第0話「ディン・テレイ」
遠い昔・・・
そう遠くない昔・・・
文化というものが生まれた時代。
太平洋の南の方、現在オーストラリアがある場所よりも
北のほうに、オーストラリアの半分ほどの面積の島国があった。
フランスの海賊ディン・テレイがオーストラリアに遠征に来たときだった。
海賊の仲間たちは長かった船旅に疲れ、
やっとついたという思いで陸に上がった日のこと。
そこはオーストラリアではなかった。
一目でわかった。
その島の文化は他の国のどこにも劣らないほどだった。
ディンはいろいろな国を見て回ってそして殺戮も繰り返してきたが、
こんな場所は前例がなかった。
その時代では見たこともないような建物、
それから自動車もあった。
ディンは目を疑った。
こんな場所が地球にあるはずがないと。
人に聞けばどうしてここがこんなに栄えているか
知ることができると思い、
町のような住宅街を進んでいった。
1kmほど歩いたとき、やっと人を見つけた。
ディンはその人物に近づいていった。
その人物はディン達の気配に気づき、
そして振り返った。
「だれ?」
ディンは安心した。
言葉がわかる。
言葉が通じればなんとかなると思った。
「俺は海賊です」
「それが何の用?」
その人物が近づいてくる。
よく見れば女だった。
片手に何かを持っているが、
その時代では珍しい如雨露を持っていた。
「殺さねぇでくれ」
ディンはどんなことがあっても恐れたりすることはなかったが、
その曲がりくねった管、その先がボツボツと穴が開いているのを見て
とても危険な武器だと思った。
「冗談よして。これは武器なんかじゃないわ」
女はクスっと笑い、如雨露を傾けて見せた。
ディンは怖がっていたが、そこから出てきたのは
水だった。
「お、水だ水だ!」
海賊の団員が如雨露の下に口をあけてたかってきた。
「あら、水がほしいの?いらっしゃい」
女はディン達を家に案内した。
その時代では珍しい、ドアに蝶番が付けられ、
中の廊下にはカーペットが敷いてある、
現在ではよくありそうな家だ。
ディンたちは驚きながらおそるおそる入っていった。
ディン率いるテレイ海賊団員は全部で4人、ひとつの家には
多すぎず少なすぎずといった人数だった。
女はリビングに彼らを休ませ、
そして台所に行った。
ディン達は木製の椅子に座って沈黙しつづけた。
女が台所から帰ってきた。
コーヒーカップ。
それは団員皆見たこともあるもの、
中身もわかった。
「ハーブティですか?」
「あら、よくわかったわね」
「へい、あっしは茶に詳しくて」
「そうなの?私もお茶好きなの。」
団員とディンはハーブティをズズズと頂いた。
「ハーブティとわかったのは見た目とこの香りです。」
「ロマンチストな海賊さんね」
「だけど何故あなたはよくわかったね、と言ったのですか?
普通にわかりますよ?」
「この変に住んでる人たちはね、お茶に興味がないの。
私がハーブティを出してもおいしい紅茶だね、とか言うのよ。
だから、わかってくれるんだ、と思って」
しばらく小話をしていた。
ディンはここへ何故来たのか、
そして今までの経歴、
海賊として活躍し始めたころの話など。
忘れかけて思い出したのが、
「この国はなんでこんなに文化が繁栄しているのですか」
という質問。
女は話し始めた。
この国はソレーイと名乗る神様が創ったと言い伝えられている。
そして今もその神様が国を守っていて、
弱った人々にも力を与えてくれる。
その力のことをこの国の言葉で、
“Unz do tiole”奇跡の力、そう呼ばれている。
他にも運命の力、未来の力って意味もあるらしい。
ディン達のように外界から来た人たちは
それを見たとき、ありえない力、とか
神の領域を犯してるだとか言うらしい。
「矢・・・ですか?」
女が大きな先端がとがった銅製のものを持ってきた。
「そう、見た目はただの矢なのよ」
女はそう言っているが、それはディンたちにとってただの矢なんて
大きさではなかった。
太さも長さも。
太さは直径6p程、長さは1mは軽く超えていた。
女は銅矢の表面の錆を手でこすり落とした。
茶色い光が錆の中から反射して見えた。
「これは鍵と呼ばれている物・・・
本当はこんなもの世の中にあったらいけないんだけど・・・」
「どうしてですか?
結構高く売れそうですよ」
「私がこれを持たされているのは、これを使用不能にするため。」
女は銅矢を外に持って行き、硬そうな岩二つを見つけるなり、
矢の両端を岩に乗っけた。
女は矢の真ん中あたりにタオルを巻いた。
そして右足だけ靴を脱ぐと、その足を振り上げた。
ディン達はその体の柔らかさとバランス感覚に見とれていた。
「バ・ニ・チャギャ!」
女が叫ぶと、右足に炎が起こり、それと同時に
矢の真ん中に向かって右足を振り落とした。
ディンは驚いてそれを見ていた。
爆音と共に、というか実際爆発していたようだった。
矢と足がぶつかった瞬間、あたりは煙に包まれ、
状況の把握には難しいところがあった。
しばらくして煙が引いてきたところ、
目の前の光景を見るなり、言葉の出ようもなかった。
矢は折れず、いまだ好調な姿を見せているが、
両端の岩は、矢によって、というよりか女の蹴りによって
真っ二つに裁断された。
2つの岩が4つになっていた。
「す・・・すげぇ」
ディンは顔面蒼白だった。
「また折れなかった・・・」
「また?」
「うん」
「いつもこれをやってるんですか?」
「結構いい運動になるんだよ」
「すげぇ・・・」
「この国ではみんなやってると思うよ。」
「え、そんなにこの矢・・・鍵は多くあるんですか?」
「そうなの。それをみんなで壊そうとしてるんだけど・・・」
「だけど?」
「うんん、なんでもない。
そろそろ夜だから寝よっか」
「でも・・・」
「うちに泊まってきなよ、
なんならここに住んじゃってもいいよ。」
笑顔で言われてしまった。
ディンはそう言われるともう後には引けず、
というか前にしか進めず、はいとしか答えられなかった。
そのとき、聞くべきだったのかもしれない。
いいんですか?と。
それでも女はいいと言っただろう。
ただ、この島は普通に暮らせるほど
楽な世界ではないということを
教えてほしかったのかもしれない。
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