第37話「終焉へのプレリュード」 港のモールの奥にあるブースの一つ、そこはとても静かだった。 外では戦闘が繰り広げられているというのに。 四人の男女が床に横たわっていて、その上に毛布がかけられている。 彼らの髪の毛と服は、水に濡れて皮膚に張り付いていた。 その四人を見回って、椅子に座った人がいた。 倒れた四人の看病も、出来る事だけはやったつもりだ。 あとは、回復を待つのみ。 「ネリルー!!」 女性の声と同時に、そのブースの入り口の扉が開いた。 ネリルは一瞬驚いたが、現れたのは同胞だと確認した。 ミッドナイトとキールだった。 キールは、ぐったりとしていて、胸に大きな刺し傷が見られる。 ミッドナイトは一人で、彼の体を運んできたのだった。 ネリルは、飛ぶようにして、怪我人の前まで移動した。 そしてミッドナイトからキールを預かって、気を失っている四人の隣に寝かした。 「ネリル、こいつら誰だ!?」 ミッドナイトに、「静かにして」と促すように、人差し指を口に当てた。 ネリルにとって、誰であろうと患者は患者だ。 それが敵であっても。 「こいつらは・・・ティオレイドの連中じゃないのか?」 ミッドナイトは、ネリルを責め立てるように言った。 そんなこと関係ないと言わんばかりに、その言葉を無視して、 ネリルは、キールの治療を始めた。 「こいつらは敵なんだぞ!!」 ミッドナイトが言っても、ネリルは、無視を通す。 キールの体の傷を麻酔もせずに、針で縫った。 内部の損傷は酷くはなかった。 ただ、皮膚に大きな穴が開いていた。 「おまえが・・・おまえが敵に情けをかけるなら・・・」 ミッドナイトは、ナイフを取り出していた。 が、その瞬間。 首筋に光る金属が。 ネリルは、メスをミッドナイトの首に当てていた。 彼女は、突然鋭い目つきになって、ミッドナイトを睨んだ。 今まで、そんなこと一度だってなかったし、仲間の誰かに反抗なんかもしなかった。 ただ、黙々と患者を治す医療係の役を担っているだけだと思っていた。 「邪魔をするな」 ミッドナイトの耳元で、身の凍るような声が、吐息混じりに発せられた。 一瞬だった。 ミッドナイトは、呆気に取られていて、気付いた頃にはネリルは、キールの治療を終えていた。 「え・・・」 ミッドナイトは、足に力が入らなくなり、その場に長く立っていることができなかった。 「ね、ネリル・・・私、外・・・見てくる・・・」 ネリルは、ミッドナイトに微笑んだ。 ミッドナイトは、走った。 関係者以外立ち入り禁止のプレートを無視して、モールの裏側の部屋に来ていた。 本来は、モールの店舗運営者や経営者の会議室などに使われている控え室のような物だ。 そこで、壁に背をつくと、へなへなと力が抜けて、床に尻をついた。 「な、なんだったんだよ・・・あいつ・・・」 喋れるはずがない。 あのネリルが・・・両親を殺された時のショックで喋れないと言っていたんだ。 それでも、喋った。 ミッドナイトは、恐怖に震えた。 「情けない・・・あのぐらいで・・・怖がってるなんて・・・」 それでも、あのときの目つきと声は、忘れられない。 ミッドナイトが出ていった後の部屋。 ネリルが看病しているのは、ショーン、フィスナ、ミハエル、沙耶華、キールの五人だった。 チームメタルタウンの四人は、海に落ちて漂流していた所、ガルムベルド団の帆船に救われたのだ。 それは、ネリルがローズアルバルトに直談判した結果だった。 「う・・・っく・・・」 ネリルが、その声の主に気付いた。 常備しているホワイトボードにペンで字を書く。 「あれ・・・?」 最初に起きたのはミハエルだった。 ミハエルは、毛布が掛けられていることを不思議に思ったが、 隣のキールを見て、全てを思い出した。 立ち上がって、戦闘態勢に入ろうと思った時。 目の前に字が書かれたホワイトボードが突き出された。 「まだ・・・万全の体調ではないので、寝ていてください・・・?」 ミハエルは、ホワイトボードの字を読んで、ネリルの顔とキールを交互に見た。 「おい・・・あいつが体調が悪いのは分かってる。 だが、俺たちは、敵同士なんだぜ?」 ミハエルが喋っている間も、ネリルはホワイトボードに字を書いていた。 そこには、「関係ありません。私が人を診る。患者が誰か決めるのは私です。」 強い意思を感じる。 ミハエルは、何も言わずに、毛布に入った。 さっきまでびしょびしょだった服も乾いている。 自分たちのことまで看病してもらっていたらしい。 「おい、あんた、名前は?」 ミハエルは、毛布に入ったまま聞いた。 顔だけ向けると、そこに「ネリル」と書かれていた。 「ネリル・・・ああ、どっかで会ったことあると思ったら・・・」 ミハエルは、忘れっぽかった。 「俺は・・・ミハエル・アンダンテ」 ホワイトボードに次々質問が書かれていく。 「年は10。こんな若さでドイツからティオレイドに連れて来られた・・・」 ネリルは、他の患者も診ていた。 「変な話だ・・・地下で能力を使って遊んでた俺が・・・ 何故地上の人間に嗅ぎ付かれたってんだよ。」 ミハエルは、鼻で笑った。 ここまで来たことを思い出しながら、ネリルに話を聞かせていた。 その度、ネリルは、相槌を打ったり笑顔を見せたりした。 現在、ティオレイドの臨時基地の指揮官になっているのは、ジョン・スポールだった。 ティオレイドの総長、グリノも、その横には立っていたが、 実務はほとんどジョン任せだった。 ガルムベルド船と墜落していったと思われるチームメタルタウンとジェイリーは、 すでに戦力に数えないようにしていた。 恐らくもう死んでいるか、戦えないかもしれないのだ。 そのとき、ジョンの元に、連絡が入った。 「通信・・・?誰だ?」 『レーオン・・・レーオン・トリュフだ。』 横浜の港に向かった班からだった。 「レーオン。何かあったのか?」 『ガルムベルド団はやっぱりいた!!』 「何?」 ジョンは、予想はしていたが、多少の驚きはあった。 『だが、今は・・・いない。』 「どうなってる?」 『逃げた・・・いや、追ったんだ。 ワイズマンを。』 レーオンは、確信した。 ワイズマンとの決着が近いかもしれないことを。 鍵を集め、革命から支配を捻り出そうと企む組織との決着が。 だが、こちらの戦力は少ない。 『ガルムベルド団の車に・・・ チームメタルタウンも潜入したみたいだ。』 「何?」 『彼らは、生きていました。 合流した途端、ガルムベルド団は、搬出口のバスを奪って逃走。 チームメタルタウンも上手く中に入った。』 ジョンは、グリノとエレノアの方を見た。 その表情から全てを理解したように、二人は頷いた。 『ただ、残念なことに・・・』 レーオンは、言葉に詰まった。 『ノーウェンが死にました。』 ジョンは、唖然とした。 今まで冷静だったが、ここで驚いて通信を切った。 もどる