第34話「帆船」
氷の槍が何本も、空から落ちてきた。
ヘリは、それらを避けながら前進していたが、
ガルムベルド船は、その巨体が災いして全ての攻撃を受けていた。
「おいおい、喰らいっぱなしじゃないか。
本当に大丈夫なのか?」
棒使いのキールが言った。
ローズアルバルトは、頷きもしないが、何かを考えるような仕草をした。
「団長さんよー。何か策でもあるってのかい?」
「・・・
あるはずがない。早々に撤退した方がいいな、これは。」
ローズアルバルトは、ソファにいたローナの所に行った。
「ローナ。脱出するかもしれんから、準備をしておけ。」
「あ、わかったですよー。」
ローナは、自分の部屋がある下階に向かった。
ローズアルバルトとキールが話している所へ、ローリィがやってきた。
「本当に構わんのか?
ここは、私達の住処、というより、あんたの宝ではないのか?」
「命落としては意味もなかろう。」
「ローズアルバルト。あんたは、このガルムベルド船と共に落ちると、
そう誓っていたはず・・・」
「ああ。ガルムベルド船か?
こいつは二号機だ。」
キールとローリィは、驚愕した。
「ちょ、ちょっと待てよ、団長さんよ。
こいつが二号機だって?
ってーと、ガルムベルド船はもう一機あるってことか?」
「そうだ。
だから安心して皆降りていいのだぞ。」
ローズアルバルトは、誇らしげに言った。
少しの時間が立って、キールとローリィは、外に脱出する準備を始めた。
恭司は、煙を噴きながら下降していくガルムベルド船を見つめていた。
「しとめたぜ。」
言って、椅子に倒れこんだ。
「恭司!!」
勇子は、恭司の体躯を抱き支えた。
「しばらく寝かせてくれ。」
「あ、うん。」
恭司は、勇子の膝の上に頭を乗せた。
「ちょっと、恭司!?」
顔を赤くして、叫ぶ勇子。
「姉さん。静かにしてあげて。」
麻子が言った。
レーオン達は、ガルムベルド船が落ちていくのを確認した。
このまま海まで落下するのか。
「あれにはまだ、チームメタルタウンが乗っている・・・」
ジェイリーが、レーオンの横を通って、ヘリのドアを開けた。
「私が行く!!」
そう叫んで、ヘリから降りてそのミサイルに抱きついた。
「正気か?」
「大丈夫。武器は持った。」
操縦士に指示を出そうと、顔を持ち上げるジェイリー。
しかし、どうやっても窓までは届かなかった。
レーオンが操縦士に窓を開けるように言った。
「ミサイルを、ガルムベルド船のハッチに飛ばして!!あとは私がやるわ!!」
操縦士は、ただ頷いているだけだった。
「発射します!!」
操縦士が言って、ミサイルのボタンを押した。
ミサイルは、ガルムベルド船の下方にあるハッチを目掛けて飛んでいく。
「くっ・・・風圧が・・・」
ジェイリーの腕にかかる負担は半端じゃなかった。
腕だけじゃない。
高速で飛ぶミサイルにしがみついているのだ。
それで、平然としていることは出来ない。
それにジェイリーは、年端もいかぬ子供だ。
途中で気絶してもおかしくないのだ。
「くぁ・・・」
ミサイルがガルムベルド船に近づくにつれて、ジェイリーの意識は遠くなっていった。
「ダメだ。」
ジェイリーは、力を失い、手を離してしまった。
ショーンが目を覚ますと、そこは牢獄の中だった。
「う・・・ここは・・・」
「お目覚めですか。」
「ミハエル!!」
その数時間ぶりの姿を見て安心した。
フィスナと沙耶華も一緒だった。
「こいつは、どういった状況だ?」
ミハエルが言った。
「俺たちは、毒使いにやられたんだ。
睡眠薬か何かを空気中に散布され、それを吸い込んで気絶・・・
その間にこの様さ。」
ショーンは、言った。
「こんな牢屋、さっさとぶち壊して出ないと。」
沙耶華は、牢屋の外を見回した。
見張りがいないか、警戒していたのだ。
「そう急ぐこともないんじゃないのか?」
「そうもいかないみたいよ。」
フィスナは、辺りの震動を感知していた。
ガルムベルド船で、今、何が起こっているのか、までは分からなかったが、
何かが起きていることに違いはないのだ。
「さっさと牢屋を出ないと、あとで取り返しのつかないことになるわよ。」
沙耶華は、牢屋の柵を手で外そうと力いっぱい、押し込んでいる。
「おいおい、そんなんで出れるのかよ・・・」
ガシャン、と。
「開いた。」
「嘘だろ・・・?」
牢屋の扉は、中のものを出さんとするのが、義務だが、
やる気がなかったのか、ゆらりと、扉は開いてしまった。
「えー!?今までのくだりはなんだったのー!?」
ミハエルが言った。
四人は、牢屋の外に出ると、周囲に警戒しながら前に進んだ。
外に出るルートを探って、色々と部屋を回ってみたが、どこかしこも空っぽだった。
「人がいない・・・?何で・・・?」
沙耶華が疑問を抱きながら歩いていると、すぐ前にエレベーターを発見した。
「ここから下に出れるかも。」
フィスナは、真っ先にエレベーターに向かった。
「危ない!!」
言われて咄嗟に背後に飛び退くフィスナ。
そこには、棒を持った男がいた。
白いマントに包まれていて、笑みを含んだ口元しか見えない。
「ふふふ・・・ここからは逃がさないぜ・・・」
瞬時に、マントはどこかへ消えて、男も踏み込んできた。
フィスナに棒が叩かれるのと同時、彼女は、バイオレンスゴーストで棒を防いでいた。
「俺は、棒使いのキールだ・・・よろしくな」
キールは、言って、下がった。
どうやらエレベーターを守る門番のようだ。
そのとき。
エレベーターから誰かが出てきた。
「フリークペン!!」
「のわぁっ!!」
キールは、背後からの奇襲に気付かず、倒れた。
体中には鉛筆やシャーペン、Gペンと言った筆記用具の類が満遍なく刺さっていた。
死には至っていないが、驚きの余り、気絶してしまった。
「やっと会えたね、チームメタルタウン」
「お、おう。
ジェイリーさんか。」
ミハエルは、キールに同情し、その場を去ろうとした。
「可愛そうだな、このキールって奴。」
「ええ。結構な戦力なはずが、すぐに倒されてしまうなんて・・・」
ショーンと沙耶華はそんなことを話しながら、エレベーターに乗った。
全員がエレベーターに乗ったのを確認すると、ジェーンは、ハッチのある階、
つまり最下層のボタンを押した。
「ジェイリー。
行く部屋行く部屋人がいないのだが・・・」
「ああ、それは、脱出したのでしょう。」
「脱出?」
「このガルムベルド船は、下降している。
そのうち海にボチャン。」
「ああ、そうか。」
エレベーターが最下層に到着した。
「ん?ならなんで最下層に来た?
一番下にいれば落ちるのが早いだろ?」
ジェイリーは、あっ、と言って、そのまま歩き出した。
「おいおい、まさか策がないってのかい?」
ミハエルは、ジェイリーに聞いた。
「えっとね、私だってこっち来るのに必死だったのよ。
ミサイルに乗ってね。
まぁ途中で気絶しちゃったけど、運良く中に飛び込めたから、
まぁよし。」
「まぁよし、じゃねぇーよ!!
帰りのことぐらい考えとけよ!!」
ミハエルは怒鳴った。
ハッチに到着した。
目の前には、帆船があった。
「おやおや、これはこれは。」
聞き覚えのある声、見覚えのある顔。
ローズアルバルトは、その帆船の横から登場した。
「おまえは、ローズアルバルト!!」
沙耶華は、即座にワイルダーンエレクトを使っていた。
が、ローズアルバルトは、顔色一つ変えていない。
それどころか、気付いてすらいないようだ。
「っ!?」
「どうした?沙耶華・・・」
悔しそうな表情の沙耶華を見るショーン。
「私のユ・ティオールが・・・」
能力が、消えた。
「我々はここいらでおいとまさせてもらうよ!!」
ガルムベルド船のハッチが開いて、ローズアルバルトは、帆船に乗り込んだ。
爆発が起きて、ガルムベルド船が傾き始めた。
そして帆船は、ゆっくりと開いたハッチの方へ滑っていった。
ショーン達も、傾く床に耐えられず、壁に落ちていった。
「脱出、どうすんだよ!!」
ミハエルは、ジェイリーの方を向いた。
「私の能力じゃ・・・重いものまで飛ばせない・・・」
床が傾き、倉庫の荷物が次々と落ちてくる。
そのほとんどが、開いたハッチから外に解放されていく。
もうすでに帆船は、ない。
「パラシュートとかないのか・・・?」
落ちてきた荷物を漁るショーン。
なんとかして脱出をしたとしても、下は海。
この高さから落ちてしまえば、海もコンクリートと同じ固さになる。
荷物を探しても、何も見つからない。
そのとき、落ちてきた荷物が、彼らの進路を阻んだ。
次々と落ちてくる荷物に囲まれるショーンたち。
「おい、これじゃ外に出ようがないじゃないか!!」
ミハエルが叫んだ。
落下物を避けながら、その残骸を登っていく。
最後に、ローラーのついた移動式の階段が、本来床であった所から足を離して落ちてきた。
「うわぁ!?」
「ああ!!」
物凄い音を立てて、階段は、ジェイリーの上を、跨ぐようにして壁に突き刺さった。
ジェイリーは、鉄柵のようになった階段に閉じ込められた。
「大丈夫か!?」
ミハエルが、駆け寄って、階段の足場越しに手を伸ばした。
「大丈夫。なんとかして出るから、みんなは先に脱出手段を。」
ジェイリーは、いつもとなんら変わらない表情だった。
ガルムベルド船の落下も本格的になり、ハッチから吹き付ける風圧で、髪が揺れる。
ミハエルが、落ちてきた荷物の中から、パラシュートを掘り起こしてきた。
四つのパラシュート。
彼らの人数には足りなかった。
「・・・」
ショーンが、ジェイリーに近づく。
「絶対に一人で脱出できるのか?」
「うん。」
ショーンとジェイリーの目が合って、しばらくたった。
「わかった。俺はあんたを信じる。」
パラシュートの一つを、ジェイリーを閉じ込めている階段の上から投げ入れた。
「脱出用だ。」
ショーンは、それだけ言うと、そちらに背を向けた。
そのままミハエルに、もう一つのパラシュートを渡した。
「ミハエル、おまえは先に行け」
「あ?ちょっと待てよ、なんでだよ!!」
「今、ガルムベルド団との戦いを有利に進められるのはおまえだけだ。
この下は海だからな。」
ハッチの下を覗いて言った。
「俺に、あの帆船を追えと?」
「出来るだろう。おまえなら。」
ミハエルは、ショーンに笑んで、そのままハッチに下がっていった。
「後悔するなよ」
後ろ向きのまま、ハッチから、吸い出されるように外に落下した。
次に、ショーンは、悩んだ。
「フィスナさんと沙耶華は、一緒に降りてくれ・・・と、言いたい所だが、
できるか?」
フィスナは、頷いた。
「私はできるけど・・・」
横にいる沙耶華の表情を窺い見る。
「一つのパラシュートで二人降りるってこと?」
沙耶華が聞いた。
「そのとおりだ。」
ショーンは、真正面から沙耶華を見つめて言った。
沙耶華の不安そうな表情がすぐに見て取れる。
「ひとつだけ言っておかなきゃいけない・・・
私は今、能力が使えない・・・」
沙耶華が静かに話し出した。
「さっき、ローズアルバルトに能力を使ったのに・・・」
ショーンは、考え込んだ。
考えている時間など無いというのに。
レーオンは、今までヘリの中からガルムベルド船を観察していた。
その最下層であるハッチから帆船が出てきたのも見逃さなかった。
「帆船が出てきた!」
レーオンは、それを見てから、
操縦士にその帆船を追跡するように言った。
帆船の形は、戦闘機の胴のように細長く、上部に突出した船室が流線型に造られていた。
大きさはとても大きかったが、翼も生えていない。
高高度から海に向かって降下していた。
その速度を追うには、ヘリコプターでは力不足といったところ。
ハッチの中から、再び何かが落ちてきた。
それは帆船を目指していくように降下していった。
ヘリからの距離だと、それが何であるかを視認するのは無理だった。
「あの帆船は何だ?
このままでは海にぶつかって粉々になるぞ!」
レーオンは、あの中に、チームメタルタウンも乗っていると思っていた。
突如、帆船は、船体を海面と平行になるように頭を上げた。
そして、側面から足を生やすようにして、いくつかの棒が出現した。
その間に、帆になる布がかけられた。
帆は、風を受け止め、帆船の落下速度を落としていた。
降下していたヘリの横を急激に上に通過する帆船。
レーオンは、驚いていた。
数秒後、帆船は見事着水した。
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