第32話「恭司」
ボロボロになった靴を履きなおす石原吉子。
「あーあ、こんなにボロボロになっちゃった。」
言いながら、片足を上げて見せる。
「姉ちゃん、さっきなんて言った?」
「靴がボロボロに」
「その前・・・」
「わんころをぶっ殺すのに」
言いかけた所、勇子が吉子を殴った。
「なにすんのさ!!」
「動物虐待じゃん!」
「犬怖いんだもの。」
恭司と麻子は、その二人に構わず、敵を睨んでいる。
「一人増えただけだ」
「我等に相対する者は、敵」
「人数が多いからと言って勝てると思うな!!」
紅蓮、蒼木、黄土は、再び一列に並び、突っ込んできた。
恭司は、指を鳴らす。
「何やってるの?」
勇子が怪訝そうな顔で聞いた。
そうしてる間にも、紅蓮達は、接近してくる。
「おまえら、下がれ。」
恭司が言って、勇子は頷いた。
「本気・・・ってわけね。」
「・・・」
恭司は、何も言わなかった。
「死ね!!」
紅蓮達三人が、同時に叫び、散開しながら砲口を恭司に向けた。
「アイスドリル。」
空から、特大のツララ、否、氷山の一角が落下してきた。
紅蓮達の頭上に落ちてきたそれは、見事、三人に当たった。
そのときに、紅蓮と蒼木が下敷きになった。
「すごい・・・」
勇子が、感嘆し、声を漏らした。
「北橋恭司・・・並のユ・ティオール使いにはない素質・・・
これが、これがその力!?」
勇子は、恭司に近づいていった。
「すごかった・・・見直した。」
「まだ来るな!!」
言うのが遅かったか、アイスドリルの直撃を避け、なんとか生きていた黄土が、勇子に向かってバズーカを発射した。
即座に、恭司は空中ナイフを形成し、弾幕を張ってバズーカの直撃を止めた。
が、爆風が、酷く大きかった。
「うぁっ!?」
後ろの方にいた麻子と吉子の方まで、強い風が吹きつけた。
麻子と吉子は、爆煙の中に吉子と恭司の姿を探した。
煙が引いていくと共に、その姿が視認できるようになってくる。
そこにあったのは、丸い塊り。
「勇子ちゃん!?」
「恭司さん・・・」
その丸い塊りは、二人の声を聞いて、内側から開いていった。
「あ・・・」
その中には、怪我を負った恭司と、蹲っていた勇子がいた。
「陰の鎖社製、防弾マント。
使い勝手がいいな。
ワイズマンが陰の鎖から横領した器具・・・」
恭司は、呟いていた。
「だが、爆発までは防げないみたいだな・・・」
恭司は、振り返り、黄土も爆発に巻き込まれて倒れているのを確認すると、その場に倒れた。
「え・・・?」
勇子は、立ち上がりながら、その倒れ行く恭司の体を支えた。
勇子は、すぐに状況を把握する。
「私を・・・守るために・・・?」
「馬鹿たれ・・・そんなんじゃねぇーよ・・・」
目を開けていないが、恭司はなんとか無事らしい。
「ありがとう・・・」
勇子は、言った。
「怪我自体は酷くねぇ。
早く応急処置してくんな。」
恭司は、そう言って気絶した。
大型ヘリの中に待機していたカーマ達は、暇を弄んでいた。
いざという時のために、戦力を残しておく為、ヘリに残っていたのだった。
レーオンは、ショーン達に通信をした。
「どこまで行けた?
まさかもう倒れたってことはないだろうね。」
『しっかり生きてるぜ。
早くしないとガルムベルド船が出発しちまう。』
「いざとなりゃ、ヘリで応戦するさ。」
レーオンは、通信機の位置を確かめた。
三人は、今発射台基地の中を奥へと進んでいるのがわかった。
機材を色々と用意しておいたのはこのためだった。
「おや・・・お一人ですか?」
森林の中から、一人の女性が現れた。
「誰だ!!」
レーオンは、咄嗟に銃を向けた。
が、それは何かで弾かれた。
女の人の後ろから、もう一人が、銃を撃っていた。
「さて、ミッドナイト。
ここがティオレイドの基地・・・のようだな。」
男が言った。
「ええ。着地する前から見ていたからね。
この辺りに潜んでおいてよかったわ。」
二人が話している間に、レーオンは、ヘリの中に駆け込んだ。
「敵だ!!敵襲だ!!」
中にいた仲間は、眠そうにしていたが、カーマは起きてきた。
すぐにナイフを持って、ヘリから飛び出した。
「ミッドナイト、無理はするなよ。」
男が言った。
二丁拳銃をホルスターに収めながら、ミッドナイトの後ろの木に寄りかかった。
カーマは、その男を見た。
見覚えがある顔だった。
「・・・マイク?」
「・・・俺を知ってる奴か・・・
気に入らないな・・・」
ミッドナイトは、体中につけたホルスターからナイフを二本取り出した。
それを両手に構えて、カーマと対峙する。
「あんたもナイフ使いなんだ・・・」
「一緒にしないで欲しいな。
私はユ・ティオール使いだよ。」
カーマが言うが速いか、ミッドナイトは、既にカーマに斬りかかっていた。
カーマは、その一撃をナイフで弾いた。
一旦背後に飛び、距離を広げた。
「私は、あなたよりも、後ろの男に興味がある。
死にたくなければどいてくれ。」
カーマは、ミッドナイトに言った。
すると、ミッドナイトは案外素直に、ナイフを収めた。
「マイク、あんたにケンカ売りたいそうだよ。」
「ちぇっ、休んでいられると思ったのにな・・・」
マイクとミッドナイトが交代した。
マイクは、カーマの前に出てきたが、まだ銃は構えていなかった。
カーマが、ナイフを持つ手に力を入れ、飛び掛ろうとした。
「おおっと、まだ動くなよ。
今の俺は以前の俺じゃねぇ。
少しでも動いてみろ。
その一瞬でこの距離からおまえの腕を?いでみせるぜ。」
いまにもホルスターの銃を抜こうと、腰の左右に両手を当てている。
「おまえ・・・カーマっつったな。
俺を知っているのか?」
「ええ。
双子蛇のマイクと呼べばいいかしら。
あなたが服役する以前から知ってるわ。」
「・・・覚えがないな・・・」
マイクは、微笑した。
「その銃・・・
コルトアナコンダね。
しかも金色・・・ってことは、釈放されてから、双子蛇は戻ってきたってことか。」
「釈放じゃなくて脱獄だぜ。」
カーマは、それを聞いて、微笑した。
「やっぱり。
マイク、服役時代は辛かった?」
「・・・」
「あんたを倒した男の妹が、今、あそこに向かっている。」
カーマは、背後のガルムベルド船がある方向を指した。
マイクは、ホルスターから銃を抜いた。
「『金色の双子蛇』『ツインアナコンダ』そして
『フリーサード』・・・
それが俺の二つ名だ!!」
両方の銃から発砲した。
カーマには、その銃弾を避けきることはできない。
何発か喰らうことを覚悟して、前進して一撃で仕留めなければならなかった。
大怪我をしても、エレノアに治してもらえばいい。
カーマは、突進して、マイクに斬りかかった。
「うぉ!?危ねぇ!!」
そのナイフは、マイクの頬を掠めた。
そこから血が垂れる。
カーマは、マイクを斬って抜いて、その背後に回りこんでいた。
マイクも、すぐに振り返る。
が、すぐに銃を撃つことはできなかった。
「なにっ!?」
そこには、二人のミッドナイトがいたのだ。
「え・・・?私・・・?」
右側のミッドナイトが言った。
左側のミッドナイトは、驚いていた。
「マイク!!早くこいつを撃って!!」
右側のミッドナイトが、言った。
「ちょっと待って!!私には何がどうなってるのか・・・
どうして私が二人いるの?
あんた、もしかして姿形を変えられるっていうユ・ティオール使い?」
「それはこっちの台詞!!
早く、マイク!!
こっちが偽者よ!!」
マイクは、困惑した。
「俺が与えた傷口まで完全に治ってるな。
そこまでコピーできるのか。」
右側のミッドナイトに言った。
「だって怪我なんてしてないじゃん。」
マイクは、両方のミッドナイトを見た。
「それじゃあ質問する。
嘘つきはどっちだ?」
二人のミッドナイトは、お互いを指す。
「本物のミッドナイトは、どっちだ?」
マイクが聞くと、ミッドナイトは、それぞれ自分を指した。
マイクは、右側のミッドナイトを、銃身で殴っていた。
「うあっ・・・!?」
彼女は吹っ飛び、草の上に倒れた。
と、同時に、変形が解けて、カーマの姿に戻った。
「どうしてわかったんだ?」
ミッドナイトは、マイクに聞いた。
「こいつ、おまえを撃てっつったよな。
本物なら、俺に命令する前に自分で斬りかかる。」
「なるほどね。」
マイクは、カーマに銃を向けていた。
「本当は両方殴る予定だったが、
あんたでよかったぜ・・・」
カーマは、立ち上がった。
体のあちこちに銃傷を負っていた。
「くっ・・・」
「さようならだ」
言って引き金を引いた瞬間、銃弾は、カーマの目の前で止まっていた。
黒い鎖が、銃弾を止めていた。
その鎖は、影の中に身を引いていった。
そして、彼は、マイクの後ろから現れた。
「こんな時間に・・・
なんの用ですかね。」
シェイド・チェーンこと、ジョン・スポールが、そこに立っていた。
ジョンが、マイクに近づくと、すぐに銃を収めて、走り出した。
「ミッドナイト、引くぞ!!
能力者二人が相手なんて、戦況が不利だ!!」
言われて、ミッドナイトも走って林の中に入っていった。
そして、そこから聞こえてくるモーンストンバイクの音。
再び木の間から出てくる二人。
マイクは、バイクを運転しながら、片手で銃を持ち、ジョンを狙った。
真正面から銃を撃ちながら向かっていく。
全ての銃弾が、シェイドチェーンによって弾かれていく。
「ちっ・・・弾切れか・・・」
片手なので、装填ができない。
マイクは、ジョンをバイクで轢こうとした。
が、あっさりと避けられてしまう。
マイクとミッドナイトは、それからどこかに消えてしまった。
「大丈夫か?」
ジョンは、カーマの所に駆けつけた。
「大丈夫、大丈夫よ。
早く、エレノアの所に行かなくちゃ。」
カーマは、立ち上がるとすぐにヘリの前に戻ってきた。
出血量は、少なかった。
大したこともない、銃傷。
エレノアの能力で、完全に治癒できる。
カーマは、ヘリの中に入った。
「エレノア・・・」
エレノアは、寝ていた。
無理矢理起す気にもなれなかった。
ジョンが、横からエレノアを起した。
自分が気にしても、こう、誰かが気を遣うというか。
エレノアは、すぐに起きたが、不機嫌だった。
すぐに彼女の能力、ヒールバブルを出すと、眠ってしまった。
エレノアが出した泡が、空中に浮いている。
カーマがそれを割ると、体中の傷が一気に癒えてきた。
ただ、今回は銃弾が貫通したり、掠っただけだったからよかったものの、
銃弾が体の中に残ったまま治癒してしまったら、
皮膚ガンにでもなってしまうだろう。
本当は、それぐらいの注意が必要だった。
カーマは、椅子に座って休むことにした。
夜明けは、近い。
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