第36話「ノーウェン・バランクス」 レーオンの耳に、横浜の港に帆船が侵入してきたという情報が届いた。 彼はすぐに、ガルムベルド団か?と思ったが、単なる海外からの密輸船とも思えた。 疑わしい物は安心するまで調べておきたかった。 レーオンは、ノーウェンとカーマを連れて基地を出た。 くだんの港まで、ノーウェンが運転する車で移動した。 港に到着した時は昼過ぎで、天気は雨だった。 雨が降りながらも、雲の隙間から陽光が差している。 港の食堂にて、聞き込みを始めようと入ってみたが、そこには余り人がいなかった。 「誰かいませんかー?」 テーブルの上に椅子が上げられていて、各店のブースにもシャッターが閉まっている。 広さがかなりあって、奥のほうにもまだ立ち並ぶ店が続いている。 「今日は定休日なんでしょう。」 と、カーマが言った。 諦めて他を当ろう、と、呟いたレーオン。 そのとき、奥から足音が聞こえてきた。 三人は警戒して、柱の裏に隠れた。 レーオンが足音の主の姿を確認し、柱の影から出た。 どうやらここの店員らしかった。 「こんにちわ。 すいませんが、 今日はどの店も定休日でして。」 その顔には見覚えがあった。 カーマとノーウェンも、柱の影から出てきた。 「失礼ですが、あなたどこかでお会いしませんでしたか?」 「さぁ・・・」 店員は、後ろに振り返って、誰かを手招きした。 「顔合わせは何度目になりますかね?」 店員は、前掛けに隠してあった鞘から剣を抜いた。 それと同時に、レーオン達は気付く。 囲まれていたことに。 男女数名、開いたブースの中から出てきて、レーオン達三人を見ている。 カーマは、周りを見回した。 「見たところ、マイクがいないみたいだけど?今日は病欠?」 「気にするな、そのうち現れる。」 剣を持った男が、カーマに言った。 何かの合図があったように、周りの男女がそれぞれ己の武器を手に構えた。 「待て、おまえら」 男が、ノーウェンに剣を向けつつ、仲間に言った。 「おまえ、ノーウェン・バランクスだろ? 俺といっちょ勝負してみねぇか?」 「おまえは、ガルムベルド団のデルト・・・ ローズアルバルトの一番弟子だったな。」 合図もなしに、急にデルトは、ノーウェンに飛び掛っていった。 頭上から振り下ろされる剣撃を紙一重で避けるノーウェン。 それと同時に、他のガルムベルド団員も、カーマとレーオンに迫っていった。 「レーオン、逃げて!!」 カーマは、非戦闘員のレーオンを先に逃がした。 「って、もう逃げてるか!!」 レーオンはもういなかった。 カーマは、コンバットナイフを取り出した。 なるべくノーウェン達が戦っている方へと、敵を逃がさないように多人数と戦おうと試みた。 「私は先に行かせてもらうわ。」 そう言ってカーマの横を通り抜けたのは、シンドラー。 「くそっ!!逃がすか!!」 カーマは、シンドラーに突撃した。 が、シンドラーは、カーマのナイフを教鞭で弾いて避けた。 簡単にはいかない。 そのままシンドラーは、カーマと戦うことなく、ノーウェンの方へ向かった。 「余所見をするな!!」 突然、背後からケリを見舞われた。 カーマは受身を取って、次の攻撃に備えた。 「素手で立ち向かってくるとは・・・ 私も嘗められたもんだね。」 それもそのはず、相手はガルムベルド団員になる前も盗賊だった。 小型の武器は多少扱えるが、盗賊のローリィのこだわりは、そこにあった。 拳につけるのはメリケンのみ。 「へへぇ・・・今のケリ、読めてた?」 「なぜそう思う?」 「あそこで受身取って第二波を待つなんて・・・ 素人ならカウンター狙いで突っ込んでくるのに・・・」 「ふぅーん・・・」 カーマは、表情には出さないが、少し驚いていた。 ローリィは、自分と同じような能力が使えるのかもしれない。 その疑いは、これからも増していく。 ローリィの背後には、キールとミッドナイトが待機している。 同時に三人相手にした方が、時間短縮できるかもしれない。 「あ・・・」 ローリィは、キールとミッドナイトの方をちらりと見た。 「同時に三人相手だと時間短縮できるって、思ったでしょ?」 カーマは、鳥肌が立った。 「思ってない?残念。 キール、ミッドナイト、協力して頂戴。 こいつ一筋縄じゃいかない。」 キールは、棒を、ミッドナイトは、ナイフを取り出した。 「アンフォーチュネンタル!!」 言うと同時、カーマは風景に溶け込むように透明になっていった。 「能力者!?」 ローリィが驚いたように言った。 カーマのコンバットナイフも消えて、ローリィ達は、周囲に気を集中させた。 「どこから来るか悟るんだ!!」 言われて、ミッドナイトは、走り出した。 一瞬、ナイフが空中に現れて、それがミッドナイト目掛けて突き刺さった。 「う・・・あ?」 ミッドナイトは、寸前のところでそれを回避し、服の一部が破けただけだった。 ミッドナイトが両手のナイフで、突き刺さったナイフを払うと、再び、カーマのナイフは消えた。 「キール!!避けて!!」 「え?」 ミッドナイトが叫ぶが早いか、否か。 カーマのナイフは、キールの目の前に現れていた。 もう手遅れだった。 「キール!!」 キールの心臓目掛けてナイフが突き刺されている。 そのナイフは、キールの体から離れると再び消えた。 ミッドナイトとローリィは、倒れたキールに駆け寄った。 「キール!!そんな!!」 ミッドナイトがキールの上体を起す。 ローリィは、次のカーマの攻撃に備えている。 「わかったぞ・・・」 キールが声を発した。 「キール、喋っちゃダメだ。」 「わかったんだよ・・・」 キールは、透明になったであろうカーマがいる方向を見ながら言った。 「奴のナイフは・・・奴の殺気なんだよ・・・」 「え?」 「奴が攻撃してくる時にだけ・・・ナイフが見えるようになる・・・」 ミッドナイトは、周りを見た。 「ミッドナイト、彼をネリルのところに連れて行って。」 ミッドナイトは、ローリィの言葉どおり、キールを背負って走り出した。 そしてローリィは、見えない敵と対峙する。 「予知能力と・・・」 風を切る音を聞きながら 「透過能力・・・」 カーマの出方を探り 「その両方を使うおまえの弱点は・・・」 ローリィの目つきは、変わった。 それとほぼ同時に、ローリィの右側からナイフが出現した。 ローリィは、拳のメリケンでそれをガードした。 すると今度は反対側からもう一つナイフが出現したが、 それも同じく、メリケンで叩いた。 今度は上下から同時に二本のナイフに襲われたが、両手のメリケンでそれを止めた。 「これだッ!!」 ナイフをメリケンで静止させておき、目の前の空間に蹴りを放った。 鈍い音がして、そこからカーマが現れた。 「うぐっ・・・」 カーマは、両手に逆手持ちしていたナイフの片方を落としてしまった。 ローリィは、その隙を見逃さなかった。 低空に飛んで、カーマのいるところまで一直線に飛び込んできた。 カーマは、落としたナイフを拾って横に飛んだ。 ローリィの拳撃で、地面が荒く削れた。 「二つの能力は同時に使えない!! そうだろぉぉぉお!!オリヴィア・ラファエロぉぉぉお!!」 ローリィはすでに我を見失っていた。 姿が見えるようになったカーマを追いかけながら拳撃を放ち続ける。 カーマの方も、その攻撃が読めているので、当ることはない。 「なんで私の本名を知っていたのか気になるけど・・・ これでおしまいにしましょう。」 未来予知をして、次にローリィが踏み込んでくることを予測、その場所にカウンターに出ることにした。 一瞬、ローリィが、次に踏み込む場所を見たことを妙に思ったが、特に気にすることではない。 「死んでしまえ!!」 カーマは、ナイフを順手持ちに持ち替えて、両手のナイフを突き出した。 その攻撃はもはや防ぎようがない。 ローリィのノーガードな腹部を狙っていた。 が、ローリィは、両手を引いて、拳同士を打ち合わせるようにして二本のナイフを挟んだ。 「捕らえた!!」 「なにッ!?」 だが、一向にローリィは、カーマに向かって反撃してこない。 カーマは、ローリィが攻撃を読んでいた事が分かって驚いていた。 が、それも一瞬だった。 「・・・私の点数・・・何点かな・・・」 ナイフを受け止めていた手の力が抜けていく。 ローリィの腹部に、しっかりとナイフの半分が刺さっていた。 ナイフを受け止めることはできた。 しかし、その長さ、コンバットナイフの射程を計算に入れていなかった。 カーマは、ローリィからナイフを抜いて、倒れ行くその体を支えた。 「100点満点だよ。」 カーマは言った。 一方、ノーウェンの方はというと、デルトとの攻防が続き、 走りながらの戦いで、上階に上がっていた。 デルトの剣撃を避けながら、己の力を最大限に使った拳撃を放つが、 どれも決定打に欠ける。 お互い、強い物同士での戦いなので、攻撃が深く当ることを避けている。 「サニーデイクロワッサン!!」 ノーウェンは、熊手で叩きにかかる。 が、デルトはあっさりとそれを避けてしまう。 「ふんっ!!」 ノーウェンの一瞬の隙をついたデルトの攻撃。 ノーウェンは、咄嗟に飛び退いたが、腹を掠めて、出血した。 「このぐらい、かすり傷だ・・・」 自分に言い聞かせるように言いながら、傷口を押さえた。 今度は、右腕を背後に隠した。 「サニーデイクロワッサンじゃ倒せないなら・・・ こっちを使うかな。」 ノーウェンは、右拳に集中した。 精神を安定させ、己の力全てを右拳に集める。 約三十秒、この集中を持続させなければならない。 「大技狙いのようだが、そうはさせないぜ!!」 デルトが、剣の切っ先をノーウェンに向けて、突撃した。 上手くいって、デルトの剣は、ノーウェンに突き刺さったように見えた。 が、デルトの剣撃を避けようとした素振りも見せていないにも関わらず、 ノーウェンは、同じ構えのまま、デルトの背後に立っていた。 「馬鹿な!!こいつ、もうひとつの能力を使った!?」 デルトは、驚きながらも、ノーウェンの攻撃範囲から逃げるように飛んだ。 「ユ・ティオールじゃないよ・・・ 単なる体術だよ」 ノーウェンは、ニヤリと笑った。 「かかってきな」 デルトは、その言葉に怒って、ノーウェンに斬りかかっていった。 「うぉぉぉぉお!!」 さっきと同じように、何度やってもかわされる。 そして。 「さて、そろそろ三十秒だ。」 言って、ノーウェンは、隠していた右拳を、構えた。 その手は、白い煙を発しながら、赤くなっていった。 「な、なんだそれは!?」 デルトが驚き、身を引いた所に、ノーウェンは、飛び込んだ。 「オーガフィスト!!」 右拳を大きく振って、デルトの胴体に叩き込んだ。 その勢いで、ノーウェンも床に滑ったが、 デルトは、血を吹きながら吹き飛んでいった。 遠くで金属音がして、最後にドサッと、物が落ちる音がした。 恐らく、デルトは死んだのだろう。 デルトを倒して、疲れきって倒れるノーウェン。 しかし、彼に休息できる時間はなかったようだ。 コツーンコツーン、と、靴の音が響く。 目の前には教鞭を持った女が一人。 「おまえは?」 「私はシンドラー。」 立ち上がるノーウェンの手を踏みつける彼女。 ノーウェンは、シンドラーを下から睨みつけた。 と、そのとき、顎をつかまれた。 その瞬間、一瞬で、口に何かを入れられた。 「うっ・・・」 ノドに詰まってむせ返り、吐き出す。 「血・・・?」 「今あなたに飲ませたのは、単なる毒じゃない。 胃液と似たような成分で出来ていて、飲んだ者の体内から溶解していく。」 ノーウェンは、気分が悪くなり、その場に立っていられなくなった。 咳き込み、吐血する。 「ぐぁ・・・」 そして、それを確認して、シンドラーは去ろうとした。 「待て・・・俺はまだ・・・」 ノーウェンは、立ち上がりもう一度右拳に力を入れる。 「あまり動かないことね。 死を早めるわ。」 言われた瞬間、振り上げた右腕が、ポロリと。 「あ・・・」 肩から先が、血液と、リンパ液と、得体の知れない液体が出て、そこから腕が落ちた。 「うわぁぁあ!!」 ノーウェンは、痛みの余り、膝をついた。 「くそ・・・こんなことで・・・」 最後の気合を振り絞って、両足を床につけた。 そしてシンドラーに向かっていく。 「まだだー!!」 左手で熊手を作る。 「残念だけど・・・時間切れ・・・」 言って、シンドラーは、教鞭を軽く振るった。 「枯木の如く散りなさい。」 ノーウェンの体は、普段より弱体化していた。 少し触れただけでそこから切れていく。 「う・・・が・・・」 毒液と血液を噴出しながら、体の各部位が崩れ落ちていくノーウェン。 「さようなら」 そこに残った躯を残して、シンドラーは去っていった。 もどる