三本セット

 Auther 穂富 竜

 

不味い、もう一杯。

 

ぽとりぽとり
「泣いているのかい?お兄さん」

たかだか少女一人に泣かされる情けない青年がいる。
少女の吐息が、青年の顔にかかる。
彼は、身震いした。
「ほんの少し、ほんの少しでいいんだよ」

少女は言う。
「何を言っているのか僕にはさっぱりわからない」
「少しだけ欲しい」
「そう言って町の人を騙してきたのだろ」
「お兄さんも、そう言うんだ…」

少女は、青紫色の空を仰いだ。
その瞬間を見計らったかのように、青年はもがいた。
しかし、彼を捕まえた少女の腕は万力のように固く、逃げ出すことは不可能のようだ。
「都市伝説になっている」
「……?」
「君が。君自身が」

少女は首を傾げた。
青年はなんとか時間稼ぎが出来たようだが、こんな真夜中の路地裏に、
人が現れることは、ほとんどない。

ましてやこんな田舎町、旅行客でもない限り深夜に外出する人物はいない。
「さぁ、もらうよ」
「ちょっと待って」

青年は抵抗する。
もがいても足掻いても、少女の腕力から逃げ出せない。

何故だろう、自分よりも明らかに年下だ……それ以前に相手は女児なのに。
「もう命乞いさせてあげない」

少女は、青年の首筋に唇をつけた。
鋭く尖った犬歯が青年の首に突き刺さり、少女はその血液を吸い始めた。
「おえっ」

突然、少女は青年を突き放し今し方飲んでいた物を吐き出した。
口元を袖で拭って、青年を見つめる。
青年は、首を押さえながら悲鳴を上げる。

彼の手足がガクガクと震え始めた。
一度、空に向かい雄たけびを上げると青年の体から刺青を彫ったような何かの模様が発光した。

少女は驚愕する。
その正体を知る少女からすれば、それは恐怖でしかない存在だ。
青い光に纏われる人間は、自分達にとっての天敵だと彼女は母親から知らされていた。
「返してもらおうか、私の血液を…」

光を発していて見えなかったが、青年はすでに青年ではなかった。
やせほそった体は、豊満に。
短く揃えられた茶髪は、井戸の底のように黒い長髪に。
目つきは鋭く、顔立ちは細くなった。
ただひとつ、変わらなかったのは服装だけ。

その青年―――彼女は、少女を睨みつける。
「冗談きついわ」
「それはお互い様でしょう?」

女は、少女を追い詰めるように歩み寄る。
蛇に睨まれた蛙のように、少女にはなす術はない。
「返すの?返さないの?」
「もらったものは、返すわけないでしょう?」
「そう。じゃあ―――」

「さようなら」

 

少女は、その戦闘のあと、港のコンテナの上で目覚めた。
何をされたのか、全く分からない。
町の雑貨屋の屋根に飛び上がり、そこから逃げていたはずだったのに。

少女は、上体を起こし、あたりを見回す。
「なぁ」

隣のコンテナの上で、女が叫ぶ。
女の肌の表面が、砂のようにぼろぼろと崩れ始めた。
「返してもらう物は、返してもらった。だから私は帰る」

女は言って、少女に背を向ける。
「あんたの名前、聞いてなかったね」
「…」
「ないのかい?名前」

女は、重くなっていく右手を挙げながら聞いた。
その右手も砂のように崩れていく。
「ないよ、名前」
「じゃあ、あんた、コンテナね」
「な!」

少女は赤面した。
「それじゃあね……」

そう言って、女はコンテナから飛び降りてしまった。
少女は、すぐにその場所に覗き込みに行ったが、そこを走っていたのは、女ではなくあの青年だった。
「逃げ足と追い足……両方あるなんて、ずるいじゃない」

少女は、体の痛みを休めるためその場に寝転がった。
見上げた空に、月は出ていない。
なぜ、あの人間は私の名前を聞いてきたのか……少女は考える。

考えているうちに、まぶたが重くなってきた。
しばらく、このまま寝てしまおう……

 

 

 

バッシュ

 

バスケットボール部の試合を目前に控えている杉乃は、試合用に新しいバッシュを買おうとスポーツ店に来ていた。
彼女の友人は、何度も言う。
「慣れてるのを履いた方がいいよ?」

もちろん、それは事実だ。
が、杉乃は、モチベーションや気合を重んじる性格であるが為に、練習と試合に区別をつけたがるのだ。
「これに決めた!」
「これ高いよ?買えるの?」
「買えるさ!今週は、これの為だけに、バイトしてたんだから!」
「ぜってぇ今決めたろ……」

杉乃は、レジにそのバッシュを持っていく。
友人も彼女についていく。
「さて、買ったよ!」
「そうですね」
「早速、履いてみたいんですが、よろしいですか?」
「よろしいんじゃないでしょうか?」
「じゃあ体育館に行こう!」

結局、それを履いて練習するんじゃないか……

彼女らは、体育館の鍵を開けて中に入る。
休日なので、誰もいない。
本来なら使用禁止の体育館、それを無断で鍵を前日に持ち出した杉乃は、バレればただ事では済まないだろう。

誰もいない体育館……だと思っていた。
バスケットボールがフローリングを叩く音が響いている。

ステージ側のコートに、長身の男性がいた。
丁度、レイアップシュートを決めようとしている所だった。
ゴールに向かい、走っていき、少し前でボールを持ち上げる。

中指の先から滑るように射出されたボールは、空中を転がるようにゴールネットをくぐった。
「綺麗……」

言った矢先、友人にビンタされる杉乃。
「何すんのさ!」
「あんたが、余りにも余りな奴に見惚れてたからさ」
「え?」
「あの人、変態よ」
「変態なの?」
「コートの上の変態と呼ばれる彼は、今ではその軟体生物のような動きからキャプテンを任されている」
「長々とご説明どうも」

杉乃は、彼に興味を持ち、シューズを履いて、彼の前に立ちはだかった。
「なんのつもりだ?」

男は言った。
どう見ても変態には見えない。
ユニフォームを着た彼の目つきは、鋭く、杉乃を見つめる。
「コートに二人の人間がいたら、やることはひとつでしょ?」
「そうだな……」

男は、ドリブルをはじめた。
杉乃のチャンス。
彼女のスティール技術は、一流だ(自称)。

自称とはいえ、人より優れているのは確かである。
彼女の目は、男が持つボールよりも、男の顔をみつめていた。
「超イケメン……」

彼女がつぶやいた瞬間、男は消えていた。
「杉乃!後ろ!」

分かっている、と答える前に彼女は振り返った。
「もうあんな遠く……」

男はすでに、ゴール手前にいた。
ドリブルを続け、杉乃を待っているようだった。
完全におちょくられている。
「こんのぉ!」

杉乃が走り出した瞬間―――
「ダーンクシュート」

ボールは、ゴールリングに叩きつけられるようにして、シュート。
男はケラケラと笑い、走り回った。
変態だった。
「ちょっと待ってください先輩!」
「なんだい?」
「今度は私も入ります!」
「いや、俺は帰るよ」

男は笑いながら言った。
杉乃の友人が男を捕まえようとしたが、男は飛び退いて、体育館から逃げ出していってしまった。
「お腹が空いたので帰宅させてもらいますよぉーっ!」

男は、甲高い声を発しながら逃げ出していった。
「杉乃、追うわよ!」
「え?ちょっとバッシュ脱がしてよ!」
「それ、水陸両用だよ!」
「室内室外じゃないのか!」

二人は、男に憧れて叫びながら変態の後を追っていった……

 

 

 

ありえないこと急展開

 

俺が道を歩いていると、ヤクザがぶつかってきた。
「どこに目をつけてんじゃボケ!」
「ひぃ!ごめんなさい!」

と、土下座したが、急に勇気が沸いてきたのでヤクザの顔面に一発ぶちこんでやった。
ヤクザは、泣きながら逃げ出していった。
「うぉ!?なんじゃありゃ!」

頭上を緑色の巨大ロボットが通過し、街路樹を潰していった。
「あの野郎!俺の町を傷つけやがった!許さねぇ!」

丁度よく、白いロボットが倒れていたのでそれに乗り込んだ。
コックピットには誰も乗ってなかったのが、逆に不思議だが、レバーなどを見て、操縦方法を考える。
「あ!これ、昨日学校でやった奴だ!」

俺は、白いロボを動かし、緑色のロボと対峙する。
「そこに乗ってるのは少尉ですか?」
「うおおお!」
「まさか、敵に鹵獲されたの?きゃー!」

緑色のロボに突撃し、吹き飛ばしてやった。

俺は、白いロボから降りると、丁度高校の前だった。
遅刻せずにすんでよかったぜ。
「あ、純くーん!おっはよー!」

俺の後輩が、元気いっぱいに走ってくる。
その数、五人。
「ずるい!純くんは、私のなのにー!」
「いーえ、私のですー!」

俺は、後輩たちに囲まれながら、教室に向かった。
俺が教室につくと、一時間目のベルが鳴った。
「えー、今日は転入生を紹介するぞ!」

いつの間にか現れた教師が言った。
その隣には、かわいい女の子が立っている。
ためしに言ってみるか……
「あー!おまえ、今朝のロボット女!」
「うわ!そんな!敵のパイロットと同じ教室だなんて!好きだ!」
「俺もだ!」

その瞬間、窓ガラスを割ってSWATが突入してきた。
俺は、腰につけた銃を取り出し、彼女を守りながら戦った。
が、そう簡単にいくわけもなく……
「グレネードを使うぞ!離れろ!」

爆音と共に、俺は吹き飛ばされた。
守っていた彼女は、どこへ行った?
今まで教室だった物が瓦礫と化して、どこがどこだか分からない。

他の生徒達はいつの間にか逃げ出していた。
「うわ、頭から血が……」

俺が額を摩りながら彼女を探し歩いていると、何かにつまづいた。
肌色の……それ。
積まれた瓦礫のしたに、彼女は埋まっていた。

俺はすぐさま彼女を掘り起こし、人工呼吸をした。
「し、死ぬなー!俺の恋人だろ!」

すると彼女はすぐさま息を吹き返し、言った。
「これが……スーパーカーの……キーです」

俺に車のキーを渡すと、彼女は、ガクリと首を垂れた。
「ジェニファー!!」

ひとしきり泣いたので、立ち上がった。
「さて、行くか」

と言った瞬間、轟音と共に二階から路上に車が飛んできた。
俺の前に車が止まり、中から初老の男が出てきた。
白衣に身をつつんだ……博士だ。
「さぁ、君が注文した車だ。ミサイル、バズーカ、まきびし、50ℓオレンジジュース、GPS
 脱出装置に、水陸両用機構、それから翼を出せば空中飛行も出来る。
 君のリクエスト通りの装備だ」
「ありがとう、ドクター」

俺はさっきもらったキーを投げ捨て、車に乗り込んだ。
ハンドルの横には、ミサイルのスイッチなどがついている。
ウィンカー?そんなもの必要ない。
「いってらっしゃいませ、おぼっちゃま」
「ああ、悪い奴らをやっつけてくる」

俺はアクセルを踏み込んだ。

 

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