第35話「ウォレット&アメリア」 ガルムベルド船は、海に落ちて散った。 ヘリの中からその姿は確認された。 太平洋上空から凱旋したティオレイドと陰の鎖のメンバーは、 パルティ・ド・ティオレイドの東京支部に来ていた。 グリノホテルが基地としての利用は上だが、 今のこの状況では行きづらくなっている。 数日前の戦いで、グリノホテルの機能の4割ほどがダウンしていた。 レーオンが言うには、4割という数字はかなり大きいらしい。 ガルムベルド船が墜落してからは、チームメタルタウンとジェイリーの安否が不明。 もし、あのまま海に落ちたとしたならば、戦力が大きく削がれたことになる。 和藤晴海も、個室に篭ったまま出てこなくなった。 ショーンの行方知れずが彼女の心には重かった。 レーオンは、基地の一室に仲間を集めた。 「レーオン、早くに北極に向かわなくてもいいのか?」 最後に部屋に入ってきたジョンが言った。 「北極に基地があるという情報が、嘘かもしれないだろう。」 それに戦力も少ない、と付け加えた。 レーオンは、グリノの隣にいる。 グリノがパルティ・ド・ティオレイドの最高幹部であることが褪せるようだ。 たった十二歳にして、一組織を統べるこの子供の実力はどこにあるのだろうか。 ジョン・スポールを初めとする陰の鎖一味はいつもそれを考えていた。 「それに、今の問題は、ワイズマンだけではない。」 実際、つい数時間前まではガルムベルド団と戦っていたのだから。 夕暮れの時間を迎えて、彼らは休憩時間に入った。 レーオンは、その時間内も調査を続けていた。 過去の記録を見る限り、鍵と呼ばれるものは、この世界にもたらす力がある気がするのだ。 実際、今もこうして利用しようとする者が現れた。 ワイズマンとガルムベルド団。 戦局は混乱している。 シェリーとルービーズは、オーストラリアに残されたままだった。 が、おめおめと手ぶらで帰るわけにも行かず、 なんとかレーオンに連絡を取ってから、現地調査を続行していた。 そのとき、現れたのが、アメリア・ホール・シマムラと、 ウォレット・ベリルールだった。 シェリーとルービーズが宿泊している宿から出ると、その真正面にどんと構えていた二人。 即座に戦闘態勢に入ったシェリーだったが、ウォレットは、 「こんな場所で戦うつもりなどない」 と言った。 シェリー達は、ウォレット達についてこいと言われて、それに従った。 その間、鍵についての話をしていた。 「鍵は、俺達が頂く・・・ その目的は、他のワイズマンとは違う。」 ウォレットが言っていた。 「ワイズマンのヘッドであるデーモニックは、この世のあり方を変えようとしている・・・」 「なってはならないことです。」 ウォレットにつづいて、アメリアも言った。 その意外な意見に、シェリー達は何も返答しなかった。 「ただ、私達にだって叶えたい望みはある。 だから、鍵を集めたんです。」 アメリアが言った。 しばらく歩いていたが、その目的地についたようで、ウォレット達はそこで足を止めた。 「ここなら人もいない。 民間人を巻き込むのは俺の趣味じゃないからな。」 一面荒地、ここまで来る時に林道を抜けてきたが、荒地の先には荒れている砂浜が広がっていた。 どうやら海岸部に出てきたらしい。 「民間人を巻き込もうとしてたのは誰ですか」 アメリアが笑って言った。 「うぐ、確かに今のは、おまえの意見だが・・・」 ウォレットとアメリアは、シェリーとルービーズと相対した。 真正面からにらみ合う。 「さてと、そろそろ始めますか!!」 ウォレットは、服の内側に装備してあるパチンコ球を指に固定して、 腕を振り上げた。 「パチンコミサイルだ!!」 投げ上げられた数個のパチンコ球が、上空からシェリーに向かって飛んでいった。 なんとか避けきったシェリー。 隣にいたルービーズは、シェリーの援護をしようとした。 が、ルービーズの前にはアメリアが迫っていた。 「あなたの相手は私です!!」 「へへ、わかったよ・・・」 ルービーズは、彼女を観察する。 何も武器を持っていないし、能力者とは思えない。 が、その油断がいけなかった。 「鞭々棒(べんべんぼう)!!」 アメリアが剣を持つように構えると、そこから光を発する棒状の武器が出現した。 その攻撃を直に受けてしまい、後ろに吹っ飛ぶルービーズ。 「能力者か!!」 ルービーズは、パープルボムを手に、後退した。 下がりながらボムをいくつも投げつける。 「これで終わりだ!!」 ルービーズは、またも油断した。 パープルボムを投げつけてから、アメリアには勝ったと思い込んでいた。 が、アメリアは、鞭々棒で、向かってくるボムを受け止め、弾き返した。 鞭々棒の柔軟性を生かして、パープルボムは、ルービーズに跳ね返ってきた。 「くぁっ!?」 ルービーズは、地面に伏せて自分の爆弾を避けきった。 なんとか直撃は避けたが、爆風の影響が強い。 アメリアは、立ち上がって間もなく体勢が整っていないルービーズに突っ込んでいった。 「はぁっ!!」 アメリアの鞭々棒は、ルービーズを狙って幾度もブンブンと振り回されたが、 ルービーズもそれは避けきれていた。 相手がアメリアではなかったら、その攻撃が当っていたかもしれない。 アメリアの攻撃を避けながらパープルボムを空中爆発させていくルービーズ。 接近戦を得意としないルービーズと、接近しないと攻撃ができないアメリア。 相性が悪く、お互いに戦い難く、長期戦を要するだろう。 一瞬、ルービーズがシェリーの方を見た。 シェリーは、ウォレットと戦っていた。 「余所見はいけないと思いますがね!!」 アメリアの鞭々棒がルービーズの鳩尾に突き入ってきた。 ルービーズは、呼吸が一瞬できなくなるほど、その直撃を受けた。 アメリアから距離を取って膝をついて崩れた。 「くそ・・・急所に入ったぜ・・・」 ルービーズは言いながら、手を地面について体力の回復を待った。 「休ませない!!」 言って、アメリアが突撃してくる。 ルービーズは、苦笑して立ち上がった。 シェリーの方は、ルービーズよりは苦戦を強いられている、ということは無さそうだった。 ウォレットのユ・ティオールは、誘導の能力。 指弾として打ち出したパチンコ球が自分の手元に戻ってくるタイプだ。 「あなた、どうやら五発が限界みたいね。」 シェリーは、言った。 「同時に打ち出せる数が五発だけ・・・ 片手で打ってるってことになるのかな?」 シェリーは、ウォレットが打ち込んできたパチンコ球を軽々と避けていた。 それもそのはず、シェリーには、クリムゾンサンセットという能力があるのだ。 周りの人物、景色、動植物にかかわらず、全ての動きを持つ物質が、 スローになる能力、シェリーはそれを使ってウォレットに接近しつつ、攻撃をかわしていたのだ。 「背後をとったぞ!!」 シェリーは、ウォレットの背後に回りこみ、その胴体を殴った。 押し込まれて、ウォレットは、横に地滑りして崩れた体勢を立て直した。 「いてぇ・・・」 ウォレットは、シェリーと対峙する。 服の中に両手を突っ込んで、再び勢いよく、それを振り上げた。 「パチンコミサイル!!」 投げ上げられたパチンコ球が、一斉にシェリーに掃射された。 「クリムゾンサンセット!!」 シェリーの周りの時間がゆっくりと流れる。 パチンコ球は地面目掛けて突き刺さっていく。 シェリーは、それをゆるゆると避けていった。 全てのパチンコ球を避けきると、遅くなっていた風景が元に戻った。 そして、それと同時にパチンコ球もウォレットの手元に飛んでいった。 10発の球を視認したシェリー。 恐らく、クリムゾンサンセットを使ってもそれ以上は避けられないと思っていた。 「いくらやっても勝てないよ。」 「そうかな・・・」 ウォレットは、ニヤリと笑った。 「こんなところで使うことになるとはな・・・」 最も、俺も死ぬかもしれんが・・・と呟きながら、 ウォレットは、再度服の中に手を突っ込み、シェリーを睨んだ。 「ジェノサイドフォーマット!!」 パチンコ球を投げるのではなく、着ていた服を払うように振った。 豪風が流れて、シェリーの髪が靡いた。 少しの時間がたった。 「何も起きないな」 シェリーが言った。 「残念だが、おまえは死んだも同然だ。」 ウォレットが言ったと同時に、シェリーの足元からパチンコ球が飛んできた。 顔面に当る所をなんとか避けきったシェリー。 「地面から!?」 シェリーは、空中に飛んだ。 案の定、地面からパチンコ球がいくつも飛んできた。 「クリムゾンサンセット!!」 一度時間を緩めて、地面に着地し、それらをやりすごした。 「考えたようだけど、これでもまだ・・・」 シェリーは、気付いた。 背後から何かがぶつかってきた。 銃弾を喰らったような痛みが全身を走る。 シェリーは、背後に振り返ってみた。 「うわ・・・」 そこには、無数のパチンコ球が。 シェリーに向かってきていた。 「クリムゾンサンセットの時間がもうない!!」 ゆっくりだった球の動きが、加速していき。 最後に、マシンガンを撃たれたように、シェリーが吹き飛んだ。 「ぐはっ・・・」 シェリーが倒れてもなお、遠くから向かってくるパチンコ球が見える。 シェリーは、ウォレットを見た。 彼の周りからもパチンコ球が囲んでいた。 「これが俺の最終奥義!! ジェノサイドフォーマットだ!!」 ウォレットは、中指を突きたてた。 「あの世で会おうぜ!!」 シェリーとウォレットを囲んでいたパチンコ球が銃弾のように飛んでくる。 それに撃たれて地面に伏したシェリー。 それでも尚、銃撃は続く。 ウォレットは、降り注ぐ銃弾の如きパチンコ球を両手で回収しようとした。 が、それを掴み損ねて、腕にパチンコ球がいくつも食い込んだ。 「ぐぁっ!!」 シェリーを囲んでいたパチンコ球の束が、渦巻きのように迫ってその体躯に突きこんでいった。 「うぁぁあ!!」 パチンコ球は、竜巻の形になって、主であるウォレットに帰っていく。 が、その全てを掴み損ねたウォレットは、自分の攻撃によって倒れてしまった。 「うぐぁぁ・・・」 かすれた声で悲鳴を上げるウォレット。 シェリーは、血塗れになりながらもなんとか這い上がって、立ち上がった。 「ウォレット・ベリルール・・・ ワイズマンの四天王の一人よ・・・ たった一人の騎士、ここに安らかに眠れ・・・なんてね」 シェリーは、微笑み、再び倒れた。 一方、ルービーズとアメリアの戦いにも決着の兆しが見られた。 アメリアの服が爆風によってボロボロになっていた。 それでも尚、戦い続けるアメリア。 「この戦いを打開する、私の技・・・ハリセンアタックで・・・」 アメリアは、鞭々棒を右手に持ち、上段の構えをした。 鞭々棒の端を左手で掴む。 「次で最後だ!!」 ルービーズは、パープルボムをありったけばら撒いた。 が、そのどれもアメリアに攻撃を喰わすことはできなかった。 そこに、アメリアはいなかった。 「どこだ!?」 ルービーズが、周りに警戒して探すが、アメリアがいない。 「上か!!」 ルービーズが頭上を見上げると、アメリアがいまにも鞭々棒を振り下ろそうと、構えて落下してくる。 その持ち手とは反対側を手で押さえて、鞭々棒をしならせている。 「ハリセンアタック!!」 「パープルボム!!」 アメリアは、しならせた鞭々棒から手を離し、その反動で叩きにでた。 ルービーズは、一発のパープルボムを、アメリアに向かって投げ上げた。 二人の周りに爆風が流れた。 煙が舞い上がり、二人の姿がどこかに消えてしまったようだった。 地面も窪んでいた。 荒れた砂の上に、アメリアが倒れていた。 彼女はもう動けそうになかった。 そして、ルービーズは。 地面の砂が、一箇所だけ動いた。 その中から何かが出てきて、砂は流れ落ちた。 「ゲホッ・・・ゲホッ・・・ うぶぁ・・・ なんとか生きてるぜ・・・俺・・・」 ルービーズだった。 「おい、生きてるかー?」 ルービーズは、アメリアに近寄って脈を調べた。 「生きてるな。」 確認を終えて、今度はシェリーの所を見た。 ウォレットもシェリーも倒れている。 「シェリー!!」 ルービーズは、そこに駆け寄った。 「おい!!」 その体躯を抱き起こした。 「シェリー!?」 心臓の鼓動を聞く。 音が聞こえない。 何故だ。 ルービーズは焦った。 「そんな・・・シェリー!?おい!!」 心臓の音が聞こえにくい。 聞こえにくい。 ・・・ 「シェ・・・シェリー?」 寝息を立てて気持ち良さそうな寝顔だ。 「寝てるだけかよ!!」 もどる