第20話「追跡眼A」
レストランの外で、福海がなにやら思考している。
右目。
眼帯を外した目でミハエルとフィスナが逃げた方向を見ていた。
その目は、狙った得物は逃がさない、一度見た動く物の
軌跡は追跡できる目になっている。
だから追跡眼。
彼の目が物を捕らえたら、もうどこに逃げても居場所がわかってしまう。
福海には、余裕があった。
墨島たちに声をかけて行こうとした。
「墨島、大丈夫か!?」
返事はない。
どうやらもう死んでいるようだ。
ノド仏を貫かれている。
「くっ・・・」
福海はその場を去ることにした。
ミハエルとフィスナを追って。
ミハエルとフィスナはというと、
闇雲に走り回っているだけだった。
「どこまで逃げるんだよ!!」
「そんなのわかんないわよ!!」
「もう追ってこないぞ!!」
ミハエルのその言葉で、
フィスナはやっと立ち止まった。
そして後ろを見る。
そこには、一般市民がいるだけ。
こんな都会だ、人ごみを通過してきたから追って来れないだろう、と二人は思った。
フィスナは、福海が来ないことを確認し、再び歩き出した。
ミハエルもそれに続く。
「あーあ、ショーン置いてきちゃった・・・」
ショーンはまだレストランの中で倒れている。
おそらくは、福海に殺されているだろう。
「仲間を見捨てたことがこんなに重いとは」
「あたりまえでしょ」
二人は会話を続ける。
そして公園を見つけ、休憩をしようと砂利道に入る。
ミハエルが先に、ベンチを見つけ、それに座る。
フィスナもその隣に。
「みぃーつけたぁー!!」
どこからか聞き覚えのある声。
「福海!?」
二人は同時に辺りを見回した。
どこにもいない。
頭上か?
「うぉぉぉりゃぁあ!!」
フィスナの頭上から福海が、落下しながら拳を振り下ろしてきた。
フィスナは、ミハエルを抱えて避けた。
二人が座っていたベンチは、福海のパンチによって真っ二つに割られてしまった。
「なんて破壊力!?」
ミハエルは、すぐに水玉を空中に形成、そして
「バイオレンスブルー!!」
何本もの水の針が福海に発射される。
「ぬぅおっ!?」
福海はとっさに、横に避けたが、
腕に何本か針が刺さってしまった。
針は、刺さったのも落ちたのも、水蒸気になり、再び水の玉を形成する。
「まだまだー!!」
福海は一旦距離を置き、そして双刃を構えた。
「双牙!!」
フィスナ目掛けて放つ。
「バイオレンスゴースト!!」
フィスナは、双刃の攻撃、双牙を避けようとしなかった。
自分の背後に、バイオレンスゴーストを放出。
そして自分も幽体化すると、双刃はフィスナとバイオレンスゴーストを、
通り抜けていった。
フィスナは、横に移動し、バイオレンスゴーストを自分の体に戻すと、
双刃の鎖を手でつかんだ。
そして思いっきり引っ張る。
「カウンターだ!!」
「ぬぉっ!?」
バランスを崩し、フィスナに接近した福海の鳩尾にパンチが入った。
福海の気が一瞬飛ぶ。
気を失いそうになったものの、なんとかこらえてフィスナに攻撃しようとする。
「ファントムフィスト!!」
フィスナは、バイオレンスゴーストの腕だけを出現させた。
そして福海の口の中に、それをつっこむ。
「がふっ・・・」
バイオレンスゴーストの腕は、福海の魂を掴んだ。
「魂を抜き取る!!」
口の中から引っ張り出される腕。
そしてその手には、福海の魂が握られていた。
「さようなら」
バイオレンスゴーストの手により、福海の魂は粉砕された。
福海は、操り人形の糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。
ミハエルとフィスナは、しばらくその死体を見ていた。
そして、何秒かたって、フィスナの携帯電話が着信音を発した。
「もしもし」
手早く電話を取って会話する。
『チームフリーズの山南です。』
「あー」
でも何故電話で?
彼女ならテレパシーがあるはずだが。
『何か接触があったみたいね。
街がやけに騒がしい。
何か困ったことは?』
「とりあえず、死体処理班とかあるんなら回して。
場所は公園。
近くに国道・・・が通ってる。」
『ちょっと待って、今手配する。』
山南が、他の隊員に何かを言うのが聞こえた。
『すぐに行くってさ。』
「ありがとう」
『あ、それから。
今回は電話をしたんだけど、
私は基本的にテレパシーを使う。
だけど、それにはエネルギーが必要。
今は緊急時で体力は消耗したくないの。
今後も、そういう時あるから、よろしく』
それっきり電話は切れてしまった。
なるほど、体力の消耗、ね。
で、今は緊急時・・・何かあったのか・・・
それよりもショーンは大丈夫だろうか。
フィスナとミハエルはレストランの方角へ走り出した。
レストランには既に修復班などが来ていて、
ガラスの張替え、内部の掃除などを行っていた。
なんとそこには、ショーンが立っていた。
さっきまで倒れていたのに。
「ショーン!?」
フィスナとミハエルが駆け寄る。
「あんた、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫。
エレノアさんのユ・ティオール、ヒールバブルで治療してもらったからな。
このとおり、ピンピンしとるよ。」
「そうかい、そうかい、それで悪いんだけど、
現在進行形の緊急事態ってなんだかわかる?」
「えーっと・・・
わからないな。
あ!!
俺の食欲が、警報を鳴らしている!!緊急事態だ!!」
さっき食べたばかりだろ・・・
どういう胃袋してんだ。
「とりあえずさ、ホテルに戻ろうよ。」
「おうよ!」
その場の収拾は、修復班に任せ、三人はホテルに帰っていった。
が。
ホテルは入り口から奥まで全て、強盗にあったように荒らされている。
だがところどころ、氷が刺さっていたり、
あきらかに普通の人間の仕業ではなかった。
ロビーのボーイや、係員が血塗れで倒れている。
「何があったんだ・・・」
三人は奥に進み、エレベーターを目指す。
と、そのとき。エレベーターの扉が開いた。
「カーマさん?」
中からはカーマが出てきた。
「早く乗って。
状況が変わったわ。
緊急事態よ」
その慌て様がなんだか異常事態をかもし出していた。
ホテルの屋上に到着。
二機のヘリコプターが、プロペラを回し、発進準備をしていた。
「そろそろ教えてほしいな、
緊急事態ってなんなのか」
ショーンが立ち止まって言った。
「我々の中から、裏切り者が出た。」
ショーン、ミハエル、フィスナは驚く。
カーマは一度目を瞑り、そしてヘリコプターに再度視点を移す。
「北橋恭司、氷の能力者。」
基地で一度、ショーン達と手合わせした相手だった。
元々、味方の中でも人を寄せ付けないようなオーラを放っていた・・・
ような気がする。
その彼が裏切りを行った。
なるほど、ロビーで氷に刺されてたりした連中は―
北橋恭司、奴の仕業だったのか。
「それとヘリコプター、何か関係あるんですか?」
ミハエルがカーマに聞いた。
「このホテルが、我々の潜伏場所だと、
ワイズマンに嗅ぎつかれた。
北橋恭司が全て話したそうだ。
そして今現在も、ワイズマンの兵隊がホテルの中にいる。
そこでこっちの取る行動は限られてくる。
ホテル内の各所に、爆薬をしかけた。
我々はこれからここを脱出する。」
それこそ驚きの一言だった。
「ほんっと、この組織に入ってから退屈しないぜ」
ショーンは言って、カーマの横を通り過ぎた。
「おい、何ボサっとしてんだ。
さっさと行くぞ」
「あ、ああ」
ショーンはミハエルとフィスナを引導した。
ヘリコプターは、軍用のペイブロウという名前で、
武器の載積、人の載積、小型のバイクの載積などに優れている。
とにかく詰め込めるだけ詰められる物ということだ。
中にはすでにティオレイドの連中が乗っていた。
ショーンたちも乗り込むと、ヘリコプターは急激に上昇した。
そのときの振動でミハエルが落っこちそうになった。
なんとかカーマがその腕をつかんで、落っこちずにすんだ。
「ふぅ、ひやっとしたぜ」
「気をつけたまえ。」
ショーンが笑っていた。
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