第33話「空中の戦い」
日があけて、ティオレイドのメンバーと、陰の鎖のメンバーが起きだして来た。
数時間前に戦闘を行ったカーマは、少し疲れていたが、歩いて外に出ることは出来た。
さっさと朝食を済ませて、まだ目を擦っているグリノに紅茶を出した。
「ありがとうございます。」
グリノは、両手でコップを持ってゆっくり、差し出された紅茶を飲んだ。
まだ姿も仕草も、子供であったが、言動がそこらへんの子供と同類に括ってしまうのは難しい。
だからこそ、ティオレイドの総司令になれたのだ。
単にリーダーシップがあったわけじゃなく、彼女にはカリスマ性というのがあった。
十二歳にして一組織の総司令になったという彼女の経歴は謎だらけである。
どうやってなったのか、など、知られていない。
資料から、ティオレイドの歴史を遡っていけば分かるはずだが、
歴代の総司令の名前が全てグリノだったことから、調べるのは不可能に近いと思われた。
前総司令は(同じくグリノという名前)、資料を見た限り、四十〜五十歳の男性だった。
彼の経緯も分かっておらず、ティオレイドの上層部以外は、その現在の行方すら知らない。
今では現役を退いたと言われているのだ。
「カーマさん」
「はい?」
「体はどこも痛みませんか?」
「え?」
「戦っていたのでしょう。
ここを守るために。」
グリノは、気付いていた。
カーマが戦っていたことを、知っていた。
起きていたはずがない、皆が眠っている時を狙ってマイクとミッドナイトが襲ってきたのだから。
「ああ、大丈夫ですよ。
この大型ヘリ二機だけが、今の私達の基地です。
潰されるわけにはいきませんからね。」
特に、嘘をつく必要はなかった。
ついても、グリノには嘘だとバレるだろう。
いや、恐らくグリノじゃなくても。
「そうだな、また襲われると危ない。
残りの隊員は、ここに残っていよう。」
ジョンが、出てきて言った。
「なら、レーオンにもそれを・・・」
カーマが言いかけたとき、轟音が鳴り響いた。
発射台基地の方だった。
見ると、発射台が土煙を大きく上げながら倒れていくではないか。
それに支えられるようにそびえる塔の如くガルムベルド船は、空中に投げ出された。
そのまま墜落するかに見えたが、とっさにリカバリーして、海の方へと、飛行しはじめた。
「不味いぞ!!逃げられる!!」
レーオンが叫んだ。
「グリノさん、中に入って」
「はい。」
カーマに言われて、グリノはヘリに入る。
続いて、ジョンとカーマもヘリに入った。
レーオンは、機材を片付け始めた。
ヘリの中にいた晴海、ジェイリー、エレノアが、それを手伝って、荷物の収容は完了した。
レーオンは、中にいたノーウェンに声をかけた。
「おい、おまえさんは、向こうのヘリじゃないのか?」
「こっちは重量オーバーってか?」
ノーウェンは、急いで上着を羽織って、何かを探し始めた。
「何を探してるんだ?」
「ああ、家族へのお土産さ。
と言っても、任務が終わっても帰れるかわからんがな。」
ノーウェンは、紙袋を見つけ、中身を確認すると、レーオンにその顔を向けた。
「あったぜ。
ホテルにいる間に買っといたのさ。
子供の喜ぶ顔が見たくてな。」
ノーウェンは、紙袋を手に、ヘリから隣のヘリへ、移動した。
直後、影の鎖メンバーとグリノ、カーマを乗せたヘリが発進した。
「俺たちも行くぞ。」
レーオンが言った。
操縦士がその声を聞いて、すぐにプロペラを回した。
「本日は当機をご利用いただき、まことにありがとうございます。
ただいま天候と急ぎの用のため、ヘリ内部が揺れる恐れがありますが、ご了承ください。
尚、シートベルトの着用を義務付けられています。
安全な空の旅をお楽しみください。」
操縦士がそう言って、ヘリを発進させた。
彼の言ったとおり、大きく揺れて、真正面に海面が見えたぐらいだった。
二機のヘリは、低空飛行から上昇していくガルムベルド船を追って飛んでいた。
「レーオンさん!!
まだチームメタルタウンの人達が乗ってない!!」
エレノアが言った。
レーオンは、焦ってノートパソコンを開いた。
通信機をつけて、ヘッドセットを装着した。
「こちらレーオン・トリュフだ。
チームメタルタウン、聞こえるか?」
『・・・ああ、聞こえてるぜ』
最初に答えたのはショーンだった。
その後ろで、沙耶華や、フィスナが「いたたたた・・・」と声を漏らしていた。
「今現在の明確な場所情報を。」
『なんとかガルムベルド船に乗り込んだぜ・・・
だが、いきなり発進するんだ。
沙耶華とフィスナさんが壁に叩きつけられた。』
ショーンが現状を述べた。
「大丈夫なのか?」
『大丈夫なわけないでしょ?
痛いわよ・・・すごく・・・』
フィスナが答えた。
「ミハエルは?
ちゃんといるのか?」
『ああ、いるぜ。』
「シェリーとルービーズは?」
『いや、まだ見かけてないぜ。』
とりあえず、レーオン達は、ショーン達がガルムベルド船に乗っていることが確認でき、
一安心したが、シェリーとルービーズの行方がわからず、困ってしまった。
これからガルムベルド船は、いったいどこへ向かうというのか。
方角は、北を目指している。
「奴等、どこへ向かうんだ・・・」
そのとき、レーオンのパソコンにメールが届いた。
本部の通信だ。
その内容を見て、レーオンは、驚愕した。
「どうやら・・・本気でヤバイかもな。」
「何がです?」
「ん。
今メールで来たのは、『鍵』と呼ばれる物がすでに、ワイズマンの北極基地に収容されているという情報だ。」
『鍵』について詳しく知っているのは、今はレーオンだけであった。
彼は、メールに書かれていた『鍵』の本当の使い道を読み上げた。
世界各地の遺跡から発掘された『鍵』
その『鍵』は、地球に直に『刺す』ことにより、その能力を発揮する。
『鍵』は全部で13本。
その13本のうちの12本を刺して、残りの一本を手元に持つ。
12本の鍵が刺された一定範囲内の力という力全て、
(体力、火力、風力、電力、精神力etc...)
13本目に集めることができる。
もし、世界の十二カ国にそれが刺され、そして力が吸収されるとなると、
13本目を持った人間の力は、どれほどまでにあがるのか。
鍵は、壊すことができない。
13本目を手に取った人間がいずれ、世界を陥れることになるかもしれない。
レーオンが説明を終えたとき、皆は彼を見ていた。
「ガルムベルド団がその、ワイズマンの北極基地に向かってるってことですよね。」
ジェイリーが言った。
ジェイリーは、焦るでもなく、何故か椅子に座って絵を描いていた。
「何してるの?」
「絵描いてるの。」
暢気に仕事をしている作家さんだこと。
レーオンは、ヘリの窓から外を見た。
ガルムベルド船は、すぐ近くに見えていた。
一方、チームメタルタウンは、ガルムベルド船の中で戦闘を繰り広げていた。
「一体この兵士達はなんだ!?」
「ガルムベルド団に雇われた傭兵じゃないの?」
ショーンは、雷で敵をなぎ倒していく。
沙耶華がその後ろから援護していた。
「一通り倒したな。」
倒れた兵士の体を避けながら進むショーン達。
「あれ?」
「どうした?」
「ミハエルくんとフィスナさんがいない・・・」
ショーンは、あたりを見回した。
どこかに倒れている様子もない。
「消えた?」
と、そのとき。
ショーンは、眩暈を感じた。
うっすらとぼやけてくる景色。
足元がふらつく。
そしてその場にしゃがみこんだ。
沙耶華も同じく、ショーンの隣に座り込んだ。
「な、何・・・これ・・・?」
「誰かの能力か?」
倒れていた兵士が消えていく。
幻覚だ。
ショーンは、それが幻覚だと分かっていた。
が、沙耶華は状況を飲み込めなかった。
「え?な、何よ・・・これ・・・」
怯え始めていた。
「沙耶華、これは幻覚だ!!落ち着け!!」
ショーンが言うも、声が届いていないように・・・
沙耶華は、頭を抱えて、喚きだした。
「沙耶華!!」
ショーンは、沙耶華を抱き寄せた。
「目を覚ませ!!」
言いかけるも、反応が無い。
コツーン、コツーンと、靴の音が響いてきた。
恐らくそれも幻覚だろう。
「その子は、体中に毒が回ったようね。」
ショーンの目の前に、メガネをかけたポニーテールの女性が立っていた。
右手には教鞭を掴んでいた。
紫色のハイネックのフリース、黒いスカートを着て白衣を羽織っていた。
「私の名前はシンドラー。」
ショーンは、これも幻覚だと思っていたが、
念のため雷をいつでも放出できるようにしておいた。
「非能力者。毒使いよ。」
ショーンは、シンドラーを睨んだ。
「あいつらは・・・ミハエル達をどこにやった!!」
「・・・」
シンドラーは、何も言わなかった。
「おまえー・・・答えろ!!」
ショーンが、急激に立ち上がって攻撃態勢に入った。
が、立ち上がってすぐに前に倒れてしまった。
「あまりはしゃぎ過ぎない方がいい。」
シンドラーの背後から、中年の男性が現れた。
その杖を持っているのは、足腰を弱く見せるためであった。
「わしも、この小娘の毒を喰らったことがある。
そのまま倒れていろ。
悪いようにはせん。」
しわがれた声で男は言った。
「ハンデラル、あなたは操縦室に戻った方がいいのでは?」
「フフフ・・・今は一機のヘリが追いかけてきている。
それを招き入れるかどうか・・・ローズアルバルトに聞くのだ。」
ハンデラルは、そう言って去った。
沙耶華はすでに、眠っている。
ショーンにもその毒が効いてきたようで、だんだんと目蓋が落ちてきていた。
「おやすみなさい。」
シンドラーは言った。
レーオン達が乗っているヘリの操縦士は、気付いた。
ガルムベルド船の周囲に、ヘリが三機飛んでいる。
操縦士に言われて怪訝そうに、三機目を見つめるレーオン。
「あのヘリは・・・なんだ?」
ティオレイドと陰の鎖が使用しているヘリよりも一回りほど大きかった。
その時、突然、爆音が鳴り響いた。
ガルムベルド船に何かがぶつかったようだ。
だが、爆煙のひとつも観測されない。
パラパラとレーオン達のヘリに何かが降ってきた。
「雨?」
晴海は、窓の外を覗いた。
「雨な筈がない・・・天気はこんなにいいんだもの。」
エレノアが言った。
再び、ガルムベルド船から爆発の音が聞こえた。
今度こそ、それを捉えようと、皆は反対側の窓を見る。
何かがぶつかって、それが弾け飛んでいる。
その破片が、ヘリに降ってきていたのだ。
「あれは何だ?」
レーオンが言った。
三機目のヘリの中、一人の男が大幅に体力を消費していた。
それは、先の戦闘だけではなく、今現在も続く戦いが理由だった。
ヘリの中で目を瞑って精神を統一させている。
連続で能力を使うのは、体力にも精神力にも負担がかかるのだ。
老婆は、男に休む暇を与えない。
「攻撃の手を休むことは許さん!!
我が聖地に土足でずかずかと入り込んでくる輩を叩くのじゃ!!」
「わかってる。」
男は言った。
「恭司、大丈夫なの?
ここまですることないのよ?」
女が言った。
老婆は、その女を睨んで言った。
「馬鹿者!!甘ったれたことを抜かすな!!」
「でも、恭司がここで倒れたら、戦力が・・・」
恭司は、彼女の言葉を止めさせた。
「大丈夫だ。」
言って、目を開けた。
ガルムベルド船がある方向に手を向けて。
「一発で落ちないなら、何発だって打ち込んでやろう。」
集中して、能力を使った。
「アイスドリル!!」
普段よりも早く、その特大の氷柱が、目標を目掛けて落下していく。
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