外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第十一話 研究棟

「お待たせ。」 そこには、JSOの制服を着た杜若涼子がいた。 腰には例の如く、三節昆薙刀を装着している。 他の隊員と大きく違うのは、その武器を所持していること以外に、 袴のような物を穿いていること。 彼女得意の護身術をここでも使うのだろう。 「たった今、隊員からの連絡がありました。 幼稚園と小学科、大学院の校舎は完全にゾンビを撃破したようです。 その三棟全て、生徒の死傷者なしのようです。」 隊員が言った。 『どうした?君たちは動かないのか? それとも、秋野志穂を見限ったのか?』 俺は、スピーカーに向かって口を開いた。 「憶測で物を言うな!!」 JSOの通信兵が、何かを聞いたようだ。 「中等科、高等科、大学科の制覇は進んでいるようですが・・・ 研究棟の制覇が難しいようです。」 彼が言って、俺は確信した。 研究棟だ。 研究棟に全ての答えがある。 「俺たちも研究棟に行くぞ。」 俺は、メンバーに言った。 誰もが俺を見ていた。 その眼差しに、逃避の意思は見られない。 「それじゃ、志穂の姉ちゃん、武器を借りるぜ。」 さわちゃんが陽気に歩き出し、カフェの前のバンに乗り込んだ。 後部座席のわずかな隙間に、50cm程の重火器がいくつか見つかった。 「ちょっと、君たち、何してるの?」 前の助手席に座っていた女性が驚いていた。 「いいの。」 杜若涼子は、彼女に言った。 「彼らが力になってくれるわ。 地下帝国でもいい戦力になったし。」 俺は、もしかしてと思った。 助手席の女性は、会ったことはないが、話に聞いたことがある。 「あの、まさかその人、広鵬屡って人ですか?」 俺は恐る恐る、杜若涼子に聞いてみた。 「あら、噂が早いこと。 君の思っている通り、私がカーンこと、広鵬屡よ。 よろしく。」 彼女が、杜若涼子をサポートしていたオペレーター。 そして相棒。 「カーン。 通信機、まだある?」 「あるわよ。」 俺たちは、渡された通信機を耳に装着した。 何度かテストしていると、銃声が近くに聞こえた。 恐らく、どこかのJSO隊員の銃声だろう。 さらに、悲鳴まで聞こえた。 カーンは、地図を広げて俺たちに見せた。 「ここから研究棟への最短距離は、図書館に入って、 司書室の奥にある階段で地下通路を使うルート。 避難用の地下通路なんだけど、皮肉にもそれは研究棟の地下二階に繋がってるわ。」 俺は、図書室までの道のりを見た。 図書室は、第一格技場のすぐ隣にある。 「格技場の制圧状況は?」 俺は、通信兵に聞いた。 「余り安全とは言えません。」 多少の戦闘は、仕方ないな。 俺は、重火器を持って、色々と動かしてみた。 「それは、シルバーレイです。」 カーンが言った。 「研究棟の怪物対策に、銀を混合した弾丸を使っています。」 「なるほどね。」 「弾数は、実弾ではないので、気にしないでください。 ただ、エネルギー切れと銀切れには注意してください。」 俺は、シルバーレイの側面を見た。 エネルギーと銀の量が、目盛りで分かるようになっている。 余計な所だけ古いな。 JSOのテクノロジーのコピーは、「温故知新」だと聞いたことがある。 だとしても、古めかしい見た目は、その技術に相応しくない。 「使い方は普通の銃と同様です。 安全装置を外して、トリガーを引く、それだけです。」 カーンの説明を受けている間も、耳の通信機からは、悲鳴や怒声が聞こえている。 「早く、行きましょう!!」 かえでっちが、みんなの士気を上げるように言った。 図書館の入り口に到着した。 窓ガラスには、赤い血液が飛び散っていた。 「酷い・・・」 かえでっちが、涙目になりながら言った。 さっきまでの威勢はどうした。 俺たちは、ドアを蹴飛ばして、図書室に入った。 中は、争った形跡しか見当たらないと言っていいほど、荒れ果てていた。 JSOの隊員が、何人も倒れている。 床の大部分が赤く染まっていた。 俺は、息を潜めて、机の横にしゃがんだ。 「見たところ、ゾンビはいないようだが。」 俺は、ずんちゃんに静かにするように促した。 ずんちゃんは、俺の隣にしゃがみこんだ。 志穂達は、司書室に向かっている。 俺とずんちゃんは、形的に後方支援になった。 「いた。」 ずんちゃんが静かに言った。 見ると、吹き抜けから見える二階の天井に、異形のモノが、張り付いていた。 向こうは、俺たちに気付いていない。 ずんちゃんは、狙いを定め、シルバーレイを撃った。 白い閃光弾は、ゾンビに着弾すると、その肉体を侵食していった。 ゾンビの体が、内部から炸裂した。 「まず一匹。」 ずんちゃんが言って、 途端、爬虫類の鳴き声が多方向から聞こえてきた。 「まずい、他の奴等に気付かれた!!」 志穂達は、司書室にたどり着いて俺たちを待っている。 「早く!!」 ずんちゃんが先に飛び出し、司書室まで走った。 そのまま、司書室の中に飛び込んだ。 「怜治!!」 志穂が俺を呼んだ。 俺は、立ち上がって、駆け出した。 後ろから爬虫類の声が。 ゾンビってのはそう鳴くもんなのか? 「くそっ!!」 ドアの目前まで来て、俺は後ろ向きになった。 そのまま迫り来るゾンビにシルバーレイを撃ち込んでいった。 バック走行のまま司書室に転倒した。 志穂がドアを閉めて鍵をかけた。 ゾンビの唸り声が轟く。 あん王女が地下通路への階段を見つけて先を進んだ。 地下通路の中は、壁に付けられた松明があり、辛うじて先が見える。 ただ、壁も地面も綺麗な黄土色なのが不思議だった。 削ったら鉱石でも取れそうだ。 司書室から梯子で降りたとき、最初に見たのが、そこの看板。 「ここから先は非常時以外は立ち入り禁止。」 通路を南東に進めば、学校の敷地外、山間部に繋がるらしい。 どうやってそんな距離まで進むのかと思いもしたが、地面を見て納得した。 砂埃を払ってみると、線路があった。 もちろん、電車のではない。 「線路があるってことは、トロッコがどこかにあるはずだ。」 「研究棟までは、北西に600mだ。 そのぐらい歩いていける。」 それでも、楽をしたいのが人間の心理。 地下通路を聞いたときは、鉄作りの物かと思ったが、 これは洞窟と言ったほうがよさそうだな。 歩いても歩いても、地面の色は変わらない。 JSOの隊員は、ここまで来ていないのか、 それとも、ゾンビの集団をもっと先まで追いやったのか。 しばらく進んで、広間に出た。 線路が二方向に分岐している。 『その上が、格技場よ。』 カーンからの通信だった。 かえでっちが見つけた看板を見ると、確かに「under of the colosseo 1」と書かれていた。 道なりに進むと、格技場の地下駐車場に出てきた。 ここは一度見学で来たことがあったが、今までは地面の何本もの溝を見て、不思議に思っていたが、 今日は、その正体が理解できたから良かった。 きっと他の場所からも地下洞窟で繋がっているんだろう。 「いくぞ。」 線路を辿って、進もうとしたとき。 甲高いキーっという音が鳴って、俺たちは凍りついた。 駐車場の車が、突如動き出して迫ってきたのだ。 「危ない!!」 俺は、気がつくとずんちゃんに突き飛ばされていた。 車は、線路を跨いで壁に激突して止まった。 運良く誰一人として車に轢かれることなく、それを回避した。 だが、安心しているのも束の間だった。 車の中からゾンビが出てきた。 「こいつら・・・うじゃうじゃと沸いて出てきやがる!!」 さわちゃんとずんちゃんの銃撃により、四体のゾンビは、そこで消えた。 「おまえたちを始末する為なら、地獄からだって這い出る。」 どこからか、声がして、声の主を探す。 駐車場の吹き抜けから、大きな翼を持った怪鳥が、こちらに向かって飛んできた。 「久しぶりだな。鹿島一樹。」 怪鳥の背中から顔を覗かせたのは、ずんちゃんと戦い、一度敗れた岡山優だった。 「名誉挽回だ。」 怪鳥の姿は、どこかで見たことがある。 あれはプテラノドンだ。 恐竜図鑑に載っていた。 「すぐ追いつくから、先に行け!!」 ずんちゃんは、岡山の乗ったプテラノドンの正面に出た。 「一樹ーっ!!」 あん王女が叫ぶのが早いか、プテラノドンはずんちゃんを捕らえ、 天井を突き破って格技場に舞い上がっていった。 「そんな・・・あっけない・・・」 あん王女は、静かに涙を流していた。 「大丈夫だ。ずんちゃんなら・・・」 励まそうとしたのだろう、言葉が見つからず辛い表情を見せるさわちゃん。 志穂は、それでも冷静に、俺たちの指揮を執った。 地下駐車場を過ぎて、まっすぐに洞窟を進む。 しばらくして、線路が他の道から一本に繋がっている場所に出た。 「おい、トロッコあったぜ。」 さわちゃんは、砂埃を被っていた鉄の箱を見つけてきた。 タイヤもついている。 恐らく、ここで脱線したのだろう。 俺たちは、それを線路に戻そうとしていた。 「どうした?かえでっち。」 かえでっちは、西から繋がる線路の先を見ていた。 「な、何か・・・来る・・・」 かえでっちが言うと、さわちゃんがヘラヘラと笑って、同じく洞窟の先を見た。 「こんな地下洞窟に、わざわざ来る奴がいるか?」 全員がトロッコに乗って、いざ出発と思ったとき。 「これ、どうやって動かすの?」 確かに・・・。 色々と探していると、線路が軋む音が聞こえた。 「ん?」 初めは誰も、気付かなかった。 かえでっちを除いて。 「ほらほら、なんか来るって・・・。」 かえでっちは、いつもの通り焦り始めている。 さわちゃんは、何を見たのか、「やばい」と言った。 「おいおいおいおい!! モタモタするな、早く出すんだよ、車を!!」 車じゃなくて、トロッコな。 「そんなこと言うなら、自分で動かしなさいよ!!」 志穂が、さわちゃんにキレた。 さわちゃんは、必死になっていると、トロッコの後ろに、レバーを見つけたらしい。 「よし、行くぞ!!」 そのとき、俺たちは、かえでっちが恐れていたものの正体を知った。 トロッコで後ろからゾンビ達が向かってくる。 「ようし、動いた!!」 さわちゃんが、歓喜の声を上げる。 だが、ゾンビたちのトロッコを見る限り、距離を引き離してるようには見えない。 どっちかというと近づいている。 「おい、進行方向逆じゃねぇーか!!」 俺が気付いて、声を荒げると、さわちゃんが、絶望した表情に。 そりゃそうだ。 「ちょっと、何しでかしてんのよ!!」 「す、すまん。」 志穂が、さわちゃんの胸倉を掴んでいる。 ゾンビ達との距離が縮まり、最終的にそのトロッコと衝突してしまった。 ガクンとなって、バランスを崩したが、すぐに体勢を立て直す。 「ギッヘッヘッヘッヘー」 目の前にゾンビの顔。 「うひゃあ!?」 奇声を上げながらも、なんとかシルバーレイで撃ち飛ばした。 トロッコがぶつかった時の衝撃で、目的方向への走行を始めてくれた。 「こいつら、腐ってやがる!!」 「そのとおり!!」 以上、俺とさわちゃんの掛け合い。 俺たちは、連結したままの二台のトロッコの上で、銃撃戦を繰り広げた。 ゾンビ達は、トロッコにギュウギュウ詰めになっていたのか、 倒しても倒しても、どんどん襲い掛かってくる。 「うひぃ!?」 かえでっちの悲鳴。 見ると、一体のゾンビが、かえでっちに馬乗りになっていた。 殺されると思ったそのとき。 「来ないで!!」 かえでっちは、シルバーレイを撃ち込んだ。 ゾンビは、光を発しながらボロボロと崩れて、風圧で後ろに飛ばされた。 あん王女も、なんとか応戦している。 志穂を見ると、何故かシルバーレイを使わず、マウスのコードを持って、ハンマーのように振り回していた。 「ええい!!」 マウスのコードに縛り上げられた三体のゾンビは、そのまま締め付けられて、バラバラになった。 「危ない危ない。」 俺たちは、ゾンビ達を撃退し、安心してトロッコに座り込んだ。 「怜治、後ろ!!」 「!?」 志穂に言われて咄嗟にシルバーレイを構えて振り向いた。 が、そこには、何もいなかった。 「だ、騙されたー。」 俺と志穂で笑いあっていると 「ダァー!!」 トロッコの下から、ゾンビが現れた。 「ビックリしたぁ・・・」 俺がシルバーレイで撃ったからよかったものの、安心しきっていた志穂が一番危なかった。 「このまましばらくいけば、研究棟か。」 頭をもたれて、休憩した。 松明の灯りが、蛍光灯の光に変わって、俺たちは立ち上がった。 「どうやらラストダンジョンみたいだぜ。」 「地獄の終着駅の方がカッコいいだろ。」 俺とさわちゃんは、どうでもいい話をしていた。 トロッコは、やがて減速していき、実験室のような所で止まった。 俺たちは、トロッコを降りて辺りを見回す。 「SFチックな研究施設ね。 ここでゾンビが製造されていたとなると、結構冷や汗もんね。」 志穂が言った。 壁も床も天井も、一片の汚れもなく、真っ白な鉄。 タイルの継ぎ目が光っている。 試験管や、ノートパソコン、ハードディスクといった類のものが並べられ、 天井を様々なコードが走っていた。 「見ろよ・・・この数・・・」 研究室の奥を見渡すと、高さ2mにもなるカプセルが、ずらりと並んでいた。 その数は、数え切れないほど。 「ここで・・・ゾンビが作られていたの?」 かえでっちが、一つのカプセルに触れながら言った。 「どうするんだよ・・・」 志穂は、一基のコンピューターに向かって、なにやらうちこんでいる。 「おい、分かるのか?」 「ええ。ここのエリアだけ機能を停止させる。」 志穂がエンターキーを押すと、蛍光灯の電気も、タイルの溝の光も消えた。 辺りが真っ暗になり、カプセルの中の泡も出なくなった。 だが、すぐに緊急作動する機能が働いたらしい。 蛍光灯の光だけは戻った。 「あとは、奴とのケリをつけるだけよ。」 タイミングよく降りてきた大型エレベーターが、チンと到着の音を鳴らした。 俺たちは、シルバーレイを構えた。 戻る