お兄様は元ヒーロー 第4話 並べられた嘘と真

「ただいまー、マスター…あれ?」 シェリーがバーに帰ってきてもヴィシュトルフは いなかった。 「マスター」 奥の扉を開けて洞窟の中と、 シェルターも調べた。 とりあえず、洞窟から出て、 バーに戻ってきた時、何者かが バーから外に出て行った。 「あ、待って!」 2つのドアを開けて外に出たが、 そこにはロッカー以外、何も いなかったしなかった。 「なんだろー…」 携帯電話が鳴った。 友達のルービーズからだった。 「もしもし?」 「あ、俺だけどさ」 「何?」 二人はお互いがさっきまで 闘っていたヒーロー同士だとは知らない。 「あしたで世界が…いや、人生が終わるとしたら なにがしたい?」 シェリーは動揺した。 明日、それは核爆弾が使われるかもしれない日。 一瞬、彼が何故それを知っているのかと思ったが、 別にそういうことでもないかもしれない。 「なんで?」 「なんでって…ただの心理ゲームさ」 「嘘おっしゃい、それだけで電話なんかかけないでしょ」 「…だよな、じゃいいや。じゃね」 「あ、ちょっと待って」 「何?」 「渡したいものがあるの」 「え?俺、今からバイトなんだけど」 嘘をついてごまかそうとするルービーズ。 「いや、本当に大事なものなの。 もし明日で世界が終わるとしたら、 必要になるものなの。」 シェリーは、465と書かれたキーホルダーの ついている鍵を手の中で回していた。 「へぇー」 「それは日本の番組で押せ」 「え?なんだそれ?」 「私の知り合いが言ってたの。」 「世界が終わるとしたら…だろ? 大丈夫だろ、この町にはヒーローがいるからな」 「そうだね」 二人のヒーローの意味は方向が まったく違っていた。 いろいろ話した後、電話を切った。 「いったん家に帰るかな」 家に到着して、リビングに入る。 「ただいま、お兄ちゃん…」 兄がいなくなった部屋で、ひとり寂しく過ごすことは 彼女には辛すぎたのだろう。 「そうだ、核爆弾…『陰の鎖』…」 自分の部屋のパソコンの電源を入れた。 インターネットで『陰の鎖』について調べた。 本拠地はすぐにわかった。 だが、それは表向きの本拠地だということは シェリーにはわかっていた。 「我が社はヒーローを育て、そして 町の平和を保つ組織です。 え?マスターとは違うことを…」 『陰の鎖』のホームページを 凝視して読んだ。 「我が社が育てたヒーロー部隊?」 おもちゃの製作社のように、 ヒーローの写真とプロフィールが 載っている。 しかし、本名などの本性が知れることは書かれていなかった。 その中に、ミスター・パープルトマトも書いてあった。 「彼は、現在コンテナ運送護衛の任務についている。 これだ…やつら、コンテナで核爆弾を運ぶつもりだ…」 シェリーは、ストライプスーツを鞄につめて、 家を出た。 走ってルービーズの家に向かった。 玄関の戸を叩き、ルービーズの名を何回も呼んだ。 しかし、出てきたのは、おばあさんだった。 「あら、いらっしゃい、今はルービーズいないんですがねぇ…」 「あ、じゃ、これ渡しといてください」 そういって鍵を渡した。 「それじゃぁ、お上がりになって」 「ありがとうございます、だけど私 いまから行くところがありますので…」 「あなたが家の中に入っているのが見えるわ」 「何を言ってるんですか?」 そのときだった。 おばあさんは、すばやく手を振った。 シェリーは、驚いて腕を挙げて顔の前に出した。 血が出ている。 間髪をいれずに手を振ってきたおばあさんの腕を抑えた。 その手にはナイフが握られていた。 「今、あなたがこうやって腕を抑えていることも見えてた」 おばあさんはシェリーを無理矢理引っ張った。 その勢いでシェリーは吹っ飛んだ。 「ドアはちゃんと閉めて」 玄関を閉めるおばあさん。 「これも見えてたけどね」 閉じ込められたと思い、 シェリーはなんとか逃げようと思った。 「あなたは逃げようとしても逃げられない。 私から隠れてその鞄の中に入ってる ストライプスーツを着るってことも…見えてる」 「どうしたの?おばあさん?!」 「これからは名前で呼んでいいわ。 本名はオリヴィア・ラファエロ、 コードネームはカーマ。」 声がだんだんと若返っていくように聞こえた。 いや、声だけじゃなかった。 顔も体も全てが若返っていった。 最終的に、20歳前後の美人な女性になった。 「あー、本体に戻るの久しぶりー。 本当につらいのよね。 あ、言っておくけど私はルービーズの姉。 でもあなたはこう言う。 『あなたは死んだはずじゃ』」 「あなたは死んだはずじゃ…ん!」 「たしかに私は死んだわ。 弟の記憶の中ではね。 だけど死んだのは私じゃなくて 私たちのおばあちゃん。 それをごまかすために老婆に化けてたってわけ。 あ、スーツ着ながら聞いてていいわよ。」 オリヴィアは、ストライプスーツが 入っている鞄を指して言った。 「あなたが私に隠れて着替えることも知ってるし、 だったら、時間の節約ってことで私のこの話を 聞きながら着替えてちょうだい。」 シェリーは、警戒しながらもストライプスーツに着替えた。 「そんな怖がんないで、今は攻撃しないから。」 シェリーは着おわった。 「あら、あなたは5秒後に気づくけど言っておくわ。 右足袖のチャック開いてるわ。」 「え?本当だ…」 動揺していたのか、チャックを閉め忘れていた。 「今のも未来を見たと思ってるでしょ? 違うわ。 今のは、普通に気づいたから教えただけ。」 シェリーは、動揺を抑えられなかった。 恐れた。 「あなた、自殺なんかしないでね? 私に負けるとわかっていても、 必死で抗ってきて?いい?」 もう相手のペースに乗せられている。 完全に遊ばれている。 冷静になろうとしても、相手の心理攻撃は防ぎようがない。 「コンテナはどこ?」 「コンテナ?なんのコンテナ?」 「今のでわかった! あんたは私に手の内を見せすぎた! 今、コンテナのことを知らなかったあんたは、 おそらくは未来が見えていなかったのだろう。」 オリヴィアは、少し動揺した。 「そして、あんたは、『陰の鎖』の遣いでもない ことがわかった! おそらくは、あんたのとこは、『陰の鎖』と 対立しているグループだ!」 オリヴィアは、自分の失態を恥に思い、 同時にシェリーに対する怒りを覚えた。 「貴様…ぶっころしてやる!」 オリヴィアの姿が消えた。 背後に気配があったので、振り返ったが、 誰もいない。 その振り返った時、頬辺りに殺気を感じた。 そのとき、ナイフが顔の前に出てきた。 とっさによけたが、頬を切られた。 「よけるなぁああ!しねぇぇええ!」 オリヴィアは冷静さを失い、怒り狂っていた。 「私は、カメレオンのように、姿を消せる! そして、運命さえもこの手に取ることが出来るんだ!」 オリヴィアはまた姿を消した。 今度は頭上から殺気がした。 頭上に向かってパンチを放った。 「うぇ…っくぅ」 オリヴィアは、シェリーの横に落ちた。 「くそ、何故だ!貴様の未来を見てやる!」 そういうとまた姿を消した。 今度は、背後から殺気がした。 後ろに裏拳を放ったが、それは家の中の椅子だった。 椅子はバリバリという音を立てて真っ二つになった。 「しまった、トラップ!」 気づいて、とっさによけたが、 右肩をナイフで刺された。 「うぐぁッ…」 「もらったぁー!」 シェリーが一瞬、ひるんだところに、 次のナイフ攻撃が迫る。 しかし、すぐにシェリーのパンチでオリヴィアもひるむ。 「くそ、何故だ!さっきもあと少しで倒せたのに! 貴様は何故…ナイフの動きが見えるんだ!」 「未来を見ていたのはあんただけじゃない。」 「何ィ?」 「私だってあんたほど性格じゃないが、少しは見えるんだ。 相手が構えたら、殴ってくるかもしれないってのと同じだよ」 「****ー!」 「あんた、そのお上品な顔でそんなこと言うんじゃないよ」 「んだとー」 「そして、あんたは言う、『どれもこれも全て貴様のせいだ!』ってね」 「どれもこれも全て貴様のせいだ!…ぅ、何ィ!」 オリヴィアがひるんだ隙に、シェリーは蹴りを喰らわせた。 「馬鹿なッ!」 シェリーは、倒れたオリヴィアの前にかがんだ。 「さぁて、教えてもらおうか、コンテナはどこに運ばれてんだ?ん?」 「コンテナ…だと?知るかよ…」 「じゃあ、見なよ、未来。もう時間がないんだ。 どうやらあんた、少し先の未来しか見えないようだね。」 「う…」 「他の人は、大人になったらどんな仕事に就こうとか、 どんな家庭をもとうとか、それぐらい先まで見えるんだ。 だけどあんたは、すぐ目の前の未来しか見えない。 だがもう充分だ。 コンテナはどこに運ばれている?」 「ここから南に約7㎞ほど行った所にある、 一番高いビルの屋上に持っていかれる… そこには、私を雇った男と、鎖を持ってる男、 そして、紫色の服を着ている男がいる… まだ…女だ…着てる服から、医者かなにかだと 推測できる。 彼女が走って、紫色の男をかばって死ぬ… それが未来だ…」 「あんたを雇ったのは誰なの?」 「ヴィシュトルフスキー・アトルズム」 シェリーは、自分の耳を疑った。 自分が信じていた人が敵だったなんて… 「そんな…嘘でしょ?」 「いーや、嘘じゃない。 なぁ、いまさら裏切っといてなんだけど… 弟を…紫色の服を着てるのが… 私の弟なんだ、だから、 弟を助けてくれないか?」 驚いた。 シェリーは、それがミスターパープル・トマトと 推測がついたからだ。 パープルトマトは、ルービーズなのかもしれない。 それを思いながら、ラファエロ家を出た。 「ルービーズ、バイク借りるよ。」 家の車庫においてあったバイクに乗った。 「さっき闘った時わかったけど、 このスーツの能力は、力だけじゃない。 どうやら、謎や、鍵を解くための能力もあるらしい。 その鍵が抽象的な意味なのか、物理的な意味なのか…」 シェリーは祈った。 そして、バイクの鍵穴あたりを殴った。 「解けろ謎!開け鍵!」 バイクのエンジン音と共に、 シェリーは南へ消えていった。 戻る