[Type in Your HEART] 第3話「time limit」

7月2日、川峰 春乃の告白の日まであと5日 私には本当に彼に好きになってもらえるか、 それだけが気がかりだった。 学校、普段何変わりなく行っている 学校がある。 だけど、何かが変わり始めたのもこの学校だ。 今朝、一時間目がおわり、休み時間にボーッとしていると 隣のクラスから将棋部の小太りの厚い眼鏡男が来た。 自らの吐息で厚い眼鏡を曇らせながら、フゥフゥ喋ってくる。 見た目どおりオタッキーな輩だ。 その男がいつもの部活の勧誘だ。 「ねぇえ、川峰さん、将棋部入ろうよ・・・」 「あんったしつこいわね!」 いつものように話しかけてくるので 多々腹が立っていた。 「いいよー、将棋、このまえなんか僕にも勝ったんだし」 確かに一度将棋をして私は勝ったことがある。 「あんたの目当ては私自身でしょ?!」 「いつもそうだっていってるじゃん、君がいれば全国大会だって優勝だよ」 「そういう意味じゃなくてさ・・・」 この男はたまに真面目なのか変態なのかよく判らない時がある。 そいつと同じクラスの将棋部のエースが仲介役に入ってきた。 「川峰、エレクトロスラムの言うとおりだぞ。 川峰には将棋の実力あるって。」 そのオタッキー野郎のあだ名はエレクトロスラム(電気街)。 誰が見ても納得のいくあだ名だ。 本人は意味も理解してないので嫌がったりもしないわけだ。 「あのとき、エレクトロスラムは本気で闘ってたんだ。 俺が言うんだから間違いないって。 まぁ、川峰は俺とエレクトロスラムの間の実力かな。」 「でも、本当に興味ないんだって」 「興味ないのに駒の配置、動きも全て覚えてたじゃないか。 しかも矢倉とか囲いの使い方だけでなく、詰め押しでも勝ってたじゃないか。 間違いなくあれは『慣れた手つき』って奴だぜ」 「わかった。正直に言うわ。エレクトロスラム、あんたが嫌いなの。 ただでさえオタクなのに将棋部でも将棋しないでチェスばっかやってるし・・・ ・・・あ!!」 そう、エレクトロスラムはチェスをやっていた。 「あなたね!昨日私のサイトを荒らしたのは!!」 「え・・・?ちょっと待ってよ、」 「待たない。すっとぼけてないで白状したらどうなの、このストーカー!!」 「ちょっと、ちがうって」 クラスの中がざわめき始める。 クラスのほとんどが川峰とエレクトロスラムと将棋部エースの方に 視線を向けている。 「みなさん聞いてください、このオタク野郎は・・・」 「ちっ、エレクトロスラム、帰るぞ!」 将棋部のエースはエレクトロスラムを引っ張ってクラスから出て行った。 「おまえは将棋部の評判を悪くする気か!?」 廊下で将棋部のエースとエレクトロスラムが話しているのが聞こえる。 「ほんっと嫌よね、あの二人。エースの方はイケメンなのに。」 川峰の友達が話しかけてきた。 「イケメンなのは外側だけ。中身はエレクトロスラムと似たようなもんよ」 「そうかな、私、将棋部入っちゃおうかな~♪」 「やめときな」 将棋部はあまりいい評判がないので、 悪い噂ばかり立つ。 将棋部に入った女子はたいてい、 1週間ほど登校拒否になり、 戻ってきた時は将棋部をやめたり 元気がなかったりで、 将棋部は入部してきた子に何かしてるんじゃないかとか噂が立った。 それを知ってて皮肉や冗談でいったりするのも普段あることは確かだ。 「それにしてもあれね、彼、遅刻なんて珍しいわね」 「あ、彼って?」 聞き返している顔は少し赤みを帯びていた。 「顔が赤いぞ」 「あ、見ないで」 川峰は顔を隠す。 「彼に告白しなきゃいけないんでしょ、七夕に。」 「そうだけど・・・」 「何怖がってんだよー、フラれたらフラれたで楽になるだろ」 「うーん、そうかなぁ。」 「ずるずるタイプね、あなた」 「だって、いやでしょ、フラれるの」 「そうだけど、フラれないと判ってても告白する?」 「する」 「あ、そう。それならあなた告れるわよ多分」 「え?なんで?」 「あ、いや、なんでもない。」 2時間目、授業開始のベルが鳴った。 各自席に着くなり、教科書や筆箱を机に広げた。 教師が来る、足音が近づいてくる。 ドアが開く。 「ぐっどもーにんぐえぶりわん」 入ってきたのは、桜ヶ丘秀一、 みんなの笑いを取るのはいつものことだった。 川峰はうれしかった。 けど少し緊張していた。 タイムリミットは確実に迫っていることに対して、おびえていた。 「しゅう・・・」 教師の出席簿の角で叩かれた秀一、 「遅刻ですかぁ?」 教師にそう言われて振り向いた。 「先生、今日病院行ってました」 「元気そうじゃないの」 「ガン細胞取り除いたんで絶好調です」 「あんたはガンにかかる年じゃないと思うけど・・・」 秀一はとりあえず風邪をこじらせて、 病院に行って薬だけもらって注射から逃げてきたことを説明した。 それを終えると、席に着けと言われ、席に着いた。 「風邪、大丈夫?」 川峰に話しかけられて嬉しそうに答える。 「大丈夫。」 戻る