第28話「ギャンブラー」
ノーウェンとレーオンは、歩いてホテルに戻ることにした。
バスを使ってもよかったのだが、状況が状況なだけに、被害を最小限に抑えたかった。
一般人への危害は、一番避けたいところ。
「で、どうするよ、ノーウェン」
「バスに乗ると、ひっくり返されちまうかもしれないしな。」
徒歩だと時間がかかってしまうが、この際しょうがないと諦めきっていた。
二人は、街の中心を離れて、ビルの角を曲がった時。
石原吉子がいた。
「へっへーん」
「・・・」
「・・・」
「レーオン・トリュフにノーウェン・バランクスか。
そうだよね?」
吉子が聞いてきたことに、驚きを隠せなかった二人。
「やっぱり。」
吉子は、歩道の端にあったポストの上に座った。
「自己紹介、さっきしたよね?」
「ああ。石原吉子、だったな。」
「覚えててくれたんだね。」
レーオンは、辺りを警戒していた。
「姉ちゃん」
声がして、そして上から、もう一人降ってきた。
両足、両手をついて、着地し、レーオンとノーウェンの前に立ちはだかった。
「一人で相手にして勝てるのかい?姉ちゃんは。
先に行っちゃダメって行ったじゃん。」
降ってきた少女、石原勇子は、吉子に近づいていった。
「おい、まさかさっきっから不思議なことが起きてるのは、君達の仕業か?」
「私達がその質問に答える確率・・・40%」
レーオンとノーウェンの背後から、三人目が現れた。
レーオンは、その方向に振り返り、ノーウェンと背中を合わせる。
「はん、わかったぞ・・・この際だから言っちまう。
俺らは、パルティ・ド・ティオレイドのメンバーだ。
そして、おまえら。
オーストラリア支部の隊員を殺したのは、おまえらか。」
「・・・」
三人は沈黙する。
「バレてるなら仕方ないわね!!」
吉子が、ポストの上に立ち上がる。
「私達は、ワイズマンの四天王よ!!
あ、勘違いするといけないから言っとくけど、
三人で一人分と考えて。」
吉子は言い切って、胸を張って、嬉しそうに、誇らしげにポーズを決めた。
「そのポストに立って、落ちる確率・・・80%」
「・・・っとわぁ!?」
吉子は、ポストから落下。
「っ痛〜・・・」
尻をさすりながら立ち上がる。
「先に言ってよね、麻子ちゃん!!」
どうも真面目に、やる気はないらしい。
「君たちが敵だってのはよくわかった。
いや、でも、ワイズマンの上官に同情の念を抱いたよ、一瞬だけ。」
レーオンは言って、その場を立ち去ろうとした。
「あーした天気になぁーあれっと。」
レーオンの胸部目掛けて、吉子は、靴を蹴り飛ばした。
靴。ブーツ。
レーオンは、それをかわして、吉子の横を通過した。
「ノーウェン、俺は非戦闘員だから、先に逃げるぜ!!」
「あの野郎!!」
飛んでいったと思ったブーツは、空中で方向転換し、逃げていったレーオンに向かっていった。
「レーオン!!」
レーオンは、振り返る前に、すでにブーツの底蹴りをくらっていた。
「うぉっ!?」
レーオンは、前に滑って倒れた。
その背中に張り付くようにしていたブーツは、吉子の元に戻っていった。
「今のが、私のユ・ティオール、シュートスカイフォーラ。
避け方は教えてあげなーい♪」
吉子は、ブーツを履きなおすと、ノーウェンに蹴りを繰り出した。
そんな子供の蹴りが簡単に当たるわけもなく。
「おまえ、本当に長女か?」
「そうよ。勇子が次女、麻子が末女。」
「そうは思えんな・・・」
ノーウェンは、吉子の足をキャッチ、そして、力いっぱい、その体躯を投げ飛ばした。
その体は、ポストの角に当たって、ガンと響いて、空中で回転して、道路に落ちた。
「やべぇ、やりすぎた・・・」
それでも、吉子は立ち上がった。
額から血を流している。
「あーあーあー、だから言ったのに姉ちゃん・・・
狙撃兵に徹してって。」
「私は目立ちたがり屋だからいいの!!」
「自分で言うな。」
勇子は、ハンカチを取り出して吉子の額をぬぐった。
「おまえらは、俺にコント見せにきたのか?」
ノーウェンは、呆れていた。
「・・・賭けをしましょう・・・」
麻子が言った。
「賭け?カジノじゃないんだから。」
「この能力は・・・カジノじゃ使わない・・・」
麻子は、淡々と、無表情で言った。
服装と性格からして、三姉妹の中では一番、長女っぽく見えた。
「・・・レーオンさんが・・・立ち上がった今・・・彼がこっちに向かってくるが、
その道に、花瓶が落ちてくる確率は・・・50%。
あなたは・・・どうします?」
ノーウェンに向いて、ニッコリと、微笑んだ。
「それがあんたの能力・・・」
「私の能力はただ単に、起きる現象と、その確率、それから起きる場所を見ることだけ。
・・・戦闘向きではありません・・・」
ノーウェンは、走って戻ってくるレーオンを見た。
「来るな!!」
ノーウェンは、叫んだが、遅かったようだ。
「くっ・・・」
ノーウェンは、走り出し、レーオンに向かっていった。
「レーオン・・・伏せろっ!!」
レーオンは、言われたとおり、しゃがみこんだ。
「サニーデイクロワッサン!!」
落下してきた花瓶に向かって、大きく弧を描くようにして、熊手を振り切った。
花瓶は、音をたてて空中で粉々になった。
二人がまとまった所に、吉子がドロップキックをかましてきた。
「っ!?」
ノーウェンは、腕でガードしたが、ブーツの底が、きつく腕に食い込んだ。
吉子は、着地し、半回転して、回し蹴りを放った。
「さっきと勢いが違う!!」
ノーウェンは、その回し蹴りを避けて、攻撃の準備をした。
「女子供だからって容赦せん!!」
回し蹴りの反動で、背後を見せてしまった吉子に、ノーウェンは、殴りかかった。
「くらえ!!サニーデイ・・・」
言おうとした瞬間には、ノーウェンの腹部に、吉子の後ろ蹴りが決まっていた。
「シュートスカイフォーラ!!」
吉子のブーツごと、ノーウェンは吹っ飛んだ。
歩道からはじき出され、車道に落ちた。
「危ない!!」
レーオンが、ノーウェンに向かって走っていった。
「・・・大丈夫・・・車は来ない・・・」
麻子が言ったとおり、実際に車は来なかった。
「得体の知れない者とは戦いたくないな・・・引くか?ノーウェン」
「まだまだ・・・」
レーオンは、ノーウェンを引き起こした。
「そいじゃ、私の出番かい?」
勇子が、前に出た。
そして、リズムを取るように、足踏みした。
「とんとんとん、とんとんとん、とんとんとん・・・」
ノーウェンが向かってくるのも聞かずに、自分の世界に閉じこもってしまっていた。
両手の人差し指を出して、クロスさせ・・・
「あの動きは・・・なんだ?」
クロスさせた指を、火打石を打っているかのごとく、叩く。
そのあと両腕を広げて。
「あれは・・・ドラム!?」
右腕を大きく振ったとき、空気摩擦によって発される音が響いた。
剣を振った時の音などは、どんなに思いっきり振っても、そんなに大きな音にはならない。
だが、勇子は指をちょいっと振っただけでそれをやってみせた。
「音が・・・」
音が響いて、そのあとも続いて、勇子は指揮者のように両手を振った。
周りの景色が波を打つかのように、歪んでいった。
「これは・・・波?」
「ノーウェン、こんな地味なユ・ティオールもあるもんだな。」
「いや、地味じゃない・・・結構派手な攻撃だ!!」
「攻撃?これが?」
消火栓がある近くにいたレーオンは、油断したその瞬間に攻撃を受けてしまった。
消火栓が破裂したのだ。
「ぐわっ!?」
水が噴出し、その水圧でレーオンに向けて、鉄の塊が飛ばされた。
レーオンは、それを腹部に受けた。
「接近戦に持ち込めば・・・」
ノーウェンは、周りで空間が爆発するのを聞きながら、見ながら、そして避けながら、
勇子の前まで駆けていった。
「接近戦だと勝てるとでも思ったの?」
勇子は、すぐにその攻撃をやめた。
そして、ボクシングの構えを取った。
「勝てると思うなぁ!!」
ノーウェンは、左パンチを繰り出した。
勇子は、それをあっさりと、首だけ動かして避けてしまう。
「さぁて、私の番ね。」
勇子は、素早く、そして力強い攻撃を連弾した。
「いくわよ!ストレート!フック!アッパー!まだまだ!!ワンツー!フリッカージャブ!!ラスト、破壊力抜群ストレート!!」
「くっ・・・」
なんとか全てガードしたものの、ノーウェンは仰け反らずにカウンターをしようとは思えなかった。
勇子との距離が開いてしまう。
勇子は再び、リズムを取り始めた。
「エアーアタック。」
言った瞬間、空気が、空間が、何もないその場所で、爆発した。
ノーウェンを含む範囲に、その爆発は起こった。
「・・・!?」
ノーウェンは、その場に倒れていた。
「なんだ・・・?今のは・・・あまり、大怪我は無さそうだけど・・・」
ノーウェンは、再び立ち上がった。
が、今度は二度、三度、と連続で爆発を当てられた。
流石にそれでは立っていられなかった。
「くそっ・・・一発自体の威力はそんなにないが、連続で当てられると・・・」
ノーウェンは、地面を這っていった。
一般人が異変に気付き、そして注目しはじめた。
「よってらっしゃい見てらっしゃい、
これから楽しい楽しいアクションパフォーマンスが始まるよ!!」
「何やってんの姉ちゃん・・・」
吉子が客引きした所為で、野次馬が集まってきてしまった。
腹部を押えて苦しんでいるレーオンを見て、ノーウェンは、退くことも考えた。
「レーオン!!退くぞ!!」
「ああ・・・わかった・・・」
二人は立ち上がり、石原三姉妹に正面を向けながら、後ろ歩きし、角を曲がってから走り出した。
「追いかけてこない・・・」
レーオンが、肩越しに背後を見ながら言った。
石原吉子は、その場でしゃがみこんで、地面に倒れかけた。
麻子がその体躯を支えた。
「姉ちゃん!?」
勇子も、心配で声を荒げた。
「だ、大丈夫・・・血が出すぎちゃったよ・・・えへへ、
貧血・・・ただの貧血だから・・・」
吉子は、麻子の腕の中で目を閉じて、首を垂れた。
「姉ちゃん!!」
勇子が叫んだ。
「大丈夫・・・気絶してるだけ」
麻子が言って、吉子を背負った。
ノーウェンとレーオンは、ホテルに戻ってきてからすぐに、全員を集めた。
ジョン・スポールを始めとする影の鎖の隊員、
それから今は臨時だが、責任者のレーオンがまとめるパルティ・ド・ティオレイド、
その全員がロビーに召集された。
話さなければいけなかったのだ。
ワイズマンの四天王に襲われたこと、それからワイズマンと接触した隊員が殺されたことも。
ショーンが、ノーウェンが持っている本に気付いて指摘してから、
話題は『海賊と鍵』についてだった。
鍵を集めて、それを各地に刺していき、最後の一本の鍵を握る。
その一本を握った人物が、全ての体力、知力、気力、能力を奪っていた。
死んだ隊員は何故、この本をノーウェン達に知らせたかったのだろうか。
ジェイリーが、本を貸してと言って、カッターナイフを取り出した。
「何をするつもりだ?」
ルービーズが言った。
ジェイリーは、カッターナイフを斜めに、本の裏表紙に切って入れた。
サクサクと切り進めていき、裏表紙の片方が剥がれた。
「よく映画で見たのよね。
こういうところに・・・何か入ってるって。」
出てきたのは、MOディスク。
「驚いたなー、こんなこと実際にあるもんなんだね」
フィスナが言った。
「レーオン、すぐに調べろ。」
ジョンが言って、MOをジェイリーからレーオンに渡した。
レーオンは、「了〜解」と言って、早歩きでロビーから去って、
ティオレイドのホテルには絶対あると言っていいコンピュータールームに入った。
「よし、とりあえず今日は解散だ。
みんな部屋に戻れ。」
ジョンが言った。
その声と同時に、ショーン達は部屋に戻っていった。
ショーンは、部屋で椅子にどっぷりと深く座りながら、テレビを見ていた。
「日本の番組はやってないのか・・・」
ショーンと呼ばれていて、自分が日本人だと言うことをたまに忘れかける。
ミハエルは、いない。
他の部屋に行ってくると言ったきりだった。
こんこん、と軽くノックの音。
「はい、ちょっと待っててください」
おそらく、またシェリーさんだろう。
覗き穴も見ずに鍵を開けてしまった。
ドアを少し開けると、外から強引に押して入ってきた。
ショーンは、ドアから咄嗟に離れて、戦闘態勢に入った。
「・・・」
入ってきたのはルービーズだった。
「何ですか?」
「昨日」
「え?」
ショーンは、自分が聞いたと同時にルービーズが喋りだして、その言葉を聞き損ねた。
「昨日、シェリーがここに来ていたよな」
「昨日の続きですか・・・」
ショーンは、構えるのをやめて、ソファに座った。
昨日のことを思い出す。
シェリーがショーンの部屋に来て、ミハエルも含めた三人で話していたとき、
ルービーズが入ってきたのだった。
「誘った?」
変なことを聞かれたので、ショーンは怪訝な表情になる。
それでも、驚きはせず、テレビを見ながら。
「えっと、シェリーさんが、鍵をこじ開けて入ってきたんです。」
一応年上だから敬語だ。
「ああ、そうなの。」
ルービーズは、部屋の中央にまで入ってきて、そして椅子に座った。
そしてテレビを見る。
「何を勘違いしたんです?
俺は人の恋人を盗ったりしませんよ。」
「・・・そうだな、確かに。
君はなんか、誠実そうだよ。」
ルービーズは笑った。
「山南沙耶華。」
ルービーズが言った。
ショーンは、「ああ」と思い出すように頷く。
「沙耶華さんがどうかしたんですか?」
「君は、彼女が好きなのかい?」
ショーンは、顔を背けた。
何故か頬が引きつったその表情を、読まれないように。
「図星か」
「いや、違う違う違うこれはその、あれ、えーっと、
その話は、うは、面白ーいって、ね。」
「落ち着けよ。ビールでも飲んで」
ビール瓶を持っているような仕草をしたので、一瞬、本当に持っているのかと思ったらしい。
ショーンは、
「まだ未成年ですよ」
と言った。
「とりあえず、電話で聞いた任務、あったよな。
俺たちは次にガルムベルド団にもう一度接触するって。
今度はグリノも合わせて。」
グリノ。
本名不明、パルティ・ド・ティオレイドのヘッド。
ショーン達はまだ会ったことがなかった。
レーオンや、ジェイリーは恐らく、会ったことがあるのだろう。
否、沙耶華、エレノア、カーマも会ったことがあるのかもしれない。
となると、ティオレイドの新入りチーム、ショーン、フィスナ、ミハエル、
それから陰の鎖のチームは会っていないということだ。
「ティオレイドのヘッドに会えるんすか・・・」
ショーンはつぶやいた。
「まぁ、あれだ、日程が一週間以内ってだけだから、
それまでのんびりしてようじゃないか。」
ルービーズはそれだけ言って、部屋を出ていった。
ショーンは、一体何をしに来たのかわからなかったルービーズを不思議に思って、
構わずテレビを見ていた。
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