第25話「悟の死」
「悟が死んだ」
唐突に、ショーンは言った。
「え?」
一緒にいた仲間は歩いていた足を止めた。
「何を・・・?」
レーオンがショーンの顔をのぞいた。
それは、別段、不得意でも得意でもない表情だった。
「沙耶華のテレパシーで聞こえたのか?」
「ああ。こんなことになるとは・・・
で、どうするんだ?」
レーオンは廊下を眺めて考えた。
「とりあえず俺たちは、飛行機を奪還し、そしてこのガルムベルド船から脱出しなければいけない。」
そしてオーストラリアへ行く、とミハエルがつけくわえた。
彼等は再び歩き出す。
今度は少し速めに。
「ここは、階段を設けてないのか」
ショーンが言った。
「一通り散策したけど、ないみたいだね。」
と晴海。
円周状になった廊下を一周して元いたエレベーターの場所に戻ってきた。
さっきはシンドラーが仲間を呼びに、走り出して、戦闘は免れた。
そのエレベーターに。
吹っ飛んだデルトは、床に手を着いて立ち上がった。
「くそ、子供が・・・」
デルトのその言葉を聞いて、ジェイリーはピースサインをして微笑んだ。
「沙耶華、行くよ」
「(呼び捨て!?)あ、うん。」
沙耶華は、悟の亡骸を抱えて階段を降りた。
その行く手を阻むようにフォルクスが躍り出た。
大型スパナを振りかざす。
が、
「あああ頭がぁ・・・」
と女々しい悲鳴と共に倒れた。
「邪魔しないでよね。」
沙耶華は倒れたフォルクスの横を走りすぎていった。
ジェイリーと隣に並んで走り出す。
「ちょっと、沙耶華。
私まだ九歳で足遅いんだから!!」
「わ、わかった」
沙耶華はジェイリーの歩調に合わせた。
そして目の前には、立ち上がって体勢が整ったデルト。
「沙耶華、迎撃。」
「私は、あんたの家来か!!」
そんなやり取りをしている間も、デルトは迫ってくる。
「うはぁ!?」
デルトの斬撃をなんとか避ける沙耶華。
「なんで私狙うのー!?」
沙耶華は、悟を担いでいる方の腕と反対の手を前に出して、
「ワイルダーンエレクト」
と言った。
デルトは、頭痛を感じながらも、沙耶華に向かっていった。
「フリークペン!!」
横から大型スパナが飛んできて、デルトの頭に当たった。
デルトは、声も発せずに倒れた。
「ヒット♪」
「えげつないことするねぇ・・・」
デルトの倒れた体を避けて、二人は飛行機の階段の元に来た。
ちょうどその時、上階の階段からショーン達が降りてきた。
「やっと来たわねレーオン!!」
ジェイリーが怒鳴りつける。
「悪かった」
ジェイリーって偉いのか?と沙耶華は考えた。
レーオンも反抗しろよ!!とか思っていた。
全員が飛行機の階段に上り、そしてレーオンが鍵を開ける。
「よし、全員乗れ!!」
「待った」
ドアを開けようとしたレーオンの手をショーンが押さえる。
「警戒しろとさ、偉ぶっちゃって。」
ミハエルが言った。
ミハエルの言ったとおり、ショーンは警戒を促していた。
「操縦者は?」
「中にいて、何があっても開けないようにと言っておいた。
安全だからな。」
一人ずつ、警戒しながら飛行機に入り込む。
操縦者の一人が気付いた。
「おかえりなさい」
立ち上がってレーオンたちに言った。
その左手にはカップがあり、コーヒーを飲んでいた。
「すぐ出せ!!すぐに!!」
「首尾はどうなったんです?」
操縦者は、言いながら、カップをドリンクホルダーに入れて座席に座る。
飛行機のエンジンがかかる音が響く。
「首尾は・・・表面上は上々だ。」
「そうですか。それはよかった。」
ハッチが開いていない。
が、飛行機は、飛び立つ準備を始めた。
「おい、ハッチ開いてないぞ!!」
レーオンが叫ぶ。
後方の客席で物漁りをしていたミハエルが、ダイナマイトの木箱を発見した。
「ないとろぎりせりぃ〜ん」
ミハエルは、その箱を持ち上げてニヤリと笑った。
ジェイリーは、それを受け取り、飛行機のドアを開いた。
「操縦士さん、発進準備完了だぜ」
ミハエルが言うと同時に、操縦者は飛行機を前進させはじめる。
「ニトログリセリンの発音は、ナイトログリセリンだ!!」
叫びながら木箱をハッチの壁に投げ飛ばすジェイリー。
木箱はフタが開放したままだったので、なかのダイナマイトは、散らばっていった。
そのまま落下しそうなところを、
「フリークペン!!」
ジェイリーは操作し、ダイナマイトを壁の広範囲に渡って満遍なく広げて当てた。
爆音と共に、ガルムベルド船の最下層から煙を巻きながら出てくる機影があった。
「脱出に成功しました。」
操縦者は言った。
「このままオーストラリアに向かいます。」
飛行機は、高度を低くしながら南に進路を取った。
数時間後のオーストラリア。
ティオレイドオーストラリア支部ホテルにチェックインするころ、すでに外は夕方であった。
「キーは5つある。」
レーオンが部屋の鍵を5つ挙げて見せる。
「俺が二人で一部屋、男女は別、この法則でさらに、
お互いの協力バランスを考えてチームに分かれて欲しい。」
結果、ショーンとミハエル、
カーマと沙耶華、
フィスナとジェイリー、
エレノアと晴海、
そしてレーオンは一人部屋となった。
「あとでみんなでババ抜きしよー」
「あはは、修学旅行じゃないんだぞ、晴海ちゃん」
「えへへ、エレノアさん、
今度からお姉ちゃんって呼んでいい?」
話しながらエレノアと晴海が部屋に向かおうとしていた。
「ん?みんな、どうしたの?」
振り返る二人に冷たい視線を送る皆。
「部屋行くか。」
最初にその沈黙を破ったのはショーンとミハエルだった。
エレノアと晴海を通り過ぎて、エレベーターに向かった。
それを合図に、他の全員もショーン達に続いた。
「ったく、悟が意識不明って時に・・・」
現在、悟は入院しているが、寝込んだまま起きない。
意識不明だが、心臓と脳は、死んでいなかった。
今は死んでいない、そう医者に言われたことを思い出していた。
全員が乗ったエレベーターが指定した階に到着し、各々の部屋へ向かった。
「あとで私達のところ集合ね。」
晴海は、レーオン以外の仲間にそう言うと、エレノアと一緒に自室に入っていった。
他も同じく、軽く挨拶程度に一言置いて部屋に入っていった。
ショーンとミハエルが、部屋に入って、くつろごうと思い、ベッドに横になった瞬間、ドアがノックされた。
「ミハエル、出てくれ」
ミハエルは「はいはい」と嫌々ながらもドアに向かった。
ドアの、目線の高さにある丸い穴から外を覗き、そこに誰がいるのか見た。
「おいおい、待ってくれよ、この人は・・・」
まだ鍵を開けていないのに、ドアは外側から開けられた。
「シェリーさん。」
ミハエルの声が聞こえて、ショーンはベッドから半身を起した。
「別に着替え中じゃなかったわよね?」
「あ、はい。」
ミハエルがシェリーを中に招き入れる。
「久しぶりね、ショーンくん。」
「そうですかね。おひさです。」
シェリーは、テレビをつけて椅子に座る。
「沙耶華とはどうなの?」
いきなり聞かれた。
ショーンは驚いて、ベッドから落ちてしまった。
「な、なにが?」
「聞いたわよー」
と意地の悪そうな笑みを見せながら
「ショーンくん、日本で沙耶華の部屋に入ったんだってね。
しかも夜に。」
「今のシェリーさんはどうなんですか?」
「しかもベッドにまで。」
「部屋の鍵を能力でこじ開けて入ってくる人に言われたくないですね」
シェリーはショーンの目を見つめた。
「まぁいいや。」
その一言でショーンはホッとした。
もう追求されることはないだろう。
「私達もこのホテルに泊まってるから。」
「先に来てたんですか?
俺たちがガルムベルド船にいる間に。」
「そ。」
シェリーは続ける。
「私はルービーズって男とこの真上にいるから。」
「男?ノーウェンはどうなるんですか?」
ショーンは、シェリーとノーウェンが、恋人関係にでもあると思っていたのだろう。
「私の恋人はルービーズ。
ノーウェンは・・・仕事仲間?」
言い切った。
「ノーウェンだってこの作戦が終われば、妻と子供の所に帰れるわけだし。」
妻子持ち!?
「おいおい、俺もいるってこと忘れないでくれるかなー」
ミハエルが言った。
「俺は確かに、二人に比べれば子供だが、
一応この部屋の住人なんだぜ?」
その日は、ショーンとシェリーとミハエルで話し込んでいた。
ノーウェンは、ジョンと同じ部屋に泊まっていて、
そこにルービーズも来ていた。
「シェリーとは来なかったんだな。」
「ああ、後輩に用があるって言ってな。
この真下にいるよ。」
ジョンがテレビドラマを見ながら、
「ジェラシーはないのか?」
と言った。
「相手は高校生だ。」
「シェリーがショタコンって説もありえないってわけじゃないんだぞ?」
・・・
ジョンは、ノーウェンの方を見た。
「おい、ルービーズどこ行った」
「多分下。」
「速ッ!?」
この日の夜、全員が晩御飯を食べ終わった頃(食べてる最中の者や、まだ食べてなかった者もいたが)
内線通話でレーオンからの連絡を受け取った。
後日、早速作戦が開始される。
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