第16話「福海」 「久々に下に降りるんだな。」 ガルムベルド船のブリッジの展望窓から下界を見下ろす男、シンドラー。 「おうよ。」 それに返事をするローズアルバルド・アレキス。 アレキスは今年で23歳になろうというところ、 いつまでも空の生活を続けるつもりだった。 空中移動要塞、ガルムベルド船、 その中にいるガルムベルド団、13人をまとめる団長、 それがアレキス。 ガルムベルド団は元々、ワイズマンの幹部チームに所属していた、 ローズアルバルド・アレキス、ローナ・フランクリン、ルーシー・ジェリーチ・エーテル、 彼等が各国の孤児を集めた団体だった。 悪徳企業家等の悪を働き、大金持ちになった者から金品を強奪、 そしてそれを恵まれない子供たちや、 孤児院などに寄付している。 「あにー、あたしぃもぉ、つれてってぇですよー」 このやたらと「ですよー」言葉を使うのがローナ、12歳。 どこからどう見ても子供だが、 これでも立派なユ・ティオール使いである。 アレキス、ルーシーも同じくユ・ティオール使いである。 それ以外は皆、特技や技術を持つものの、ユ・ティオールの能力はない。 「連れてってやってもいいけど。 ネリル、どうする?」 「私はメリル、ネリルはこっち!!」 「失礼〜」 メリルとネリルは姉妹であった。 だが、その性格はまったくの正反対。 メリルはいつも強気で、前向き。 それが理由で、両親を失った時のショックが少なかったのである。 少し馬鹿っぽいところもあるが、料理が上手である。 妹のネリルは、控えめで、大人しく、そして行動はほとんど受身。 きっとそれが災いして、ショックで言葉を失ったのであろう。 長所は、医療にすぐれていて、怪我した仲間を治癒してくれるというところ。 ネリルは言葉を喋ることができないが、表情で話すことが出来た。 たとえ防音ガラスを挟んでいても、ガルムベルド団員ならばネリルが 何を伝えようとしているのかが理解できるという利点もある。 今回もそれが役にたったようだ。 「ネリルはいいって。」 「やったぁー!!」 ローナが喜んだ。 「あ、待てよ? この際だから、全員、しばらくの休暇として下界に降りてみるか? 久々に見てみるのもいいだろう。」 団員が拍手したり口笛吹いたりして喜んでいる。 「よし、決まりだな」 ガルムベルド船は、東京湾海岸沖上空に止まった。 「えーっと、何人か留守で残ってて欲しいんだが・・・」 アレキスが言った時、シンドラーがアレキスの前にでてきた。 シンドラーは毒使いで、良薬を毒薬に、はたまた毒薬を治療用の薬にしたりと、 調合から用途まで、エキスパートの域に達している。 「全員が降りたら、ここの留守は誰がするのか・・・ そこでどうだろう。 2チームに別れて、交互に街に出てくる、というのは。」 シンドラーが全員の顔を見て言った。 アレキスはシンドラーと顔を見合わせた。 「そうだな、シンドラーの言うとおりだ。 意見がある者は?」 このガルムベルド団では、一つでも不満があれば、 それを取り除く努力を惜しまない。 仲間との関係は民主主義国家よろしく、 全員の意見がかみ合わないと先へは進めない。 「決まりだな」 アレキスたちは2チームに別れて、先発が、 ガルムベルド船の一番下、画鋲の針先に当たる部分の ハッチから、最新式空中浮遊型モーンストンバイクで飛び出していった。 数機のモーンストンバイクは、空中から海面に落下していく。 海面に着水したとき、水しぶきがあがった。 そしてすぐに上昇、海面に波を立てながら東京に向かった。 時速100キロという豪速で、ガルムベルド船を離れていく。 気まずい・・・ ものすごく気まずい。 ショーンはそんなことを考えながら授業を受けていた。 今は選択授業で、他のクラスとも合同であった。 移動教室でしかも席が決められていないので、 空席を見つけたところ、そこが沙耶華の隣だった。 沙耶華はいつもと変わりない表情で授業を受けていた。 なにか話そう、と思いながらも今朝の出来事があって、 少し躊躇われる。 沙耶華から何か話してくれるのを待つことにした。 ・・・ ダメだ、やっぱり何も話してくれない。 「あれ?どーしちゃったのかなー? 釣れない顔しちゃって」 ショーンに話しかけてきたのは学友の鴻上輝(こうがみひかり)。 いつもはMDを聞きながら、話しかけてくる。 今回はMDを聞いていないようだ。 ショーンにとって、この男が人生においての奇妙な存在であった。 「いや、なんてことはないさ。」 「いーや、あるね。 おまえ、彼女にフラれただろ」 ショーンは驚いた。 「図星か」 「違う!!そもそも彼女いない!!」 女関係では当てはまってるけど。 隣の沙耶華。 「山南はどう思うよ」 鴻上が沙耶華に話を振った。 「・・・たしかに顔色悪いわね。 本当に彼女いないの?」 沙耶華が聞くと、ショーンは冷や汗をかいた。 意味深な質問だったからか。 「いないって。」 よかった。 これで沙耶華と話すきっかけが出来た。 ショーンは鴻上に感謝した。 「そういう山南はどうなんだよ」 ショーンが聞くと、沙耶華は顔を赤らめた。 「べ、別に。 いないけど?」 「ほほーう、恋煩いですな?」 鴻上が沙耶華に聞いた。 「ち、違う!! しょうがなかったんだ!! 昨日、ぶっ倒れたから、しょうがなく部屋に連れ込んで・・・」 沙耶華は自分が熱心に弁解したことに気付いた。 が、それも弁解とは逆効果だった。 「ほーう、部屋に連れ込んで? で誰を?」 「っ・・・!!」 沙耶華が面食らった。 ショーンはなんとかフォローしようと思うが、いい手が浮かばない。 「酔っ払いが倒れてたんだよ、なぁ!?」 ショーンは言った。 が、すごく逆効果だとすぐに気付いた。 「そんなの信じないし、あったとしても山南はそんな奴じゃない」 鴻上が言った。 タイミングよく授業終わりのチャイムがなって、 山南は教室を出ていった。 「あ、待て!!」 鴻上が追いかけた。 「って、何故追いかける!!」 ショーンもそれに続いた。 東京のとある銀行で、銀行強盗が起きた。 「おらー!!金じゃ金じゃー!!」 眼帯をつけている海賊のような風貌の男がカウンターに乗り上げ、 麻袋を掲げている。 そのがっちりした体には、無数の傷がついていた。 「わが名は福海(ふくみ)!! 『片目の福海』だぞー!! この銀行の金、ありったけもってこぉーい!!」 福海が名乗りを上げ、銀行中に叫んだ。 福海の部下の一人、『バタフライナイフの墨島(すみしま)』は銀行員を人質に取っていた。 彼は、黒い服を着ていて、それのいたるところに バタフライナイフを隠し、その上、黒いマントとテンガロンハットを装備している。 他の部下は銃を銀行員に向けていた。 彼等は福海率いるテロリスト集団、『福海会』。 東京を中心に、大阪、名古屋、と、各地の銀行を襲ってきていた。 銀行員がしぶしぶ金を麻袋に詰め込むと、 福海は笑った。 「ガッハッハッハッハ!! 東京の銀行もあと数箇所!! 全部だ!!全部食い尽くしてやるぜー!!」 福海達が銀行の外に出ると、パトカーに囲まれていた。 「がっ!! ポリスメーンじゃねぇか!!」 福海は驚いて銀行の中に戻ってきた。 「誰が警察を呼びやがった!! 名乗り出れば、銀行員全員殺す、なんてことはしねぇ!!」 そう叫ぶと、一人の銀行員が震えながら立ち上がり、手を挙げた。 その瞬間、彼は銀行の入り口のガラスを突き破って、パトカーに突撃した。 その銀行員はもちろん、死んでしまっているだろう。 そこにあったパトカーも拉げていた。 「なんて馬鹿力だ・・・」 そのパトカーから警察が頭を撫でながら出てきた。 福海はもう一度外にでた。 「今のを見たろう・・・ こうなりたくなきゃ、撤退しな!!」 福海が警察たちに怒鳴った。 「貴様は完全に包囲されている!! 武器を捨て、手を頭の後ろに・・・」 「ごたくはいい!! てめぇらをぶっ殺す!!」 福海は一番手前のパトカーに突っ込んだ。 そこにいた警官が銃を発砲。 福海は構わず全身した。 「なんだ・・・? 今、何が起きた? 銃を撃ったのに・・・なぜ奴は倒れない!!」 警官は福海にパトカーごと潰された。 福海会の連中も、警察への攻撃を開始した。 先に街に降りてきたのは、 アレキス、ローナ、ネリル、メリル、シンドラー、デルト、キール。 デルトはアレキスの弟子として、ガルムベルド団に入っていた。 キールは棒使い。 いざとなったときに戦える。 ユ・ティオール使い相手にも互角の力を誇る。 それよりも、一般市民とのケンカに巻き込まれても、 同じユ・ティオールを使わない者なので躊躇をしないという点もあった。 アレキスはネリルの買い物(白いドレス)を終えて、 買い物袋をたくさん持っていた。 ローナがおもちゃやらゲームやらを買ったからである。 「ローナ」 「なに?あにー」 「自分の荷物ぐらい自分で持て」 「ネリルお姉ちゃんのは持ってるですよー」 「あーあー、わかったよ、持てばいいんだろ?」 そんなアレキスにネリルが心配な顔を向けてきた。 「大丈夫だって。」 アレキスは言った。 「よし、買い物もしたし、あとは帰るだけか」 「いや、ゲーセンは?ですよー?」 ローナが言った。 「デルト、試練だ。 ローナを説得しろ」 「わかった」 デルトがローナにゲーセンで金を飲まれる恐ろしさを教えた。 「わ、わかったですよー。」 ローナが拗ねた。 港のモーンストンバイクをおいた場所に戻る途中、 人が集まる場所を見つけた。 「なんだありゃ」 キールが言った。 ローナはいつのまにか気を取り直し、 その人だかりに興味をしめした。 「あにー、行ってみるですよー」 「・・・関わらなきゃいいと思うが・・・」 ネリルが目を輝かせている。 「よし、行こう。」 デルトは、そんな師匠に着いていっても大丈夫だろうか、と 考えたことは少なくなかった。 人だかりを掻き分けて、 騒ぎの中心に出た。 銀行が見えた。 パトカーも数台あった。 が、何台か潰されていた。 「銀行強盗かよ!!」 キールが言った。 海賊の船長らしき大男が、パトカーの上に乗っていた。 ほとんどの警官が倒され、 まだ倒れていない警官はその大男に銃を向けていた。 「待て!!」 キールが叫んだ。 「俺が相手だ」 背負っていた長い布の袋を取り、 棒を取り出した。 その棒は、特殊な加工をしてあり、 銃弾をも跳ね返す硬さを誇る。 「・・・誰だおめぇ」 「俺はガルムベルド団、棒使いのキールだ」 「ほーぅ、こんなところでガルムベルド団に会えるとはな、 ぐふふふふ・・・」 「そういう貴様はテロリスト集団、福海会の会長じゃないのか?」 「ぬぬぬ・・・いかにも!!」 「光栄だね。」 キールは構えた。 福海もパトカーから飛び降りた。 警官がキールに近寄ってきた。 「きみ、何をやっているんだ!!」 「負け犬の日本警察は黙って見てな。 もしくはママのところに戻って親指でもしゃぶってな。」 思いっきり侮辱している。 「この野郎!!貴様を逮捕する!!」 警官が銃を向けた。 キールは棒で銃を振り上げた。 「あっ・・・」 「銃が無いと何もできねぇのか?」 警官の腹部を棒で突き、気絶させた。 「さぁやろうぜ、福海さんよ」 キールは走りこんでいった。 先制攻撃で棒が福海の横腹にヒットした。 「ぐふぇー!!」 「そらそらそらそら!!」 キールは棒撃を続ける。 福海はその巨体を打たれ続けていた。 福海は必死の体勢から左腕を出した。 金属がぶつかり合う音がした。 「双刃・・・」 福海の左腕は、二又に別れた刃物だった。 「ほーう、面白い。」 そんなキールを、アレキスとネリルが心配そうに見ていた。 ローナとデルトは面白がっていたが。 もどる