小屋

 

ねぇ寒いの?
私が暖めてあげようか?

 

薄着のパジャマはとてもじゃないが寒さに耐え切れなかった。
彼女の声で目覚めたので尚更だ。
「私が暖めてあげようか?」

遠慮の意思を込めて首を横に振る男。
何をどう解釈したのか、彼女は男に抱きついたのだ。
きっとどこか遠くの国の人なのだろう。
「仕方がない。暖めさせてあげますか」

男は言って、彼女のなすがままにされていた。
先ずはパジャマを脱がされた。
何故か彼女もその白い服を脱ぎだすが、男は止めようと入らない。

きっと、それを望んでいるのだろう。

若い者が小屋に近づきつつあった。
小屋の扉の前で立ち止まって、二階の格子窓を眺めた。
「こんばんは。不届きな時間ですが、とんだ無粋者と思っていただいて下せぇ。不届きなお届けものです」

男はその声を聞いて、階下に下りてきた。

玄関扉を開けて郵便屋の姿を探すが山羊の毛一本残ってやいない。
この田舎で山羊を買う牧場も農夫もいないのだが。

ふと視線を落すとそこには、10寸程の小包が置かれていた。
いや、怪しいと思いながらも男はそれを手に取り箱を眺めてみた。
和紙で何重にも包装されている小包を、男はくるりくるりと回しては角を眺め、底を眺め、箱を眺め回していた。

興味に駆られた男は、その小包を耳に寄せて振ってみた。
カチカチという金属がぶつかる音がする。
男は「しめた!これは、金目の物に違いない!」と思い、小包をつまんで階段を駆け上がった。

男の部屋で、女はすでに裸になっていた。
「おいおい、ここでは女人禁制だよ」
「そういう冗談嫌いです」
「よく冗談だと見抜いた」

男は、小包を開けようと机の前に座った。
一時間前に届いた小包を開けた鋏を使って、彼は現在の小包を開けようとした。
女も男の肩越しにその様子を眺めている。
「ああ、やっぱり金目の物だ」

男は和紙を剥がしていき、その金色の片鱗を見て驚喜した。
「あなたは、私を信じていますか?」

突然、背後から女は言う。
「何を言うか。

信じるも何も、愛しているのが普通だろう。

俺達は夫婦なんだから」

男は言って、すぐに首をかしげた。
「おや。

君とはどのぐらいの付き合いになっているのかな?」
「…お忘れなのですか?」
「ふむ。おかしい。

さっき小包を開けるのに鋏を使った記憶があるが、その小包が見当たらない。

はて、どうしたものか」

今しがた手にしている物とは別に、男が開いた小包は別に存在する。
「私と一緒に寝てください。そうすれば教えてあげます」

女が言って男は振り返った。
「おいおい、もう子供じゃないんだから」

と、一言返して金色の何かを無理矢理取り出そうとしている。
そこでふと思い出す。
「おい。俺と君は、いつ結婚した?

それと、ここはどこだ?こんな寒い土地に家を建てた覚えはないぞ?」
「何をおっしゃいますか」
「ちょっと待て、君は誰だ?

本当に俺と結婚しているのなら、その証拠に名前を言ってみろ」
「松野響子と申します」
「松野…?」

男は驚愕する。
結婚している相手なのだから、苗字は自分と同じはずなのだ。
同じかどうか、それだけ知ることが出来ればいい。

しかし、男は。
「俺の名前が分からなければ、確かめようもなかろう」

単純に自分の名前を忘れていた。
女はそれでも責めることはなかった。
「ゆっくり思い出せばいいのです。何があったのか―――」

男が再び、金色の何かを出す作業に戻ると響子はそこに置いてあったツルハシを手に取った。
「そしてこれから何が起こるのか」

男が振り返った瞬間、その首筋目掛けてツルハシがびゅんと通り抜けた。
たちまち、男の首は飛び小屋の壁にぶつかって跳ね返った。
平らになった男の肩が何かを訴えるようにゆらりゆらりと、ゆすりっている。

首のない胴体は床に倒れた。

女はその光景に鳴くこともせず、ただ黙って机の中の電話を取り出した。
黒く丸いその電話は物質的な重量感も、そうでないものも感じさせる。
まるでその小屋を表現しているかのように。

女はツルハシをベッドの横に置き、そこに腰を下ろした。
「はぁ。なんで言うことを聞かないのかな。これで四回目だよ?

私とお金、どっちが大切なの?」

女は男の首がついていた断面に話しかけた。
そして、電話の受話器を取る。
「もしもし、私。

またなの。

お願い。

同じ小屋だから」

響子が電話の相手と話し終えると、男の体と首が一瞬にしてくっついた。
そして何事もなかったように、ベッドの上に体が置かれた。
「ねぇ」

女は寝ている男に話しかける。
男は呼吸をしはじめた。
「あなたは私のものよ」

その一言で男は目を覚ました。
血液の通った健康な瞳が響子を見つめる。
「ねぇ、寒いの?私が暖めてあげようか?」



「いや、いい。

次はおまえが暖まれ」


響子の胴体が転がる部屋に、郵便屋が到着した。

丁度良く男は玄関をあけるところだった。
「ああ、ご主人」

郵便屋は、焦った様子で小包をそこに置こうとしていた。
男は代わりに大包みを郵便屋のかごに入れてやった。
「なんです?これ」
「私の夫よ」

 

 

 

 

 

 

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