第3話「フィスナ・リフター」 グァム島 現地時刻20:30 街灯がキラキラ光る都市部、 免税店の目と鼻の先にあるホテル「リフターホテル」。 アメリカでの生活に飽きた大富豪家族が グァムにひとつ、別荘も兼ねたホテルを建てた。 大きさはそこそこ、150組は泊まれるほど。 そのホテルの主の娘であるフィスナ・リフターに、 最近異変がおき始めた。 彼女の大学が、台風で休講になり、 家(ホテル)でくつろいでいた日だった。 部屋でソファに座りコーヒーを飲みながらテレビを見ていたとき、 チャンネルを変えようと思いリモコンを探したとき。 ソファからテーブルを挟んで向こう側の雑誌が貯まってる上にのっかっていた。 いちいち歩いていくのも面倒だと思った。 立ち上がろうとしたとき一瞬、立ちくらみのような感覚に襲われた。 そのままソファに座り込んでしまった。 とりに行こうと思ってたのに 立ちくらみでまた座ってしまった。 0からやり直し、と思ったが、手に何かの感覚がある。 ゆっくり目を手に向けてみると、 テレビのリモコンがそこにあった。 彼女にはいったい何があったのかわからなかった。 フィスナがまだ小さかったころ、 背の高い、肩幅も広い男から聞いたことがあった。 君にはU・tioleの才能がある・・・と。 彼が言っていたのはこのことなのか、と 最近思う。 フィスナのその緑色の髪と、 左目の下の涙黒子、 そして少し小柄な体、 その長所を生かし、今まで ウェイター系のバイトしかしてこなかった。 フィスナの父親がカウンターの奥でウトウトしていると、 ベルの音が鳴った。 「客か・・・」 すぐに嫌々ながらも目を開けて カウンターの机の前まで来た。 「予約したルービーズです。」 「ルービーズ・ラファエロさん?」 「はい。」 「では、ここにサインを・・・」 フィスナの父親は机の引き出しから 赤いクレヨンと雇用契約書を取り出して渡した。 「あ、あの・・・なんですか、これ」 ルービーズはすこし戸惑ったが、 寝ぼけているということが顔からわかるので とくに大きな意味はないと思っていた。 「あ、こりゃすいません、少し疲れ気味で・・・」 「跡取りがいるんでしょ?彼女に任せたらどうです?」 「・・・おまえは何者だ」 父親はなぜ子供がいることがわかったとしても 娘ということがわかっていたことに不審を抱いた。 「ただの客ですよ」 「そうじゃない。子供がいることがわかったとしても、 なぜ娘ってわかったんだ?」 「・・・すべて調べはついているんです。 フィスナ・リフターさんは今どこにいますか?」 「娘に何の用だ」 「・・・カーリッヒ・リフター・・・あなたにも 見てもらいたいものがあるんです」 「何のことだ?」 「とりあえず俺の部屋の鍵をください。」 「・・・」 カーリッヒは少し疑うような目で見ている。 「長くなりそうなので順を追って説明します。」 「なんのことだ?!」 「娘さんが小さいころ、背の高い男に会いませんでした?」 「いつのことだ、覚えてないな」 「そうですか、ならばなおさら説明しなければなりません。 いま娘さんは何者かに狙われています」 「狙われている?」 「そう。 他の国でもフィスナさんのようなU・tioleの使い手が狙われています。」 「ユ・ティオール?あの手品のことか?」 「ん、ご存知なんですか?」 「ふん、あんなの手品のようなものだろ。 なにかのしかけがあるに決まってる!」 「そうですか。 なにも無理に信じろってわけじゃないんですが、 もしあなたの娘、フィスナさんがそのU・tiole使いだったら・・・」 「そんなものすぐにやめさせるさ。」 カーリッヒがそう言ったあとに、書庫で物音がした。 カーリッヒとルービーズはその音を聞いて 書庫に急ぎ足で入っていった。 「誰だ!」 カーリッヒが蛍光灯の電源を入れる。 真っ暗な部屋がスゥッと明るくなった。 そこにいたのはフィスナだった。 「フィスナ!?」 「お父さん!?」 フィスナは本棚の前で落ちてきた本に 埋められていた。 「何やってんだ?」 「ちょいと試してみたいことがあって・・・」 本の山の中からフィスナの体が這い出てくる。 その体は、セロハン膜のように半透明になっていた。 「フィスナ!どうした!」 カーリッヒはあわてていた。 「すぐ救急車呼ぶ!」 「わぁ、ちょっ・・・待っ・・・」 カーリッヒは書庫を出てカウンターの電話の前まで来た。 電話に手をかけようとしたとき、 カウンターの棚から半透明な手がニュッと出てきた。 そして電話にかけた手を払いのけた。 「なんだこりゃ!」 カーリッヒは驚きのあまり考えることができなくなっていた。 カウンターの台の反対側からフィスナが顔を出した。 どうみてもフィスナの腕が向こう側からカウンターを貫通してるようにしか 見えなかった。 「どうなってんだ!?」 ルービーズは平然としている。 「どうやらそれがフィスナさんのU・tioleらしいですね」 カーリッヒは思った。 何故書庫にいた娘がすでにカウンターに来ていたのか・・・ それから何故半透明になっているのか・・・ 「お父さん、私は平気だから。」 「何言ってんだ!透けてるぞ体が! 幽霊みたいに壁も通り抜けるし!」 カーリッヒはパニック状態になり、意味もなく怒鳴っていた。 「そう、それがU・tioleの力、 ありえないことをこの世に引き起こす、 昔滅んだ大きな国、ソレーイの言葉でU・tioleは、 『奇跡の力』英語で"forth of miracle" Unzは力、想い、情、そしてtioleは奇跡、未来、運命という意味も兼ねている。 それを略してユ・ティオールと呼んでいる」 「説明はありがたいんだが・・・ 娘もこのままなのか?」 「それは俺にもわかりません。 娘さんに聞いてみてください。」 カーリッヒは平静を取り戻しつつ、 フィスナの顔を見た。 「元に戻れるのか?」 「余裕〜♪」 そう言った途端、フィスナは消えてしまった。 「消えたぁ〜!!」 「少し落ち着いてください」 ルービーズはカーリッヒを落ち着かせようとする。 「娘は・・・どこ行ったんだ!?」 カーリッヒがあせっていると、 階段から足音が聞こえた。 チェックアウトの客かと思い、 カーリッヒはカウンターに戻った。 だが降りてきたのは客ではなく、 自分の娘だった。 「あれ?」 「元に戻ってきたよ」 「透けてない・・・」 カーリッヒは娘が半透明ではないことに疑問をいだいた。 「これでわかりました。 フィスナさん、あなたの能力は半幽体離脱。 普通の幽体離脱だと物質や物体は触れませんが、 あなたの場合、さっきもカーリッヒさんの手を払いのけることができた。 だから壁などを貫通してものを動かしたりできる、 そういう能力だと思います。」 「私が思うに、それだけじゃないと思うんだよね」 フィスナがカーリッヒの前に出たとき、 フィスナの体から半透明の人間が出てきた。 それはフィスナの幽体だとわかった。 「私の体から100%の魂を出さない限り、 本体、つまり肉体の方も動ける。し、 同時に幽体のほうも遠隔操作ができる。」 ルービーズは感心していた。 だが、それもつかの間、ホテルの全体が 停電になり、真っ暗になった。 ルービーズはとっさにフィスナの体をカウンターの中に 転ばせた。 「来たぞ、やつらだ・・・」 小声でルービーズはフィスナに告げた。 闇の中からものすごい殺気が出ている。 フィスナはその殺気に恐れ、 ガクガク震えている。 「何・・・この感覚・・・」 「ああ、俺にもビリビリ伝わってくる・・・ こりゃ逃げないとショック死しちまうな・・・君は」 「あんたは平気なの?」 「なんとかな。 いままでこんなこと何回も体験してきた。」 カウンターに隠れながら近づいてくる 呼吸音と足音を聞いていた。 「そうだ・・・お父さん!」 フィスナは父親がまだカウンターの外にいることを思い出した。 「ぅうぁあー!!」 闇の中から悲鳴が聞こえた。 あきらかにそれはカーリッヒだった。 「お父さん・・・」 フィスナは泣き出した。 ルービーズがその小柄な肩に手を回していた。 「わかってる・・・今、逃げちゃだめってこと・・・」 なきながらフィスナはそう言う。 「もう少しの我慢だ・・・」 ルービーズは震えるフィスナの肩を掴みながら、 彼女に助言のように言った。 もどる