お兄様は元ヒーロー 第2話 ストライプガール誕生②
病院からいきなり飛び出してきてしまったものの、 これから行く当てもないし、行く気もない。 帰るか・・・ あたしはそう思っていた。 あたしがからっぽになり、無意義に歩いていると、 後ろから誰かが飛び込んできた。 その勢いであたしもそいつもいっしょに倒れた。 -危ないじゃないか・・・- そいつは、あたしの同級生の男だった。 どうやら、横断歩道を信号無視していたらしい。 大きめのトラックが通り過ぎていった。 -あと少しで轢かれるところだったんだよ!- あたしは、からっぽ・・・ あたしは彼の顔を見ることしか出来なかった。 喋ろうとしても声も出せなかった。 異常だ。 精神的な病気で声を出せなくなることもあると聞くが、 そういうのじゃない。 ちゃんと喋ろうと思えば喋れる。 あたしには、喋る気がないのかもしれない。 疲れているんだ・・・ -帰るんだったら言ってくれれば、送ってったのによ- -ごめん・・・- 病院にいた時は気がつかなかったけど、 彼はいつから兄の病室にいた? あたしは焦っていて、気がつかなかっただけなのかもしれない。 -ほら、立って、いくぞ- 彼が先に立ち上がって、手を差し伸べた。 -あ・・・- 手を握ると、その暖かさが腕から持ち上げてくれるように、 そんな感覚があった。 あたしと彼は歩き出した。 あたしの家に向けて。 -なぁ、俺の祖母に会ってみないか?- 彼にとっさに言われたことなので、 意味がわからなかった。 -俺の祖母はさ、夫を亡くしてから、大切なものを 奪われた人に癒しをあたえている- -カウンセラーなの?- -一言でまとめればそうだな。でも、会えば驚く。- 今、こんな状況でそんなことをする気力すらないってのに、 彼のそういう押し通す性格であたしは連れて行かれた。 とりあえずあってみようと思った。 今、あたしが冷静でいられるのも不思議だ・・・ なぜだか、彼の祖母に会うのを楽しみにしているような感じがある。 なんだか不思議だ。 数分歩いたところで、彼の家に到着した。 ちょっとまっててとリビングに招待された。 彼は、どこかへ行ってしまった。 おそらく、その祖母を呼んでくるのだろう。 -あら、お客さんかい?- リビングのソファーに腰を掛けようとしたとき、 おくから老婆が現れた。 おそらく、彼女が彼の祖母だろう。 だが、彼は家中捜し歩いている。 2階で足音がする。 -うるさいだろ?あの子はいつも私を探して走っているのさ。- 2階から、彼が下りてきた。 -ごめん、いなかった・・・あれ?- 彼は祖母を見て驚いた。 -ほら、お客さん待たせちゃダメ。- -おばあちゃん、どこにいたの?- -あなたが2階に行くのがわかっていたからここで待っていてあげたの。- -いや、だったら2階で待っててくれれば・・・- -あら、いけない。すいませんねぇミルトスさん。- -あれ?おばあちゃんもうシェリーと話したの?- 彼の祖母は、頷くと同時に そのまま奥へと消えるように去っていった。 驚いたのは、あたしの名前を知っていたこと。 シェリー・ミルトス それがあたしの名前。 彼が話したという考えも出来るだろうけど さっきの会話じゃなんで知っているの、と言ったみたいだ。 -おばあさん、なんで私の名前を知っているの?- -え?・・・あ・・・やっぱり- -やっぱりって?- あたしは首を傾げて聞いた。 -俺の祖母は、不思議なんだよ、いろいろと- -あ、そう。- なにが不思議なんだかと、思ったが、 触れないでおいた。 -あ、いまちょっとコーヒーもってくるよ- と彼が言った時、彼の祖母がトレーにカップを ふたつ乗せてやってきた。 -はい、どうぞ。- テーブルにカップがふたつ置かれた。 中にはコーヒーが入っている。 -あ、ありがと、おばあちゃん- 彼がそういったときには、もういなくなっていた。 -不思議ね。- あたしはそう言って、クスッと笑った。 -あ、笑った。さっきまで死人みたいだったぞ。- たしかにそうだろう、兄が死んだんだ。 そういえば、彼の祖母にあってから、 兄のことを忘れていた。 不思議だ・・・ 彼とあたしが話していると、とてつもない時間になっていた。 あたしは帰るよと言ったが、 彼は、泊まってけと言った。 -家が心配だから帰らなくちゃ。- -ん、じゃ、気をつけてな。あ、送るよ- -いいの。じゃね。- 彼の家の玄関を出ようとした時、 彼の祖母が声をかけてあたしを止めた。 -家に帰っても、兄の部屋に入ってはいけない- 突然、理解に苦しむ言葉を投げかけられる。 -おばあちゃん、シェリーの家だろ、関係ないだろ- -もし、兄の部屋に入ったとしても、本棚の辞書を抜いてはならんぞ- -何言ってるんだ、おばあちゃん- 彼と彼の祖母が口論している時、 あたしは考えていた。 -じゃ、私は帰ります。- さっさと帰路につくあたし。 もう朝になってしまう。 家について、鍵を開けてあたしの 部屋のベッドに倒れこんだ。 それから、彼の祖母の言っていたことを もう一度分析してみる。 彼の祖母は未来を予知しているのか? そうだとしたら、あたしは予言どおりにしなくては いけないのでは? 兄の部屋の前まで来た。 いつもドアが閉まっている。 入ったことは何回もあった。 何故いまさらになって入ってはいけないのか・・・ ドアノブに手をかける。 ゆっくりとあけて、中に入る。 いつもどおりの部屋だ。 -えーっと、辞書・・・辞書?- あたしは予言に反発的に動いている。 というか、引っ張られて動いてる。 なにかに呼ばれてそれに答えるように。 本棚に辞書はたくさんある。 左端から読んでいく。 最初の辞書の『C』のページのCにマーカーで しるしが付けてあった。 2番目はUだった。 次はT、その次もT。 そしてその次はA。 兄が残した暗号だろうか。 そのことには今気づいた。 そしてまだ暗号解読をする。 後に、A,B,L,Eと出てくる。 これで全ての辞書だ。 8冊もの辞書を持っていたのか、 ということがわかった。 と同時に、それが何を意味するのかも。 cut table 並べると、上のようになった。 推理小説をたまに読むあたしは、テーブルを ひっくり返して足の底を切れと理解した。 1つ、2つ、3つと底を薄く切っていった。 4つ目で何か硬いものにあたった。 とりだしてみる。 それは手のひらに乗るサイズで ギザギザしているものだった。 何かの鍵だ。 番号が振ってある。 465 おそらく、ロッカーか何かの鍵だ。 この近くには、年間6$という安いロッカーがあった。 手始めにそこを試してみるか、と駆け足で行った。 案の定、そこには500ぐらいのロッカーがあった。 大きさは、人が1人は入れるほど。 縦長のロッカーだ。 465番のロッカーを探す。 いけどもいけどもロッカー。 やっと400代。 464のロッカーを見た時、気づいた。 464と466の間にはロッカーがないのだ。 ロッカーがあったような跡と空間はある。 レンガの壁が見えてる状態だ。 あたしはどうすればいいのかわからず、 レンガに手を突いた。 そのとき、手に違和感があった。 レンガに砂埃がついて、多少凸凹になっているが、 それは砂埃だけの所為じゃないとわかった。 砂埃を払うと、鍵穴があった。 鍵を刺して、回すと、ドアが開くような 音がした。 レンガの左端を押してみると、ドアが開くように、 開いた。 壁だと思っていたがその空間だけがドアだったのだ。 中に入ってみると、白い廊下が続く。 およそ、10メートルぐらいの廊下で、 またひとつドアがあった。 そこには、ちゃんとドアノブがついていた。 鍵穴はなかったので、そのまま入ろうとした。 簡単に開いてしまったドアに寂しさをおぼえた。 中は洞窟のような、洞穴のような感じもした。 コップや皿、テーブルが5つほど、 それとバーカウンターのようなものがあった。 一番奥のテーブルで2人の若者がスパゲティを食べながら あたしを犯罪者でも見るかのように見つめた。 あたしは、バーカウンターの前に座った。 あたしは気づいている、ここがなんなのか。 -マスター- あたしが声をかけるとアロハシャツを来た青年が コップを拭いていたのをやめ、顔を上げた。 -あなた、常連じゃないですね- -えぇ、そうじゃないとだめかしら?- -誰の紹介でここがわかったんですか?- どうやら、常連や、その類じゃないと飲ませないようだ。 -兄がここに来ていたか聞きたかったんです- -兄というと?- -オービス・ミルトス- そういうと、マスターは、少し驚いた。 奥の客に、出て行けと眼で合図すると、 その2人は立ち上がった。 その片方が、あたしの方によってきて、 あたしに話しかけた。 -あんたがあの妹さんかい?- -そうよ。- -いや、おどろいた。会えて嬉しいです。- そう言って、握手を求めてきたので、 握手してやった。 普通は女性が先に手を出すもんだ。 ま、いいや。 2人が出て行くと、マスターがカウンターから 出てきて、鍵で奥のドアを開けた。 もうひとつのドアを。 そこは、洞窟だ。 さっきのバーとは違い、とても広い洞窟だった。 マスターがこっちへ来いと言った。 バーベルやら、なにやら、 いろいろトレーニングの機械がある。 -俺の名前はヴィシュトルフスキー・アトルズム。 両親がロシア人だが、俺は孤児でアメリカ国籍だ。 それと、外にいる時は、俺のことを名前で呼ぶなよ。 さっきみたいに、マスターで頼む。- -はい。あ、私は、・・・- -シェリー・ミルトス。兄さんから話は聞いてる。- -あの、兄とはどんなご関係で?- -トレーナーさ。- -トレーナー?- -あなたは何も聞いてないのか? -なんのこと?- -オービスはヒーローだってこと- その言葉であたしの中の混乱が解け始めた。 兄がヒーローでそのトレーナーをしていたのが彼。 そして兄は何故あたしをここに導いたのか・・・ 洞窟をすこし歩いたら、くだりの階段があった。 -ここから、地下のシェルターに行けます。 あんたは後、3日間そこにいてください。- -は?- -あ、ご安心を、中にはちゃんと非常食もあります- -そうじゃなくて、なんで?- -オービスは、ある大きな組織と戦っていました。 その組織の経済力、政財力、科学力は計り知れません。 政界で、金を不正に得ては、軍事兵器を作っています。 そして、アメリカ全土を征服しようと、核爆弾の用意をしています。 今まで我々が頼り切っていたあんたの兄からの頼み、 それがあんたを救うこと- 早口でまくしたてられて、整理がつかなかったが、 だいたいのところわかった。 兄はあたしを助けるためにここへ導いた。 だとしたら、あたしは兄に礼を言わなくては ならないのでは・・・ そう思い、途中まで下りた階段をあがっていった。 -その組織の名前は?- そこから、あたしの3日の戦いが始まった。 戻る