外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 第十三話 最終決戦
何が起こっているのか、わからなかった。 放送室に入って、見たものは、倒れたチームパニッシュメント。 ドアを開けた瞬間、苦しみ悶える声が聞こえたから、何かと思った。 その全員が、木刀を握り締めていた。 「こいつら、どうしてここに?」 志穂が、板山明宏の体を揺すった。 「う・・・ぐ・・・」 体のどこかを傷めているようだ。 「おい、チームパニッシュメントは、これだけじゃないだろ。」 「一人、足りないな。」 放送室内は、上階まで広がっていて、吹き抜けから天窓が見える。 スタジオを覗いたが、誰も見当たらない。 「何があったの?」 意識が戻った板山に、志穂が聞いた。 「君たちは・・・ 何故・・・」 「何?」 「早く逃げろ・・・ あいつには、勝てない・・・」 「何があったの?」 「森にある・・・祠に・・・ あそこは安全だ・・・」 板山は、咳き込んだ。 「くっ・・・少し、休ませてくれ・・・」 板山は、床に寝転んだ。 「こいつら、気絶してるだけだぜ?」 「ああ、ゾンビにやられたってわけじゃないな。」 と、なると・・・ 相手が人間、そしてこの研究棟に来たチームパニッシュメントが、 戦闘員の介寺蓮を当てにしているとしたら・・・ この木刀は、こいつらが持ってきた物じゃない。 そして彼らが生きているということは、重火器による攻撃ではない。 「俺は、この手口を知っている。」 俺は言った。 そうだ、木刀は渡されたのだ。 「片山俊介。 俺の敵が、木刀を使う。 しかも、ご丁寧に自分の分プラス、三本用意している。 騎士道精神という奴かな?」 ただ、介寺蓮がいないのと、彼の分の木刀がないのが不思議だ。 「階段があるぞ。」 俺は、螺旋階段をみつけて、皆に教えた。 「これはこれは・・・ ご招待出来なくて残念ね。」 上階から、靴の音が。 ゆっくりと動くそれは、俺達の頭上で止まった。 階段の陰で、顔が見えなくなる。 「ふふふ・・・お楽しみかしら? 秋野志穂さん。」 その声は、秋野紅葉その人だった。 志穂が、むっとして、階段を上ろうとした。 「待ちなさいな。」 階段の床に、何かが落ちて鐘のような音が響いた。 「今、ここで遊んであげてもいいのだけど、 私の願いを聞いてくれるなら、貴方たちの命だけは助けてあげる。」 階段の隙間から、瞳が覗いた。 なるほど、その妖艶な瞳は、人を惹きつける力を持っている。 303部として集められた部員が、なぜ彼女に従うのか分かる。 「私に、あなたの部活・・・ 外宇宙通信コミュニケーション研究部を・・・譲ってくれないかしら?」 志穂が、紅葉の瞳を睨む。 「もちろん、志穂さん以外の部員も、一緒にくれれば私も御の字だわ。 それは嫌なら嫌で構わないんだけど。」 「つまりおまえは・・・」 さわちゃんが、階段を上り始めた。 「通研の名前が欲しいと、そういうことだな?」 「あなた飲み込みが早いわね。 なかなか見所あるわよ。」 さわちゃんは、駆け上がり紅葉に一撃を与えようと、螺旋階段を走った。 くるりと回って、攻撃に転ずるとき躊躇いが生まれた。 「え・・・そんな・・・」 さわちゃんは、驚いて立ち止まった。 一体、何を見たんだ? 「あがっ!?」 物音がして、俺達も螺旋階段を駆け上がったが、 そこに、さわちゃんと紅葉の影はなかった。 五階、ロフト。 さわやかな風が吹くそこは、海の香りは無いものの、船のデッキのような雰囲気。 俺達は、さわちゃんの姿を、そこで見た。 そして、久しぶりに見た介寺蓮は、女子生徒によってクビを掴まれて持ち上げられていた。 さわちゃんは、その前に倒れていた。 「くっそ・・・」 さわちゃんが再び起き上がると、女子生徒は介寺蓮をそこに投げ込んだ。 「うぐっ・・・」 「ぐぁっ・・・」 そこに二人が転がった。 女子生徒は俺達の存在に気づき、睨んできた。 そして、ニヤリと笑った。 「な、なんなのよー!!」 かえでっちが叫んだ。 「お初にかかります。」 俺はその声を聞いたことがある。 それだけじゃない。 思い出せ、鳥羽怜治!! 「どうしました?」 ・・・・・・ 「おまえの正体がそうだったか。」 可笑しくって笑えてきた。 「ははははは!!」 俺の笑い声を聞いて、彼女は眉間にしわを寄せた。 「や、これは失礼。 君を笑ったんじゃない。 自分自身を笑ったのさ。」 そうだ、なんで気づかなかったんだよ。 「角田さあら!!」 俺が叫ぶと、彼女はピクリとした。 「影が薄いクラスメイトというのは、こういうときに便利なのだな。」 「怜治、彼女を知っているの?」 俺は、志穂に話した。 「俺と志穂がレストランに行った夜、覚えてるか?」 「ええ。」 「尾行者がいたよな?俺は不思議だったんだ。 いくら俺を尾行していたとしても、結構な距離離れていた。 それは何故か。それは、簡単だ。 俺に気づかれないためだな。」 目の前の女子生徒は、俺の説明を待って、ニヤニヤしている。 「尾行者がなんで俺の家の前まで来たんだ? と、思ってね。 道を迷わず、どうしてうちにまで来れたのか。 簡単だったぜ。 尾行者が俺んちを知っていたからな。」 「その話、何か関係あるの?」 志穂は、結論を急かした。 「角田さあら。 俺が小学生の頃、君はよく虐めにあってたっけ。」 今度は、俺は志穂ではなく、目の前の女子生徒に話す。 「俺がいっつも助けていたんだ。 そして、クラスの中でも虐めにあわないよう、どんな状況でも自然に溶け込む方法を教えた。 まぁ、簡単に言うと、順応能力って奴だな。」 そう。それが彼女。 角田さあら。 「それを使って、俺の近くに潜んでいたなんてな。 しかもクラスメイトであるのに気づかなかったぞ。」 さあらは、豪快に笑った。 「皮肉ね。 私のことなんか忘れてもよかったのに。」 「残念だが、今回の件で二度と忘れないよ。」 「それで?」 俺は、さわちゃんを見た。 傷は治らないが、体力は回復していると見える。 「澤井太郎。」 俺は、彼を呼んだ。 「なんだ?」 「時間稼ぎしてやったんだ。 礼ぐらいいいな。」 「そりゃどうも。」 俺とさわちゃんは、手を高く上げて、ハイタッチした。 「こいつは、おまえの敵だ。」 「無責任だな。」 「どうせおまえも、『こいつは、俺の敵だ』って言うだろ。」 「ふん。 いいご身分だな。」 さわちゃんは、倒れている介寺蓮をどかした。 ひでぇ。 「舞台は整ったぜ。 第二ラウンドとしゃれこもうぜ、角田流古武術!!」 「君の流派は、澤井流空手かな?」 さわちゃんとさあらが対峙する。 角田さあらがどうして親衛隊を集めたのか判った気がする。 どんなに成長しても、心のどこかでは、あの虐められっこのままだったのだ。 「さぁ、行こうぜ。 俺達の敵の元へ。」 俺と志穂とかえでっちは、その場を後にした。 ここで決着が着く。 五階ロフトから、はしごを上り、屋上に上がった。 そこは意外にも広かった。 ここにもヘリポートを用意できるんじゃないのか? 二基ほど。 「ずっと、思ってたんだ。」 屋上の淵で、両手を広げて、空を見ている女が一人。 恐らくそれが、秋野紅葉である。 そして、その隣にいるのは、俺達を警戒して睨んでいる片山俊介。 「妹のあんたより優れているはずの私が何故、こんな目にあっているのかって。」 そして、秋野紅葉は、こちらに向き直った。 「嘘だろ・・・?」 俺は、驚きの余り、声に出してしまった。 恐らく、さわちゃんは、彼女の顔を見て驚いたのだろう。 杜若志穂と全く同じ顔なのだ。 「私は、絶対あんたを許さないから。」 制服を脱ぎ始めた。 って、何をしてんだよ!! こんなところで脱ぐな!! 「この傷、覚えてるわね?」 右肩から胸にかけて、火傷の跡があった。 「この傷も、あんたがいなければ出来なかった傷なのよ。」 「違う!!」 俺は、叫んだ。 「そんなことないんだ。 双子の姉妹だからって、どっちが優れてるとか、劣ってるとか・・・ そんなことないんだ!!」 「怜治・・・?」 俺は、志穂を守るようにして、前に出た。 「俺は二人に何があったか知らない。 だけど、もう二人は、自分で色々できる年だろう!?」 そして、次に言ったことが俺の学生生活一番の失言である。 「いい年こいて、姉妹喧嘩とか、やめろよな!!」 言った途端、紅葉は眉間にしわを寄せて、手に持った何かを振った。 俺は咄嗟に顔を横にずらした。 「うっ!!」 右肩に痛みが走った。 なんだ、何をした? あの距離から、俺にどうやったら攻撃できる? 俺達が持つ重火器と同じように、飛び道具を使っているのか? 「くそっ!!」 俺はシルバーレイのトリガーに指をかけた。 その一瞬、紅葉が手を縦横に振った。 その瞬間、俺のシルバーレイは、弾き飛ばされていた。 見ると、腕には細いチェーンが巻きついていた。 「なんだ?」 腕に巻きついたそれを、剥がそうと指をかけた。 が、腕が引っ張られ、前にずっこけてしまった。 俺としたことが・・・。 「俊介!!」 「なんだ?」 紅葉が俊介に話しかけた。 その時、俺の腕に絡み付いていたチェーンが消えていた。 「俊介。 あなたはクビよ。」 言われて驚いたのは俺達。 クビ、それは303部からの退部を意味する。 ここまで来てクビか。 俊介は、驚きもせず、それを聞いていた。 「聞いたわね。」 紅葉は、俺達に言った。 「こいつはもう、私とは関係ないわ。」 だから、俊介だけは逃がしてやってくれ、と。 そういう意味だろう。 「俊介。 あいつらはもうあんたには干渉しない。 私がさせないわ。 だから、帰りなさい。」 紅葉に言われて、俊介はしばらく考えた。 そして、口元をゆがませた。 微妙に笑っているのだろうか。 「いやだ。」 「な、なんで!?」 「俺はもうクビなんだろ? なら、俺は別にあんたの命令を聞かなくてもかまわないって、 そういうことだろ?」 「・・・呆れた。」 紅葉と俊介は、俺達を見て、微笑した。 「さぁ、決着をつけようぜ。 鳥羽怜治。」 俺は、俊介の投げた木刀を手に取った。 「かえでっち!! どっかに隠れてろ!!」 「はひぃ!?」 俊介が突撃してくる。 俺は、彼の一撃を捌きながら後退していった。 かえでっちは、俺の背後であたふたしている。 邪魔だからそんなところで迷わないでくれ。 「くらえ!!」 紅葉が俊介の背後から、何かを投げた。 今の俺には、それが何かを理解できた。 分銅だ。 細いチェーンの先に取り付けられた重石が、俺の顔面めがけて飛んできた。 「はっ!!」 志穂が俺の前に出て、どっから出したか分からぬキーボードでガードした。 あいかわらず、機械を叩き壊すだけしかしないんだな。 「援護しなさい。」 志穂は言った。 「足引っ張ったら許さないんだからね!!」 俺は、彼女の笑顔を見て、決意した。 こいつと、一緒に歩いていこうと。 「ああ。」 俺は返事して、志穂の横から俊介に攻撃した。 「まだ、躊躇いが見えるぞ!! 鳥羽怜治!!」 「うるさいっ!!」 俊介を弾き飛ばして、木刀の切っ先を彼に向けた。 「はぁっ!!」 綺麗に、それは自慢するほど綺麗に突きが決まった。 はずだった。 「くっ・・・」 俺の腕には再び、チェーンが巻きついていた。 腕が固定されて、動けない。 目の前には木刀を振り上げた俊介。 「手元注意よ。」 「あ!?」 今度は俊介の腕に志穂のマウスコードが巻きついていた。 「今よ!!怜治!!」 「おうっ!!」 俺は、振れない木刀を逆手持ちにして、その柄を俊介の腹部に突き入れた。 「ぐふぁっ・・・」 「はぁっ!!」 まだ動くほうの腕で掌底を叩き込み、俊介を弾き飛ばした。 そこで油断したが為、紅葉の攻撃に気づくことが出来なかった。 紅葉は、倒れた俊介を飛び越えて、俺に奇襲をかけてきた。 「ああああっ!!」 その手には、中華包丁。 どっから持ってきたんだよ!! 紅葉の中華包丁は、俺の脳天に振り下ろされた。 「死んだな、俺・・・」 悟った瞬間に、俺は無意識に目を瞑った。 何故か、清清しいほどいい気分だった。 さようならだ、みんな。 ・・・・・・ ・・・あれ? 俺は、目を開けて見た。 どうやら俺は死んでいないようだ。 志穂が俺を守ってくれた。 キーボードで中華包丁をガードしながら、 またどこから取り出したか分からぬ・・・ナイフを、紅葉の腹部に刺していた。 「うあああああっ!!」 紅葉は、そこに崩れるように倒れた。 「うぐっ・・・ああああ!!」 紅葉は、酷く苦しそうに叫ぶ。 「静かにしろ・・・ あんたに刺したナイフに殺傷性能は、ないと言っていい。 死ぬことはないよ・・・。」 志穂が言ったと同時、その手に持ったキーボードが綺麗さっぱり真っ二つに切れた。 割れたのではなく、切れた。 「うっ・・・」 その手から、血がポタポタと垂れている。 中華包丁をキーボードだけでは防ぎきれず、腕を傷つけてしまったのか。 「いってぇー!!」 志穂は叫んだ。 「怜治!!怜治!! 痛い、痛いんだよ腕が!!」 「あ、ああ。」 俺は、映画で見たのを真似して、シャツをちぎって、志穂の腕の止血をした。 傷口は、見た感じでは深くはない。 だが、止血しないと出血多量で死に至る恐れもあるな。 『あのー、生きてますかー?』 耳元で声が聞こえて驚いた。 志穂も同じようで、ビクッと体を震わせた。 ああ、カーン・・・ 「生きてるよ・・・。」 『楓さんが、コントロールタワーを停止してくれたわ。 全てのゾンビが機能を停止しました。』 俺達が振り返ると、そこにコンピューターにつなぐプラグを持ったかえでっちがいた。 『手柄は全て彼女の物ね。』 「全くだ。」 そしてその後、俺達は、JSOに保護され、そして紅葉と俊介は別の車両でつれていかれた。 恐らく、今回の事件の犯人として、JSOに色々と探られるはずだ。 そこでどうなるかで、ブタ箱へ行くか行かないかが決まる。 JSOの救急車の中、俺は志穂に寄り添っていた。 「少し、眠ってもいい?」 「ああ。」 志穂は、眠りについた。 彼女の手は、俺が握っている。 最初に俺を誘ってくれたのは、杜若志穂だった。 そして俺は、かえでっち、ずんちゃん、あん王女と会うことができた。 俺は、彼女に感謝している。 俺の成長において、そして人生において彼女は、どれだけ大きな影響を残したのか。 そして、これからも・・・・・・。 戻る