第23話「空剣」 招かれている。 ガルムベルド船は、画鋲の針先にあたる場所のハッチを開いて、 近づいてくる。 近づいてくる、というよりは、停止しているところにこちらが 近づいて行っているのだ。 「どうするよ、レーオン」 ショーンが言った。 飛行場の隣の滑走路から発った飛行機がいない。 シェリーたちが乗っていた飛行機が。 おそらく先に行ったのだろう。ガルムベルド船には遭遇せずに。 「どうするか・・・ふむ。」 レーオンは考えた。 『貴機の進路を調整しろ。 こちらに乗れば協力してやる。』 協力か。 いかにも疑わしい下心見え見えな嘘、偽真実。 「わかった。そちらに乗る。」 飛行機は加速して、ガルムベルド船のハッチをくぐり、 そしてカタパルトへ降下した。 ハッチが閉じられて周りが暗くなった。 スイッチを入れる音がして、すぐに電灯が灯され、 明るくなる。 パルティ・ド・ティオレイドの飛行機に乗っていたメンバーは、 それから降りた。 ハッチの向かいにある階段から誰かが降りてきた。 白いヒラヒラの服装を着たその二人の女性は、顔がそっくりなことから、 姉妹か双子のどちらかということは予想できる。 「まったく同じ服を着ていますね」 「しかも・・・卑猥だ」 悟とショーンが小声で喋っていた。 「あー、あの、あんたらが・・・パルティ・ド・ティオレイドっての?」 片方の女が、レーオンの前に出てきて言った。 「わかってるんだろ?前置きはいい。」 レーオンは、面倒くさそうに言った。 「それよりさ、あんたらその服趣味?エッロいね〜、おそろしちゃってさ」 「うるっせ!!バァーカッ!!私のじゃなくてこいつの・・・ 妹の趣味で!!」 ミハエルがいけないことを言って怒らせた。 それを止めるようにもう一人の女が手を出す。 そして人差し指でキレた女性の口元を止めた。 「・・・」 黙った。 「わかったよ、ネリル」 彼女は、少し歩いて、ショーンたちを見て回った。 「ふーん・・・強い奴・・・そんないないんだね。 これじゃうちの団長が一人で全員倒せちゃう。」 「目的はなんだ?」 「私知らなーい」 「じゃあさっさと案内してくれないか?」 「口の聞き方に気をつけろよ貴様」 レーオンの胸倉を掴む女。 「今のこの場では、管理者である私達の立場の方が上なのよ・・・ それに従うのが今のおまえたちのすることだわ。 いいか、命令するわ。 何も喋らずに、何も持たずに、何もせずに、ついてこい。 呼吸はゆるしてやる。」 レーオンを放す女。 そしてもう一人の女が、レーオンの服の乱れを直していた。 「大丈夫だ」 その女は、軽く礼してもう一人の方に行った。 「私の名前はメリル。そしてこの子は、私の妹のネリル。 わけあって・・・喋れないから。 でも耳が聞こえないってわけじゃない。」 「喋れない?」 ショーンが聞き返した。 「聞くな。」 メリルはそう言って、ネリルの隣に行き、 そして歩き出す。 さっきこの二人が降りてきた階段を上る。 そして、階段を上りきると、目の前には、広間があり 奥には扉があって、壁はガラス張りが大半をしめている。 ガラスの向こうはもちろん、青い空に白い雲。 奥にある扉に向かって列は進んでいく。 近づくに連れてそれがエレベーターだとわかった。 「かっこいい・・・こんなの映画でしかみたことないよお兄ちゃん」 「喋るなっていったろー!!」 「ご、ごめんなさい」 メリルが晴海に詰め寄った。 「ん?おまえメンバーじゃない・・・な?」 そんなメリルをネリルが抑えようとしている。 エレベーターのボタンを押してあったので、 すぐにそれはここに到着した。 そしてメリルは、晴海から視線を外し、開かれたエレベーターに乗った。 「乗って。」 言われたとおりにする。 エレベーターは、彼等を乗せて、上階へとあがっていく。 独特の重力間があるのは、地上と何も変わらない。 エレベーターが止まり、そして扉が開くと。 廊下には赤い絨毯が敷かれ、真正面には大きな扉が。 金色の引き手がついている茶色い扉。 廊下の窓以外の壁は、大理石。 電灯はシャンデリア。 「代表者を一人。」 と言われて、レーオンとジェイリーが前に出た。 「あいにく本当の代表者はもう一機の飛行機に乗っていてね」 ということは、グリノとよばれる頭はその機の中に・・・ ショーンは目の前のレーオンを見て考えた。 「ちょっと待った」 前に出てくる者。 「その代表者私。」 山南沙耶華が前に出た。 「しっかり話聞いて、協力してくればいいんでしょ?」 レーオンに寄ってぼそっと一言。 なるほど、ここで電話がなくとも通信ができる沙耶華を持ってくるか。 「いいわ、ついてきて。」 メリルとネリルが先にエレベーターを降りて、 沙耶華を引導した。 「あなたたちは、上の階、つまり最上階ね。 そこで待ってればいいわ。」 「それはどうも。」 レーオンはエレベーターの閉じるボタンを押した。 沙耶華は、開かれた大扉の中に入った。 そこは、中世の金持ちの部屋のように、赤い絨毯、机の上の地球儀、 それからやっぱりシャンデリア、などなど一式が揃っていた。 そのまた正面に大きな木の机が置いてある。 そこのソファに座っている男が、ガルムベルド団団長、 ローズアルバルト・アレキスだった。 「君は山南沙耶華だね?」 ローズアルバルトは言った。 「そういうあなたはローズアルバルト・アレキス。」 「ご名答。そこのソファに座って。」 名前など聞いていなかった。 どっかで教えてもらったかもしれなかったが、沙耶華は覚えていなかった。 ローズアルバルトが自己紹介しようとしたことを、 通信能力で頭を呼んだのだ。 「さて。俺が考えていることは全てお見通し、というわけだ。」 「!!」 「このまえさ、こんなもの骨董品買ってさ・・・」 ローズアルバルトはヘルメットのようなものを取り出す。 「こー、被ってみたりして。 あ、気にしないでくれたまえ。 話を続けよう。」 沙耶華は、案外気さくな奴だな、と思った。 そしてローズアルバルトの脳内を読もうとした。 「骨董品?そんな代物がマニアから?」 「気付いたようだね。」 読めなかったのだ。 ローズアルバルトがヘルメットを被ってから。 脳内が読めなくなった。 「あれだ、レントゲンとか通さない加工してある・・・えっと、 アルミホイルの強い奴?」 「俺は無駄話に付き合う気はない。 別に無駄話は嫌いじゃない。 でも今はそんな場合じゃない。 いや、こんどカフェででも話そうじゃないか。」 「結構です」 「冷たいのな。」 ローズアルバルトは、息を吐いて、 「それでは本題だ。」 と言った。 最上階に到着したショーンたち。 そこは、壁、天井、全てがガラス張り。 半球状、ドーム状の天井からは太陽光がギラギラと身を刺してくる。 最上階はやたらと広く、テニスコートが真ん中にひとつあって、 他には、ベンチや、小さな公園のようなものがあったりした。 「あ?誰だおまえら」 エレベーターの近くを通りかかった男が言った。 とりあえずショーンたちはエレベーターから降りて、扉が閉まるのを待った。 「誰だ?」 男は続ける。 「通りすがりのユ・ティオール能力者です。」 悟が言った。 「あー、おまえらが・・・団長から話は聞いてる。 俺はシンドラーだ。 よろしく」 握手を求められている。 どうやら好印象のようだ。 レーオンは握手に応じた。 「現在の責任者の、レーオン・トリュフだ。 俺は能力者じゃないが、パルティ・ド・ティオレイドのメンバーだ。」 「ほー、おまえもか。俺も能力者じゃない。」 とシンドラーが言った。 「というより、団長とルーシーさんと・・・ あそこの噴水で遊んでるローナってのだけが能力者。 それ以外は・・・技能者と言ったところかな。」 「技能者・・・ね。」 ショーンが誰にも聞こえないように呟いた。 交渉はあまり芳しくはなかった。 敵対勢力の共通、ワイズマンの撃滅目標にするところまでは合った。 だがそれ以外は駄目だった。 ガルムベルド団の本当の目的はワイズマンが隠している兵器だったのだ。 山南沙耶華は能力を使わずしてそれを聞き出した。 というより、ローズアルバルトがわざと話したのかもしれない。 沙耶華はもうここにいても意味が無いと考えて、脱出を考えた。 すでに通信は終えた。 通信した相手は・・・ 「いたたたた、頭痛だ、こりゃ死んじゃう死んじゃう!!」 「どうした?晴海?」 和藤晴海だった。 「ん?なんか、脱出?いやいや、私は何を考えて・・・ ん?ん?交渉決裂?なんだなんだ?」 「どうした晴海ィィィィイ!!」 「故障、ですかね?」 「人の妹を機械みたいにいわんでください」 ショーンたちを見に来ていたマイクが口を出した。 間違えたー・・・ 以上、山南沙耶華の心情。 「えと、少し休みません?」 「?」 なんで?と首を傾げるローズアルバルト。 時間稼ぎに失敗した沙耶華。 通信する相手を切り替える。 「あ、なるほど」 ショーンが言った。 「ちょっとこの船の中、見学させてもらいますね」 「ああ、構わんが。案内しようか?」 「えと・・・そうですね。」 下手に断っても怪しまれるだけだ。 シンドラーを含め、九人。 のち、一人減ってまた一人増える。 それでそのまま飛行機で脱出、と簡単に行くわけがない。 エレベーターに乗り込むと、ショーンは晴海の方を向いた。 「晴海」 「何?」 「・・・いや、なんでもない」 なんでもないなら話すなよ、とは言わない。 全くその逆で、「変なお兄ちゃん」と笑ってる。 今ここで、「さっきのは、脳内通信で山南沙耶華さんの能力ですよ」なんて 喋れたもんじゃない。 シンドラーもいるし、なんかバカっぽいし。 最初に案内されたのは、最上階から二階下った場所。 だからその上は、山南沙耶華とローズアルバルトがいる部屋。 その階は、居住区がある場所だった。 船員の部屋がアパートのように個別で連なっている。 と、シンドラーが教えてくれた。 その次に、操縦室を案内してくれると言って、エレベーターの前まで戻ってきた。 が、さっき乗ってきたエレベーターが上に上がってしまっていた。 シンドラーは疑念を持ったが、誰かが降りてくるのだろう、と浅く考えていた。 「おまえら」 浅く考えたのは一瞬。 「もう一人どうした」 ショーンたちがお互いを見回す。 「ん?誰?」 「もう一人いただろ!!」 「え?いたっけ?」 いなくなっていたのは、悟。 ショーンは騙そうとして惚けたわけではなく、本気で彼の存在を忘れていた。 「誰かいなくなったのか!?」 「さっきからそう言ってるだろ!!」 シンドラーは荒々しく声を上げた。 「おい、みんな、誰がいない?」 全員が全員を見て、それから 「みんないるけど」 やっぱり忘れていた。 「おかしいぞ!!人数が減ったんだ!! 俺入れて九人だったのが今は八人だ!!」 「うそ?」 ショーンは数えてみた。 「なんだ、ちゃんと九人いるじゃないか」 「自分を二回数えたろ今!!なぁ!!」 上階では。 「交渉決裂だな」 「そうね」 ローズアルバルトと沙耶華はソファから立ち上がった。 「惜しい。 ここで殺してしまわねばならんとはな。」 「言ってることは一人前でも、やってることはワイズマンと同じね」 「おまえらは認めない。 認めた奴だけ助ける。 それが俺のやり方。 おわかりぃ?」 「それでも分かってたよ。あんたはワイズマンと私達にはキツイけど、 仲間達や困ってる一般市民や子供、彼等には優しいってこと。 でもやり方が気に食わない。」 ローズアルバルトは未だヘルメットを被っている。 ワイルダーンエレクトが使えない。 「外部に情報を漏らされるのは実に困る。 死んでもらうよ。」 ローズアルバルトは、空手などでやる手刀を突いて見せた。 中指を前身に向けて、風を割り切るかのように沙耶華に向けて突いた。 沙耶華の頬が切れて、横髪が切れて、背後の本棚の本が避けて崩れてきた。 沙耶華は後ろを振り向き、本を見た。 縦にまっぷたつ、三冊の本が割れていた。 いや、切れていた。斬れていた? 「惜しい、あと少し左か。」 ローズアルバルトは右手を再度挙げる。 「今の・・・あなたの能力・・・?」 黙って微笑を浮かべ、手刀をゆっくり振り上げるローズアルバルト。 「くっ・・・」 沙耶華は横飛びして、隣のソファの後ろに隠れた。 が、目の前でソファに切断線が入り、中の綿が露見した。 「危なかったー・・・」 ローズアルバルトは、沙耶華のソファの上に飛び乗り、 そして沙耶華を見下ろした。 「観念なさい」 ローズアルバルトは、右腕を、右側から内側に振り切った。 沙耶華は前転してそれを避けた。 背後の壁に横線のような切り傷がつく。 「だぁっ!!」 「うおっ!!」 腕を振り切ってしまったローズアルバルトは、返しに遅れが出た。 そこに沙耶華がタックルを敢行したが、ローズアルバルトは、 それを喰らっても、体制を崩した物の、倒れはしなかった。 「体力戦は苦手なの!!頭脳戦の方が文字通り、私に向いてる!!」 遠まわしにヘルメット外せ、と言ったつもりだった。 「俺はどうもオツムは余り強くない。剣術戦の方が文字通り、俺が得意とするものだ。」 ローズアルバルトは言った。 「剣術戦?」 沙耶華は聞き返した。 「今、剣術戦って言ったの?じゃあその能力・・・」 沙耶華は、ローズアルバルトの右手を指して言った。 「ちっ・・・喋っちまったか・・・あーあ、バレちゃった、バレちゃった。 どうするかね、いいや、ゴリ押しで行こう。 ハナっからその気だったけど。」 ローズアルバルトは右手を左肩の前で構えた。 そのとき。 「おまたせしました。」 ドアの手前に落下してきたのは悟。 落下、というより、空間に出現して床に着地した、というところ。 「行きましょう、沙耶華さん、ムキになっちゃ駄目です。」 「ムキになってないわよ」 沙耶華は悟の前に飛んだ。 ローズアルバルトはその瞬間を狙って、二人の位置に腕を振った。 「ティッカウェイ!!」 そこにはもう誰もいなかった。 ただ、書籍がバラバラに散らばって本棚から落ちただけだった。 もどる