・・・」 白い鉄は、塊の形から展開して、手足が生えてきた。 違う。 展開なんてものじゃない。 大きさが割りに合わない。 変形し、分解した。 鉄の塊のその白さは、中の発光体の光だった。 まぶしくて、俺は目を瞑り、さらに手で目を覆った。 光は徐々に、小さくなっていく。 暗い廊下に戻って、俺は目を開いた。 「おいおい、何故外した?」 男が言った。 目の前には、胴体から光を発しているアルストロメリアがいた。 その体は白く、鉄のように光沢を帯びていた。 背中についていたカブトムシの羽のようなものが、外れ、光沢は消えていった。 「アルストロメリア!!」 「何か?」 男とアルストロメリアが言い争っている。 「くそっ、まぁいい。 もう一回だ。 あいつを倒して捕獲するんだ。 そうじゃなきゃ、俺もおまえもクビだ。」 「・・・いやだ。」 「はぁ!?」 男は、アルストロメリアの方を見た。 何かと怒っているようだ。 一体何が起こっているんだよ。 他のクラスの女子が、誘拐犯と思しき男性と共闘しております。 なんなんだよ。 「おまえ、ターゲットに情をかけるな。 飲まれるぞ・・・」 アルストロメリアの鉄の肌は、普段の白い人間の肌に戻った。 それを見て諦めたのか、男は「仕方ない。」と言って、木刀を二本取り出した。 その一本を俺の足元へ放り投げた。 「何をしてるんだ?」 「見ての通りだよ。 おまえを捕まえないと、上司にしかられる。 だからって、一方的にボコってしょっぴいてくのは俺の趣味じゃない。」 一体何を言ってるんだ? こいつの言い方によると、俺を暴力的方法により、二回目の誘拐を試みようとしているって、そういう算段としか思えない。 落ち着け、落ち着くんだ。 ここは逃げる。 「くそっ!!」 俺は木刀を拾って、構えてはみたが、ここで闘り合うわけにもいかない。 とっととずらかる。 今までの戦いとは違い、相手は何の罪もない・・・いや、罪はあるが、ただの人間。 頼むから、引いてくれよ・・・俺が本気になったら、何をするかわからないからな。 「さて、構えろよ。」 「おまえ・・・何の為にこんなことするんだよ。」 「言ったろ?敵だよ。敵。」 答えになってない。 わけがわからない。 「我が名は、片山俊介。 帝真学公課総学科高等科一年、303部員。 我等が計画の為、いざ、参る。」 今、聞いた。 確かに303と言った。 が、嘘だろ、おい。 こっちに走ってくるな。 俺は逃げ道を探すように、辺りを見回し窓の外のあるものに気づいた。 余所見をしていると、すぐ前に俊介がいた。 「ガードしないと・・・」 最初の一撃を木刀で払う。 恐らく、本命は次の一撃。 「痛いどころじゃ済まないぜ!!」 「くっ・・・」 なんとか防いだ。 木刀による連続二回の斬りかえし、相手が素人じゃなかったら、俺はこの場に倒れていた。 いや、恐らく俺が素人じゃないからか。 「何が目的か知らんが、俺はおまえに一方的にやられるつもりはないぞ。」 「だから、一方的にやるつもりはないって、言っているだろ。」 「くそっ、やってられるか。」 俺は踵を返し、廊下を駆けた。 出来れば追いかけてこないで欲しいが、追いかけてくるならすぐにしてくれ。 「待てよ!!」 来た。 俺は、タイミングを見計らって、廊下の曲がり角を曲がった。 来い。 「そこで待っているのは分かってるんだよ。」 角での待ち伏せをかぎつけられ、斬りかかられた。 が、俺の本命はそれじゃない。 俺は背後に退き、窓の光に入った。 月光が照らす、廊下の床に、その影は映った。 「逃げないのか。覚悟を決めたのか。」 「覚悟を決めたほうがいいのは、おまえだと思うがな。」 言って、すぐに刑事ドラマなどで聞き覚えのあるガラスの割れる音。 「!?」 俊介は、突然の来訪者に唖然とした。 ガラスを突き破って、彼女はやってきた。 彼女のドロップキックにより、文字通り一蹴の元に伏した俊介。 彼は、木刀で反撃する間もなく、廊下に倒れた。 「お待たせ。」 「お待ちしましたよ、あん王女。」 「物騒。」 「おいおい、人聞き悪いな。 ちゃんばらの棒っきれだよ。」 剣道部の人に半殺しにされるかもしれない発言だった。 俺は、その棒っきれをその場に捨てて、あん王女と逃げ出した。 轟音が聞こえてくる。 それを最初に聞いたのは、ずっと前ではなく、本当についさっきと形容してもいいぐらいの聞き覚え。 実際にそうだし。 「逃げて。」 「待て!!」 あん王女は、俺を先に逃がそうとしたが、そんなヘタレキャラで終わる俺じゃないぜ。 「さっさと逃げて、落ち着いたら話してもらうぞ!! 知ってること全て!!」 結果は同じ、逃げるだけなんだけどな。 「わかった。」 走りながら話をつけた。 「左に。」 「うぉあっ!?」 あん王女は、豪腕で俺の体を壁にたたきつけ、自分も壁にはりついた。 そのとき見えたのは、白い鉄塊が、窓側の壁をごっそり抉っていた光景。 「危ねぇ!!」 「下がって。」 「ま、待てよ!!何をする気だよ!!」 あの鉄塊は、アルストロメリアだろう。 そういえば、アルストロメリアが誰に似ているのか、思い出したぞ。 あん王女だ。 「ここで食い止める。」 馬鹿言えよ。 落書きの警告を無視したが為に、本人も知らぬ空間に飛ばされた熱い男と同じ運命を辿ることになるぞ。 「・・・止まった。」 アルストロメリアは、廊下の奥まで壁をごっそり削り取っていくと、そこで停止し、 Iターンしてこちらに向かってきた。 「おいおいおいおい!!マジで食われちまう!!俺はトンズラしたいんだけど!!」 ヘタレキャラを必死で演じてみる。 「伏せっ!!」 珍しい物を見た。 あん王女は、俺に叫んだ。 「言われなくても伏せるよー!!」 崩れてむき出しになった壁の鉄筋の後ろに隠れた。 が、きっと気休めにしかならないだろうな。 アルストロメリアがつっこんできて、あん王女は、両手を前に出し、そこで足を地面に刺した。 目を疑った。 足から地面を固定するように、杭が剥き出た。 対峙する二人を見て、改めて実感した。 俺は、しばらく普通の日常を見ていない気がする。 この学校に転校してきて、通研に入部してからは、退屈になることなんてひとつもなかったと思う。 「はぁっ!!」 あん王女は、本人のそれとも思えぬ声を発して、両手でアルストロメリアを止めた。 足の杭が、引きずられるあん王女の体につられ、床を引き裂いていく。 やがて、アルストロメリアの光が消えて、そこに立っていたのは、あん王女。 「と、止めた・・・」 床に着陸したアルストロメリアの表情は、驚きに満ちていた。 「ま、マジかよ・・・。」 俊介が追いつき、同じように驚いていた。 「お、おい。鳥羽怜治。」 彼は、俺の名を呼んだ。 「どういうことだこれは?」 「そっちこそ。なんなんだよ。」 俊介は、アルストロメリアに「引け」と言った。 「あんたの仲間、金田楓にも会ったが・・・」 「何をしに来たんだ?」 「まぁ聞け。 金田楓にも会ったが、そのときはこっちの仲間もいたんだ。 どういうわけか、こっちの仲間と楓本人の性格が似ている。」 「はぁ!?だからなんだって・・・」 「俺の上司に聞いてからまた会う必要があるようだな。」 俊介は、アルストロメリアと、夜の闇に消えていった。 俺は、はっとして、あん王女の姿を探した。 彼女は、廊下の壁にもたれていた。 「大丈夫か。」 「大丈夫。」 余り大丈夫には見えないな。 疲れた、とか一言でも言って欲しい。 戻る