第30話「アレイニーエ」
ショーン達は、困惑していた。
敵の戦力について、深く調べていなかった。
ガルムベルド団は、あのとき、船に乗っていたので全員だと思っていた。
しかし、現実、この場では、迷彩服を着て、ヘルメットを被った兵士達が、ショーン達を襲ってきたのだ。
兵士達は、ライフルを持っていただけで、ユ・ティオール能力を持たぬただの人間だった。
最初に出くわした兵士は二人だけだったから、それは楽勝で倒した。
次からは多く出てきている。
「おい、あいつらは銃を持ってんだぜ。」
「こっちはレールガンと水鉄砲がある。大丈夫だ。」
ミハエルは、苦笑しながら、ショーンを睨んでいた。
「余所見するな。来たぞ。」
兵士が、ショーン達の前に現れた。
ライフルを構えて、トリガーを引いた。
距離があったのと、夜明け前の暗さもあって、弾丸は、誰にも当たらなかった。
ミハエルが、水で何本もの針を形成し、飛ばす技、
「バイオレンスブルー!!」
言ったと同時に、兵士は、マシンガンで撃たれたかのように、回って、倒れた。
「ショーンとミハエルは、いいよね・・・
遠距離攻撃ができるんだもの。」
沙耶華が言った。
「中に入ったら頭脳戦が物を言う。」
「私の頭脳だけに?」
「そうだ。」
言いながら、ショーンは、雷を飛ばした。
そこに、兵士が隠れていた。
兵士は、感電して、倒れた。
ショーン達は、台地を上がっていく。
ロケットの発射台のような建物付近に来るまでに、兵士は、何人出てきただろうか。
「レーオン、建物の前まで来たぞ」
ミハエルが耳の通信機を押して言った。
『オーケイ。
世界的ハッカーとも呼ばれた俺の腕、こいつで今、閉じられた門戸を開放してやるよ。』
建物の周りは、城壁と有刺鉄線で囲われていた。
ショーン達の横には、門があった。
門の横には、カードキーを通す溝があった。
恐らく、カードがあれば入れるのだろう。
「ハッカーなんて始めて聞いたぞ」
ショーンは言った。
そのとき、門がゆっくりと開いていった。
『ああ、きっと山南さんも知らないだろうね。
知っているのは、ティオレイドの上官だけだと思うよ。』
通信を聞いてから、ショーン達は中に入っていく。
建物の入り口が見えた。
そのとき。
「緊急事態発生!!緊急事態発生!!
入り口付近にて、侵入者!!」
警報がうるさく鳴り響き、物見台の上の兵士がメガホンで叫んだ。
「付近の者は、ただちに確保にかかれ!!」
叫んだ兵士は、己もライフルを持ち、物見台から降りてきた。
それとほぼ同時に、多くの兵士がショーン達の前に現れた。
「手を挙げろ!!」
銃口を向けられても、フッ、と鼻で笑うショーン。
「沙耶華。この人数、一気にいけるか?」
「この距離なら多分・・・」
言って、沙耶華は、兵士達を見た。
「ワイルダーンエレクト!!」
兵士達は、頭を抱え込み、叫び、倒れた。
「ぐぁ・・・頭が・・・」
先頭の兵士が、頭を抑えながらも、立ち上がり、片手でライフルを構えた。
「これしきの・・・こと・・・」
銃口は、フィスナに向けられていた。
銃声が鳴って、フィスナは、目をそむけた。
「ディフェンダーコールド!!」
咄嗟に、ミハエルがフィスナの前に出て、水の盾を形成していた。
銃弾は、弾かれなかったが、空中にある水の中に浮いていた。
「トネールプリュールル!!」
ショーンが、雷で反撃した。
兵士が全員、気絶したのを確認後、ショーン達チームメタルタウンは、中に進もうとした。
そのとき、地面が少し揺れた。
ボイラー室か、何かが近くにあったのだろう、と思っていたが。
「発進準備!!」
誰かの叫びと共に、他の場所から出てきた兵士が、建物の奥へと向かっていった。
「なんだ!?」
ミハエルが、怪訝そうに言った。
「ねぇ!あれ見て!」
フィスナが言った方向を見る。
発射台のような建物は、やはり、発射台であった。
そこには、ガルムベルド船があった。
さっきまでは恐らく、灯りという灯りを全て消していたのであろう、
今現在は、その姿がはっきりと窺える。
「急げ!!急げ!!」
機械油で汚れた汚らしい服を着ている女が、兵士達を焦らしていた。
女は、ショーン達の方に歩いてきた。
「実験とは―」
女が言った。
「失敗に始まり、失敗に終わる」
手の平をゆっくりと上に挙げながら。
「私のこの失敗作は・・・唯一の成功作とも言える」
上空から、何かが、建物を這って、降りてくるのが見えた。
暗くて、その姿をはっきりと確認することはできないのだが。
「君たちには・・・この失敗作でお相手しよう!!」
女が叫んだ途端、ショーン達の前の地面が爆発した。
火薬などの爆発ではなかった。
上から何かが落ちた、それも特大の何かが。
女は、目の前にはいなかった。
落ちてきた、その何かに、乗っていた。
「俺の名前はフォルクス」
女は叫んだ。
「そして、紹介しよう、
こいつの名前は!!アレイニーエ!!」
金属の固まりだった、それ、アレイニーエは、フォルクスがボタンを押すと、
脚を、左右それぞれ四本ずつの脚を、広げて、立ち上がった。
その巨大蜘蛛型メカ、アレイニーエは、
胴体の中からガトリングを二丁出して、ショーン達に銃口を向けた。
「うわ!?」
フィスナは、驚き、声を漏らした。
「おい!!これ、カッコいいぞ!!すげぇすげぇ!!」
ミハエルが、アレイニーエを見て、はしゃいでいた。
「真面目にやれ」
ショーンは、雷を手の中に貯め始めた。
「トネールプリュールル!!」
両手で、雷を撃った。
「おおっと」
アレイニーエは、フォルクスの操作で、前足でガードした。
雷は、弾かれて、あさっての方向に飛んでいった。
ショーンは、驚いていた。
「機械だから電気に弱いなんて、そんな甘っちょろい考えしてんじゃないのかい?
これはこのときの為に、特殊コーティングをしておいたんだよ!!」
ミハエルは、水玉を空中に形成、それをアレイニーエに放った。
アレイニーエは、ガトリングで水玉を撃って、消し飛ばした。
「水は、苦手なんだよね、それでも・・・当たらなきゃどうということはない!!
あはははは!!」
フォルクスは笑っていた。
「さて、諸君、残念だが、君たちにはここで死んでもらうとするよ。
それじゃあバイバイ。」
ガトリングをショーン達に向けて、乱射した。
ショーン達は、咄嗟にそれを横とびして避け、それぞれ、散開していった。
「そんな巨体じゃ、小回りも利かないだろ」
ショーンは、アレイニーエの背後に回りこんで、飛び掛ろうとした。
「回る必要がないだけだよ」
フォルクスがいって、操作すると、アレイニーエのガトリングの銃口は、ショーンに向けられた。
「嘘!?」
ガトリングが乱射された。
ショーンは、身をかがめて、アレイニーエの真下に潜り込んでいた。
「トネールプリュールル!!」
雷を纏った手の平で、ガトリングのコードを掴んだ。
そのまま下に引きずり出し、コードをぶった切った。
「何をしている!!」
アレイニーエの横脚に蹴飛ばされて、その死角から追い出されるショーン。
「ぐっ・・・」
ショーンは、肩をつかんで、それから立ち上がった。
「痛ぇ・・・」
フォルクスは、確認のため、ガトリングのトリガーを引いてみた。
反応しない。
全て、電動の為、コードが切られると、その役目を果たさなくなるのだ。
「ちっ・・・ガトリングひとつ、ダメになっちまったな。」
ガトリングの二丁のうち一つだけが使用不能になっていた。
アレイニーエは、立ち上がったばかりでまだ安定感がないショーンを踏みつけようとした。
「ぶっつぶれろーっ!!」
「うわっ!!」
もう潰されると思ったとき、フィスナがショーンを助け出していた。
その体を抱えて、アレイニーエの踏み潰し射程から抜け出した。
アレイニーエの足は、何も無い地面を突き刺した。
「最初っからなんで使わなかったんだろう。」
沙耶華が言いながら、アレイニーエに近づく。
「沙耶華!!危ない!!」
ショーンが叫ぶよりも早く、沙耶華は、自分の能力を使っていた。
「ワイルダーンエレクト!!」
言ったと同時、フォルクスが頭を抱え込みもがき始めた。
「うぁ・・・」
フォルクスは、一つのスイッチを押した。
すると、アレイニーエが紫色に光りだした。
「何が起こったの?」
「沙耶華、もう一回ワイルダーンエレクトだ。」
「ワイルダーンエレクト!!」
言って、能力を使う。
が。
「うあっ!!」
倒れたのは、沙耶華だった。
「どうした!?」
「あ・・・頭が・・・」
「何!?」
ショーンは、紫色に変わったアレイニーエを見た。
「今の能力、頭脳や通信に害を成す能力と見た。
ならばこっちは通信遮断幕を張ればいいだけのこと!!」
フォルクスが言った。
「ただ、これをやっている間は、携帯電話が圏外になるのが玉に瑕。」
アレイニーエは、身を屈ませてから、高く飛び上がった。
発射台基地の壁に掛かるように設置された溝に脚をかけた。
上空から、ガトリングを乱射し始めた。
「うわっ!!」
幸運にも、距離が離れていたため、銃弾は当たらなかった。
「全員、死ね!!」
アレイニーエは、基地の外壁から飛び上がり、地面に着地した。
尚もガトリングを撃ち続ける。
「バイオレンスゴースト!!」
フィスナは、半幽体離脱の能力を使い、それからアレイニーエの前に近づいていった。
「なに!?」
フォルクスは、自分が乗るアレイニーエに、フィスナが乗ってきたことに驚いた。
「な、どうやって!?いつからそこに!!」
フォルクスは、スパナを取り出し、フィスナに殴りかかった。
しかし、それも当たるはずは無く。
フォルクスのスパナは、フィスナの体をすり抜けていった。
「うおぉぉぉお!?」
「ファントムフィスト!!」
フィスナの腕が、フォルクスの口から入り込んだ。
いつもどおり、抜き出したその手には魂があった。
「これでおしまいだよ。」
握られた魂は潰された。
「うあぁぁぁぁあ・・・」
叫びと共に、フォルクスは倒れた。
フィスナは、動かなくなったアレイニーエの上から戻ると、ショーン達の前に来た。
ミハエルが、アレイニーエに飽きて、フィスナを見ていた。
「やったな、倒したぞ!!」
「これはまだ始まりよ。」
沙耶華が言った。
「そうだな。さて。
じゃあ進もうか。」
ショーンが言った。
「恐らく、時間もないことだろうし。」
四人は、発射台基地の中に入っていった。
もどる