第26話「四天王」 心電図のギザギザがほとんどなくなりかけている男性患者がいた。 その前に二人の人物が立ってその死に行く姿を看取っていた。 一人の男が、患者を強い眼差しで睨む。 彼は、生き返ってくれ、とは思っていないが・・・ 死んでほしいとも思っていない。 もう一人・・・女性は、時計と心電図に、視線を行ったり来たりさせていた。 「あと十秒ね。」 女性が言った。 その声は少し枯れていた。 二人が着ているのは白衣。 この病院に潜入する前に調達したのだ。 「過去の戦友に残す言葉は?」 女性が男に聞いた。 女性は男よりも年上ではあったが、あまり威張ろうともしなかった。 「・・・永見・・・おまえは・・・」 男は口を開いたが 「はい、ゼロ。」 ピーッ・・・と。 心電図が無機質な音を出して。 患者は息を引き取った。 「これからあなたは、私と一緒に、ワイズマンの基地に行くことになるけど・・・」 女性は・・・大分年を取っていたが、老婆ではなかった。 「知ってるんだろ?俺がそうなることも。 俺が何をしでかすかも。」 男は。 北橋恭司は。 永見悟の亡骸から視線を外すことなく。 「私は予言者だからね。」 この場に何分いただろうか。 早急に、すぐに、この個室に医者が、やってきてしまうはずだ。 なのにこの女は、余裕を持て余していた。 「あなたが何をしでかすか、それは分かってる。 でもあなたが、何を、どう思って、感じ取ってるか・・・ そこまでは分からないわ。」 「それは・・・」 確かに。 恭司は、恐らく自分は信用されていないのだろう、と考えた。 「大丈夫よ、怖がらなくて。 ドクター達は・・・もうそこまで来てるわ」 恭司は最後に、悟の顔を見て― 「こんなことになるとは―」 医者達が、永見悟が眠る個室に駆け込んできた。 「くそっ!!」 言ったのは医者の一人。 「蘇生できないのか!?」 駆け込んできたときにはすでに、北橋恭司も― 予言者、サロ・ヌーアも・・・いなくなっていた。 白衣を脱ぎ捨て、病院の裏側で、木立に引っ掛けて出て行く。 「さぁ。ここからが修羅場よ。」 サロ・ヌーアが言って、どこかへ消えてしまった。 「どこへ行った!?」 恭司は叫んだが― 「おまえは俺が試してやるよ」 現れたのは、大柄な男。 上半身裸で、下は迷彩服。 頭には紐を巻いている。 長髪だが、それは整えてるというより、切るのがめんどくさい、 そう言ってるような、めんどくさがり屋だと自称しているような髪型。 男の右手にはバズーカ砲が握られていた。 「死ねい!!」 男はバズーカを恭司に向けて発射した。 恭司は、なんなりとそれを避けて、弾丸は、病院の外壁にあたり、大爆発を起した。 「俺の名前は、グーランド・ガルベロッサ!! ワイズマン四天王の・・・武器屋だ!!」 今度はバズーカではなく、ボウガンを恭司に向けて撃ってきた。 山南沙耶華は、悲しんでいた。 同じく、ショーン。 ミハエルも。 フィスナも。 エレノアも。 カーマも。 ジェイリーも。 レーオンも。 ジョンも。 シェリーも。 ノーウェンも。 ルービーズも。 泣く者もいた。 一人の戦士の為に涙を流さずにはいられなかった。 「どうして・・・」 全員が集まっていたところに、和藤海晴がやってきた。 「悟さんが・・・」 仲間である永見悟は、霊安室に運ばれていた。 医者に「ここから先は・・・」と止められて、同志は、その遺体を目で追うだけ・・・ 「悟は・・・」 と、そのとき。 病院の外から轟音が鳴り響いた。 「なんの音だ!?」 ミハエルが、窓から上体を乗り出す。 が、何もない。 「裏側へ行ってみよう。」 ショーンのその一声で、全員は病院の一階まで降りて、裏入り口まで来た。 患者や、医者達は驚いていた。 何が起こったのだ?と。 地震だろう、と余裕の笑みを見せている者もいた。 裏の入り口は本来、救急用の専用口として使われているが、今という緊急時に使っても文句は言われないだろう。 最初に病院の外に出たのはショーンだった。 そして 「恭司!?」 北橋恭司の姿を確認した。 彼は、武器を持つ男と対峙していた。 「どういうことだこれは!?」 レーオンが恭司に近づいていく。 しかし、足元から氷の槍が、生えてきて行く手を阻まれた。 病院敷地内の地面は、ほとんどが芝生なのだが、 今、この場所は、ところどころ抉られて土が地上にお目見えしている。 「こっちに来るな!!」 恭司が叫んだ。 上半身裸の男から目を逸らさずに。 「おい、あいつらはなんだ?」 男が恭司に聞いた。 恭司は、無視して氷を生成して空中に弾丸を作ってみせる。 「あいつらはなんだ!! おまえの元の仲間か!?」 「あいつらは・・・ティオレイドの連中だ。」 半裸の男が、驚いてショーン達を見る。 口が半開きになっていた。 「恭司・・・敵が現れたとなれば・・・ この試験は中止だ。 こっちへ来い!!」 グーランドは、武器を背中に背負っていた鞄に仕舞い、恭司に来るように言った。 恭司は、生成した氷の刃を地面に落下させると、ショーン達に背中を向けて走り出した。 「待て!!恭司!!」 ノーウェンが叫んで走り出そうとしたが、レーオンが止めた。 恭司は、グーランドについて走っていると、病院の敷地内にある駐車場に出た。 グーランドは、そこに急速で入り込んできたリムジンのドアに密着するように、つっこんだ。 丁度良くドアが開いて、グーランドは、リムジンの中に入り込んだ。 恭司は自分の手でドアを開けて中に入った。 二人が椅子に座ると、すぐにリムジンは病院から離れていった。 「気付いていたんだろ?」 恭司が息も絶え絶えに、目の前にいる女、サロに聞いた。 「もちろんだとも。」 「だったらなんであんなところで試験なんか!!」 グーランドが、そんな恭司を宥めようと、手を出して座れと指図する。 恭司は、ここで非難的な視線を彼に向けた。 「落ち込むな。試験はまだ終わってないんだぜ」 グーランドが、言った。 サロが、ワイングラスを恭司に渡した。 「おめでとう。君は四天王だ。」 そしてグーランドのグラスを、窓を開けて捨てた。 「何をしている・・・」 グーランドは、別に自分のグラスを捨てられたことを怒ってはいない。 ただ、そのサロの意味深な行動に疑問を持っただけだ。 「四天王はもう四人・・・いや、正確には四人ではないが、 もう枠は埋まっている。」 恭司はニヤリと微笑み、グラスの中身を飲み干す。 「試験は終わった。枠なら空いている。 ・・・おまえの枠だよ。」 サロが言うと同時に、ガシャンと音がして、リムジンの天井がへこんだ。 グーランドは、眩暈がして、椅子から前のめりに、倒れかけた。 「!!?」 血。 それは恭司の血でもなく、サロの血でもなく、ましてや運転手の血でもない。 グーランドは、自分の血を見て、何が起きたのか考える。 背中。 背中から血が流れてきているようだ。 首に・・・冷感がある。 これは・・・ 「アイスドリルだ。 雲の水分を使ってるから、落ちてくるまで時間がかかる。 時間差攻撃って奴だな。」 恭司が言った。 グーランドは、恭司を睨んだ。 口をパクパクさせるが、声がでない。 口の中に血が溢れてきて、吐血した。 「見事だ。」 サロが言った。 特大のツララを刺したままのリムジンが、郊外の道を走っていった。 「私は・・・」 エレノアが口を開いた。 ホテルに帰ってから、晴海は兄のもとへ行って、 それとすれ違いに入ってきたフィスナと話していた。 「私は、治癒ができるのに・・・」 フィスナは、備え付けのラジオを聞いていた。 エレノアの話も、同時に聞いていた。 聞き流すとか、そういうわけではなかったが。 フィスナは、ベッドで寝そべり、なんともつかぬ表情でラジオを見ていた。 「私は、アレックスも、悟くんも・・・治せたのに・・・」 アレックスも、悟も、死んだ。 エレノアは、窓の外を見ている。 「どうして・・・」 「・・・私は・・・」 「え?」 フィスナが、話し始めたので、エレノアは、フィスナの方を向いた。 「私はよく知らない。 エレノアさんのヒールバブルってユ・ティオールのこと。 でも、二人は、すでに意識がなかった。 そこにユ・ティオールをつかっても・・・難しいと思うよ。」 フィスナは、ラジオを眺めていた。 「私のヒールバブルは、空中に泡を生み出し、 それに触れて、割った人が治療、治癒される・・・ 一度、二人にも試した。 泡が割れなかった・・・」 今にも泣き出しそうなエレノアの声色を察して、フィスナは、部屋を出て行こうとした。 「しばらく外出てます」 エレノアにそう言ってフィスナは、部屋を出た。 自分の、もといジェイリーと一緒の部屋に戻る。 レーオンの話によれば、後日、ティオレイドのヘッド、グリノに出会えると聞いた。 「楽しみだね」 本を浮かせて、読んでいるジェイリーが言った。 「ユ・ティオールを意味ないところで使わない。 いざってときに、疲れちゃったら」 「大丈夫だって」 フィスナは溜息をついて、バスルームに入っていった。 「正直、どうだったの?好きって言われて。」 「んー・・・」 沙耶華は、カーマに問いただされていた。 「どっちにしたって死んじゃってるんだから言っちゃいなよ」 「いや、でも・・・」 死ぬ前でも、好きとか嫌いとか、そういう感情を一切彼に抱いてはいなかった。 「でも、私には、好きな人・・・っていうか、 気になる人は・・・いる。」 「だ、誰!?」 カーマは嬉しそうに聞く。 「教えな〜い」 ・・・ カーマは無表情で沙耶華を殴った。 もどる