第38話「覚悟」
ガルムベルド団の最年長のハンデラルは、考えていた。
彼は、ガルムベルド船の船長でもあったが、乗り物に関しては広い知識を持っていた。
なので、今も仲間が乗るバスを運転している。
彼は、いつも、何かを考えていた。
ハンデラルの背後では、ローナ達の遊ぶ声が聞こえた。
「あがり」
「あー、シンドラーさん、早ーい。ってか強ーい。」
ローナ、ルーシー、シンドラーは、ババ抜きをしていた。
そこに、マイクが怒鳴り込んできた。
「おい!!おまえらなぁ、修学旅行じゃないんだぞ!!」
的確なツッコミだった。
「ミッドナイトだって怪我して寝てるんだぞ。
少しは静かにしろよ!!」
と、そこにローズアルバルトが仲裁に入ってきた。
「まぁ待て。
そう怒鳴ってるおまえもうるさいぞ。」
言われて、退くマイク。
「そうピリピリするのも分かる。」
言いながら、ローズアルバルトは、席に戻った。
「はぁー・・・ネリルちゃんとメリルちゃんがいたらなぁ・・・」
ローナが、溜息混じりに言った。
あの姉妹は、ガルムベルド団にとって、癒しとも言える、マスコット的存在だった。
実際、妹のネリルは、医療担当だった。
「仕方ないんだ。」
ローズアルバルトは言う。
「ここからの戦い、あの二人には立ち会って欲しくない。
まだあの二人は若い。
それに、俺達についてくることに、躊躇いを感じていた。」
「覚悟が決まらなかったのか。」
シンドラーが再び口をあけた。
「彼女たちには、平和が一番だ。」
他の団員も、それに頷く。
シンドラーは、言って、窓の外を眺めた。
ハンデラルは、仲間達のことを考えていた。
そしてこれから向かう場所も。
中央都市部のある河川の奥に、今では使われていないダムがある。
そこを目指していた。
彼らの目的は、ワイズマンを止め、鍵を奪うこと。
そこで、全てが終わる。
バスの中は静かだった。
ショーン達チームメタルタウンが隠れているとも知らずに。
「もうじき来るだろう。」
ワイズマンの予言者、サロ・ヌーアが言った。
「奴等、尻尾を噛まれておる。」
サロは、ガルムベルド団とバスに同乗しているチームメタルタウンの存在を告げた。
サロの隣に、恭司もいた。
「気付いていないのか?」
「ああ。だが、こっちにはデーモニックがいる。
奴さえいれば、誰が来ようと関係ない。」
そこは、ダムと山の中に出来ている基地。
その入り口は大きく、奥にまで広がっていた。
巨大な鍾乳洞を利用したのだろう。
ダムは現在、使用されていない。
それを改造して、基地に使っている。
「そろそろだ。」
サロは言って、ダムの上から降りようと、エレベーターに乗った。
「恭司。おまえは?」
「いい。先にいけ。少ししたら俺も行く。」
「余りのんびりするでない。」
エレベーターの戸が閉じた。
恭司は、柵越しに、ダムの下を見た。
遥か下方に、小川が流れているのが見えた。
ダムの最上部と、山間部は、つり橋で繋がれていた。
奴等が来るのは、そこからか・・・そう思いながら恭司は、山間部を眺めていた。
その先には道が続いている。
本当ならば、そのつり橋を落としてしまってもよかったのだが、
デーモニックが、足りない鍵をガルムベルド団が持っているかもしれないと言って、つり橋を落とさせなかった。
奴等なら鍵を持ってくるだろう・・・と言ったデーモニックの言葉を思い出す。
しばらくして、恭司はサロが行った道につづき、エレベーターに乗った。
エレベーターは、基地まで一気に降りた。
基地の中央部まで来ると、発進準備中の巨大な艦があった。
ライトは電力を抑えるため、最低限しかついていないため、その全貌を拝むことは出来なかった。
デーモニック曰く、ここで己の過去とも因縁とも宿命とも言えるガルムベルド団を叩き潰し、
そして北極基地へと向かう。
それが理由で、発進を遅らせていた。
上のハッチを開いてしまえば、発進することは容易いのだ。
『奴等が到着した。』
放送の音だ。
『最終ラウンドが始まる。
艦に乗り込め。』
スピーカーの音を聞いて、恭司は艦に乗り込んだ。
ハンデラルが運転するバスは、山を登り、森を抜けて、つり橋の前で止まった。
その先には、ダムがある。
そして、エレベーターが彼らを案内するように、戸を開けて待っていた。
「私はここまでです。」
ハンデラルは、言った。
「戦闘員ではないので。」
ローズアルバルト、ローナ、ルーシー、シンドラー、マイクはバスから降りた。
「じゃあ、ミッドナイトを頼んだぞ。」
ローズアルバルトは、ハンデラルに言った。
「それと・・・もう迎えは要らない。
ここに来たのは、新しい旅立ちの為だった。
ハンデラル、新しい生活を見つけてくれ。」
言うと、ハンデラルは、唖然として固まった。
悲しそうな表情だった。
「待ってくれ。それじゃあ・・・」
「ガルムベルド団は、これにて解散だ。
今まで・・・ありがとう。」
その言葉には、ローナ達も驚いていた。
「ミッドナイトにも伝えておいてくれ。」
ローズアルバルトは言って、つり橋に足をかけた。
そして歩き始めた。
ローナたちがついてきたのを見て、ローズアルバルトは、振り返った。
「おまえたち。
おまえたちは、自分の意思でついてくるのか?」
ローズアルバルトは言った。
「解散だなんて・・・酷すぎます・・・
無責任です。」
ルーシーが言った。
ローズアルバルトを一番慕っていたのが彼女だった。
「おまえは、19歳だ。」
ローズアルバルトは、言う。
「まだ若い。」
「ローズアルバルトさんだって。
22じゃないですか。」
「ああ。
それでも。
俺はあそこに決着をつけにいかなきゃならないんだ。」
俺に付き合って、一緒に戦って一生を棒に振るなんて馬鹿馬鹿しいと思わないか?とも言った。
ルーシーは、首を横に振った。
「馬鹿馬鹿しいだなんて・・・
今まで・・・ずっとついてきたのに・・・
そこまで自分の人生を否定したくない。
私は、ちゃんと私を歩いています。」
強く、ローズアルバルトと視線を合わせていた。
しばらくして、ローズアルバルトが再びエレベーターの方へと、足を進めた。
「ついてきたければ、ついてこい。
おまえらは・・・馬鹿だ。」
言って、エレベーターに乗り込んだ。
「俺以下だけどよ。」
そのまま、ルーシー・ジェリーチ・エーテル、
ローナ・フランクリン、シンドラー、マイクも、彼につづいた。
ハンデラルは、ミッドナイトの隣に座った。
「ミッドナイト、起きてるか?」
俯いた横顔に言う。
「聞いてたよ。」
俯いたままの状態でミッドナイトは、答えた。
「事実上のクビってことだ・・・
メリルやネリルと同じで・・・」
閉じた目から、一筋の光が見えた。
ハンデラルは、席を立ち上がって、後ろ席の方に声を上げる。
「もう出てきてもいいぞ。」
誰も出てこない。
「あいつらは行ったよ。」
すると、後部座席の陰から、四人の男女が現れた。
ハンデラルは、ミッドナイトの隣に戻ってきた。
「ちょっと待って、あいつらは!?」
ミッドナイトが、驚いてハンデラルに聞いた。
「港で、先に乗っていたみたいだな。
俺の仕事柄、バスの重さが違うのが分かった。」
四人は、前席の方に移動して、バスの出口を開けた。
一人が振り返って、ハンデラルの方を見た。
「ありがとうございます。」
「うん。できれば、お互いの敵が共通の敵であればいいな。」
「・・・」
その四人は、バスを降りて、さっきローズアルバルトが行った道を辿った。
そして、バスの中は再び静寂につつまれる。
「メリルとネリルにはもう会えないのかね。」
「そんなことはないと思う。
あの二人は、どこか静かな場所で暮らしている・・・と思う。」
「そういえばさ・・・
ネリルって、喋れないはずなんだよな・・・。
でも、私はネリルに脅されたよ。」
港の時のことを思い出していた。
「邪魔をするなって。」
「喋ったのかい?」
「ああ・・・ネリルが喋れるなんて・・・」
ハンデラルは、ミッドナイトが言い終わる前に大笑いした。
「な、何笑ってんだ・・・?」
「ネリルは、君も知っての通り、喋れないよ。」
「だ、だけど・・・」
「ネリルは、医療担当、メリルは料理人、ってそう決めたのは誰だ?」
「あの二人がそうやって分担しているんじゃないのか?」
「そうだよ。
だけど、ネリルだって、ガルムベルド団に入った頃は、医療なんて出来なかった。」
「そうなのか?」
ハンデラルは、私は古株だからね、とつづけた。
「あの二人のことはよく知ってる。
ネリルは、人を治すことを誰から教えてもらったのか。
分かるかい?」
「えっと・・・え?そんな・・・まさか・・・」
「人の固定観念と誤認を利用したトリック。
足を怪我してない人だって、松葉杖は使えるし、車椅子にも乗れる。
つまり、そういうことだ。」
ミッドナイトは、溜息をついた。
「やられた・・・」
「ハハハ、あの二人、最後の最後にしでかしていったな。」
チームメタルタウンは、つり橋を渡り終え、ダムの上を歩いていた。
目の前にはエレベーターがある。
柵から下を覗くと、小川が見える。
よく見ると、小川がふたつに割れているように見えた。
しばらく見ていると、その亀裂は大きくなっていった。
轟音を鳴らして、地面が裂けていく。
ダムにも亀裂が入り始めた。
「みんな、急げ」
ショーンは、エレベーターに乗り、全員が乗ったのを確認して、ドアを閉めた。
エレベーターは、壁がガラス張りなので、外の様子も見える。
避けた地面に見えたのは大きな画鋲のようなもの・・・。
見覚えがあった。
「ガルムベルド船!?」
ミハエルが驚き、声を上げた。
エレベーターが最下層までつくと、辺りは少し暗かった。
四人は、金網の上を急いで走った。
恐らく、ガルムベルド船は、発進準備を迎えている。
ハッチもすでに開ききっているのだ。
「呼んでいる・・・?」
能力の半分を失った沙耶華が言った。
今では、弱いテレパシー能力しか使えず、ワイルダーンエレクトのような、通信制御や、通信妨害はできなくなっていた。
「誘っている・・・私達をあの中で一気に倒すつもりだわ!!」
ガルムベルド船が近づくにつれ、圧迫感のようなものがじわじわと伝わってくる。
船の入り口前まで来ると、ドアが自動的に開いた。
「覚悟は・・・いいな?」
ショーンが言った。
「ああ。」
ミハエルが頷く。
「もう後戻りはできないでしょ。」
フィスナが言った。
「覚悟・・・ね。ショーンは、どうなの?」
沙耶華が聞いた。
「もちろん・・・」
言った後、人差し指を額に当てた。
「いや・・・正直、怖い。」
三人は、ショーンの表情を覗く。
「おいおい・・・そんなに俺達が頼りないか?」
ミハエルは、挑発するように言った。
「そんなんじゃ、置いていくわよ。」
フィスナは、さっさと船の中に入っていってしまった。
ミハエルも、それにつづいた。
「どうするの?」
「あ、もちろん、行くさ。」
ショーンは、念を押して「行くよ」と言った。
「ふぅ。」
ショーンは、船に入って、深呼吸した。
ドアが、自動的に閉まる。
「さてと。それじゃ一暴れしますか。」
ショーンが、言った。
同じ頃、ガルムベルド船の大広間では。
デーモニックの前に、ローズアルバルト達が倒れていた。
「くひひひひ・・・なんだ、その程度だったのか・・・」
デーモニックは、倒れたローズアルバルトに近づく。
「・・・期待ハズレだったか?」
「何!?」
デーモニックは、足を止めた。
ローズアルバルトは、手をついて立ち上がる。
「デーモニック・アルベルンなんて名前使ってやがるからよ・・・
探すのに苦労したぜ・・・」
ローズアルバルトは、デーモニックを見て、ニヤリと笑った。
「兄さんよ。」
デーモニックは、苦虫を噛み潰したような表情で、ローズアルバルトを睨んだ。
「けっ・・・レガロ・・・おまえの名前はもう忘れようとした所だった。」
「アスティ・ガルムベルド。
それがあんたの名前だ。
どうだ?思い出したか?」
ローズアルバルト、否、レガロは、デーモニックを挑発するように言った。
「今は・・・今の俺は、デーモニック・アルベルンだ!!」
掌を、レガロに向けて、力を込めた。
「デーモニックインフェルノ!!」
1m大の黒い球体が、紫色の電気を発しながらゆっくりと浮遊し、飛んでくる。
「鈍いぜ。」
レガロは、右手に、空剣を形成し、デーモニックに突撃していった。
もちろん、球体を避けて。
「大馬鹿者が。それはフェイクだ。」
言って、デーモニックは、叫んだ。
「ダウンズゲート!!」
デーモニックを中心に、辺りを、薄暗い空気が包んでいった。
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