外宇宙通信コミュニケーション研究部 学園編 最終話 二人は。
「起きて。」 俺は、何かの声に過敏反応してバッと飛び起きてしまった。 「痛っ!!」 何かと俺がぶつかって、それは床に転がった。 誰? 俺は、来月、二年生になるということで、一人暮らしを始めた。 だから、俺以外の人間が、ここにいるとなると、彼女しかいない。 「もー。 そんなに飛び起きなくってもいいじゃん。」 彼女は、言った。 「泥棒と勘違いでもしたわけ?」 「ちょっとな。」 「もー。」 彼女は、あの事件から髪型を変えた。 今までのツインテールからストレートに。 同じ容姿の姉が嫌いだからって、髪型を変えた。 結局、彼女は双子の姉との間にあったことは、何も話してくれなかった。 「そんなこと言ってると、本当に襲っちゃうぞ?」 「ふ、ふん。」 恥ずかしいこと言うなよ・・・。 「で、なんだ?」 「なんだ、って?」 「合鍵を渡したからとはいえ、 今日はなんのために来たんだ?」 いつもならここで、ドイツ語で叫んで俺の鳩尾あたりにキーボードがつっこまれるはずだった。 「用がなきゃ、来ちゃダメなのー?」 彼女は、妖艶に笑む。 仕草の一つ一つが可愛い。 彼女は、立ち上がった。 制服姿。 「おい、なんだ? コスプレでご奉仕してくれるのか?」 「そうじゃなくて!! 今日は休日とでも思ってるの?」 俺は、口をポカーンと開けて、それからデジタルカレンダーに目を向けた。 「いーや、今日はあれだよな?ほら、あれの日。」 「なんだか言い方が気に入らないわ・・・」 「ほら、終業式だろ?」 「分かってるならいいけど。」 本当は今、思い出した。 彼女は、俺の布団を片付けてくれた。 「ほら、さっさと着替えて。 それとも着替えさせて欲しいの?」 彼女は、ニヤリと笑って俺の制服を取った。 「ああ、頼む。」 「え?」 俺がなんの冗談っ気もなく、真面目に言ったもんだから、驚いちゃっている。 「え、ええええ!?」 叫ぶな。 一人暮らしとはいえ、アパートだ。 隣人とのいざこざは招きたくない。 「い、いいわよ? じゃあ着させてあげる。」 彼女は、深呼吸して、俺のパジャマに手をかけた。 まずは上半身を脱がしてもらった。 「結構筋肉ついてるのね。」 俺の体を触っている彼女。 さっさとしないと遅刻するのではないか? だから君は俺を起こしに来てくれたのだろう? 「じゃあ、下、脱がすわよ。」 そして今度はズボンに手をかけた。 その状態のまま、深呼吸をしている。 「あの、やっぱり自分でやる」 「いいって!!」 俺と彼女は、同時に立ち上がろうとした為に、足をつまずいてしまった。 「ああっ!!」 「ん?」 俺は、畳の上に寝転がっていた。 そして、俺の上に彼女が乗っかっていた。 「・・・」 俺と彼女は、見つめ合って、そのまま動かない。 いや、彼女は少しずつ俺に近づいて、キスしようとした。 「!!」 二人して同時にビクッと起き上がったのは、携帯電話の着信音の為。 どうやら彼女の携帯電話が鳴っていたようだ。 「ごめんね。」 「いえいえ。」 と、一言かわしてから、彼女は電話に出た。 どうやら彼女のクラスメイトと話しているのだろう。 俺は、彼女の電話中、パジャマ姿から制服に着替えた。 時計を見ると、案外普段通りの時間で、張っていた気が抜けてしまった。 「朝ごはん、どっかで食べていく?」 どうやら電話が終わったようだ。 それほど長く話してなかったようだ。 「そうだね、どこで食べていく?」 俺は逆に提案してみた。 質問に質問で返答する、邪道といえど、恋のスタートラインを越えて走り始めたばかりの俺達には、 それ以外のしっくり来る答えがなかなか見つからなかった。 「いいところ知ってるの。」 彼女は、意味深な笑みを見せて言った。 俺は、準備を済ませて、引き出しの中から今日のために用意した小箱を取って、玄関口に出た。 彼女も一緒に、俺の隣に並んだ。 ドアを閉めて鍵をかける。 アパートから一歩外に出ると、そこは一面真っ白な世界。 そして何よりも、寒い。 「もー」 俺がぶるったのを見て彼女は、俺に近づいてきた。 確かに寒いといえど、俺は上着を着ている。 だから、我慢できない程じゃないし、学校までそれほど時間がかかるわけじゃない。 「ほれ。」 彼女は、首に巻いてあったマフラーを半分解いて、俺に巻きつけた。 肩が自然に、触れ合う。 「これ一本しかないから、我慢して。」 「あ、ああ。」 恥っずかしーい一場面を、雪の降る朝に。 朝っぱらからこんな熱くて大丈夫なの?俺? 学校に行く前に、俺達はイタリアンレストランにいった。 そこは、俺が以前、彼女に奢った場所だ。 いいところ知ってるって、このことだったのか・・・。 「今回は、私が奢ってあげる。 ただ、給料日前だから・・・その・・・」 「分かってるよ。 朝っぱらからそんないっぱい食わねぇーよ。」 「うん。ありがとう。」 椅子に座って、メニューを見る。 隣同士に腰掛けて、メニューが二つあるのにも関わらず、二人一緒に見ていた。 自然に、俺達の肩はくっつく。 「俺これにする。」 「じゃあ、私もそれにする。」 「じゃあって何だよ。」 「怜治と一緒のがいいから。」 俺達は、店員にその旨を伝えて、水を飲んでいた。 「なぁ、俺と初めて会ったとき」 「部活を作ろうとしてたとき?」 「そうそう。 そんとき、俺を見て、どう思ったんだ? どうして、俺の部活に目をつけた。」 彼女は、今までと一変して、真面目な表情になった。 「なぁにぃ、『一目ぼれ』とでも、言って欲しいのー?」 「いや、違っ」 「このこのー、青春だなー。」 「じゃあ、もういい。」 俺は、彼女から顔を背けた。 「面白そうだったから―――かな。」 彼女は、ふっ、と微笑んで言った。 「熱心に部活を作ろうと動いていた怜治が、 私の目には、真っ直ぐ努力のできるいい人に見えたのかも。」 「そうか?あ、いや、そうだな。 以前の俺はそうだった。」 「私はそれを利用しようとした。」 悪巧みかよ!! 「最初は、面白半分暇つぶしのつもりだったんだけど、 あれから色々あって、あの仲間達と、一緒にいたいなって、思った。」 店員が、料理を運んできた。 こちらでよろしいですね?とか事務的な会話を済ませてさっさと行ってしまう。 高級レストランでもないから、それほどいいサービスを期待しているわけじゃないんだけどな。 「結局は、廃部になっちゃったけどね。」 「そうだな。」 考えてみれば、たった一年だけの活動だった。 事件の後、その発端を潰したとは言え、問題をいくつか残したままだったのだ。 あのあとキッチリ、部長会議に俺が代理で出席したんだが、部の存続は認められなかった。 「ごめんね。私の所為だよね。」 俺達は、料理を食べ始めた。 「私が、いけなかったのかな。」 「そうだな。 でも、一年間だが、君のおかげで、楽しいことがいっぱいあったじゃないか。」 彼女は、頷いた。 「じゃあ、後でね。」 「おう。」 俺は、一年の教室前で彼女と別れた。 彼女は自分の教室に向かった。 さてと。 一年生も今日で終わりか。 成績表と修了証書をもらって、後夜祭でハメ外して盛り上がる。 素晴らしいな。 ただ、ハメを外しすぎても先生に怒られるだけだ。 見つからなければいいんだがな。 「うぃーっす!!諸君!!」 俺は叫んで教室に入った。 クラスメイトが、笑顔で出迎えてくれた。 「ハッ!!大臣、今お迎えに上がろうと思ってました!!」 「よい。余も貴公への連絡を怠った。」 ふざけた会話。 こいつらとは、できれば同じクラスになりたくないな・・・。 いい奴等だが、こいつらの巻き添え喰って安藤先生に何度も叱られた。 「殿、こちらの方はどうなっているんで?」 小指を立てて寄ってきた奴は、将棋部のエース、真田麻一。 「九ヵ月後には三人暮らしだ。」 言った瞬間、教室内が凍りついた。 冗談だよ馬鹿!! 「冗談・・・だろ?」 「ああ、冗談だ。 ちょっと早い、エイプリルフー」 言いかけた所、周囲からの筆記用具の集中砲火。 「わ、やめろ!!」 女子達の逆鱗に触れてしまったらしい。 「おい、そんなの投げたら危ないって!!」 飛んできた黒板消しの角が眉間に当った。 綺麗に垂直入ったぞ。 「おはようございます。」 担任教師が入ってきて、何事もなかったように皆は席に着く。 俺も急いで席に戻った。 「今日は、終業式です。 みなさん、式中は騒がないように。 それと、成績表に間違いを見つけたら、安藤先生の所へ行って下さい。」 間違いがあっても行きたくないな。 ・・・・・・行くけどさ。 「それじゃあ成績表を渡します。 名前順に呼ぶので取りに来てください。」 そして、名前を呼ばれて、教卓の前に並ぶみんな。 俺は、ボーっとして、窓の外を見ていた。 今、二年生も成績表を配っているのだろうか。 俺も、自分の成績表をもらって、席に戻った時、数人の悪友と麻一が寄って来た。 「なぁなぁ、成績どうだったよ?」 「俺は英語が5だった。」 「いいなー。俺、ひとつも5ないよ。」 「選択は、どうだった?」 「俺は、商業基礎。好きこそ物の上手なれってなことで、5だぜ!!」 「おいおい、俺は真面目にやった声学が4だよ・・・。」 「数学が2とか・・・おまえ偏りすぎじゃね?」 「ああっ!!勝手に見るなよ!!」 など、俺の周りで話している。 「で、怜治はどうだった?」 「ふん。庶民共が。」 俺は、全ての教科の評価が5の成績表を見せた。 もちろん、人のじゃなくて俺のだ。 「どうだ。」 「うーわ、勉強馬鹿がいるよ・・・」 引かれた。 「何故だ!!俺は納得行かない!! 今まで、俺達と遊んでたじゃないか!! いつ勉強した!?」 「勉強はしてなくても、やることやって、出すもん出してれば、 ここまで出来る。 ただ、科目別評価はBばっかりだけどな。」 「本当だ・・・。」 「おまえらも二年生になったら精進しな。」 成績表が全員の手に渡った時、先生が黒板に何かを書き始めた。 「The person who doesn't fight is a foolish person. The person who fights is a brave person. The person who need not fight is a wise person. 」 先生は、それを抑揚のある発音で言った。 英語担当でもないのに、結構上手かった。 「これの意味が分かる奴。」 女子の一人が手を挙げた。 「抗わない者は、愚かな者。 抗う者は、勇敢な者。 抗う必要がない者は、賢い者。 ですわ。 近現代に活躍した作家、ロイ・ニルツ・シクニールの名言ですわ。」 「正解だ。」 先生は、Roy Nilz Sekuineelと、書き足した。 「じゃあ、このロイ・ニルツ・シクニールの逸話、知っているか?」 「し、知りませんわ。」 「彼は、文壇では、天使という二つ名を持っていた。 そして、世界の謎でもあるのが、彼の国籍だ。 公式ではイギリス人とされたが、日本人であるという記録も残っている。」 そこで、真田が笑った。 「ああ、パトリック・ラフカディオ・ハーンの逆みたいなもんだな。」 「そうだ。」 パトリック・ラフカディオ・ハーン。 イギリス人の新聞記者で、英語教師として来日し、小泉節子と結婚して小泉八雲と名乗った。 彼の本はもう二度と読まないと誓った。 思い出すだけでぶるっちまう。 「この名言から学べ。 そして誓え。 どんな窮地に立とうとも、抗わないという選択はするな。」 先生が言ったと同時、授業終了の鐘が鳴った。 「よし、体育館に移動するぞ。」 俺は、悪友たちに唆され、終業式をバックレることにした。 そして、定休日のカフェの前で後悔した。 「なんで閉まってるんだよー!!」 そりゃそうだろうよ、サボる生徒が出ないように、カフェを閉めておくと、教師が言っていたはずだ。 それを忘れていた悪友達も、誰か一人ぐらいは覚えておけ。 「これからどうすんのさ。」 俺は聞いた。 こいつらの所為で、俺まで行くところがなくなった。 ・・・実を言うと俺も、カフェが閉まっていることを忘れてた。 「仕方ない。教室で待ってようぜ。」 それも賢い選択とは言えないな。 後で先生に怒られるのがオチだ。 「あ」 俺の携帯電話がブルブルと震動した。 どうした、寒いのか、とか自分でもつまらない妄想をしながら、取り出した。 「先に行っててくれ。」 「あいよ。」 ディスプレイには、先日、携帯番号を交換した杜若涼子さんの名前が出た。 俺は、悪友達が行ったのを見計らって、カフェの陰に隠れた。 「はい、もしもし。」 そして電話に出た。 『こんにちわ。今日は終業式ね。 サボっちゃダメよ?』 「サボってませんよ。」 『じゃあなんで電話に出れるのかな?』 「今は式中じゃないんで。」 このぐらいの尋問を回避するぐらい、容易い。 『嘘つけよ。 カフェ前で駄弁ってたのはどこの誰だ。』 涼子さんは、笑った。 ちょっと待て、どっから見てるんだよ!! 『おっと、あんたからは私の姿は見えないわよ。』 「ステルスか?」 『残念。』 俺は、ならば、と思って、辺りの高層ビルを見回した。 まさか、な。 そんなところにいるわけないよな。 『お、勘がいいねー。』 屋上の方で、粒のような一点がキラリと光った。 いたよ。 『今日は、仕事でね。 ここでマトリオシカの要人を狙い撃つ。』 「またマトリオシカですか。」 『ああ。 それと、今頃、体育館じゃ、黒吾耶先生の離任式じゃないかしら。』 「え?あの先生やめちゃうんですか?」 『マトリオシカ撲滅作戦が発動されて、各惑星から連合軍が募られた。 それならということで、探偵稼業に戻るそうよ。』 探偵稼業・・・宇宙探偵ファイブズか。 何故、俺たちにそれを報せなかったのだろうか。 『これから始まる連合軍とマトリオシカの戦争・・・ そしてその果て・・・』 「何を言い出すんですか!! 俺たちも戦争に巻き込まれるような言い方して!!」 『んにゃぁ、そんなことはないよ。 地球からは遥か遠い、ガルティ・ウス星近辺での戦争だから。 ただ、地球にも関連した犯罪が横行するかもね。』 なんて人だ。 俺にこれを言わせたいのか。 「くそ、引っ掛けたな・・・」 電話の先で、涼子さんは、笑った。 「俺に何をしろって言うんだ。」 『ふふ、今回の任務は、失敗は許されないわよ。』 簡単に言うなよ・・・。 それに、俺みたいな一般人にそんな大役任せるな。 『私の妹の護衛。 それと、彼女を絶対に幸せにすること。』 「へ?」 『お二人とも末永くって、そういう意―――』 俺は電話を切った。 さてと、教室に戻ろう。 終業式も終わって、放課後の下校時刻が来た。 「後夜祭だぜ!!」 「叫ぶな馬鹿!!教育指導の安藤に聞こえたらどうすんだ!!」 「あ、ごめん・・・」 馬鹿か、こいつら、第三体育館までスキップで行く気だ。 俺の気持ちは、こいつらとは違う。 まぁ嬉しいには嬉しい。 今夜は夜通し楽しもうってことは、みんなと同じだ。 ただ、俺は志穂に会うのが一番の楽しみだ。 「おい、怜治、おまえもスキップしろよ。」 「小学生かよ。」 「冷たいねー・・・」 「・・・」 俺は、フッと鼻で笑って、足を大またに広げて、両腕を後ろに構えた。 そして、体勢を低くして止まった。 「おまえら、スキップが全然なっちゃいねぇ。 俺は、『おまえらのスキップは小学生だ』って意味で言ったんだ。」 明らかに違うよな、とツッコミを入れる悪友たち。 「俺のスキップを見ておけ!!」 俺はそう言って、ピョンピョン跳ねながら第三体育館へ向かった。 後で「あいつ馬鹿じゃね?」と言っていた悪友は絞めといた。 後夜祭会場である第三体育館の、特設ステージには、軽音部のバンドが立っていた。 色とりどりのライトが彼らを照らす。 「今日の後夜祭は楽しもうぜ!!」 ボーカルの男性が言って、聴衆もそれにノッかる。 こういう雰囲気は嫌いじゃない。 俺は、ここに到着してから志穂の姿を探した。 学校の修業時間を過ぎているので、制服を脱ぎ捨て私服に着替えた生徒達が、体育館の中で踊っている。 体育館の中央には、テーブルが置いてあり、そこには普段、カフェにある料理が並んでいた。 パーティ会場のボーイみたいな格好をした人が、ワイングラスをトレーに乗せて歩いていた。 待てよ、こいつら、未成年。 字足らず。 「おい、ワイン飲もうぜ!!」 馬鹿野郎。 「これ、ワインじゃねぇー!!」 ? 「これは、ただの炭酸じゃねぇーか!!」 「こっちは、グレープ味、こっちはオレンジ、こっちはパッションフルーツ!!」 「ああ・・・なんだ、酒じゃなかったのか、よかったよ。」 俺は安心した。 「なんだ、怜治。 この期に及んで奇麗事か?」 悪いかよ・・・。 いや、悪かったな・・・。 そのとき、ちょんちょんと、俺の肩を誰かがつついた。 俺は、振り返った。 「うぉ・・・」 俺は、その美しさに、驚きの声が出た。 そこには、杜若志穂がいたのだ。 ただ、朝会った時とは違って、白いドレスに身を包み、化粧も万全にしてきている、フルカスタムシホだった。 これは可愛い。 可愛すぎる。 「怜治。こんばんは。」 「こ、こんばんは。」 俺は、言葉に詰まった。 何せ、これは、ねぇーよ、ずるいよ、俺は制服だよ。 「おま、おまえ、それは・・・」 「何?ドレス、似合わない?」 「いやいや、まさか。」 熱い熱い!! 顔が熱い!! 「おまえが可愛いから、俺の顔が熱いんだよ!!」なんて言えるわけがない。 さて、どうしたものか。 「うっひょー、何この美人!! 怜治の知り合いかよ、このおませさん!!」 悪友の一人が弾けだしたので、他の仲間が彼を抑えて、俺と志穂の前から去っていった。 「あ、ボーイさん。」 俺は、丁度いいところに現れたボーイさん(格好だけ)を呼び止めた。 二つのグラスをとって、片方を志穂に渡した。 「確か、グレープが好きだったよな。」 「よく知ってるわね。」 「綺麗だよ。」 言ってみた。 「綺麗だよ。志穂。」 「あ、ありがとう・・・」 彼女の照れて俯く仕草も可愛い。 一年前とは大違いだな。 「ねぇ、外、出ない?」 「おう。どこ行くんだ?」 「中庭庭園。」 「いいのか?そのドレスが汚れちまうぜ?」 「少しぐらい平気。」 志穂は、俺の肩に頭を寄せてきた。 「じゃあ、行こうか。」 そして、俺たちは第三体育館を抜けた。 中庭庭園は、第三体育館と病院棟の間にある。 体育の授業や、運動部の人が大怪我をした後のリハビリのためにも、 その庭園は使われている。 結構広く、奥に森があるが、いってみたいとは余り思わない。 俺たちは、庭園のベンチを見つけて、そこに座った。 周りのベンチを見ると、他にもカップルがイチャイチャしていた。 恥ずかしいとは思わんのか!! 「あ」 志穂は、気付いた。 「持ってきちゃったね、ワイングラス・・・」 「ああ。」 俺はさっきから気付いてた。 「飲もうか。」 「うん、飲もう。」 グラスをぐいっと傾ける。 炭酸のグレープ味が、舌にいい刺激をもたらしてくれる。 降り積もった雪に、月光がいい具合に乱反射している。 あ、乾杯って言うの、忘れた。 「怜治、私は、怜治と会えてよかったよ。」 「なんだよ、その別れ際みたいな挨拶。」 「違うよ。ちゃんと聞いてよ。 最後の最後は、これからもよろしく的なオチだから。」 俺は、志穂の話を聞いた。 その話は、俺のいい所や、悪い所、カッコいいと思ったり、可愛いと思った仕草。 恥ずかしい話も聞かされた。 初めて出会ったとき。 部活を作ったとき。 みんなで星を見たとき。 宇宙に出て、悪の帝王を倒したとき。 文化祭で、占いの店を開いたとき。 冬休み、スキーにいったとき。 地下帝国の牢獄城を叩いたとき。 休み明けの作文を書いたとき。 303部、そして秋野紅葉を倒したとき。 通研が廃部になって、志穂が初めて泣いたとき・・・ 思い出の回想話だ。 色んな思い出を語って、最後に志穂は、こう言った。 「私とずっと、一緒に・・・いてくれますか?」 ドキッとした。 こっちからしでかすつもりだったのに・・・。 「えっと・・・」 「ダメ?」 俺は、アパートから持ってきた小箱を、ポケットから取り出した。 「志穂はずるいよな・・・ そうやって勝手にドレスだって持って来て、着てるし、 俺が言おうと思ったことも先に言うし・・・。」 俺は、小箱を渡した。 志穂は、それを不思議そうに見て、手の上で開いた。 俺の今の言葉、滅茶苦茶恥ずかしい。 恥ずかしすぎて死ぬかと思った。 「こ、これ・・・」 それは、指輪。 志穂は、左手の薬指にそれを嵌めた。 その嬉しそうな顔を見て、俺まで嬉しくなってしまう。 「あ、雪・・・」 志穂が言ったので、俺も一緒に上を見る。 白い粉が、静かに、少しずつ、地面にゆっくり落ちてきた。 「ずっと一緒にいような、志穂。」 俺が言うと、志穂は、俺の肩に頭を乗せてきた。 俺は彼女を見る。 「うん。」 頷いて、彼女は目を閉じた。 戻る