第甲話 「死なない心」 何分経っただろう・・・ 首から血が流れ始めてから何分経つのだろう・・・ 死ぬ間際、思い出が走馬灯のようによみがえるというが、 それは本当だったと思い始めたときだった。 ディンは、倒れていた。 眠るように。 その後ろ数メートルのところにディンの仲間たちが倒れていた。 目が霞み、目の前で戦っている女が切り刻まれていく姿が、 走馬灯の映像にフェイドアウトしていくようだった。 もう少しでいい、もう少し、動ければ・・・ ディンは必死で立ち上がろうとする。 しかし、それも空しく、立ち上がれる気があるにもかかわらず、 体がうごかない。 まったく動かない。 女は、倒れた。 数日前、始めて会ったとき、 ハーブティーを飲んだことを思い出した。 家に住まわせてくれたことも思い出した。 それがこんなことになるんならこの島からすぐに 帰っていればよかった・・・ だけど、もうここまでの失敗をしてしまった。 ディンは責任感を感じていた。 目の前から『剣の男』が消えていく。 女も消えていき、一気に夜になったように 目の前が暗くなった。 そこからディンの意識はなくなった。 倒れていた女の名前はアイシー・ジェッチレッテル。 ディンは会ってから次の日に名前を聞いた。 年齢は聞かなかった、というより、 聞けなかった。 ディンは女に弱い。 失礼だと思って(勘違いして)聞かなかった。 おそらく、20前後だと思った。 女が小さいころ、この島にあるバリートゥード専門学校で テコンドーを選択授業で受けていた。 女は外界からの人間を立ちいれさせた罪と もうひとつの大きな罪で 死刑にされかけていたところ、 ディン達に助けられた。 しかし、逃げている途中に、刺客の『剣の男』に 追いつかれ、そしてディンはアイシーを守ろうと戦ったが、 普通の人間がU・tiole使いに勝てるわけもなかった。 もうひとつの罪・・・それは・・・ 「なぁにが、あったらいけないもの・・・だぁ!? 貴様こそいてはいけない者ではないのか!?」 『剣の男』は倒れているアイシーに吐き捨てるように言った。 「あれは・・・壊さなくちゃ・・・ この島から・・・命が・・・完全に消えてなくなる・・・」 「そんなことは知っている。」 男は倒れたアイシーを見下しながら嘲笑した。 アイシーは顔を必死に上げた。 その顔からは涙が流れていた。 「まさか、あなたはそれを知っていて島の人たちに 鍵を持たせていたの!?」 「なんだ、知らなかったのか? あれを持った生き物は、『黄金の鍵』を持ったもの、 つまり俺達に支配され、 そして体力もエネルギーも知識も、 欲しい分だけ吸い取れる!! 生かすも殺すも俺達次第なんだよ!!」 男は大きな顔をして高く笑っている。 「狂ってる・・・そんなことして何をしたかったの?!」 「この島をぶっ壊して、新しい、俺達が王、 いや、神として君臨する世界を作り上げようというわけだが!!」 男は、しゃべるのを止めた。 そして、後ろに振り返った。 そこには血まみれになったディンが ふらつきながらも立っていた。 「ほう、まだ立ち上がれるのか・・・ よかろう、貴様から始末してやる・・・」 男は、アイシーから離れた。 ディンは、隠してあった鍵を持った手を出した。 「それは・・・いつの間に!! それをこっちによこすんだ!!」 「あんたの誤算は、俺に止めを刺さなかったこと・・・ そして、アイシーを切り刻んだてめぇは 俺を本気にさせた。 本気の本気は、限界にも勝る・・・」 「な・・・何を言ってるんだ・・・?」 「あんたが思っているとおり、俺の魂は肉体を離れ、 そして空に向かっていった・・・が、 これは奇跡なのか、それとも誰かの能力なのか・・・ 俺は未だこうして立っている・・・」 「何ぃ!?」 ディンは男の間合いに入ってきた。 男が剣を振り上げたとき、 ディンは鍵でガードを固めた。 男は、剣を止めた。 「どうやら、これは壊しちゃならないらしいな。 アイシーに初めて出会った日、 これを壊すことが島民の役目だと聞いていたが・・・ どうやらウソッパチだったようだな。 お前等にとっては、だが!」 ディンは鍵を振り下ろした。 男はとっさに飛びのいたが、 鍵の刃の部分が男の腕を掠めた。 「そんな攻撃で俺を殺す気だったのかぁ!?」 男は、剣を突き出した。 が、ディンが構え持っている鍵を 壊すわけにはいかない、と、 攻撃をやめた。 「どうやら、自分の腕よりも鍵の方が大事らしいな・・・」 男は、ディンのその言葉を聞いて さっき鍵の刃が掠めた腕を見てみた。 さっきまではかすり傷でさえなかったのに、 今は傷がどんどん深くなっていく。 ノコギリで木を切っていくように、 男の腕の側面から血が流れ、切り離されていく。 「なッ、なんだこれは! 腕が、切り離されていく! これは・・・俺の能力、リロードと同じ!」 「ようやく気づいたな、 俺は一度死んでからお前らのような U・tiole能力に目覚めたらしい。 しかも運悪くおまえと同じ能力だ。」 『剣の男』の能力、リロードは、効果持続、効果移動を持つ。 斬撃をかわされても、その効果は残り、 そして目標に向かって移動する。 つまり、それと同じ能力を得たディンは、 鍵での斬撃は失敗したが、 『敵を斬りつける』という目標は持続し、 そしてその目標に向かって 男の腕を走り続ける。 「ぐぉっ、腕が!ちぎれる・・・」 「今なら一振りでてめぇの腕をぶっ飛ばせるぜ・・・」 「何!?」 鍵を横に振ったディン。 その刃はダイレクトに男の腕に当たった。 腕は、千切れ飛び、血を噴出しながら空中に舞った。 もどる