第29話「チームメタルタウン」
朝方。
カーテンの隙間からの朝日がカーペットを照らし、その反射でショーンは起きた。
離れた場所にあるベッドのミハエルはまだ寝ていたので、ショーンは二度寝した。
二度寝で、眠りに入っていくところで、電話が掛かってきた。
ショーンは、面倒ながらも、手探りで受話器を求めた。
「はいもしもし」
ミハエルが受話器を取って応対していた。
「はい。」
ミハエルは、すぐに受話器を下ろして、再び布団の中に潜ってしまった。
「おい、なんの電話だ?」
「レーオンさんからの電話だ。
一階の食堂に集合・・・ティオレイドのメンバーは無料で朝食を・・・」
「・・・おい」
「・・・」
「寝るな」
ショーンは、ミハエルの頭に枕を投げつけた。
「レーオンさんからの電話だ。
一階の食堂に」
「それは聞いたよ」
「俺たちは無料でビュッフェってのは聞いた?」
「ビュッフェは言ってなかったが無料ってのは聞いた。」
「時間制限十時までって言った?」
「聞いてない」
「MOディスクの解析が終わったって言った?」
「それもまだだ。」
「グリノさんが来てるって言った?」
「言ってないな、おまえは。
そんなことを電話で言われたのか?」
「おまえの妹に早口で捲し立てられたんだよ。」
ショーンは、思い出す。
そういえばあいつもここに来ているんだった、と。
「晴海か。」
ショーンは、ベッドから降りて靴を履いた。
そして着替え始めた。
「おい、朝飯は何時までっつった?」
「十時」
ショーンは、電話の横に置かれた時計を見た。
「やばい!!あと三十分しかねぇじゃんか!!」
その声と同時に、ミハエルも跳ね起きた。
ショーンは、色々と準備を済ませてドアの前に来た。
ミハエルは、着替えながらそれを見て、
「先に行っててもいいんだぞ」
と言った。
「敵に襲われたらどうする。
そのためのペア行動だぞ。」
「そーでした。」
ミハエルは、急いで準備を済ました。
「行くぞ」
二人は廊下に飛び出した。
オートロックのドアなので、鍵を掛ける必要はない。
「待て」
ショーンがドアの間に手を挟んで、止まっていた。
「カードキー忘れてないか?俺は持ってる。」
ドアを開けるためのカードキーを手にして、ミハエルに見せながら言った。
ミハエルは、財布のカード入れや、服のポケットを調べたが、どうやらカードキーは見つからなかったらしい。
「サンキュー」
ミハエルは、ショーンが開けていたドアから中に戻って、カードキーを財布に仕舞った。
「こいつでバッチシだ。急ごうぜ」
ショーンは、ミハエルにでこぴんしてから、エレベーターに向かっていった。
「ちょ、何すんだよ!!」
二人はエレベーターに乗った。
一階の食堂では、富豪から、それなりの成金などがビュッフェを楽しんでいた。
その奥の仕切りの向こう側に、ティオレイドのメンバーと、陰の鎖のメンバーがいた。
「お兄ちゃん遅い・・・」
晴海が、ブツブツ言っていた。
皿の上の目玉焼きもブツブツに切っていた。
晴海の隣に席を取ったグリノは、若干十二歳という若さでティオレイドの総司令についていた。
司令とは言っても、やはり十二歳、頭を使うよりも前線に出ている方が圧倒的に多かった。
今日はそのグリノの招待記念でもあったというのに、ショーンとミハエルが揃っていなかった。
が、他のメンバーは、グリノと初対面の人も含めて、すでに食事を始めていた。
晴海の携帯電話が鳴った。
「もしもし?お兄ちゃん?」
『おう、俺だ。今どこだ?』
「一階の食堂、奥の仕切りの所。」
『わかった。そこだな。』
電話を切って、そこに登場したのはショーンとミハエル。
「待たせたな」
「もー、朝の挨拶は終わっちゃったよ?」
晴海はショーンを責めている。
「いいじゃない、晴海ちゃん。
だって、特に時間指定してあったわけじゃないんだし。」
沙耶華が弁解した。
「それでも、気が緩みすぎです。
朝はきっちり、起きることです。」
「確かに・・・」
そこで、ショーンは、グリノの姿に気付いた。
「あれ?あんたは、新しい隊員さん?」
「いえ」
それでショーンは気付いた。
ああ、なるほど、この人が。と。
「おいおいおい、お譲ちゃん、こんな所座っててなぁ、
いけねぇーなぁ、おい。」
ミハエルが喧嘩腰でグリノに詰めていった。
周りのメンバーは、そんなミハエルを見て笑いを堪えていた。
「誰だか知らねぇけどな、ここは今、秘密会議中なんだよ。」
ミハエルは言った。
「あんた何歳だよ」
「十二歳よ。」
「え?俺より二つも上!?
嘘だろ?」
ミハエルは、驚いていた。
「ミハエル、彼女が誰だかわかるか?」
ジョンが言った。
「知らねぇよ。ところでグリノって人はどこだ?」
みんなが、ミハエルの横を指す。
「え?」
一度、ミハエルは、その少女を見てから、みんなを見渡して、もう一度彼女を見た。
「・・・」
「パルティ・ド・ティオレイド総司令のグリノです。」
ミハエルは、真っ青になった。
「し、し、し、知らなかったんだ!!いや、今のは、ほんのちょっと、ふざけただけで!!」
「別にいいよ。怒ってないよ。」
「え?」
グリノはニッコリ微笑んだ。
「私の方が先輩なんだし、だったらそこは、寛大に、ってね。」
ミハエルは、一瞬、負けたと、思った。
「な、なんか悔しい」
ショーンとミハエルは、席について食事を始めた。
レーオンが立ち上がって、手を叩いた。
「遅刻者がいるんで、もう一度最初から話すことになるが・・・」
ショーンとミハエルを、下目使いで睨んで、それから話を始めた。
「今日、ガルムベルド団への本格的な攻撃を開始する。」
「ワイズマンはどうするんすか!!」
「遅刻者は黙っておれ」
ミハエルは、立ち上がろうとしたのだろう、椅子を引いて腰を落ち着かせた。
「今、ミハエルが言ったように、我々は二つの勢力と戦っている。
この世の全てを手中に納めようとするワイズマンと、
この世の統治を崩そうとするガルムベルド団。」
レーオンは、一呼吸して、続けた。
「今回手に入れたディスクから解析できた資料をお配りする。
遅刻者二名だけ。」
ショーンとミハエルは、小冊子をもらった。
「とりあえず読め」
ショーンとミハエルは、それを言われたとおり、読み始めた。
「そこにはワイズマンの対策など、色々書いてある」
ミハエルは、小冊子から視線を外し、レーオンを見た。
「ちょっとまて、ガルムベルド団との戦闘になるんだよな?
なんでワイズマンなんだ?」
「そう。そこだ。
今まで謎だった部分。」
飛行機の中で話したことを、思い出しながら言った。
「ワイズマンの元団長にしてガルムベルド団の現団長、ローズアルバルト・アレキスの本名は、
レガロ・ガルムベルド。
この意味がわかるか?」
ミハエルは、その問いに頷いた。
「そして、ディロン・ガルムベルドがローズアルバルトの父親だったってわけだな。」
「あたり。」
レーオンは、ミハエルとショーンの横に来た。
「そして、ワイズマンの初代団長だと思われていたローズアルバルト。
それが違った。
我々の思い込みで、ワイズマンもガルムベルド団もどうして一時的に味方だったのか、
わからなかったが・・・
ワイズマンを作ったのはディロン・ガルムベルドだったんだよ。」
レーオンが、寄ってきて言って、ミハエルとショーンは、驚いていた。
他のメンバーは驚いていない。
二人が来る前に既に説明を受けていたから。
「ディロンは、何故か、ワイズマンを抜けた。
当時の数十人のメンバーと一緒に。
それから、ローズアルバルトが、ディロンとの血縁関係を隠して、
ワイズマンの団長になった。」
「何故だ」
ショーンが言った。
「何故、正体を隠す必要が?」
「ワイズマンの現団長、デーモニックと呼ばれる人物が、当時のワイズマン団長になる予定だったのさ。
ディロンの息子として団長の座についたりしたら、そこでデーモニックが怒り出したんじゃないのか?」
ショーンとミハエルは頷く。
「今度はデーモニックだ。
彼は、ワイズマンの長は諦めたのか、当時、構成したばかりのディロン率いるガルムベルド団に入団した。
かけもちでね。
そこからは何があったのか、詳細はしられていないが、デーモニックがディロンと、
団員全員を殺害。」
「なるほどね。」
ショーンは、ただ聞いているのに嫌気が差したのか、そう言ってから、コップの水を飲んだ。
「ローズアルバルトが、父親の意思を引き継ぎ、当時のワイズマンの仲間と、
ガルムベルド団に移った。
その時なんだよ、二隻あったガルムベルド船が一隻消えてしまったのは。
不思議にも、デーモニックがローズアルバルトを責めなかったのは、
自分がワイズマンの団長になれたからだろうな。」
ショーンは、人差し指を挙げた。
メンバー全員が彼に注意を向ける。
「その船、ワイズマンに無条件譲渡って説は、無いのか?」
全員が、なるほど、と頷いた。
沙耶華が、ショーンを「頭いいねー」と褒めた。
「確かにそうかもしれないね。」
ジェイリーが言った。
「この戦い、一筋縄では、いかなそうね。」
グリノが、そう言ってから、次の話を始めようとしていた。
「一発でワイズマンに攻撃するのではなく、ガルムベルド団から先に片付けちゃいましょう、
そういうことですよ。」
グリノは、言ってから、レーオン見て微笑した。
「そうですよね?」
「そうですよ。」
なんだか総司令が情報員に敬語を使ってるのもどうかと思うミハエルだったが、
そこは年功序列、年上を敬うってことを知っているグリノと知らないミハエルの違いだ。
「俺と、ノーウェンの協力で、ガルムベルド船が次に停泊する秘密基地がわかった。
感謝すべきはディスクに導いてくれたティオレイドの隊員だな。」
レーオンが言った。
「各々の出発時刻や、役割は、手元の資料に入れておいた。」
今まで黙っていたジョンが言った。
「流石は影の鎖、仕事が速い。」
パルティ・ド・ティオレイドは、世界的に広がった非政府組織の集まりだが、
影の鎖は、アメリカの一部での一企業に過ぎなかった。
ミハエルは、そんなことを知っていて皮肉ったわけではない。
「これから北西部にある、キンバリーに向かう。
夜に到着するだろうから、移動中は寝ておけ。」
そして、パルティ・ド・ティオレイドと、影の鎖のメンバーに別れて、
高速バスに乗った。
南海岸のヘリポートがある場所にバスを止めて、運転手は手続きを済ませ、
大型ヘリに搭乗した。
バスで寝ていた者も、大型ヘリに乗った。
ここでも大型ヘリは二機だった。
ショーン達は、震動に悩むだろうと思っていたが、案外静かに寝られた。
運転手は、途中で、交代して、客室入って、メンバーと同じく眠っていた。
そして、夜になった。
沙耶華は、大型ヘリの窓から、外を見てみた。
暗くてよく分からないが、遠くの方に明かりが見える。
そこには、ロケットの発射台のような塔のような、建物が見えた。
影が不自然だった。
大型ヘリは、だんだんと降下していき、
沙耶華が見た建物がある台地の階層よりも、何段か下の台地に向かっていった。
建物を上に見る形になって、大型ヘリは着陸した。
そのときの音で、ショーンが起きてきた。
「沙耶華」
ショーンに声をかけられて、振り返る。
「よく眠れた?」
「ああ、結構いい感じに。」
「それで?あの建物は何なの?」
ショーンが聞いたので、沙耶華は答えようとしたが、
何と答えたらいいかわからなかった。
「わからないわ。でも、あれって影が不自然でしょ?不思議よね」
ショーンは、沙耶華の横で、建物を見た。
「光が漏れてるのに・・・あたっている場所が無い?
違うな、当たる物がないんだろ。」
「それが、無いはずなのに・・・一箇所だけ・・・」
沙耶華は、それを指差した。
何も無いはずの空間に、光があった。
プロペラが停止して、操縦士が全員を起こしに来ていた。
「あそこに黒い何かがあるんだろ。
で、黒いから見えないけど、一部から・・・窓から光が漏れる感じか?」
操縦士が、何人か起こし始めてから、ショーンと沙耶華のところにきた。
「もっと間近で見たかったら、
ヘリから降りてみれば?
そういえば、最初の出発陣は、二人だろ?」
ショーンと沙耶華は頷いた。
起きだしてきたメンバーの横を通り過ぎて、ヘリを降りようとした。
「ちょっと待て」
レーオンが、機材を外に運びながら、小さな機械をショーンと沙耶華に渡した。
「これを耳に付けてくれ。
通信機になってる。」
レーオンが、機材を外に、あの建物からヘリの影になるように、置いた。
それからパソコンなどを起動していった。
「置いてくなよ」
寝ぼけ眼のミハエルが、ヘリから出てくるなり、レーオンから通信機をもらってショーン達のところに来た。
「俺も先行隊だぜ。
あとフィスナさんもな。」
ショーンが、ヘリの入り口を見たとき、フィスナが、降りてきた。
同じく、通信機をもらって。
「チーム名は?」
レーオンが微笑んで言った。
「沙耶華がチームフリーズだから、それでいいだろ」
ショーンは、言った。
沙耶華は、すぐにそれを否定した。
「ショーンと私は、鳥粉町に住んでるよね。」
「ああ。それが?」
「鋼鉄の町・・・メタルタウン」
沙耶華が言った。
「おいおい、まさかそんな面白みも無い名前に?」
ミハエルが怪訝そうな顔で言った。
「私があの町で、ショーンを誘わなかったら、今のこの状況は、無かったかもしれない」
沙耶華がミハエルを説得した。
「ああ、わかったよ。わかった。それでいこう。えーと、なんだ?」
「チームメタルタウン」
フィスナが言った。
「そうだな。俺たちはチームメタルタウン。
これでいいか?レーオン。」
ショーンが、レーオンに向き直った。
レーオンは、パソコンのキーボードを打っていた手を止めた。
「ああ。上出来だ。行ってこい、チームメタルタウン。」
四人は、出発した。
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