第24話「フリーク・ペン」
「ミッドナイト!!キール!!」
シンドラーは、廊下で彼等を見つけて呼び止めた。
「何かしら?」
「侵入者が!!」
「・・・・・・わかったわ。」
六本のナイフを仕込めるホルスターを自室で装着して、
再びミッドナイトは出てきた。
そしてシンドラーのあとについてきた。
「キールは?」
「棒を取りにいったんだろ。」
「侵入者は?」
「今、エレベーターで下の・・・・・・最下層に向かった。」
「そう。できれば最短ルート、汚いから使いたくなかったけど。
シンドラーはフォルクスに連絡入れて頂戴。」
「わかったぜ。」
シンドラーは、通信設備の整った部屋に向かう。
ミッドナイトが一人になった直後に、キールが追いついた。
「よう」
「あなたはエレベーターから行きなさい。
棒があったんじゃ近道できないし、挟み撃ちにできるかもしれないから。」
「了ー解。」
キールは廊下を左折した。
エレベーターがあって、そのボタンを押す。
ミッドナイトは、エレベーターを通り過ぎて、まっすぐ進む。
奥に壁がある。
壁。
壁しかない、が、ミッドナイトはそこへ走っていった。
とりあえず逃走に成功した悟と沙耶華。
一気に最下層まで悟のユ・ティオール、ティッカウェイでワープしていった。
他の仲間とはまだ合流していない。
「沙耶華さんはそこで待っててください。」
「あい。」
日本から出発した飛行機の前で、貨物を下ろす為のクレーンの影に隠れる沙耶華。
そこから屈みながら飛行機の下へ向かった悟。
飛行機の扉は・・・・・・開いてない。
誰も入っていない。
悟は警戒を解いた。
そして階段の手すりに右手をかけた。
「多きは少なきを挫く。まさにこの俺たちのことだよ。」
現れたのは、黒に近い紺のジーンズに、黒いスポーツシューズ、黒いボタンばっかりがついている、
黒いだぼだぼな服を身に纏っている男。
その左手には、黒い鞘に収められた黒い柄の剣。
目には黒いサングラス。
サングラスの右レンズの横に、小型の機材がついていた。
黒一色の男。
「だがな、俺は策略家でもない。
正直こんな服、着たくなかったんだけどな。」
男は言いながら悟に近づく。
「あなたは誰ですか?」
「俺は、ローズアルバルトの弟子の剣士、デルト。」
「そうですか。出来れば争いごとをさけたいのですが」
悟は笑みを浮かべながら、淡々と言う。
「頭・・・・・・」
「え?」
デルトは悟の額を指差した。
悟は、右手を額に当てた。
色々と擦ってみたがなんともなかった。
「なんでもないですね」
「ああ、今まではな。」
「え・・・・・・?」
悟が、気付いた時、目の前が揺ら揺らと歪み始めた。
景色がグニャグニャになっているようだ。
「シンドラーから借りておいた毒薬だ。
手すりにつけておいた。」
さっき触った手すり、その手で悟は額に触れていた。
「これでおまえは、俺と同じように闘えなくなったというわけだ。」
悟は、バランスを崩し、階段から転落した。
運良く受身はとれた。
「貴様はここで死ね。」
デルトは、剣を鞘から抜いた。
「わかりました。闘いましょう。」
悟は這いつくばりながら、階段の手すりを伝いながら起き上がった。
「死ねい!!」
剣を斜めに振り下ろすデルト。
「ティッカウェイ!!」
剣は空を裂いた。
悟はデルトの背後に・・・・・・
いなかった。
「あ・・・あれ?おかしい・・・ですね。」
悟は表情にこそ出さないが、焦ったように言った。
悟は、剣は避けたものの、ただ前の位置より後ろにズレただけだった。
「錯乱させる毒薬だ。
視界だけじゃない。感覚全て。」
「・・・・・・そうですか。」
そう言って、悟はティッカウェイで適当な場所に移動する。
「逃げ切れると思っているのか?」
「ずっと逃げなくてもいいんです。」
「毒薬が切れるのを待つ、とそういう意味だな。」
「正解です。」
「目安で、あと3分だ。」
デルトは言って飛び上がる。
飛行機の階段の最上段に立ち、ドアを開けようとしたが、開かなかった。
「鍵を渡せば3分待ってやってもいい。
それから勝負しても面白そうだしな。」
面白いという理由だけで、相手に気を遣うのか。
「鍵ですか。残念なことに、僕は持ってないんです。」
「そうか、じゃあさよならだ。」
言ってデルトは、飛んで悟の前に着地。
剣を振り下ろした。
さっきとおなじく、空振り。
デルトはその、勢いを殺さず、背後に回転して剣を振るった。
「ハァーッ!!」
叫びとともに、切り裂いたのは、悟の頬。
「うわっ!?」
「遅い!!」
怯んだ悟に一撃を、加えようと前にでるデルト。
剣を突いて出そうと構えた時。
「うっ!?」
デルトは、頭痛に襲われた。
「どこにいるのか知らないが・・・・・・
もう一人能力者が・・・・・・」
「ご明察。私よ。」
さっきまで隠れていた山南沙耶華が出てきた。
「出てきちゃダメです、沙耶華さん。
ちゃんとみんなが来るのを待って、それから・・・・・・」
悟の言葉はそこで止まった。
壁から。
壁の板の中から音が。
「あ、来た来た!!」
と、半階上の管制室から出てくるフォルクス。
「待ってろよ、今開けるから。」
そう言いながら壁に近づいていく。
「おまえももうおしまいだ。うちの味方を呼んだ。」
デルトは悟に向かって言った。
「呼んだのですか。
それより、あの女の人少々、口が悪くないですか?」
「あいつ、男になりたかったんだとよ。」
「そうですか。」
デルトと悟は、さも旧友であるかのように普通に話した。
「待ってろって言ってんだろー!!うるせぇ!!」
フォルクスは内側からコンコン鳴らされただけでキレた。
フォルクスは、その部分の壁一枚を剥がした。
というより、開放した。
「待ってたぜ、ミッドナイ・・・・・・と?」
フォルクスが言った。
中から出てきたのは、壁の中にある、近道の通路を使ってきたミッドナイトではなかった。
子供が、出てきた。
「だ、誰だあんた・・・・・・」
フォルクスは焦って聞いた。
その様子にデルトも気付いて振り返る。
悟もそっちを見た。
沙耶華も。
「ジェイリー・イェン。
たった九歳の作家とは私のことなりよ。」
「なりよって・・・・・・」
沙耶華は、ジェイリーの方を向いた。
なんの武装もしていない。
沙耶華はジェイリーのことを前から知っていたし、信頼してもいたけど、
その能力があるのかどうかさえ視認していなかった。
「えっと、鉛筆、シャーペン、ボールペン。」
そう言いながら服の内側からそれらを取り出す。
「万年筆に、Gペンに、羽ペン。」
「なんの真似だ?」
デルトは、ジェイリーの方を向いて構えた。
そのことで、必然的に悟に背中を向けてしまうことになったが、
まだ毒の効力が効いている時間だ。
デルトには余裕があった。
「フリーク・ペンッ!!」
ジェイリーが持っていたペンが全て、消えた。
「なに!?」
デルトが言ったと同時。
背中に違和感を感じた。
悟が攻撃してきたと思い、振り返って剣を振るったが、
悟は近づいてすらいなかった。
「背後ヲ取ッタゼ」
「コイツ、オレタチをマダミテナイノニ、フリムイタゼ」
「ココイラデ、ショータイムとイキマショカ!!」
デルトの背後で何かが、何か無機物が喋っている!!
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
デルトの背中にそれらは飛び込んで、刺さった。
右肩に刺さった物を抜いて、デルトはそれを確認する。
「く・・・ペン・・・?」
剣の背刀で背中の物を薙ぎ払った。
刺さっていたペンが落ちる。
「ペン?さっきの声はこいつらか?」
「ソノトオリ・・・」
喋った!?と驚いたが。
「なるほど、ユ・ティオール使いか。
こいつは厄介。」
デルトは、フォルクスの方を向いた。
フォルクスにアイコンタクトして、指示を出した。
「なら、これならどうかな」
パチン。
「・・・・・・!?」
辺りが一気に暗くなった。
「なるほど、そのための黒装束ですか。
でも、視界が悪いのはあなたも同じです。」
悟が言ったとき、同時に、すぐ背後から殺気を感じ取り、
それを避けた。
「ちっ・・・・・・」
デルトの舌打ちが聞こえた。
「見えているのですか。
サングラスについてた機材・・・あれは暗視スコープですね。」
悟の声にデルトは答えない。
「沙耶華さん、援護願います」
「ダメなの!!」
沙耶華は声を上げた。
「位置が特定できないと、どんな相手でも攻撃ができないの。
でも、たとえ姿が見えなくても位置さえわかれば・・・」
沙耶華の目の前に、デルトはいた。
沙耶華も、その殺気には気付いていたが。
「おまえは厄介だな、先に殺しておく。」
剣を振り下ろした。
もうダメだと思い、頭を伏せて目を瞑ってしまった。
「沙耶華さん!!」
沙耶華は、目を開けた。
悟に肩を持たれて、そして悟と、飛行機の近くにいた。
「大丈夫・・・ですか?沙耶華さ・・・ん・・・」
その声には、なんだか強さが感じられなかった。
ティッカウェイを使う永見悟ともあろう者が、自信を失ったように、声に余裕がなかった。
「ティッカウェイ・・・成功・・・しました」
「悟くん!?どうしたの!?」
悟はそれに答えようとして血を吹いた。
「悟くん!!」
「ギリ・・・でしたね・・・沙耶華さん・・・
もっとも・・・僕は・・・喰らっちゃいましたけど・・・」
沙耶華は悟の背後に手を回した。
そこには、大きな斬撃の跡があって、血があふれ出ている。
抉られたように、傷は深かった。
悟はデルトに斬られかけた沙耶華をかばってさらに、飛行機の近くまでワープしてきた。
攻撃を喰らってさらに必死のティッカウェイ。
体力の大幅な消耗は免れない。
デルトはそこにワープした二人を見つけてかけてきた。
足音が聞こえる。
「死ねぇぇぇぇえッ!!」
そして。
悟は沙耶華を抱いて。
「本当は、沙耶華さんのことが好きでした。」
言った後、続けて。
「僕の最後の・・・ティッカウェイ・・・」
沙耶華と一緒にワープした。
デルトの剣は空振りに終わった。
が、手ごたえが全くなかったわけでは無い。
そこでデルトはニヤリと微笑。
「悟くん・・・」
沙耶華はワープした位置で、呼吸をしなくなった、悟に囁いた。
「ありがとう・・・」
デルトは、何もない空間から人の右腕が転がってきたのを見て拾い上げた。
「ワープに成功したのは本体だけで、切り離した右腕は、ワープ失敗。
ハイパースペース内から弾き出されて、そしてまたこの空間に戻ってくる、か。
・・・さて。」
デルトは息を大きく吸う。
「どこだぁ!!どこにいるー!!」
暗視スコープの届かない位置にワープされてしまえば、視界は、非装着者と同じ。
むしろデルトはサングラスをかけているので逆に悪化。
「出て来い!!ぶっ殺してやる!!」
叫んだ時と同時、パチン、と音がして、暗かった空間に一気に光が戻った。
「な、なに!?」
デルトは驚いた。
見ると、フォルクスがいた半階上の管制室に、沙耶華がいた。
永見悟の亡骸とともに。
「さて、ショータイムと行こうかしら。
あなた、推理小説は好き?」
ジェイリーが、デルトに近づきながら言った。
デルトは頭痛を感じ始め、さらに、正面から来る子供に未知なる恐怖を感じて、後退っていた。
ジェイリーは、自分の服にフリーク・ペンの意思を送り込んだ。
「私の能力、フリーク・ペンは、触れたものに意思を送り込み、
私の意のままに動かせたりしちゃうの。
つまり―」
ジェイリーは、足で地面を蹴ったわけでもないのに、物凄い速さで、デルトの近距離に入った。
「意思を送り込んだ服を着たまま飛ばすとこうなるの!!」
そのままの勢いでタックルした。
その威力は大きかったとは言えない。
現に、デルトは怯んでもいない。
が。
「甘く見るな、ガキが!!」
剣を振ったデルト。
ジェイリーが斬り裂かれる。
沙耶華がそれを見ていたが、咄嗟の声が出せない。
剣は止まった。
「甘く見るな、大人。」
その声の主はジェイリー。
ジェイリーは、右手をデルトの剣身にかざしている。
デルトはジェイリーをまっぷたつに切断しようと、力を入れるが、
ジェイリーの右手の前で剣は止まって動かない。
まるで何か呪いをかけられ、縛られているように。
「く・・・そ・・・何故だ!!何故斬れないんだ!!」
「んー?あ、気付かなかった?さっき剣に触ったんだよ。
それでフリーク・ペンを送り込んだ。
だから私の意のままに動く。」
ジェイリーはピースして、その指の間に、刀身を挟んだ。
「一度やってみたかったんだよね、真剣白刃取り。
二指真空把はよくやるんだけどね。」
デルトに反対の手で触れて、
「フリーク・ペン!!」
デルトは吹っ飛んだ。
もどる