外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第九話 怜治の推理
澤井太郎VS加藤仁!! ただいまゴングが鳴りました!! 脳内実況をお送りするのは、鳥羽怜治こと俺!! 気絶した振りしてたのがバレてしまったのでとりあえず座って見ています。 ずんちゃんの白眼視が辛い所だけど、俺は武闘派でもないから何も出来ないので仕方ないんだ。 「うぉぉぉお!!」 「はぁぁぁあ!!」 さわちゃんと加藤の戦いは、より激しくなっていく。 普通なら途中で疲れてグダグダになっていくのに。 この二人には見ている限り、スタミナの概念が感じられない。 人間永久機関とでも名付けよう。 「うあああっ!!」 前言撤回。 さわちゃんは、どうやら普通の人間のようだ。 途中で一発のケリを喰らって跳ね上がった。 「うげ・・・痛ぇー・・・」 されど、加藤は攻撃の手を休めない。 さわちゃんが休んだ隙をついて、殴りかかる。 「甘い!!」 なんと、さわちゃんの隙は、加藤を誘うためのフェイクだった。 スライディングで加藤の攻撃を避けた。 謀らずも加藤の背後を取ったさわちゃんは、肘うちを極めて、掌底で吹き飛ばした。 「うっぐぁ・・・」 加藤は、怯み、そして倒れかけたが、なんとかその両足で地面を踏んだ。 加藤が振り返ってさわちゃんを捉えた時、戦闘意思を放棄したかのようにしゃがみこんでいた。 構えを解いたわけじゃない。 「何!?その構えは・・・」 「そうだ。 気付いたろう。 気付いてしまったが為に後悔しているだろう。」 さわちゃんは、しゃがみ状態のまま、ジリジリと距離をつめていく。 加藤は、焦りを見せ始めた。 「ふっ、そんな技を今更出しても・・・」 「おまえが避けられると思うのか?」 さわちゃんと加藤の距離がもうほとんど1mぐらいに。 「もう後がないぜ。」 さわちゃんが言って、そこに止まった。 加藤は、汗を多量に流していた。 「くっ・・・」 両者見合って動かなくなった。 風が流れる。 木が揺れる。 ほんの数秒の時間が長く感じられた。 「くらえ!!断頭背手拳!!」 先に動いたのは加藤。 手刀を繰り出し、さわちゃんに襲い掛かった。 が、さわちゃんは、しゃがみ状態から、後方宙返りしながら、加藤の顎を蹴り上げた。 「うぐぁ・・・」 避けようとしたのか、バランスを崩して倒れかけた加藤。 さわちゃんが着地すると同時に、回し蹴りを放った。 「でやー!!」 が、さわちゃんの拳が、その蹴りを突き止めた。 「オラァ!!」 加藤の蹴り足とさわちゃんの拳がぶつかったまま静止した。 両者はにらみ合っている。 「ふふふふ・・・ハハハハ!!」 加藤が突然笑い出した。 と、そう思った瞬間。 「うぎぁぁああ!!」 先に悲鳴を上げたのは、加藤だった。 彼は、崩れるようにその場に倒れた。 「一日の長だ。覚えておけ。」 さわちゃんは、倒れた加藤に言い放つと、俺の方へ向かってきた。 そして、手を差し伸べられた。 俺はその手を掴んで立ち上がる。 「ありがとう。」 ずんちゃんは、倒れたあん王女を抱き上げた。 俗に言うお姫様抱っこで。 「色々と大変のようだな。」 さわちゃんが言った。 「謎多き303部に、志穂の行方不明。 それから、こいつら角田親衛隊という連中。 考えるべきことが多すぎるな。」 さわちゃんは、笑いながら言った。 「そして、今一番すべきこと。」 ずんちゃんに抱かれたあん王女が言った。 どうやら充電が少しあったようだ。 「金田楓。」 ああ、かえでっちか。 「あ!!忘れてた!!」 俺は、かえでっちが逃げた方へ走っていった。 「みんなは、もう帰っていいぞ。 副部長からの有給休暇サービスだ。」 と、自分でも後で考えてみれば恥ずかしい台詞を吐いて、かえでっちを探しにいった。 かえでっちは、こっち側と隣町を隔てる川の河川敷にいた。 俺は、橋から下に下りて、かえでっちを見つけたのだが、なんと梯子がある柱の上にいた。 高所恐怖症なのか、降りられずに困っていた。 そこまで逃げたのかよ・・・ 幸いにも、親衛隊は諦めたのか、その近辺に姿を見なかった。 「ただいま」 帰宅して、すぐに二階に上がる。 自分の部屋に篭って、適当な紙と筆記用具を出した。 これまでのことをまとめて、推理したい。 が、俺の頭じゃ、考えられることにも限りがある。 杜若涼子が、俺のことを探偵さんと言ったことを思い出した。 そうだ、探偵になりきるのだ。 ここは地道な調査活動を続けるしかない。 俺は、ペンを取って、紙を広げた。 「杜若志穂・・・っと。」 その字を書いて志穂の顔を思い浮かべる。 線を引いてその先に303と書く。 そして、通研の文字を書いて、志穂を含めて丸で囲んだ。 考えうる全てを書き出すんだ。 だから、今、俺が知っていることを。 「チームパニッシュメントだ。」 言いながら書いて、思い出す。 となると、その被害者であるギャンブラーズギルドも書いておく。 チームパニッシュメントに襲われたラスを助けにいったとき、 そこにいたのは、角田親衛隊と名乗る白い学ランの男たち。 彼らは、チームパニッシュメントの兵だったのかもしれない。 いや、これは違う。 俺だってチームパニッシュメントのことは余り知らない。 だが、二年生のかえでっちが言うことは、いい手がかりになる。 それに、チームパニッシュメントが直接に、用があったのは、ギャンブラーズギルド。 俺たち通研が来て「引っかかった」という台詞は吐かないはずだ。 つまり、ギャンブラーズギルドは、俺たちを釣るエサだった。 そしてそれをするのは、通研との直接敵対勢力・・・。 303部? 「まさかな・・・」 そうだったとして、動機や理由が見当たらない。 行動力があるのは認めるが、リスクを省みない団体じゃない。 いや・・・。 俺は思い出した。 ずんちゃんと戦った敵。 言っていた。 「俺の名は・・・岡山優。 高等科二年・・・・・・303部所属。」 その声が、脳内でエコーをかけて再生される。 303部所属、確かに岡山という男は、そう言っていた。 ビーストテイマーのずんちゃんと戦った岡山も、同じくビーストテイマー。 そして、俺とあん王女を襲ったのは、片山俊介とアルストロメリア。 アルストロメリアの特徴を挙げると、あん王女と被る所が多々ある。 無表情、無愛想、果物大好き、そして何よりもメカであるということ。 ここまでの偶然があるだろうか。 片山俊介は、俺に向かって、驚いて言ったことを思い出す。 こんなにも似てる奴がいるのかと、そんな類のことを。 片山俊介が仲間を連れてかえでっちに会った時、 その二人は似通っていたとか言ってたな。 ここまでの偶然がそうそうあっていいわけがない。 全て、303に仕組まれていること。 そもそも、303というのは名前なのか?暗号なのか? はたまた、教室番号・・・ではないな。 それは調査済みだ。 303の周りに、片山俊介、岡山優、アルストロメリアと名前を書いた。 向こうは四人。 そしてあと二人、存在がつかめていないのが、 恐らく片山俊介が言っていた仲間。 仮にXとしておこう。 かえでっちと似ているのだから、女子なのだろうか。 となると、ミスターじゃなくてミスXだな。 もう一人は・・・ 「親衛隊・・・」 仮に、親衛隊と303をつなげてみると、可笑しいほど、綺麗に嵌る。 いや、単なる勘違いかもしれないが、仮にそうだとすると・・・ 「角田親衛隊に守られている角田という人物が・・・ 303にいる。」 そうなる。 一応、仮定だが。 303は、何故、部として認められた? 部の承認は、部活動申告書の提出、または、委員会への直談判しかない。 ありうるのは申告書の方だが・・・。 「思い出せ、怜治・・・」 考えたくは無いが、303は委員会と繋がっているかもしれない。 チームパニッシュメントが風紀委員として活動していたころ、何かが動いたのか? 「ん?」 俺は、鞄の中からはみ出ている書類が気になった。 几帳面ではないが、そういう物を見ると、綺麗に戻したくなる。 俺は、書類を手に取った。 「・・・これか!!」 表紙には、「303会議の概要」と書かれていた。 この盗聴をしたのがチームパニッシュメント。 つまり、チームパニッシュメントも303とは敵対していることがわかる。 仮定が確信へと変わった。 「分かりやすいように書かなきゃな。」 俺は、四つの大きな丸を描いた。 その中にそれぞれ、通研、303、GG、TPと書き込んだ。 略称でもいい、俺が分かれば。 「303は四面楚歌。 いや、三面楚歌だな。」 だが、そこでナポレオン軍のようにカッコいい逆転劇を見せつけることはしないはず。 303には、後ろ盾がある。 303とつなげて、楕円を二つ書いた。 角田親衛隊と委員会。 考えが変わった。 今まではどうして303が通研に手を出してくるか考えていたが、 これからは・・・ 「303をどうやって叩き潰すか!!」 「・・・じ・・・れいじ・・・・怜治ー。」 俺が正気に戻った時は、鍋料理屋の座敷に座っていた。 「ん?」 目の前には、熱々のキムチが。 鼻につけられた。 「あっち!!」 慌てふためき驚く俺を見て笑う義姉。 「あはは!!」 「な、何すんだよ姉ちゃん!!」 「だって、私が話してる間、ボーっとしてるんだもん。」 「ああ・・・」 なんてこったい、いくら義姉でもレディの前で夢にふけるとは、紳士として恥ずべき行い。 「失礼しました。」 俺は素直に謝った。 「あはは!!別にいいって。 今日は、私の自棄酒に付き合ってもらってるんだから。」 義姉は、豪快に笑っている。 でもね、姉ちゃんは未成年なんだよ。 「おやっさーん、なまちゅー二つ」 「へーい。」 俺は、キムチ鍋を食べながら、再び家での思考を再開しようとした。 「ちょっと、今日は私が愚痴る番なのに。」 俺の何かを察して、義姉は、頬を膨らませる。 「ああ、すまない。」 そして、俺が義姉の話に耳を傾けながら、二人でキムチ鍋をつついていると、 店員がやってきて、ビールの中ジョッキを二つ、置いていった。 「飲むわよー。」 「あ?姉ちゃん、二刀流飲み?」 「馬鹿言わないでよ。こっちはあんたの。」 待てよ、俺、十六だって。 「あの、姉ちゃん、自分の年わきまえてる?」 声を下げて聞いた。 注文したものは仕方ないとして。 「私、来年で二十歳よ。だから無問題。」 なんだよその自分ルールは・・・ 「じゃあ俺が姉ちゃんの弟だってことわかってるよな?」 「え?うん。」 「つまりだな、俺は・・・」 察しろよ。 「十六歳だ。」 仕方が無いので小声で言った。 「で?」 えー!? で?じゃねぇーよ。 「飲むわよー!!」 ・・・ 仕方ない。 別に今回が初めてってわけじゃないしな。 罪悪感ならとうの昔に振り払った。 俺はこうして、たまに姉の自棄酒に付き合っている。 今回の件は、バイトの上司がキモいという話。 なるほどなるほど、聞けば聞くほどキモい上司だな、と俺も相槌をうつ。 「それじゃあ今度は怜治の番ー♪」 酒が回ってほろ酔いの義姉は、俺の向かい側から隣に移動してきた。 俺としては、予想しなかった事だが、まあいいや、家族だし。 「俺の番?何が?」 ちょっとじらしてみる。 「だからー、なんかー、悩みとかー、ないのー?」 完全に酔った姉ちゃんは、無敵だった。 「そうだな、ひとつある。」 杜若志穂の顔が想い浮かんだ。 「俺ってさ、4歳だか5歳のころ、鳥羽家に来たよな。」 「ん?うん。」 義姉は、不思議そうに俺の顔を見ている。 「姉ちゃんのそれ以前の考えはどうだったのかなって。」 義姉は、ニヤリと笑んで、俺の腕をつかんできた。 もうダメだ、本格的に酔ってる。 「私が7歳の頃。 それはそれは、仲のいいお友達がいたんよ。 どっかの誰かに似てる奴でね。 親友以上恋人未満って奴だ。 だが、そいつとそいつの家族は、交通事故で亡くなった。」 義姉の表情が暗くなる。 「ただ、そこに残されたのは、そいつの弟だけ。」 義姉は、ビールを飲んだ。 「私は、それ以前から、奴の弟の話を聞いていたよ。 それで、私も兄弟姉妹が欲しいなと。」 「隣の芝は青く見えるという奴だな?」 「そうでもないぜ。 実際、今は怜治がいて結構楽しい。」 酔っているからだと思うが、そんなこと真っ直ぐに言われるとこっちが恥ずかしい。 「そうか。よかった。」 俺は言って、ビールを飲む。 「養子ってのは、どうなんだろうね。」 首あたりから腹にかけて火照ってきた俺は、豚肉を食いながら言った。 「あれじゃねぇーか? 怜治の兄貴が生きていたとして、そのまま怜治が私んとこに来たら・・・ 嫉妬するだろ?」 「そういうものなのか?」 「弟を取られたってのと、弟が彼女の所についちまったっての両方でさぁ・・・」 義姉は、さらにビールを飲んで、二杯目を注文した。 弱いんだからやめとけよ。 「兄弟姉妹・・・?」 俺はつぶやいた。 「どうかした?」 その時、ビールが来て、姉は喜びそれにがっついた。 「なるほどな。 いいヒントだ。姉ちゃん、ありがとうな。」 「ん?なんだか分からないけど、どーいたひまひて。」 呂律が回ってない。 さらに口をパクパクさせている。 「・・・あれ?・・・声が・・・」 「水だよ。飲みなさい。」 俺は、義姉に水を渡した。 「ありがとう。」 と、水を飲み干して、今度は鍋にがっつく。 俺も負けじとキムチ鍋を食った。 余談だが、帰りに会計を済ませたのは俺のお財布から。 結局、義姉は、鍋が食いたいのと、愚痴りたかっただけかもしれない。 戻る