外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第十二話 イエローモンク
エレベーターの扉が開いて、中から出てきたのは、同じ学校の女子生徒。 「ちょっと、こんな所で何をしているの?」 志穂が叱るように彼女に言った。 その女子生徒は、何故だかとても怯えているようだ。 「あ、あの、スイマセン・・・私・・・」 女子生徒の声は、フェードアウトして途絶えた。 さわちゃんが近づいて顔を覗き込んだ。 「ひぁっ!?」 女子生徒は、怯えて引き下がった。 「わ・・・わ・・・わ・・・」 何かを言いたそうに口を動かしている。 決心がついたのか、ぐっと拳を握って、目を瞑った。 「私は、春風みことです!!」 ひとつひとつの仕草が、かえでっちに似ている。 ・・・? 似ている・・・? 「待て、みんな、みことさんから離れろ!!」 俺は声を荒げていた。 「こいつ、敵だ!!」 さわちゃんは、俺を見て呆然としている。 だが、すぐにヘラヘラとした態度になり、春風の前に躍り出た。 「みことちゃんって言うのかー。 それじゃあ、何? どうしてこんな所にいるのかなー?」 ナンパかよ。 それよりも、俺の推理があっていれば、春風は二年生だぞ。 先輩だぞ。 みことちゃんとか呼ぶなよ!! さわちゃんが意気揚々と話し込むと、春風は嫌がっているように見える。 いくら敵とはいえ、可愛そうだな。 「おい、さわちゃん、もうやめろ。」 さわちゃんは、残念そうに引き下がった。 「秋野紅葉がどこにいるのか教えてくれれば、 俺たちは、何もしないよ。」 少しでも紳士的に、少しでも受け入れられるように、俺は優しく話しかけた。 「ひぃ・・・んぐ」 「ひーんぐ?」 「ち、違いますぅー!!」 突然、背中から黒くて長いものを取り出し、俺に向けた。 「怜治、避けて!!」 志穂に言われて、俺は、咄嗟に避けたからいいものの。 「なんでショットガンなんか持ってんだよ・・・」 さわちゃんは、驚きの余り、口を開け放したままだった。 春風は、ショットガンを持った瞬間、動きが変わった。 突如、後ろに引き下がったかと思ったら、こちらを狙って撃ってきた。 「当ったらひとたまりもないぞ!!」 やはり、彼女は敵だった。 今までの傾向と、秋野紅葉の303部員に基づけば、 春風みことはこっちの金田楓に相対すべく呼ばれた部員。 「ひぁぁぁあ!!」 とりあえずエレベーターに逃げ込んだ俺たちだったが、かえでっちが逃げ遅れた。 「かえでっち!!」 俺が叫んで呼び寄せようとしたが、銃撃が激しく、それを避けるので精一杯に見える。 「邪魔者は消えろー!!」 ショットガンを持ってから何かが変わったと思ったら、 どうやら、身のこなしだけでなく、性格まで変わってしまうようだ。 片手でショットガンをテンポよく撃っている。 「失せろー!!」 「うわぁ、こっち撃ってきた!!」 ショットガンの銃口が、俺たちに向けられた。 なんとかエレベーターの端に詰め寄って銃弾を回避する。 壁には大きな穴が開いている。 危なっかしい。 「そいや!!」 その隙を見て、かえでっちがシルバーレイを連射した。 一発として春風の体に命中していない。 どこを狙ってるんだよ・・・。 「ふっ・・・私はこの通り、生きているぞ!! どこを狙っている?」 両手を広げる春風。 「いえ。」 かえでっちが、銃を下ろして、腰に手を当てた。 「命中しました。」 春風は、そこでやっと気付いた。 俺たちも同じく。 春風の周囲にある、溶液が入ったカプセル。 その数本にヒビが入っていた。 かえでっちは、エレベーターを目指して走った。 春風は、カプセルを見て口を開けていた。 「うあああああ!!」 ガシャンとガラスは音を立てて割れた。 室内に溶液が流れ込んで、春風のショットガンは水流に流されてしまった。 「ああ、ショットガンがぁー」 ショットガンを手放すと、やはり、さっきの頼りない性格に戻るのか。 哀れと思いながら、これからの彼女の人生に健闘を祈り、俺は開閉ボタンを押した。 運良く乗り込んだかえでっちだったが「靴下がぁー」とか嘆いている。 溶液に浸かって、靴下が濡れてしまったらしい。 「カーンさん、ここからはどうしたらいい?」 志穂が言った。 通信機に雑音が混じり、カーンの声が聞こえていた。 『研究棟の放送室は、4階にあるわ。 そこまでエレベーターで向かって。 時間がないわ。』 「何かあったのか?」 『ゾンビ達は増え続けている。 こっちの人数は変わらないというのに・・・』 案内板の4の数字が点灯する。 エレベーターの扉が開かれると、目の前はゾンビだらけだった。 「閉めて!!」 かえでっちとあん王女がゾンビを撃ち、俺とさわちゃんは、入ってきた奴を押し返した。 志穂がなんとか開閉ボタンを押し続けているが、ゾンビ達が扉に手を掛けている。 「くそ!!」 さわちゃんが、構え、掌底一撃の元にゾンビをねじ伏せた。 ゾンビは吹っ飛び、エレベーターとの距離が開いた。 「今のうちに!!」 エレベーターの扉が閉まり、なんとかゾンビ達の侵入を防いだ。 安心する暇もなく、ガタンと音がして揺れる。 まさかとは思うがこのまま停電か? 「勘弁してよね・・・」 志穂が天井を見ながら力なく言った。 蛍光灯の光が力を失い、最終的に俺たちは暗闇の中に取り残された。 「暗いー!!」 早速かえでっちが泣き出した。 「パニック映画の定番だ。」 さわちゃんはそう言って、気配を消した。 どこへ逃げたあの野郎!! 「こっちだ。」 声がしたのは頭上。 天井の蓋を外して、エレベーターの上部に乗っている。 さわちゃんは、手を伸ばして、最初にかえでっちを引き上げた。 全員が引き上げられて、ふと思い出す。 「こっからどうするんだよ。」 「まぁ見てろ。そこに通気口に繋がるダクトがある。 そこを這っていけば近道だぜ。」 そんな近道を通っても、どっちにしろゾンビ達との戦いは免れないがな。 「さて、行くぞ。」 最初に、さわちゃんがダクトの中、通気口を目指して這っていった。 俺たちも続いた。 顔の下に、金網を捉えてそこを通して廊下を覗くと、エレベーターが見える。 ゾンビ達は、俺たちがまだ中にいるとでも思っているのだろう。 エレベーターのドアに突撃している。 さわちゃんは、研究に使う一室の通気口を見つけた。 気づかれないよう、網蓋を外して机に置いた。 彼は、通気口からずるりと抜け落ちるようにして、机の上に降りた。 「よし、来い。 余り音を出すなよ。」 言われて、あん王女と志穂が降りた。 その部屋の構造はどうなってるのか、まだ俺には分からない。 「怜治・・・」 さわちゃんに呼ばれてハッとして、俺は通気口から顔を覗かせた。 「机の上に降りるんだ。」 「了解。」 俺は、ゆっくりと、方向転換し、下半身を通気口の外に出した。 あと少しで机に足が着くとき、俺は、意識がふっと途絶えた。 気絶したかと思ったが、俺はただ単に、通気口から落下していただけだった。 「音を出すなと言っただろ!!」 そんなことを言われても、通気口の淵が錆び落ちたんだから俺の所為じゃないだろ・・・。 「来ちまった!!」 ゾンビどものうめき声が聞こえてすぐに、窓ガラスとブラインドを突き破って、奴らが部屋に入ってきた。 俺たちを見つけて、ゆらゆらと向かってくる。 「くそっ!!くそっ!!くそっ!!」 仲間達がシルバーレイで応戦している間、俺は何をしているんだ。 落ちたときにシルバーレイを離れた場所に落としてしまった。 俺はそれを取りに行こうと、床を這って、机の下を抜けていった。 やっとこさシルバーレイを手に取ったという時だった。 「怜治!!危ない!!」 見上げると、さっきまでのゾンビ達よりも一回り大きいゾンビが、機械のモニターをいまにも投げ落とそうと構えていた。 俺はここで下敷きになるのは御免だぜ!! 俺はシルバーレイを向け、ゾンビを撃ったが、ビクリと一度反応しただけで、吹き飛ばなかった。 ここで仲間たちにオサラバとなった俺の人生・・・。 振り落とされるモニターが、俺の死因。 「えぃやー」 かえでっちが叫んで、何本もの閃光が俺の頭上を通過して、ゾンビに着弾した。 どこから撃った? 見ると、通気口に両足をかけてぶら下がっているだけだ。 スカートが重力無視して下がっていないことは昨今気にならぬとして。 ゾンビは、やはりビクリと動き俺との距離を広げただけ。 「まだまだぁっ!!」 かえでっちは、シルバーレイを連射し、ゾンビを退けさせた。 そのまま、資料や機械が並ぶ棚にぶち込まれて、ゾンビは動けなくなった。 「助かったぜ、かえでっち。」 「一発撃ってダメなら、何発も撃ち込む・・・」 かえでっちは、通気口から降りながら言った。 そして棚に食い込んだゾンビにシルバーレイの銃口を向けた。 「それでも不死身って言うなら、仕方ないですけどね。」 かえでっちは、微笑んだ。 目の前のゾンビが、気を取り直し、さぁ目の前の人間を殺そうと、動き出した。 「チェックメイト。」 かえでっちのシルバーレイは、そのゾンビの右目玉を撃ち抜いた。 ゾンビはやっと、光の元に炸裂した。 「行くわよ。」 かえでっちは、シルバーレイの銃口をふっと吹いて、部屋の扉を開けた。 「おい、かえでっち変じゃないか?」 「春風みことと戦ってからだな。」 俺たちは、放送室を探して、迷路のような廊下を彷徨った。 真っ直ぐ進んだり、気まぐれに曲がってみたりしても、どこも同じ景色。 放送室が見つからない。 「おい、気づいたか?」 さわちゃんが言った。 気づいたか、とだけ聞かれても・・・。 蜂だ。 目の前に蜂がいる。 こんな密室のような棟に、どうやって入ってきた? こっちは生きる死人と戦っているというのに、蜂は暢気に飛んでいる。 蜂に罪はないけどよ。 「ん?」 一匹だと思っていたが、蜂は、二匹いる。 「おい、この蜂、おかしいぞ。 なんでこんなところにいるんだ?」 「どこからともなく沸いているな。」 周りを見ると、蜂は、どんどん増えている。 「害を加えなければ襲われることはない。」 と、思っていた。 羽音を響かせ、蜂は縦横無尽に飛び回っている。 そして。 壁にぶつかって爆発した。 「何!?」 蜂は、竜巻のような形に編隊を組んでこっちに迫ってきた。 「撃て!!撃て!!」 シルバーレイを撃つと、蜂は爆発していった。 俺たちは廊下を後退しながら、シルバーレイを撃ち続けた。 蜂は、爆発して、やっと全てが消えたとき。 「おい、ここはどこだ?」 白い金網の上、四角く黄色い線が引かれている。 何もないようだ。 「それじゃあ行くか。」 歩き出したとき。 「危ない!!」 後ろにいたかえでっちが、あん王女につきとばされた。 あん王女の頭上から、巨大なフェンスが現れた。 「これは!?」 巨大なフェンスは、黄色い線の上を走っている。 「ようこそ。 忍者の虫かごへ。」 フェンスの上には、天井もついている。 ちょうど立方体を模った網かごになる。 あん王女は、その中に取り残され、目前には宙に浮遊する――― 「アルストロメリア!!」 アルストロメリアの体と顔は、黄色く塗られていた。 両足だけ、黒と黄色のストライプだ。 「私のアルストロメリアという名は・・・ 学校での名前・・・本当の名前は・・・・・・ イエローモンク。」 彼女は言って、床に着陸した。 イエローモンク。 宇宙探偵ファイブズの一員じゃないか。 それが、何故? 「私の役目は、ジアンナ・メル・ミラージュ・・・ あなたを倒すこと。」 イエローモンクが両手を広げると、その背中から大量の蜂が出てきた。 行き所を失くした蜂は勢いよく壁にぶつかっては爆発していった。 「私のこのパッションハニーは、物に触れた時点で自爆する・・・」 あん王女は、フェンス越しに俺たちを見た。 「行って。」 あん王女の背中から、角のような鱗が出現した。 同様にして、両腕から鋭く大きい刃が出た。 「信じて・・・いいんだな?」 俺が静かに聞くと、あん王女は、コクリとうなづいた。 俺は、その言葉を信じる。 あん王女は、ずんちゃんの無念を思って戦うのだろうか。 ずんちゃん死んでないけど。 そう願う。 「行くぞ!!」 フェンスの隙間から出てきた蜂の爆発に巻き込まれまいとして、俺達は急いでその部屋を出た。 「勝負だー!!ジアンナーッ!!」 「来い!!アルストロメリア!!」 最後に振り返って、あん王女とイエローモンクが衝突したのを見た。 そして、志穂は、ドアを閉めた。 「来たぜ・・・」 目の前を見ると、真っ直ぐな廊下が続き、その奥に「放送室」と書かれたプレートがあった。 そのドアを開ければ、志穂と紅葉の決着がつく。 放送室のドアまでは、何にも襲われずに到着した。 とりあえず警戒は解かない。 「ドアを開けるぞ・・・」 さわちゃんがドアノブに手をかけた。 ここまで、俺と志穂、そしてさわちゃんとかえでっちが残った。 顔を見合わせて、最後の局面、放送室に面を向けた。 俺達が銃を構えて、そしてさわちゃんはドアを開いた。 戻る