外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第八話 角田親衛隊
志穂の安全を確認して、安心している俺は、 次の問題に頭を悩ませた。 雨並須奈、彼女とその仲間のことだ。 「さて、それじゃあ須奈さん。 志穂の無事が分かったことだし・・・」 言おうとしたが、ずんちゃんに遮られた。 「部長の無事は確認出来ていない。 杜若涼子その人が、敵とグルかもしれないだろう。」 「それはないよ。 だって、志穂の声だって聞こえたし、今でも仲のいい姉妹って感じだ。」 心の中で「義理の姉妹のね。」と、付け加えた。 「須奈さん、これからどうするの?」 かえでっちが聞いた。 「え、そんなこと聞かれても。 私だってどうしたらいいか、わからないんです!!」 そうだな、とりあえず。 ここは一旦引き上げた方がよさそうだ。 前みたいに303部員に襲われるのも御免だし。 「ん?」 ずんちゃんは、何かに気付いた素振りを見せ、急に窓を開けた。 空から、ずんちゃんに向かって一羽の黒鳩が降りてきた。 そのまま彼の腕に着地。 「どうかしたのか、ジャッケル?」 ずんちゃんが話しかけると、黒鳩は、何かを伝えようと鳴きながら首を動かしていた。 「よし、わかった。 次はジェームズ中隊に戻って、 澤井太郎をつれてくるように言ってくれ。 なぁに、強引でも構わない。」 鳩は、窓から出て空に向かって飛んでいった。 ずんちゃんは、動物と話すときだけ気さくになっている気がする。 「シュルツラスが見つかったらしい。 303部の人数が多く、苦戦を強いられたが、 救出に成功したようだ。」 ずんちゃんは、言って廊下に出た。 俺たちは唖然として教室からずんちゃんを見ていた。 「どうした?シュルツラスを助けにいくんじゃないのか?」 須奈さんは、真っ先に立ち上がって、ずんちゃんについていった。 かえでっちと俺は、顔を見合わせた。 「すごいね。」 「あいつ、本当は動物なんじゃないのか?」 俺たちが言っていると、あん王女が後ろから前に出てきた。 「人間も分類的にも動物。」 言って、ずんちゃんたちを追いかけた。 表世界の中等科の校舎裏。 そこに傷だらけになったシュルツラスがいた。 彼は、犬や猫、さらには鳩といった動物たちに導かれてその体を引きずっていた。 「ラス!!」 須奈さんが叫んで、シュルツラスに向かって走っていった。 そして、抱き合う二人。 「須奈さん、よかった。 君は無事みたいだね。」 動物達は、それを見て、ずんちゃんの元に集まりだした。 「ああ、そうだな。」 彼は、笑いながら猫(ジェームズ)に言った。 猫が鳴くと「そうか、頼んだぞ。」と言った。 すると動物達はずんちゃんから離れて高等科の校舎に向かった。 その動物たちの走る後姿を見ていると、なんともカッコいい光景だと思ってしまう。 すぐにでも撤退しようと、俺たちは中等科から離れた。 「あはっ! 引っかかりましたよ、隊長っ!!」 目の前に小柄な老け顔の中学生が一人。 見覚えのある服装。 そうだ、あの白い学ラン。 「でかした。サギー。」 どこからともなく現れる白い学ラン集団。 俺たちは、囲まれていた。 「な、なんなのよ!!」 かえでっちが叫んだ。 ずんちゃんは、静かに須奈さんたちに声を掛けていた。 「君たちは逃げて。」 言っているのが聞こえたのか、学ランの男が、道を開けるように指示した。 「逃がしてくれるのか。」 須奈さんとラスが逃げてから、学ラン達は再び俺たちを囲んだ。 「な、何?」 かえでっちが、周りの学ラン達に驚いていた。 「手違いがあって、彼には傷を負わせてしまった。」 男が言った。 「しかし、その手違いが二度と起こらぬよう、聞こう。 貴方達が、外宇宙通信コミュニケーション研究部。 違うか?」 俺は、周りを見た。 考えるんだ。 こいつらがラスを袋叩きにした犯人だとするならば、 今、危険なのは俺たちだ。 「いかにも。」 あん王女が答えた。 そこは「違います」と答えて欲しかった。 「人数が合わないようだが?」 「一人は退部、一人はサボリだ。」 「そうか。」 俺は、その男と対峙する。 「おま、おまえたち!! 何者なん、なのよ!!」 かえでっち、呂律が回ってないぞ。 「これは失敬。 先輩達には名乗っていなかったな。 自分達は、角田親衛隊という者だ。」 角田親衛隊? 知っている名前だ。 それに、先輩達と言った。 彼らは、恐らく中等科の生徒だろう。 「非常にすまないとは思うが、 これも上の命令なのでな。」 彼が言うと、学ランの生徒達は、一斉に襲い掛かってきた。 「ひゃあ!!」 かえでっちが避けたことにより、その流れ弾、いや、流れパンチが俺にヒットした。 「痛ぇ・・・」 ずんちゃんとあん王女もどうやら攻撃を与えられているようだが、 あん王女は何故か無傷。 「こ、この女!!腕を飛ばすぞ!!」 その声に驚いて見てみれば、あん王女は、実際に両腕を飛ばして、敵に当てていた。 遠距離へのパンチと言ったところか。 ずんちゃんは、なんとか抵抗するも、ケンカ慣れしていないらしく、傷が増えていく。 かえでっちは、いつの間にかどこかに隠れてしまったようだ。 俺もそうしたい。 「くらえ!!」 「うぁ!?」 ビックリして腰を屈ませた所、そこに引っかかって倒れる学ラン。 「びっくりしたー。」 俺も構えて戦闘態勢に入る。 ずんちゃんと同じく、ケンカ慣れしているわけではないので、 あっさりと地に伏せてしまう俺。 情けないが、体中が痛むんだもの、仕方ない。 しばらく経ってから角田親衛隊の数人も倒れていた。 「待て!!おまえら!!」 隊長と思しき人物が、親衛隊に制止の声を上げた。 「岡山先輩のご登場だ。」 角田親衛隊は、引き上げるでもなく、俺たちを囲み、大きな輪を作った。 その中心に傷ついたずんちゃんと、もう一人の男が立っていた。 そしてその横にはケルベロスのような番犬染みた大きな犬。 そして肩から腕にかけて、大きな蛇が撒きついていた。 「俺の名は・・・岡山優。 高等科二年・・・・・・303部所属。」 岡山優は、名乗って、ずんちゃんと対峙する。 「・・・」 ずんちゃんは、岡山を一瞬だけ睨みつけ、体の砂埃を払った。 「俺の名は、鹿島一樹。 高等科二年。外宇宙通信コミュニケーション研究部所属。」 はっきりとした口調で、強く言い放つずんちゃん。 二人の空気が、ぶつかりあう。 「かかれ!!ウォースパイト!!」 岡山の横に座っていた獰猛な犬が、猟犬のように、ずんちゃんに飛び掛っていった。 一回の跳躍で一気に距離をつめられ、ずんちゃんも驚きの余り動けなかったようだ。 ウォースパイトに腕を噛み付かれ、出血する。 「そのまま食いちぎってしまえ!!」 岡山が命ずると、ウォースパイトは、高く吼えて、ずんちゃんの腕に犬歯を食い込ませる。 「こんなことで・・・」 ずんちゃんは、指を口に当てた。 指笛を鳴らしてみたが、さっきのようにジェームズは現れない。 「残念だがおまえの仲間たちは・・・ 他の仕事に当ってるみたいだぜ?」 岡山がニヒルな笑顔を浮かべて言った。 「その通りだ。」 ずんちゃんも、それに応じるように微笑した。 「ブルース!!アンディ!!マイク!!ホーガン!!」 ずんちゃんが、大声で呼ぶと、大鷲が空中から舞い降りた。 その背中には、オレンジ色の猫が乗っていた。 そして、ずんちゃんの後ろから、ウォースパイトより少し小柄な猟犬が飛び上がった。 「ホーガン、こいつを引き離せ!!」 ホーガンと呼ばれたその犬は、ウォースパイトに突進した。 ホーガンの頭がウォースパイトの胴体に食い込み、鈍い音がした。 それでもウォースパイトは、ずんちゃんの腕から離れることはなかった。 ホーガンは、ウォースパイトの足に目を向けた。 大きく口を広げて、ウォースパイトの足に喰らい着くと、さすがの彼も、 甲高い声を上げて、ずんちゃんの腕を解放した。 「アンディ!!こいつを倒せ!!」 大鷲は、ずんちゃんの声を聞き入れ、ウォースパイトに掴みに掛かった。 鋭い鍵爪が、その体に刺さった。 アンディは、ウォースパイトの体を空中に持ち上げた。 岡山の表情も穏やかではない。 持ち上げられたウォースパイトは、空高くから落とされた。 「ウォースパイト!!」 岡山は、走り出し、自分の可愛い猟犬の下敷きになった。 体長は、岡山と同じくらいだから、恐らく体重は結構なもの。 岡山に助けられたウォースパイトは、飼い主の頬を舐めていた。 「大丈夫だ・・・生きている・・・」 岡山は、地面に倒れながらも、ウォースパイトに言った。 「行け、バーラム!!」 次は、岡山の蛇が、ホーガンに向かっていった。 ホーガンは、その前足でバーラムの体をねじ伏せようとしたが、 皮膚表面が湿っているため、滑りやすく、捕らえどころがなかった。 バーラムは、ホーガンの周りを一周して、その体を絞めつけた。 「出番だ、ブルース!!マイク!!」 珍しいオレンジ色の猫は、勢いで空中に飛び上がり、後ろ足でバーラムの頭部を蹴り上げた。 猫、ブルースの体は、そのまま空中で後方回転し、着地した。 バーラムの頭は、一瞬、ぐったりとしたようだったが、すぐに立ち直ってホーガンを絞め上げている。 が、その後、バーラムの体はするするとホーガンを逃がしてしまった。 岡山は、驚き、バーラムに叫んだ。 「どうした!?バーラム!!」 バーラムがいた場所、その地面には、穴が開いていた。 バーラムの胴体にも傷跡があり、血が出ている。 「マイク、トドメだ。」 ずんちゃんが静かに言うと、バーラムの周囲の地面にボコボコと穴が開いていく。 そして地面が音を立てて、陥没したと共に、バーラムの姿も見えなくなった。 ただ、その中から蛇独特の鳴き声が聞こえただけだった。 岡山は、それを見て唖然とした。 ずんちゃんは、腕を押さえながら、倒れた岡山に近づいていった。 まだそこにはウォースパイトがいるが、警戒心を解いている。 「くそ・・・こんなことになるとは・・・な。」 岡山は、その場で気を失った。 周りの角田親衛隊の奴等がどよめき始める。 隊長らしき男が、舌打ちした。 「負けてしまいましたか。 残念でなりませんが、仕方ありません。」 角田親衛隊長は、上着を脱ぎ始めた。 「次は・・・自分が相手をします。」 今まで学ランを着ていたから分からなかったが、腕の筋肉はたくましいほうだった。 これなら親衛隊長を任されるのも頷ける。 と、それどころじゃないな。 ずんちゃんは、負傷している。 いくら中学生相手とはいえ、ここは逃げる方が得策だと思う。 考えろ・・・考えるんだ・・・俺。 「ん?」 ふと見ると、昇降口前の柱に誰かが隠れている。 怯えながら、こちらを窺っている。 「おい、かえでっち」 「ひぅー!?」 その影は動いて柱から出てきた。 「おい、なんだあいつ!?」 「くそっ、あんなところに隠れていやがったのか!!」 親衛隊は、口々に叫んで、かえでっちの方に向かっていった。 「こ、こないでぇー!!」 「待ちやがれコラー!!」 「うひぃー!!」 かえでっちが逃げ出した。 そしてこの場に残ったのは寂しさと、怪我人。 それと、親衛隊長。 俺はこのまま気絶した振りでやり過ごそうと、甘い考えを抱きながらも、 いつか逃げる根性を灯していた。 あん王女とずんちゃん、そして親衛隊長だけが残っている。 2対1なら負傷していてもこちらが有利。 「それでは、行きます。」 親衛隊長が突っ込んでいく。 ずんちゃんを守るようにして、あん王女が進路をふさいだ。 あん王女と親衛隊長がぶつかり合う。 激しい攻防戦は、意外と長くはなかった。 「どうした!?」 ずんちゃんが叫ぶ。 あん王女は、親衛隊長の攻撃を受けたまま、動かなくなった。 彼女の眼光は、静かに消えた。 体がガクガクと鈍い動きになり、あん王女は、自分の腕を見たり、地面を見たりしていた。 「エネルギー切れ!?」 あん王女は、動ける間に最後の一撃を、 そう思ったのだろうか、親衛隊長に殴りかかった。 「今一歩足らず・・・」 しかし、彼女の願いも空しく、あん王女は、親衛隊長の横を通り過ぎて倒れた。 親衛隊長は、最後に、ずんちゃんと向き合う。 ずんちゃんは、彼を睨んだまま、ジリジリと後退していった。 まさにピンチ、大ピンチ。 俺はなんとか思考をめぐらせたが、どうやったって武闘派じゃない俺が勝てるわけがない。 「うぁ!?おい、やめ、やめろよ!!くそっ!!」 どこからか聞き覚えのある声がした。 そして、中等科校舎の前に現れたのは 「澤井太郎!?」 俺は、うっかり声を出してしまい、ずんちゃんと親衛隊長に起きていることがバレてしまった。 さわちゃんは、鳩や猫、犬といった動物たちに小突かれながら、こちらに向かってきていた。 「なんだよこの動物たちはよー!!」 ずんちゃんは、動物達を見て笑った。 「ジェームズ中隊、ご苦労だった。」 言われて、動物達は何処かへと去っていった。 さわちゃんは、今の俺たちの状況を見てどう思っているのだろうか。 「おい!!あれは、おまえの差し金だったのか!!」 さわちゃんは、ずんちゃんに言いかかる。 「ああ、そうだ。」 「てめぇ!!俺のカレーパンが台無しになったんだぞ!!」 さわちゃんは、ずんちゃんの胸倉をつかみあげる。 今はそんなことしてる場合じゃないって。 親衛隊長は、手を叩いた。 「自分を無視しないで欲しいですね。」 言って、爽やかな笑顔を向ける。 さわちゃんは、やっとやる気になってくれたのか、親衛隊長と向き合ってくれた。 「加藤仁・・・?」 さわちゃんが怪訝そうに言うと、親衛隊長は、ピクリと動いた。 「加藤仁か?おまえ・・・」 「・・・・・・」 どうやら見覚えのある人物のようだが、親衛隊長の反応からして、人違いだと思われる。 「ククク・・・」 親衛隊長は、悪っぽい笑みを見せた。 「よく分かりましたね。」 「伊達眼鏡にウィッグまで用意して道場に行ってたのか。」 どうやらさわちゃんの知り合いらしい。 「先輩も、外宇宙通信コミュニケーション研究部・・・なんですよね?」 加藤は、ニヤニヤと笑っている。 「もう退部した。」 俺たちを見捨てるのかよ!! 「だが・・・」 そう言って、さわちゃん曰く朱雀拳の構えをとった。 「中等科になめられてるようじゃ、先輩としての威厳が廃る。」 さわちゃんは、手首を返して、クイックイッと、加藤を挑発した。 「来い。暇人の俺が、相手になってやるよ。」 戻る