外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第七話 ジョーカー
あれよこれよと言う間に時間だけが過ぎていく。 終業式まであと一ヶ月を切った。 俺は、特段成績が悪いわけでもなかったので、四月になったら二年生だ。 ただ納得いかないのが、不良気取りの麻一に成績で劣っているということ。 そして何よりも、頭が良さそうに見えた須奈さんは、留年宣告を受け、休日にも補習を受けていることが不思議だ。 先日、裏の世界で襲われてから通研のメンバーと誰一人として会っていない。 いや、あん王女とは襲撃の翌日に会ったが、それっきりだ。 部の活動をしていないというだけで、教室に会いに行けば会えるだろう。 だが、なんだか躊躇われる。 「怜治。何を悩んでるんだ?」 将棋部エースこと、麻一がニタニタと微笑む。 「気にするな。」 「そういえば、杜若先輩に合わせてくれよ。 作戦の一つも出来てない状況なんだぜ。」 「・・・」 そうだな。 暢気に構えて、二年生の教室に行けばいいだけのこと。 今日という今日は会いに行くか。 「こら!!」 安藤先生が怒鳴った。 「授業中に何を話しているんだ!!」 丁度今は、現代文の授業中だった。 「鳥羽!!おまえは真田の邪魔をするな!!」 「は、はい・・・。」 納得行かねぇー!! 休み時間が近づくにつれ、眠気が襲ってくる。 ここで眠ったらダメだ。 授業終了のチャイムが鳴って、安心して席を立つ。 「おい、杜若先輩の所行くのか?」 「ああ。その前に色々と寄るけどな。」 「俺も行くぜ。」 ここはついてくるなと言いたい。 が、志穂に会う言い訳に使えるから丁度いいだろう。 俺は隣の教室に向かった。 お目当ての人にはすぐに出会えた。 あん王女と、ずんちゃんこと一樹。 「よう、かずさんと、ミラージュさん。」 朗々と挨拶する麻一。 「どうした?」 ずんちゃんは、俺の顔を見るなり、何を言い出すのか、見破ったようだ。 「部長のことか?」 「ご名答。」 襲撃の時、何があったのか聞こうと思ったが、今はそれを後回しにする。 「俺達も、部長に会いに行ったが、 休み時間はみかけないんだ。 恐らくと思って、授業終了後、先生にも聞いてみた。 そこで分かったのが、部長は授業にも出ていないという事実。」 ずんちゃんの低い声が伸びた。 「それと、ジアンナから聞いたぞ。 おまえも襲われたってことを。」 おまえも、という所に疑問。 「俺とあん王女以外にも襲われてたのか?」 「その分だと知らないらしいな。 通研と303の戦いはもう始まっている。」 「何!?」 麻一と声が同時に出た。 「しかも、だ。 303は、部として承認された。 どの先生が認めたか、分からないけどよ。」 部として承認された、ということは、 委員会と干渉できるということ。 学校の政権は、各部活・各常任委員会・生徒会の三つに分けられる。 部活は、生徒会に部費請求ができる代わりに、 生徒会は、部活の承認の是非を選択できる。 生徒会は、委員会長の任命権を持ち、 委員会は、生徒会の解散権を持つ。 そして、部活は委員会に新案を提出することができ、 逆に委員会は広告主として一つの部活に部長として着くこともできる。 何よりも、一番の権利を握っているのは、校長なのだが。 303が部活として承認された。 真っ直ぐな学園支配を目論むのなら、 恐らく真っ先に校則提案委員会に直談判をするはず。 そこで部長として迎えられるのが、モラルのある人間であり、良識を持った人間ならばいいのだが。 ずんちゃんは、それを説明してくれた。 「だが、校則提案委員会から303部に行く人間は、 303部と太いパイプで繋がった奴だろうな。」 「つまり、そいつは、元々303部に入るつもりで、委員会に入った・・・そういうことか?」 「それが一番やりやすい方法だが、そうとも限らん。」 麻一は、首を傾げている。 というか、ずんちゃんの話の途中から理解不能だったようだ。 ずんちゃんは、指で丸を作った。 「金だ。」 賄賂か!! 「だが、部の人間も自腹を切るのは、嫌々だろう。」 「あー、頭がこんがらがってきたぜ!!」 麻一は言った。 「そうなったからどうだってんだよ、ワシらには関係ないだろ!! そんな三権分立もどき!!」 充分理解してるじゃねぇーか。 麻一が話の腰を折った所為で、ずんちゃんが困った顔をしていた。 「そうだな。今は部長の行方を探そう。」 ずんちゃんは、立ち上がった。 教室を出て、四人ずらずらと並んで二年生の教室がある階に移動した。 廊下の人は、少なかった。 志穂の教室に到着後、俺たちは彼女の姿を探した。 教室の中では、先輩達が談笑していた。 その中に、ひときわ目立つ紫色のタキシード姿の人物が一人。 白い面を被り、シルクハットを被っている。 彼の手袋に握られているのは、1セットのトランプ。 「あれが、ジョーカーだ。」 麻一が言った。 普段は、手品を見せて教室を回り、小遣い稼ぎをしているらしい。 「しかも二年生相手にギャンブルを持ち込んどる。 ワシも見習いたいものやな。」 麻一は、将棋の賭け試合をよくやるそうだ。 儲けはジョーカーより少ないらしいが。 ジョーカーは、椅子に座り、四人の先輩と対峙した。 「お、始まるぜ。 ジョーカー得意のフェイクポーカー。」 それは、麻雀でいうところの、左手芸を使った賭け試合らしい。 って、インチキじゃねぇーか!! 各自、コインをベットした。 先輩達は、ジョーカーの噂を聞いていて、最初から勝負に出ることはなかった。 「ストレート。」 相手の先輩は言って、コールした。 今は一対一で勝負をしている。 残りの三人は、ジョーカーの左手芸を見破ろうとしている。 「・・・」 ジョーカーは、何もいわずにカードを出した。 それはコールを意味しているのだろう。 「ぷっ・・・はははは!! おいおい、どうしたよ、ブタじゃねぇーか!!」 相手の先輩は笑っているが、ジョーカーは動じない。 それどころか、一言も喋らない。 次の回になり、先輩はベット用のコイン全てを前に出した。 「俺は、全部賭けるぜ。」 教室内の全員が、拍手したり、口笛を吹いたりした。 「ひゅー!!すっげぇ、男だぜ!!」 ジョーカーの前の男は、ニヤニヤ笑っている。 「どうだい、怖気づいたのか? それとも・・・」 ジョーカーは、何も言わずに、全てのコインをベットした。 「な!?」 「・・・」 教室のどの先輩も驚いていた。 「き、貴様!! いいだろう、その勝負、乗った!!」 先輩とジョーカーの戦いが再開した。 二人は、カードを引いていく。 先輩は、ニヤリと笑い、揚々と「コール」と叫んだ。 「貴様の負けだ!! ロイヤルストレートフラッシュ!!」 教室内は盛り上がる。 ジョーカーは、動じない。 そのまま、先輩の役が出来た五枚の前に、自分のカードを出した。 「え?」 エースのスペード、クラブ、ハート、ダイヤ、そしてジョーカー。 ファイブカード。 ロイヤルストレートフラッシュよりも強い役だった。 「ば、馬鹿な!!」 ジョーカーは、賭け金を全てもらって、教室を出ようとした。 「おまえら、奴を抑えろ!!」 一人の男の合図で、ジョーカーを数人の男子生徒が囲んでいた。 「ジョーカー、貴様・・・ インチキしたろう?」 ジョーカーは、尚も動じない。 肝の強さが違うのか。 「今取った賭け金、それから貴様の有り金全て置いていきな。 そうすれば許してやる。」 クラスの女子達からのブーイングの嵐。 ジョーカーは、先輩達の声を無視して、教室を出ようとした。 「やれ。」 一人の男が俺たちの前を横切り、教室に入ってジョーカーに向かっていった。 が、あっけなくそのまえに沈められてしまう。 なるほど、武闘派か。 「何をしている!!この人数だ。 こんなマスク野郎にやられるな!!」 男子の数人が、一気にジョーカーに迫っていったが、その全てを流し、避けて、 そして攻撃を繰り出す。 その一連の流れを見て、驚いた。 「これは・・・」 似ている。 マーシャルアーツと空手をミックスさせたケンカ殺法。 男子生徒数人を床になぎ倒し、ジョーカーは、ステッキをどこからともなく取り出した。 「コール」 高らかに言って、教室を後にした。 俺にとって、ジョーカーの声は、初めて聞いたはずなのだが、聞いたことがある気がしてならない。 見とれていたが、ずんちゃんに肘で突かれて思い出す。 「ああ、志穂ね。」 失礼しますと一礼して、教室に入り、何人かの女子に聞くが、 志穂はどうやら学校にも来ていないようだ。 廊下で見かけたという妙な情報があったが、恐らくそれは見間違いだ。 何故、学校に来ていない? いつから来ていなかったのか、聞いてみると、俺とあん王女が、 片山俊介とアルストロメリアに襲われた日と同日だった。 あの時、志穂も襲われていたのだ。 しかし、その翌日はギャンブラーズギルドとの会合に顔を出していた。 俺の脳裏を良からぬ想像が満たす。 「しばらく、部室に顔を出していなかったが、行ってみるか?」 ずんちゃんに言われて、今日の放課後は、部室に行くことにした。 放課後、カフェにて待ち合わせし、部員が集まった。 部員とは言っても、今はさわちゃんがいない。 彼が離脱したその後というのも気になる。 腹ごしらえをして、部室に向かおうというそのとき、須奈さんに出会った。 カフェの前にて、花壇をつっきってきたのだろう、その体には、葉がいくつかついていた。 彼女は、慌て、息を弾ませていた。 「ど、どうしたの?何か、あっ、あ、あったの?」 かえでっちが、つられて慌てる。 「ラスが・・・ラスが・・・」 泣き出してしまった。 「どうした?どうやらただ事じゃなさそうだな。」 ずんちゃんが言った。 「チームパニッシュメントの人達に連れていかれて・・・ 袋にされてるって・・・」 チームパニッシュメントって、そこまでする団体だったのかよ!! 「ただごとじゃないな。」 ずんちゃんは言って、指笛を鳴らした。 何やってんの?と、皆が思った時、 植木の中を突き破って、何かが飛び出してきた。 ずんちゃんは、それを抱き寄せた。 よくみると、灰色の猫だった。 「久しぶりだな、ジェームズ。 これからある人物を探して欲しいんだが、 イーサンと、アレックス、それから、ヘッケル、ジャッケル、 ジュンウォン、ネイサン、ザンダー、 ジャック、ジョアンナ、チャンドラ、カルメン、ジュニ、ニーナ、アンナ、 リチャード、キース、ロバート、クリスティー、アラン、ウェズリー、アリシア、 ジョルジョ、エヴァン、ウィリアム、エリザベス。 彼らにも協力を仰いでおけ。」 ずんちゃんが言い終わると、猫は、その腕から飛び上がった。 「ああ、言い忘れたが、探して欲しいのはシュルツラス・ベイ・ノットマンというカナダ人男性だ。」 猫は、にゃーと鳴いてどこかへ走っていった。 「今の何?」 須奈さんが驚いていた。 ずんちゃんは、黙っていた。 「あれが彼のスキル。 ビーストテイマーなのさ。」 「な、なるほど。 コネクションが広いのね・・・」 広いに越したことはないけど、人外のコネかよ。 部室に到着後、椅子に座る俺。 それほど長い間来なかったわけじゃないが、懐かしさを感じる。 「ここに来た形跡はないな。」 ずんちゃんが言った。 ふと、見ると、須奈さんがいた。 「おい、なんで須奈さんまでいるんだ?」 俺は、怒ってるわけじゃないけど、強く言った。 「え、ダメですかぁ?」 「ダメじゃないけど、なんで?」 「ラスが捕まってるのに、私だけ平気なわけないじゃないですか。」 彼女は話し始めた。 どうやら、チームパニッシュメントは、ギャンブラーズギルドの前にもあらわれたらしい。 最初は、麻一に出会い、ギャンブルなどの不正行為を禁止するように言った。 だが、麻一もそれを聞く耳だけは持ったが、実際のところ、信用がないらしい。 チームパニッシュメントは、麻一から離れ、ラスを呼んだ。 須奈さんは、そこまでは見ていたらしい。 チームパニッシュメントとラスが移動してからのやり取りは知らず、 授業時間になってもラスが戻ってこなかったことを怪訝に思い、 携帯電話でメールをしてみたという。 返信メールには、ラスが何者かに捕らえられ、 袋叩きにされているという動画が添付されていた。 彼女は、ギャンブラーズギルドの不正行為を関知したチームパニッシュメントに、 次襲われるのは自分か麻一かジョーカーだと思っている。 「それで、匿えって言うのか?」 俺は、溜息をついて言った。 予想はしていたが、頷く須奈さんを見て、 余計なお荷物を背負い込んでしまったことに後悔した。 「どうする?」 ずんちゃんは、首を横に振った。 「そんな!!私も襲われろって意味ですか?」 正直、須奈さんがウザったくなってきたが、 当たり前の反応だろうな。 「あのね、 それ・・・チームパニッシュメントの仕業とは思えない。」 かえでっちが、弱弱しく言った。 「チームパニッシュメントがそこまで人を傷つけるのに、 人数が少ないと思うし・・・ それに、彼らは、こういう見せしめみたいなこと、嫌いだから・・・」 かえでっちのその意見には納得できる。 「チームパニッシュメントが、 チンピラどもを集めて操作しているとも、考えられないか?」 「そこまでの・・・ いえ、その方向への人望は薄いと思うの、私は。」 なんだか今日はかえでっちの頭脳が冴えている。 「携帯電話。」 ずんちゃんがいきなり関係ない話をしだした。 「部長を探す手がまだあった。 初心に帰って電話するんだよ、本人に。」 今更だが。 確かに今更だが、俺たちはそれを忘れていた。 色々と、パニック状態が続いていたのだろう、 一番簡単な方法を実行していなかった。 俺は、携帯電話を取り出した。 「俺が掛ける。」 アドレス張から、志穂の名前を探し出して、通話ボタンを押した。 早くつながってほしい。 こういう時、何故だか焦ってしまう。 電話がつながった。 「もしもし。俺だ、鳥羽怜治だ。 志穂、今どこにいるんだ。」 焦って捲し立ててしまった。 「え?」 返ってきた答えは、全然違う声と反応。 「志穂?」 俺は疑問に思いながらも、聞き返す。 「おお!! やっとかめ!! 怜治くん?」 「え?誰?」 俺の焦りを見たずんちゃん達の顔色も曇る。 「私、私よ私。 わからへんかいなー。 西より攻めて来よったるエージェントや。」 「もしかして、涼子さん?」 「ぴんぽーん。 大正解や。」 なんで志穂の姉ちゃんが出てくるんだよ・・・。 「あの、志穂さんいませんか?」 親しい仲にも礼儀ありだ、とりあえず敬語。 「おるよ。」 「代わってくれませんか?」 「うーん、ちーとばかし待ってな。」 電話の向こうで姉妹の会話の声が聞こえる。 というか、何故志穂の携帯電話に掛けたのに、志穂の姉が出てきたんだ? そこが不思議でならない。 というよりも、今、一緒にいるというのか。 「あ、怜治くん? 志穂ね、 ちーとの間は電話には出とうないってぬかしとった。」 張っていた気が抜ける感があった。 「志穂ね、ここ数日間、なんやセンチメンタルになっとる。 テンション下がり気味。」 「あ、そうですか・・・ありがとうございます。」 「そうそう、怜治くんも、知っとることあったら教えてね?」 それならと思って、聞いてみることにした。 志穂の過去のことについて聞くのは、少し野暮ったいことかもしれないけど、 この先、何かに繋がるかもしれないのだから。 「秋野という苗字をご存知ですか?」 その瞬間、涼子さんは、黙ってしまった。 少しの間があって「ああ、知っとるよ。」と、静かに答えてくれた。 「それじゃあ、秋野志穂のことも・・・」 「知ってる。」 涼子さんの声色がなんだか怖かった。 「その話は事務所的にタブーや。」 でもすぐに、笑いながら話してくれた。 「志穂は、もらい子や。 秋野家で何があったかは知らんが、志穂は養子としてうちに迎え入れられた。 それがどないしたん?」 それなら、今までの志穂の形振りにつじつまが会う。 ただ、303という番号だけが引っかかる。 「では、303という番号を知っていますか?」 「怜治くんは、探偵さんかいな。 色々とうちのこと調べておるな。」 涼子さんは笑っている。 「杜若家が昔、住んどったマンションの部屋番号や。」 俺は、唖然としていた。 どうしてそれを、303部が騙っているのか。 不気味にも思えてきた。 戻る